表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/326

白い雷光

 初戦から三日後、無派閥派の入家者達は通常通り稽古に励む日常を送っていた。

 だからといって参加者達も日課を免れることはない、アレウスもまた雷神家としての庶務を果たしながら当主選に望んでいたのだ。


「アレウスも大変だね、当主選の代表を務めながら雷神家の仕事もこなすているんだからね~」


「相変わらずの他人事ぶりだな、まあ誰かに意識を向けるなどお前らしくはないけど」

 結が棒読みで褒め称えていたことに、アレウスはすぐに彼女が本当に心配などしていないことを察したかのようにツッコミを入れる。

 現在本家の廊下を歩いていたアレウスと結は午後からの第一階級の稽古をに出向くため、現在地とは真反対にある稽古場へと足を運んでいた最中であった。


「そりゃあアレウスは次期当主になる人だからね~、わざわざ仮入家者に心配されるほど落ちぶれてないでしょ」


「言葉を返す様だが、当主選中はいつどこで向こう側から試合を申し込まれてもおかしくないんだからな?今度は俺達が現当主派に試合を申請しようとしてはいるが向こうから再び奇襲を仕掛けられないという確証もない。だからお前もいつでも試合の準備をしておけ」


「ええ~、何か思った以上に大変だな。当主選って」


 当主選の競技である戦略型試合は言葉通り互いの戦略が勝負の命運を分けるゲームではあったが、同時に期間無制限という精神力の強さも試される耐久戦でもあったのだ。

 しかしそれはルール上雷神家の敷地内にいる中立側に審判をやらせればどこでもゲリラ的に試合が可能となるのだけの話であり、実際では互いの了承が無ければ試合は発生しないのでほとんどが計算された対戦となっていた。

 だからこそ敵派閥が試合を申請する時は必ず代表からの命令であり自分の意思で突っ込んで来ることはなかったが、その命令による攻めがいつどこで来るのか分からないということをアレウスは再三注意するのだった。


「それと、当主選中はできるだけ団体行動を心掛けて、現当主派から試合を提案されても基本的には俺の許可がない限り断ることだ」


「はーい」

 これは結に限らず他の三人にも厳重に注意していたことで、アレウスは現当主派が派閥構成員を先に敗退させようした場合の対策として提案したものだった。

 しかしその注意すらも結は棒読みで答え、アレウスにとっては本当に聞いているのか不安になったかのように吐息を漏らしていた。


「――へえ、随分と思慮深いことね」


「……お前は」

 稽古場に向かう通路の道中、アレウスは前方に立ち塞がっていた麗しい和装服を着付けていた女性が不気味に顔を歪めたような笑いを浮かべて進行を遮っていたことに気付かされる。


「お久しぶりですね、アレウス」


「アリシア、どうしてここに……」


「さんを付けなさい、階級的には私が下だけど一応年上なのですから」

 アレウスもこれには非は自分にあると思ったのかその後すぐに訂正して敬語を使うようになった様子を結は窺うと、自分と比べて随分と敷居が高い口調や態度を取っていることから思わず苦手な部類の人物に分けてしまう。


「ア、アリシアさん、わざわざ俺達に出向いてくるとはどういうつもりですか?あなたは現当主派でしょうに」


「あら、別に派閥が違おうが会いに来ても構わなくて?特に殿方は女子(おなご)から迫られることが好きなんでしょう」


「ああ、そうですね。良く分かりませんけど」

 扇子を懐から取り出して麗しげに口元を広げた部分で隠すと、アリシアは何か意味深長な発言を飛ばしてくる。

 しかし当のアレウスは相変わらず女性には無関心の態度を取り彼女の色欲に溢れた態度を振る。その様子を窺ったアリシアも小っ恥ずかしめられたかのように動揺してみせるが、すぐに平常心を取り戻そうとわざとらしく咳き込んでいた。


「と、とにかく、今回はあなた達に試合を申し込みに来たのです」


「試合って、アリシアさんとですか?」


「ええ、私はこの場で新当主派に試合を提案します」


 まさに予想外であったが、勿論二人はアリシアからの提案を拒否してもルール上問題はない為にここで試合に望む必要もなかった。


 しかし__



「やろうよアレウス!相手から出向いてくれたんだから手間が省けたしね♪」


「……やっぱこうなるか」

 横の戦闘狂バーサーカーがこの提案に突っ掛かろうとするのはアレウスも予想済みだったらしく、彼も結の突発性の行動力には吐息を漏らさずにはいられない様子であった。


「ユイ、お前戦いたいか?」


「戦いたい!良いの?」


「まあどうせこうするつもりだったし、俺は一度休場しないと駄目だからよ」


「やったあ♪」

 結は戦いの機会を与えてくれたことに喜びを隠し切れなくピョンピョンと女子らしさを出しながら飛んでみせる。


「新当主派からはユイを出す、それでも構わないなら試合を受けてもいいぞ?」


「構いません。元々私もそのつもりでしたから」

 これで両派閥の承認は揃い、ルール上第二回戦は実施可能となった。

 しかし今この場には中立側となる神官がいない、噂によれば当主選中は雷神家内を巡回しているらしいが結やアレウスは今日になってまだ見かけていなかったのだ。


「審判なら既にこちらが用意しましたよ。アレウス大柱」


「……!?あなたは……!!」

 後方から声がしたことに気付いたアレウスは咄嗟に振り向くと、そこには大柱筆頭であるルーシーと神官の服装をした女性が一人通路に立っていた光景を目にする。


「両者からの承認を確認しました。これより私『聡明神』ライム・エディの審判のもと当主選第二回戦を行いたいと思います」

 完璧なまでの準備の良さに結は何も思わず試合に向けて気持ちを高ぶらせていたが、アレウスは彼等から浮かぶ全てを見通しているかのような不気味な笑みに思わず項垂れた表情を見せるのだった。


 _______


 その後新当主側の結、現当主側のアリシア、中立側のライムは試合場所として通路の横に点在している中庭へと足を運び、偶然落ち合わせていたアレウスとルーシーは通路側から観戦する形で佇まされていた。


「あー緊張するな、でも一ヶ月間頑張ってきたんだもん。絶対に勝ってみせる……」


「うふふ、気合だけはあるようで何よりです。しかし所詮仮入家者のあなたには手も足も出ませんよ」

 自身に気合を注入していた結に水を差すかのようにアリシアはあからさまな挑発をする。そんな彼女のいけ好かない態度に結もまた憤りに近い感情を覚え始めていたのだ。



「良かったんですか。あなたが出場しなくて」


「いや、このタイミングで俺が出たら必然的にあなたに研究されてしまいます。現当主派の中でも厄介なあなたにこれ以上勝機を見失いたくないですからね」

 二人はとても敵対している仲とは思えぬ程穏やかに会話をする。まるでそこには派閥など存在しないかのように、時にはニヤついた表情を見せ合い互いを称えあっていた。


「そうですか、それではあの噂の仮入家者は捨て駒というわけでしたか」


「いいえ――捨て駒なんかじゃありませんよ」

 しかしルーシーのその言葉を聞いた瞬間、アレウスは誰にでも不快に思わせない社交的な笑顔から何の片鱗も見当たらない生真面目な表情で結を見つめる。

 まさにその眼光は彼特有の未来を見る目、アレウスは自身が次期当主になるという未来を見据えるように、結にもまた何かの可能性のようなものを窺う様子を見せていた。


「ユイは必ずこの勝負に勝ちます。俺が推薦するぐらいですから」


「ほう、それほどまでに強いのなら次の世代が楽しみですね。でもまあ、まだベテランが遅れを取るわけにはなりません――序列七位の壁は甘くない」


「それはどうでしょうか。恐らくユイは今当主選きってのダークホース、波乱を起こすのが十八番な少女ですよ」

 そんなアレウスの謎の言い回しにルーシーも黙り込み自然と結に視線を向けた。



「っ……」


「あらあら、緊張されて可愛いこと♪」


「へえ、やっぱりあなたぐらいになると実戦もなれているみたいだね。オバサン」


「……あ?」

 結の挑発を込めた失礼な発言に一瞬だけアリシアは笑顔を歪ませてしまったが、その後すぐに扇子で表情筋が密集する口周りを隠し目だけで笑顔を作り大人の対応を見せる。


「あははは、私は寛容ですのですぐに謝罪すれば許してあげますわよ小娘」


「……必死に若作りをなされているオバサン、事実を言ってすいませんでしたー」


「―――」

 その時、結の言動を引き金にアリシアの怒りという感情を抑えていた何かが切れる音がした。

 そして手の力が抜けたかのように扇子を地面に落とした彼女の様子を遠くから眺望していたアレウスは思わず顔を青ざめてしまう。

 しかし審判役であるライムは向かい合う二人に明らかな確執が生まれた瞬間を見過ごし、『聡明神』と称されているはずの彼女は絶対に開始を宣言するタイミングでないところで試合開始を言い渡そうとするのだった。


「何だ、素直に言えばいいですのに――」


「第二回戦、新当主派仮入家者ユイvs現当主派中柱筆頭アリシア・ディスパーナ。試合開始!!」

 ライムの合図により第二回戦が開始すると、アリシアは電光石火の速さで神技の構えを取り術式を構成した。


「半殺しにされたいってね!!!!!」


「――!?」

 身の危険を感じた結もまた神技の構えを取るが、術式が構築し終わる前にアリシアの攻撃が発動しかけていたことを見越し途中で発動をキャンセルした。


『ハクライ』


 _____!!


 煌く白の雷光、轟く怒号の雷鳴、その恐ろしい電撃が一瞬で中庭の地面を覆い尽くしていたことを結は咄嗟に身体強化で跳躍した上空から見落としていた。


「な、何て威力なの!?」


「あははははは!!これが私の使う神技『ハクライ』よ!!」


 神雷級階序列七位『ハクライ』、それは白い雷光を放つ雷であり強力な電圧を持つ特性を備え付けられていた神技だった。

 その強力な電撃により足場は完全にアリシアの領域(テリトリー)にされてしまい、結は『脚力強化(レッグオーバー)』を発動することで四方八方を囲む壁を蹴りながら二階ほどの高さにある屋上に足を着いてみせる。


「あんなのまともに食らったら半殺しどころじゃないよ……」

 しかし彼女をあそこまで感情を高ぶらせたのは自身であることに気付いた結は、世の中には怒らせてはいけない人間もいるという教訓を心中に刻むのであった。


「どうして逃げますの!?ほら、もっと遊びましょうよ!!」


「っ……!?」

 しかしそんな呑気なことを胸中に抱いている暇はなく、アリシアは自身の雷撃を集中砲火するように下から結を狙おうとする。

 だが結が驚かされたのはそこではなく、彼女の雷撃の末端には磁力による引力で操作されていた鉄パイプが自身に向いていたことだった。言わば神技の同時発動、それにより鉄パイプを生成して磁気で引きつけていたことに注意を向けざるを得なかったのだ。


「ああそれと、その鉄パイプは私からのプレゼントですわ。まあ殺すつもりはございませんので安心してください♪」


「どこが、殺すつもりはございませんなのよ……こんなの殺意しか感じられないんですけど――」

 磁力により加速された鉄パイプが屋上の屋根部分に突き刺さり一撃一撃が一つの弾丸のような威力を放ち、アリシアの攻撃に防戦一方の結は『脚力強化(レッグオーバー)』により瞬発力を強化することで躱そうとするのだった。


 ____!!


「痛……!!」

 しかしながら結は最後の一発を左足に受けてしまい、ゾオンエネルギーを付加していたことで貫通は逃れたものの加速された鉄パイプが自身の肉を抉るように突き刺さる感覚が伝わる。


「ユイ……!!」


「それ以上中庭に近付けば棄権とみなしますよ。アレウス様」


「っ……」

 いつの間にか通路側に戻っていたライムはアレウスが咄嗟に結を助けようとしたところに静止を呼びかけると、歯痒かしい感情を奥歯で噛み殺すように彼はその足を止めた。


「あああ……!!」


「あら、良い表情をするようになったようですね♪それでは文字通り出血大サービスとしましょう♪」


 鉄パイプが突き刺さった傷口には血がドボドボと溢れ、結は自身の体が焼かれるような灼熱感に襲われて絶叫を上げずにはいられない。

 それでもアリシアは容赦しない、再び鉄パイプに電流を流しそのまま結の体を磁力によって引き付けることで彼女を地面へと叩き付けようとしたのだ。


「くたばれ小娘!!そして私を愚弄したことを後悔するのよ!!」


「しま――」



 ____!!


 しかし結は最後まで言葉を言うことも許されず、今だ雷撃が帯電している中庭の地面の元へと勢いよく叩き付けるのだった。



「ああ、せめてあなたの雷を拝見したかったですわ。残念……」


 __次の瞬間、廊下側にいたルーシーとライムは結が叩き付けられた塵の誇りが待っている着地点へと視線を向け、唖然とした声を上げてしまう。


「……まだ、戦える」


「……!?」

 その場にいる新当主派以外全員がその光景を見て驚きを隠せないでいたのは無理もなく、戦闘不能に陥っているはずの結は辺りに青い雷光を漂わせながら僅かに額から血を流しながらもその二本足で立っていたのだ。


「う、嘘ですわよね……その青い雷って……」


「――これが私の雷、『レギオン』だけど」

 辺りに自身の雷を張り足場を作っていた結は、無差別に放電することで中庭に漂っていた『ハクライ』を消滅させるのだった。

 あまりの出来事に脳内が混乱しきっていたアリシアは一度状況整理をしようとするが、綺麗に流されていた髪をバサバサと掻き始めるほどに動揺していた様子を見せる。


「どうして、あなたがそれを使えるのですか……?」


「どうしてって言われてもなあ、神技を覚醒しようと思った時に普通に使えたからかな」


「そんな……そんなはずありませんわ……!!それは神雷級階序列四位の雷!!そう易々と使えていいわけがない神技ですのよ!?」


「別に何だって良いじゃん、現に私は使えてるわけだしさ」

 結は相変わらずの端折った説明をするが、それは決して癪に障るような言い方をしているだったり神にとっての冒涜だったりを意識しているわけではなかった。


「も、もしあなたが『レギオン』を使って私の雷の感電を防いだのなら、落下の衝撃はどうやって防ぎましたの!?あの一瞬で身体強化と神技の発動なんてできるわけが……」


「あーうん、さすがに私もあの短い時間帯だけで二つのことを同時にやることは無理だったから受身でダメージを軽減したってわけ」


「う、受身ですって……」


 それは武道においては基礎中の基礎となる作法であり、生じた運動エネルギーを分散することでダメージを軽減する技術である。

 結は落下直前に神技発動に専念して、ほぼ反射的に二階から落下したことで発生した位置エネルギーを地面に還元することでダメージを減らしたのだ。


「師範に教えてもらった五接地点何とかっていう受身をしようとしたんだけど、完璧にできなくって頭怪我しちゃったよ」


「……はは、何よそれ」

 もはや戦闘の才能でいえば右に出る者はいない結を見て、アリシアは何かが吹っ切れたように不気味な笑いを浮かべた。


「運の良い子ね。『レギオン』を使えたことは驚いたけど、もうあなたの体はボロボロ――あなたが負けるのは時間の問題ですのよ」


「っ……」

 結は負傷した左足にゾオンエネルギーを付加させることで無理矢理立っていたが、先程の勢いで鉄パイプが抜け傷口からは溢れ出る血が重力を辿るように地面へと流れた。

 アリシアが言う時間の問題とはこの事であり、足の負傷が著しい結にはこれ以上試合に時間を割くのは身体的に危険だったのだ。


「いくら四位の神技を使っていようが負傷したあなたに負けるほど私は落ちぶれていない。まだ続ける?」


「当ったり前じゃん、私は絶対に勝たないといけないから……」


「ほう、それほどまでに強い意志がある様でしたら、あなたにも望みがあるのかしら?」


「望み……?」

 一体彼女は何の話をしているのか、体中が蝕むような痛みに見舞われ上手く脳を働かすことができない結は思わずそう抱いてしまう。


「それほどまでにアレウス・ヒストリークに従順するのならよっぽど美味な餌で釣られているのでしょう?何故(なにゆえ)私も現当主派が勝利に貢献したならば彼の枠に入れさせてもらうことを条件に協力してます故」


「何それ、つまりアレウスを蹴落としてオバサンが大柱になるってこと?――そんな事の為に間違いから目を背けて、現状を変えようとしなかったの?」


「ええ、だって私は少しでも勝機がある方に賭け(ベッド)したい性格な故に♪」


 明らかな権力主義者、自己主義者の考えに結は自分でも分からない何かへの憤りを感情の最奥に芽生えているのが実感できた。

 そして分かった、この家を変える為には現当主を変えるだけでなく、雷神家という組織の人間自体を構成しなければ意味がないということを。


「さあ、あなたは一体何で釣られたのかしら?」


「――アホらし、馬鹿みたい」


「……あ?」


 結はこんな奴等と戦っていたと思うと急に馬鹿らしくなってきた。それは派閥の在り方自体を間違えた烏合の衆を相手にしていたと思ってのことだ。


「派閥ってのは要するに友達でしょ?報酬とか権力とかで繋がる薄い関係じゃなくて、心の底から協力したいって思える仲間達のことでしょ?」


「何ですって……」


「私はアレウスを次期当主にしたいと思った。それだけの話よ」

 そして結は構えを取り『レギオン』を発動すると、自身の周りに青い雷光を漂わせ最終局面へと移行しようとした。


「オバサンに見せてあげる、新当主派と現当主派(わたしたち)の差を――!!」


「上等ですわ、そろそろその減らず口を潰したいと思ってたところですので!!」

 アリシアは続け様に連続で構えを取り、物体を生成する『イギレス』を地面に術式を構築することで鉄パイプを数本生やし、『ハクライ』の電撃でそれを引き付けることで再び結に攻撃しようする。


「私も全力であなたを潰させて頂きますわ♪この小娘がああああ!!」


「ふーん、それじゃあ私も全力でやらせてもらうね――」


 _____!!



 次の瞬間には猛烈な青雷と白雷が衝突し合い観戦していたアレウス達にまでビリビリとした電流が伝わる。

 そして数十秒の衝突の末、四位と七位の勝敗は分かれることになった__


「……!?」


「ごめんねオバサン、使わせてもらうよ!」

 雷と雷の激しい衝突に勝った結はアリシアが生成した鉄パイプを『レギオン』の電撃で奪い、そのまま彼女の元へと返そうとする。

 身の危険を感じたアリシアは得意の神技発動までの早さで『ハクライ』の電磁シールドを張るが、上位互換である『レギオン』によって威力を増した鉄パイプの連射攻撃は彼女のシールドすらも凌駕して体を掠めた。


「そこだ……!!」

 一瞬の隙を見せたアリシアに結は足元にゾオンエネルギーを付加させることで、彼女の懐まで一気に近付いて神技の構えを取った。


 __『レギオン』



「うわああああ……!!」

 ゼロ距離で放たれた電気ショックにアリシアはやむなく撃沈、そのまま地面に仰向けで倒れ戦闘不能アピールをする結果となった。


「勝者、新当主派、ユイ」


「やったあ♪」

 勝利した事実を知らされると結は先程までに殺気立っていた表情とは打って変わり子どものように無邪気にはしゃいで見せていた。



「やれやれ、第二回戦も負けてしまいましたか。どうやら新当主派はあなた以外にも対策すべき相手はいたようだ」


「言っときますが新当主派(うち)は全員強いですよ。そちらの代表にも伝えておいてください、私達は本気でこの家を変えるつもりだと」


「……肝に銘じておきます。アレウス・ヒストリーク」

 そう言い残すとルーシーは未だに倒れているアリシアを助ける事をせずにその場を去って行った。

 そしてアレウスもまた中庭に立つ結のもとまで歩き彼女の勝利を褒め称えようとする。


「お疲れユイ、お前のおかげで二連勝だ」


「えへへ♪私だってこの一ヶ月間で強くなったんだからね♪」

 結の戦いっぷりは客観的に見ても評価されるものであり、ほとんど感覚だけで五接地転回法をしてみたり、脚を鉄パイプで突き刺されるも戦闘を続け勝利を収めるなどその素質はもはや戦士の領域であった。


「……私は、負けたの……?」


「……そうです、アリシアさん」

 仰向けで倒れながら自身が負けたことを確認しようとするアリシアに、アレウスは彼女の横に跪き上半身を起き上がらせながら試合の結果を素直に話した。


「……そう、これで私もジョセフと同じく降格確定ですか……まあ、権力を手に入れようと悪に加担した者の末路としては相応の話ですわね……」


「いいえ、俺が次期当主になったらそんな事はさせません。例え現当主派に加担していたアリシアさんでも」

 もはやそれはお人好しの度を越しており、背後から見守っていた結ですらそれは人が良すぎるのではないかと横から口出ししようとしそうになったのだ。


「どうしてですの、私はあなたを蹴落として大柱の座に就こうとしたのに……」


「俺の目指す新しい雷神家にはアリシアさんのような人が必要なんです。だから敗退しても俺達の事を応援して、俺が当主になったら協力してくれませんか?」


「っ……そんな事私のプライドが……」


「お願いします。俺にはアリシアさんの支えが必要なんです」

 アレウスの困り果てた無垢な少年のような表情に、先程プライドが許さないとか何とかを言い掛けたアリシアはすぐにその言葉をキャンセルするかのようにコクリと頷いて見せた。


「しょ、しょうがないですわ!あなたが次期当主になった暁には相談役として役に立っても良いことですってよ!」

 そしてプライドなんて先程そこいらの犬に食わせたアリシアは、アレウスの目線を気にする素振りを見せながら顔を紅潮させ、肌蹴ていた肩をボロボロの和服で何とか隠そうとする仕草を露わにする。


「ジーッ……」


「ん、何だユイ?さっきから何か言いたげだけど」


「あーうん別に良いんじゃない、女たらしで次期当主にまで成り上がったってのもカッコいいと思うよ」


「いや、マジで何の話だ?」


 しかし結はパートナーの怪我の心配そっちのけで先程まで敵対していた女を垂らし込んでいたことに良い思いをしなかったのか、そんな彼にプイッと背を向けて自力で病室に向かおうとする。


「知らない!せっかく勝ったのに、そんなのそっちのけでデレデレするアレウスなんて!」


「あ、おい!!そんな体じゃ動けないって!!」

 しかしアレウスの言葉が届いた時には既に遅く、結はアリシアとの激闘から培った体中の痛みが急激に蔓延してそのまま地面へと向かい入れられてしまう。

 そう、彼女の体は既に限界を迎えていたのだ。


「ユイ?おいユイ!!しっかりしろ!!ユイ――」


 次第に外部の音が聞こえなくなり、自然と目蓋も重くなっていく。


 そして視界が完全に漆黒となった時、結は意識と呼べる物を完全に喪失してしまったのだった___




 _______

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ