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強欲の具現化

天界


神と人間が住んでいるとされる世界。

かつて天界は五つの大国が点在していたが、現在は大国全てが統合した天界連合として実質世界を支配している。

世界の中心とされるセントラル、東の地区ラプンツェル、西の地区エルート、南の地区ラグーシャ、北の地区ヴァイスにより形成されている。※ラプンツェルは現在プロテスタントにより自治区化されている。



 ‐セントラル 某アジト‐


「それで、一人の男に足止めをくらって見す見す盗み損ねたというのか?」


「も、申し訳ありませんでした!今度こそは下手は打ちません!」


「今度はねえ……」

 すると一人だけ席に座っている男は立ち上がり、自分の懐に隠していたメリケンを手にはめる。


「そういう問題じゃねえんだよ!素人一人に足止めくらったあげく何も盗めていないとはどういうことだああ?」


「が……ああ……」

 男は下手を打った部下を何度も顔を殴りつけて、周りに立っている他の部下も彼の怒りに足が竦んでしまう。

 男達は知っている。彼の恐ろしさを、自分の尻を拭えない人間の末路を。


「俺等がやってるのは商売なんだ、仕事のミスが先方の信頼関係にも響くってことが分からんのか?」


「お、お願いします……何でもしますから許してください……」


「何でも? それなら仕方ないな、お前がそこまで言うなら特別な任務についてもらおう」


「な、何ですか?」

 部下は耳打ちをされて任務の内容を聞くが、それはあまりにも非人道的で物としか扱ってないような内容だった。


「そ、そんな……!!」


「今度の大仕事の重要ポストだ、もちろんやるよな?」


「っ……はい」


「そうこなくてはな」

 男は跪いた足を立たせようとはせず、地面に手を付きただ項垂れる。


「エミル、次の仕事の準備をしろ」


「……了解」

 仮面を被った者は表情一つ表に出すことせずに、ボスの側近として任務をこなすのだった。



 _______


神工太陽から降り注ぐ日光が肌身に当たり、蒸し暑さすらも感じさせる外の気温。

今日も街では多くの人々が働き、娯楽を楽しみ、世を回す。


「おいシン、今度はこっちに運んでくれ!」


「は、はい!」


 彼の名前は新介だが、この世界に馴染んでからというものシンと名乗ってバイトをしている。

 何にもユピテル側に着いて以降既に本名と顔は政府側のマーベルに知られていたので、仕方なく偽名を名乗り左手にある賢者の紋章も包帯で隠すようにしていた。


 そもそもどうしてこんな事をしなければならなくなったかを説明すると長くなる。

 目を覚ますと彼は何処か知らない世界に所持品と記憶ゼロのまま投げ出されていて、とにかく自分は状況を整理する為にこの世界の模索を始めたらユピテルに出会った。


 そして上野新介は神々の欺瞞に会い、ユピテルを庇った結果一度死んだ。


 が、そのまま冥府を彷徨うことはなく、気が付いたらまたこの世界の景色が視界に入っていた。


 神技『フラグメント』それは神、人間、悪魔、動物、そして死人すらもマスターの賢者とする神技であり、天界でも道徳的に禁忌とされる禁術の一つである。

 その神技により自分はユピテルの賢者という盟約に従い、彼の心臓はもう一度息を吹き返した。


「新入り、もっと働け!」


「は、はい……」


 だがユピテルの賢者としての最初の仕事が力仕事のバイトである、新介はまだ自分自身のことを全て理解したわけではないが、バイトが始まって1時間ほどで既にバテ気味のところを察すると元々運動が特別できる体ではなかったことが推測できた。

 しかし文句を言って仕事を投げ出す事もできずに、延々と不慣れな力仕事である木材の運搬をこなすしかなかった。


「……俺、何してんだろうな」


 何処か知らない世界に行き着いて、記憶も曖昧で、そして一人の少女を庇った結果一度死んだ。

 本当は記憶を取り戻して元の世界に戻らなければならないはずなのに、現状を打開する程の策が思い付かずにこうやって下に従っている。

 そう考えただけでも自分自身を見失いそうになってしまい、いつしか自分のことを考えるのさえ嫌になってきた。




「よーし、昼休憩だ。新入りも休んでいいぞ」


「やっとか……」


 それからしばらく時間が経ち、現場を取り仕切っている男に休憩の許可をもらった新介は木材が置かれている場所に座った。

 相変わらずの曇天の天候だが、神工太陽のお陰で汗を搔くには十分な気温だった為にすっかり水分も取られてしまう。


「お疲れ新人、ちゃんと水分取っとけよ」


「どうせ気温操作してるならもっと涼しくして欲しいっすよ」


「そりゃあれだろ、今日みたいないい天気には良い汗掻けよっていう政府の方針だと思え」


 このバイトの先輩である彼、ジェイムズは気さくな言葉遣いでよく話を掛けてくるグループ全体に好まれており人望も厚い人柄だ。

 その為新介もバイトを始めた初日からよく喋っており、無口な死神と堅苦しい言い回しが好きな全能神とばかり話していた彼にとって唯一気を配らなくいい相手と言っても過言ではなかった。


「それと、俺にはタメでも良いって言っただろ?年同じくらいなんだからさ」


「え、そうなの?」

 彼には何度かタメ口で構わないと言われていたが、現場の先輩で見た目からして大人びていたので今まで恐縮の意を込めて敬語を使っていた。


「お前の履歴書見せてもらったけど、17だっけ?俺と同じじゃん」


「マ、マジかよ、金髪で高身長だから思わず俺より年上かと……」


「何言ってんだよ、ここらでは金髪なんて当たり前だ。逆にお前のストレートブラックが稀だがな」


「あー、なるほどね……やっぱこの世界俺が住んでた場所とは価値観違うな」


 まだ自分のことは全て思い出せたわけではないが、少なくとも色彩豊かな髪色が許されていた世界ではないことを思い出した。



「黒色が珍しいって言っても、俺の知り合いには既に一人いるがな」


 死神でもありユピテルの賢者と名乗っていたサリエルという少女、比較的に無口で感情を表に出さない、というか感情がまるで何も無い虚無を具現化したような人物。

 その長々しく流した黒髪から見た目の年齢からはかけ離れた大人の雰囲気を漂わせ、長時間一緒にいたら精神負けしそうな程の鋭い眼光も備わっている。

 何せ超強い、彼女とどう関わるかも新介の今後の課題にもなって来るだろう。


「さっきから何言ってんだ?」


「ちょっと色々あってな、精神的にも病んでる時期だ」


「……そうか、お前に何があったかは知らないが、聞いてどうにかなるわけでもなさそうだな」

 会話はすぐに返すで有名なジェイムズが一度溜めを作った、それは新介が背負っている物の大きさを一瞬では把握しきれなく、そしてそれはどうにもならない程の大きな悩みだとということを判断した。


「なあ、もし俺が何処か違う世界から来たって言ったら、どう思う?」


「何を急に、からかってるのか?」


「言葉ってのは発した物をどう受け止めるかは他人の自由だ、からかってると思ったならそれで構わないよ」


「……」


 彼は少しばかり、新介が異世界から来た住人だという可能性について考えている様子を見せる。

 するとその可能性を根本的に肯定できるであろう推測が浮かび上がったのか、何かを閃いたかのような表情を覗かせた。


「ひょっとして、お前……」


「あ……」

 まずい、自分のことはあまり他人に口外しないようにユピテルに言われたんだった。と新介は思い出すと、必死に話題を転換しようとした。


「悪い、やっぱ何でもなかった、忘れ___」


「___!?危ない!!」


 グサ____


 新介の死界であった横から刀が飛んでくると、とっさにジェイムズが庇うが当の本人は背中を大きく斬ってしまう。

 そのまま新介の体を覆うように倒れて、ジェイムズの背中は次第に血が波紋を始めた。


「お、おい……大丈……」


「う……」


「っ……何で、誰がこんなことを……」


 そうこう動揺している間にもジェイムズの傷からは人血が溢れ、体温の源が体外に放出していく。

 一体誰が。咄嗟に思い浮かんだ可能性は政府が新介の身元を特定した想定だが、こんな赤の他人に危害が及ぶような行動を彼等がするとも考え難い。


「何だ、何が起こった!?」


 新介達の騒ぎを聞きつけた現場監督の上司達が急いで駆け付け、ジェイムズが背中に大きな風穴を開けていたのを目の当たりにする。

 取り敢えず、新介はジェイムズを安全地帯に移動させようと近くの大人達に呼び掛けた。


「急いで彼を手当てしてください!」


「わ、分かった!」


 男達が新介に覆い被さっていたジェイムズを持ち上げて、急いで事務室に運ぼうとする。

 しかし、刀が飛んで来た方角から仮面を被った性別不明の人物がゆっくりと接近してきた。


「ターゲットの男を発見、これより抹消する」


「え、ちょ……」


 仮面の人はもう一つの刀を抜いて、新介にその刃先を向けることにより完全なる敵対視を表した。

 こちら側としては武装する相手を蹴散らす手段など持っておらず、新介は一瞬たじろいでしまう。が、


「シン……」


「行ってください、どうやらあいつの目的は俺みたいなんで」


「……行くぞ」


 男達は事務室に向かい、ジェイムズの治療を急ぐ。

 その傍ら新介は少しでも時間を稼ぐ為、畏怖の念を押し殺しながらも迫り来る脅威と対面した。


「誰だよお前、そっちから仕掛けておいて名乗りもしないどころか仮面なんかつけやがって」


 新介は刀を向けた相手に毅然とした態度で接した。が、やはり丸腰な為にその刃から流れる光を見るたびにゆっくりと後退してしまう。

 やはりどうやってもこの状況は分が悪い、相手も仮面をつけており性別すら判別出来そうになかった為に気味が悪かった。


「盗賊団‐ルナ・シャドウ‐ボス側近、エミル、あなたをボスの命令で抹消しに来た」


「……!?」


 それは町中で噂になっていた盗賊団の、しかもこの前自分が彼等の悪事に横槍を入れたことを鮮明に思い出す。

 新介が彼等に恨みを買ったと言えば、それぐらいしか見当が付かなかったのだ。



 _______

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