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腐敗した派閥

 ‐雷神家 本家ロビー‐


 アレウスから事情を聞く為に雷神家の本家に訪れた結はロビーのソファ席に座り、彼から全ての事情を話されるのを待っていた。


「それじゃあまずは雷神家についてだが、さっき言った通りに今のここは腐りきっている。徹底的な中央集権と役職階級達の汚職、最も最悪なのはその源が現当主にあるということにある」


「うーん、まあ要するにお偉いさんが悪さしてる感じかな?」

 結は難しい言葉を使いたがる彼の説明を自己流に噛み砕き理解したが、これほどまでに内部が荒んでいるとはユピテルから伝わってなかったからか早速壁にぶち当たった気分になる。


「現当主のダクラマ·エインバルトは四代目雷神家政権時代にG7として活躍した功績を武器に表では完璧な当主を演じているが、目障りな派閥は容赦なく消す非情な性格で危険な組織とも関わりがあるらしい」


「何それ、そんな奴が上に立ってていいの?」


「良い理由わけがない、その為に何度も雷神家の内部に左翼派閥が出来たりしたが、彼等は容赦なく捻じ曲げられた事実を突き付けられこの家を去ることとなった。それも全部自分の黒い噂を横流しにした方法でな」

 アレウスの説明によると、雷神家の現当主であるダグラマは自分の黒い噂を全て左翼派閥に横流しにすることで自分にとって邪魔になる存在を消しているのだという。

 そして何百年に渡り現当主を守り抜いた独裁者であり、派閥に属さない入家者には良い顔をしているのだ。


「それに当主は今回の当主選考試合に勝てば雷神家が長年守り継いてきた『レギスの結晶』を売り払うと豪語し始めた。何でも伝統を改めることで新しい雷神家を築くと無派閥の入家者に広めているんだ」


「そう、レギスの結晶が……」

 一度に大量の情報を流れ込まれた結は後半受け流していたが、途中アレウスが不意に漏らしていた単語を復唱してそれが重要なことだということを数秒遅れで気が付くのだった。


「レギスの結晶売り飛ばされるの!?それまずいじゃん!!」


「お、おう、どうしてそんなに動揺してんだ?」


「あ、いやいやこっちの話!あはは」

 反射的に下手な嘘を結は飛ばすとアレウスは頭にクエスチョンマークを浮かべたかのように彼女の心情が読み取れない様子だった。

 その様子を見兼ねた結は一度トイレに行くことだけを伝え、バッグを背負ったままロビーの端にある女子トイレの個室に向かい座ってみせた。



「はあ……こんなの聞いてないよ、レギスの結晶が売り飛ばされちゃったらここに潜伏する意味がないのに……」

 小言を挟みながら結は一度この状況をユピテルに伝えようとバッグの中から映像通信機を取り出して、操作通りボタンを押して通信を始めた。


 __「「どうした結、まだそちらに着いたばかりのはずじゃぞ?」」


「あーえっとユピテルちゃん、何か今にも雷神家に入れそうなんだけど、ちょっとややこしいことになっているっていうか……」


「「何じゃ?何かトラブルがあったなら言ってみるのじゃ」」


 そして結は現在の雷神家の荒んだ現実を説明し、二週間後に行われるという当主選に参加することに合意して雷神家への入家を許可してもらうかについてユピテルからアドバイスをもらおうとした。


「「なるほど、まさか現在の雷神家がそれほど荒んだ状況だったとは、それに対象となるレギスの結晶を売り飛ばされたなら追跡するのは相当厄介になると思う」」


「じゃあ、やっぱり……?」


「「当主選に参加するのは避けては通れない道じゃろうな。新当主派の派閥闘争を勝利に導き新しい当主をそこに置く、じゃがこれは好機かもしれんぞ」」

 ユピテルは何か閃いたような口調で話すが、どうやら結は彼女が一体何を言いたいのか分かりそうになかったのだ。


「「この戦いに勝利すれば御主の雷神家での地位はうなぎ上りじゃ、つまり第三の目的が果たされる確率が上がるということじゃぞ?」」


「__そっか、そう言われたらそうだね」

 結は自分が雷神家に潜入する為の目的として主に三つの目的を持ってここに来ていた。

 そして現当主派と新当主派との派閥争いは不幸中の幸いにも最も難易度が高いと思われていた第三の目的を果たす出来事(イベント)としてこれまでにないチャンスだった為に、ユピテルも当主選に参加することを強く推してきた。


「「しかし妙じゃな。雷神家の当主選はもう何百年も行われなかったというのに、どうして今になって当主交代の機会ができたのじゃ?」」


「ん?当主選ってそんなにスパンが長いものなの?」


「「御三家の当主選は少しばかり複雑な形式でな、対立する派閥以外に政府から中立の立場の役割を果たす神官が派遣されるのじゃ。中立側は言わば当主選の運営をするが、彼等は両派閥からの承諾を得なければ動かないのが基本原則じゃ」」

 つまり現当主側はまだ当主を続けたいと思った際には中立側の神官に承諾を拒否すれば当主を続任できる訳で、何も今回だけ特別に参加した目的というのがユピテルも分からずにいた。


「「……考えられる可能性があるなら一つ、じゃがこれは直接アレウスという若僧の口から聞いた方が良いじゃろうな」」


「どうして?」


「「わらわの口からは少し言い難いことじゃからのう、まあ両派閥の勢力について奴に聞けば御主も理解できると思う」」


「分かった、取りあえず一度アレウスと話をつけてくるよ」

 ユピテルのアドバイスを聞いた結は、アレウスに当主選の参加の件について話をつける為に映像通信を切断しロビーに戻るのであった。


「遅かったな。それで、返答を聞かせてもらってもいいか?」


「うん……」

 結は一度ソファの席へと座り、アレウスと対面する形となり一度深呼吸をしてみせた。


「私、新当主派として当主選に出るよ」


「本当か!?ありがとうユイ!!お前のおかげで百人力だ!!」


「え~ちょっとやめてよ~、百人力だなんて大げさだな~」

 結は一方的に褒め称えられ謙遜の姿勢を見せつつもあからさまに喜んでみせるが、ここではツッコミ担当の新介がいなかったのでただ彼女を調子に乗らせただけとなる。

 そして結は暫くして我へと戻り、ユピテルの発言通りアレウスに派閥の勢力を聞こうとする。


「それで、新当主派は他に後何人いるの?」


「いや、二人だけだ」


「へえー、後二人かあ……派閥争いってそんなものなのかな?」


「いやだから、俺達だけなんだよ」

 勝手に後二人だと勘違いしていた結は彼の付け足しの説明を聞き思わず唖然としてしまうが、それは致し方ない反応であり至って正常であった。


「えーと、それが本当なら当主になりたいのって……」


「ああ、新当主派の代表は紛れもなくこの俺だ」


「そんな、私達以外誰もいないなんて……友達いないの?」


「お前たまに失礼なこと言うな、後派閥と友達とは少し概要が違うから決して友達がいないというわけではないぞ」

 相変わらずの無神経さで失礼な発言を飛ばす結にアレウスは初めてツッコミを入れるが、本来の問題点である新当主派がもはや派閥とは言い難い程人数が少ない件については気にしていなかったのだ。


「それとこの際全てを伝えておこうと思うが、現当主派は神雷級階に序列入りしている神技を使用する雷神家の中でも実力者達が七人いる」


「え、そんなの圧倒的に不利じゃん!」


「だから今回現当主派は中立側に当主選の参加を許諾した。当主自身世間一般には良い顔をしなければ雷神家は疎まれる存在になるし、絶対に勝てる試合なら規則に乗っ取り雷神家の清廉潔白さをアピールできるからな」

 つまりこの当主選は現当主派に対する世間一般のイメージの印象操作の目的を兼ねているということであり、新当主派の勢力があまりに小さいことを見計らった彼等は絶対に勝てる勝負だと判断して中立側に参加を許諾したということだ。


「だがここまで少数だったからこそようやく勝負の場に漕ぎ着けることができた、この雷神家を変える好機が……」


「……一つ聞いて良いかな、どうしてあなたはそんなにここを変えたいと思ったの?」

 結は自分より若干年上に見える彼がどうしてそこまで雷神家の革新に拘るのか懸念があり、それを聞かずには話を進められないとすら思っていた為にアレウスの心理に迫ることとした。


「どうして、か……まあ、パートナーになる者として伝えなければならないことは伝えないとな……」


「……?」

 するとアレウスは先程の真剣な眼差しとは打って変わり嫌な事でも思い出したかのように黄昏た表情で呟き始めると、その様子を窺った結は珍しく空気を読んで大人しい雰囲気を出していた。


「俺の父親は元々雷神家の役職階級に属していた。けど、現当主の黒い噂を丸ごと着せられて除名処分となったんだ、左翼派の派閥というだけでな」


「っ……そんな事あっていいの?」


「駄目に決まっている、だが四代目政権時代に培っていた権力を行使すれば自己にはノーダメージで相手に流すことができる。そして父は世間から追い詰められ自殺、当時家族ぐるみで叩かれていた母も後を追う形で自らの首を吊った。あいつはそういう奴なんだ」

 アレウスの凄惨な過去を知った結は思わず言葉に詰まってしまい、必然的に彼もまた被害の対象にあったのだろうと考えると同情せざるを得なかった。

 そしてアレウスは、逸らしていた目を再び結の方へと向け確固とした意志を表した。

 その目には確かに怒りの感情が込まれている、自分達を追い詰めた現当主への復讐、そして己への儚い一つの願望が。


「俺は、俺の父親の意志を継ぎたいと思っている。世間から根も葉もない噂を罵詈雑言で罵られた彼の意志を」

 彼の意志を結はしっかりと受け止め、己の目的の為に、アレウスの悲願を達成する為に彼女は決心してみせる。


「やろうよ、このまま現当主はを放ったらかしにしてたら大変だもん!それに、それじゃあアレウスの両親が可哀想だよ」


「ユイ、お前……」


「親が離れることがどれだけ辛いか私には分かる、だからあなたが味わってきた思いも少しばかり分かる気がするの。だからこれは私の同情、あなたを助けたいと思ってのこと」

 アレウスを助けたいと思うのは偽善なのかもしれない、しかしそれでも、目の前に不幸な人がいたら放置ができないと結は思っていた。


「それじゃあ新当主派のパートナとしてよろしくね、アレウス!」


「ああ、お前となら本当に雷神家を変えれることができそうだ」

 二人はソファから立ち上がり固い握手をして、結は今ここにアレウスを当主にさせることを誓うのだった。




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