最強のルーキー
第三節 雷神家の内部派閥
雷神家
◇天界の御三家と称される名門家であり神の称号獲得者が歴代第1位の家柄である。
◇雷神家は雷の神技に対する序列『神雷級階』を発案。
◇全部で一位から十位まで存在する『神雷級階』の神技を使える者は神の中でも重宝されている。
◇嘗て神神も輩出した。
‐セントラル郊外 エルート方面‐
先程まで薄暗い酒場の中に確かにいたが、ユピテルの空間転移を受けた後漆黒も空間の断面も拝むことなく一瞬で街中に立っていた。
「……ふう、ここが目的の場所なのかな?」
結はキョロキョロと辺りに誰もいないことを確認して、まずは人目に付かなさそうな裏路地に身を隠すことにした。
そしてこれからどうするかについてだが、まずは雷神家の入家試験を受けるまで宿を借りて過ごすのが結の算段としてあった。
だがしかし、それだと正直効率が悪すぎたのだ。彼女ほど効率という言葉が似合わない人間はいなかったが入家試験を受けて入るまでの間体を鈍らせるのではないかと心配をしていたのだ。
「取りあえず、今日は宿舎探そっか」
すると結は自分の背負っていたバッグの中からユピテルによって譲り受けた札束を引き出し、まるでそれを取って食おうかのような表情でニヤケが止まらないでいた。
「今日ぐらいは高い所泊まっても良いよね。だってまだこんなにお金あるんだし……」
「__あれ?こんな所に人いんぞ」
「……!?」
表の路地から声が聞こえ、結は咄嗟に札束をポケットの中に隠して声の主の方へと振り向いた。
するとそこには筋肉質の成人男性が五人、服装はどこかチャラチャラした感じのDQNのような男達が結の目の前に立ち塞がっていたのだ。
「お、何だガキの娘か」
「てかこいつ、さっき札束持ってなかったか?」
「な……」
ドジった、不意に結はそう思い自分の軽率さを素直に恥じたのだ。
ここで騒ぎを起こして注目されるわけにはいかなかった結は取りあえず裏路地の方向へと逃げようとしたが、数メートル進んだ所で行き止まりだった事実を知り袋小路となる。
「おいおい、別にそんな逃げなくてもいいだろ?お兄さん達その札束渡してくれたら乱暴しないから」
「そうそう!なーんにも痛い思いしなくて済むんだよ?」
「へえ、そこにあんた達がやられるって選択肢はないの?」
「はあ?」
結の挑発を聞いた男達は笑い始める、まるで目の前にいる少女が格下だと決め付け確実に圧倒できると言わんばかりに彼等は余裕を見せていたのだ。
「馬鹿じゃねえの!?ガキにやられることを想定する大人がどこにいんだよ!!」
「子どもだからって、あんまり油断するべきじゃないよ!」
これ以上言い争っていてもイタチごっこだと察した結は身体強化で脚にゾオンエネルギーを収束させ瞬発力を一気に強化すると、前方の一人の男の懐にへと入り込んだ。
「何……!?」
「どりゃああ!!」
腹部に一発入れると前方の男は千鳥足で数歩後退してみせて、結はその隙に何とか表の通りにまで抜け出そうとする、が
「逃がすか!!さっさと金を寄こせ!!」
「___!!」
後ろにいた男が刃物を振り回して結は頬に擦れてしまい、身の危険を感じた為にすぐさま大きく一歩後退してみせた。
しかしそれと同時にポケットに入れていた札束は男達の近くへと落ち、刃物を振り回していた男はすかさずその金を回収する。
「返して!それは大切なお金なの!」
「……なら、大人しく殴られろ!」
「っ……!?」
結の後方で倒れていた男は再び立ち上がり、彼女を背後から殴り掛かろうとした。
____!!
が、彼の拳は結の体に届くことはなく、男は見えない何かに襲われたように体を酷く痙攣させそのまま倒れてしまう。
「___ったく、本当にここは治安が悪くなったな。まだこんな輩がいたとは」
「誰だ!?」
結と男達は声のした方へと目線を向けると、表の路地から端正な顔立ちをして片目は前髪で隠れていた青年と思われる男が指で何かを指しながら歩いてきたのだ。
「……狙った?」
結は瞬間的に彼の指している指元に術式が発動していたのを僅かながらに確認していた為、恐らく男は神技を使い後方から攻撃を仕掛けていたDQNを気絶させたのだろうと推測した。
だがその神技が何なのかは結には分からなかった、攻撃のエフェクトみたいなエネルギーの分散も現れることなく、ただ指を指しただけで男を気絶させたと思えるほどにその技の効果は皆目見当がつかないことだけは明白な事実だ。
「雷神家大柱、『雷神』アレウス・ヒストリークとは俺のことだ」
「ア、アレウス!?お前があの雷神家の若き天才なのか!?」
彼の名前を知った男達は一堂に動揺を隠せないでいた様子を見せ、同時に戦意というものを根こそぎ掻っ攫われたように黙り込んでしまう。
「その札束と娘から身を引け、でないと今この場で俺は有事とみなす」
「わ、分かった!!もう何もしないから見逃してくれ!!」
「……そうか、ならとっとと去れ」
アレウスの警告に男達は素直に従う意志を見せ、結に札束を返すと彼等はせっせとその場を退場するのだった。
「あ、ありがとう……」
「これぐらい何でもない、しかしこんな夜中に子どもが一人で大金を片手に外に出るものじゃない。偶然ここが雷神家の本家がある場所だったから良いものを、本来は助けすら来ないかもしれないんだぞ?」
「あ、うん、何かあなたって誰かに似てるね」
結はその過剰なお節介を掻ける感じがどことなく新介に似ていると思ってしまうが、兄はこれほどイケメンではないしイカした雰囲気も出していないので月とスッポンぐらい違うと心の中で止めた。
「ってお前、怪我してるじゃないか」
「これぐらい平気だよ。それより、あなたさっき自分のこと雷神家の何とかって言ってなかった?」
行動に関してがさつな一面を持つ結は軽く擦れた頬の傷を指でなぞり、出血していた傷口を拭うだけで治療を処置したつもりになっていた。
その様子にアレウスもやれやれと言わんばかりの表情をするが、仕方なく話を一度進めようとした様子を見せる。
「ああ、俺の名はアレウス。雷神家の大柱を務める雷神だ」
「雷神……ってことは、あなた神なの?」
「そうだ、と言っても称号を手に入れたのは最近で新人みたいなものだけど」
結はユピテルに教養の一部として神の称号について聞かされた時があり、その時聞いた話によると神の称号は天界の国家資格であり、実力者の象徴のようなものであることを知り得ていた。
だからこそ目の前にいる人間が雷神だというのは少々驚いた、しかしこれは好機なのかもしれないと捉えられたのだ。
「ちょうど良かった!実は私雷神家の入家試験を受けたいと思ってたんだよね、どうやったら試験を受けれるか知らない?」
「入家試験か……悪いが今は時期が悪すぎる、正式な申し込みをしても二ヶ月は試験すら受けられないと思う」
「に、二ヶ月!?」
そんなに期間を開けてしまったら目的も果たせない上に腕が鈍ってしまう可能性があったことを思うと、結は早速予想外の困難に直面したと思い急いで対策を考える。
そして考え抜いた結果、少し抵抗はあったが結は自分が女だという立場を利用することにした。
「そんな……!私今すぐ雷神家に入りたいんです~!どうにかならないんですか?」
「悪いがないな、それと子どもがそんな大人の真似事をするものじゃないぞ」
結はアレウスの手を両手で掴み人間界での知識として得ていた『男は女の上目遣いに弱い』というスキルを最大限に活かそうとするが、アレウスはまるで無反応のまま彼女の要求を拒否した。
そのあまりにも辛辣な態度に結は自分の色気の無さを呪い気分を下げていると、その様子を見兼ねたアレウスは可哀想に見えたのか頭を掻きながら一つだけ提案をしてみせる。
「それじゃあ、次の試験の為に俺がお前の実力を見てやる」
「実力って、具体的にはどんなことをしたらいいの?」
「そうだな、まだ神技は使えないとして格闘術とかが試験の主流になるかな」
アレウスは結が神技を使用できないという体で話を進めているが、『レギオン』を使いこなせる彼女にとってはもってのほかであったのだ。
「失礼しちゃう、私だって神技ぐらい使えるもん!」
「え、でもお前って見た感じ十三とかそこら辺だろ?」
「十五歳!私そんなに幼く見えないよ!」
するとアレウスは顎に手を当てて彼女の体をジロジロと見始める。普通の女子中学生ならばこうも男に嘗め回すような目線を送られると嫌がるものだが、結は空手で男からの視線など慣れっ子だったからか何ともないように彼の次の反応を待っていた。
そして彼は何かを閃いたように手を叩き結に一つ変更を言い渡す。
「よし、そこまで言うならその神技を見せてみろ。本当にできたら即入家確定レベルだぞ」
「それじゃあ見ててね!私の神技を!」
「……」
まるで小学生をあやすかのように軽率がっている様子を顔で示すアレウスは彼女に神技を発動するように要求するが、この時彼はまだ結の神技に度肝を抜かされるとは知る由もなかったのだ。
「はああ……!」
「……ゾオンエネルギーが、収束しているだと?」
アレウスはありえない光景でも目にしたかのように彼女の手元に収束されていくゾオンエネルギーを見て、結が徒者ではないことにようやく気付いた様子を晒す。
『レギオン』
裏路地の奥で青い雷光は無差別に放たれ、アレウスも神技を放ちガードすることで結の『レギオン』を避ける。
そして唖然とし何か物言いたげそうではあったがすぐに言葉が見つからないような面持ちを露にしていたので、結もまたしてやったりとした表情を見せた。
「どう?私の神技『レギオン』は?」
「__信じられない。お前、四位か?」
「……え?」
唐突に何の脈絡もないことを言い始めたアレウスに結も思わずどう反応していいのか分からずに反応に困っている中、彼は結の手を掴みこれまで以上になく興奮した雰囲気で寄りかかってきた。
「神雷級階序列四位、果断されし聖青の雷鳴『レギオン』!!どうしてお前がそれを使えるんだ!?」
「え、えっとアレウスさん、少し落ち着いてくれますか?それとあんまり手を強く握らないで欲しいかなと」
「これは大変だ、こうしちゃいられない。ちょっと来てくれ!」
「い、いや、知らない人について行っちゃいけないってお兄ちゃんに教わったし!あ、待って!」
しかし結の必死の静止も興奮状態にある彼の前では聞く耳を持たなかった様子で、彼女はそのままアレウスに手を掴まれた状態で表の路地に連れられたのだった。
「そうだ、お前の名前は何て言うんだ?」
「え、名前……結です」
結は一瞬本名を言うべきか悩んでしまうが、ユピテル達とは違って恐らく顔バレがしていない為に問題はないだろうと思考を巡らせて名前を伝えた。
「ユイか、雷神家に入りたいんだろ?なら俺が何とかする」
「本当に!?」
「ああ、だが今のあそこは碌なもんじゃない。当主が終わってんだ、だから俺はお前の力が必要なんだ」
するとアレウスは足を止めて振り向き様にこう告げた。
「単調直入に言う、ユイ、俺のパートナーになってくれ」
「……はい?」
彼の唐突な発言に思わず腑抜けた感じの声を上げてしまった結だが、そのパートナという言葉を聞いた途端彼女は急遽としてアレウスと繋いでいた手の方向を見据え、顔が紅潮しているのが自分にも伝わっていた。
「な、何言ってんの!!あなた私をそんな目で見てたの!?」
異性と手を繋ぐという行為に全く意識していなかった結だが、途端に何だか気恥ずかしくなりアレウスの手を無理矢理放す始末となった。
「いや、すまん、何か色々と誤解を招く言い回しをしたようだ。俺が言いたかったのは協力して欲しいってことなんだよ」
「協力……?」
結が何か誤解していることを見兼ねたアレウスは言葉足らずだったことを素直に認め、一度咳払いをして事の詳細を話そうとした。
「ああ、現当主を落とし雷神家を変える為にな」
「当主を……落とす……?」
一体彼は天誅でもするのかと結は思ってしまうが、どうやら単にその理由だけではなさそうなのがアレウスの曇りきった表情から伝わった。
「当主選、一ヶ月後に行われるそれは当主を決める為に申請された派閥同士で行われる公式の試合。この公式試合にお前も出て欲しい」
「……話を詳しく聞かせて欲しいかな。そっちも色々事情があるんだろうけど、要求ってのはお互いの合意と納得が大切ってお兄ちゃんが言ってたし」
「分かった、それじゃあついて来てくれるか?雷神家の本家に__」
「うん」
こうして結はアレウスに詳しく事情を聞く為に彼の後ろを歩き雷神家の本家へと向かうのであった。
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