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レイビ奪還作戦

 コンコン___


 まだ日が開けたばかりの早朝、レイビの部屋の扉には何度もノックがされる。


「……ん?」

 昨夜遅くまでレイビの帰りを家で待っていたが寝落ちしていた新介はノック音と共に覚醒すると、そのまま玄関の方へと向かい扉を開け外の状況を確認しようした。


「シン!レイビはいるか!?」


「デウス、マーク、そんな血相掻いてどうした?」


「今日の朝こんな物が俺の家に届いたんだよ!」

 新介はデウスが渡してくれた手紙のような物を見ると、そこには差出人の名前がない所謂匿名の差出物であったことを確認し、中身の文章が記された紙を手に取った。


 ――『レイビ・キリストは頂いた』


「……!?」

 一瞬何かの悪戯かと新介は思ってしまうが、昨夜彼女がこの家に帰って来なかったことから事実であるという可能性を一概に否定することはできなかった。

 募る不安、レイビに限って、そんな一方的な信頼も掻き消す程の懸念が心を満たす。


「シン、レイビは?」


「帰ってないよ、昨日の夜からな……」


「おいおい、それじゃあこれは本当に……」

 三人は必死に状況を理解しようとする、しかし実際にレイビは昨夜から帰っていない為にやはり最悪のシナリオを思い浮かべてしまう。

 そもそも誰が彼女を拐って、何の目的の為にこんな手紙を送ったのかが分からなかった。


「と、取りあえず、レコンキスタに向かおう」


「そうだな、今準備する……」

 新介は一度レコンキスタに向かいアグナムに何か知らないか尋ねる為に、すぐさま十字軍の制服に着替え急ぎ足で走リ出すのだった。



 ______



 新介達は玄関口であるエントランスを抜けると総隊長室へと向かい、アグナムにレイビ失踪の件についてを話そう出向く。


「失礼します!」

 新介は勢いよく総隊長室の扉を開くが、そこは暗がりで誰の姿もない光景が三人に広がった。

 生憎の不在、その事実はレイビを探す三人にとっては大きな誤算には違いない。


「いないのか?」


「まずいね、どうやら総隊長は既に新カトリック教団のアジト制圧に向かったみたいだ」


「そんな……」

 アグナム及び第一部隊全隊員は日も空ける朝早くから敵のアジト制圧を目的とした短期遠征に出かけており、現在主戦力が不在の中第二部隊隊長の誘拐という有事の事態が起こったことを認識すると思慮深いマークは思わず塞ぎ込んでしまう。


 そして三人は一度第二部隊の集会場に向かい、もう一度状況を整理する為に今来ている第二部隊の隊員達を集めようとする。




「まずは状況整理だ、俺達の隊長は今何者かによって誘拐された疑いがある」

 その言葉と共に集まった隊員達がざわめき始めるが、それは至って当然の反応であり結論だけを先に言えば必然的にそうなってしまうのは想定の範疇だった。


「証拠は二つ、今朝俺の家に『レイビは頂いた』という手紙が来たこと。そして……」


「レイビの家には誰もいなかった、それはエレナの家でも同じだ。以下の状況から二人は誘拐された可能性があるということだ」

 マークはレイビとの約束通り隊員達に新介との関係を大っぴらにせずに何とか上手く説明しようとする。

 新介も彼のちょっとした対応に感謝して話の続きをする為に、デウスの手紙を机に叩きつけ隊員全員にその証拠を見せ付けた。


「そもそも何故こんな手紙が来たのかが不可解だ。何せこの手紙にはレイビを拐ったことしか書いてない上に特段要求をしているわけでもない、そんな奴等が匿名とはいえ足になるような手紙をこちらに送ってくるか?」


「確かに、シンの言い分は正しいわ。身代金目的でもないのに必要のない手紙を送るのは愚作、愉快犯って可能性もあるけど、レイビが拐われるってことは相手も武装か何かをしている一般人じゃない可能性があるわね……」

 となれば自然とレイビ誘拐を企てた者の正体が明らかになってくる、武装が可能ということは少なくとも裏社会に通ずる者であり組織だということ。


「新カトリック教団、恐らく奴等がレイビを拐った犯人だ」


「エレナも同時に失踪していると考えると誘拐された時間帯は夕方の可能性が高い、現に彼女は今日から姿を見ていないからね」


「じゃあ、レイビ達は今敵のアジトに監禁されているってこと?それじゃあ総隊長達が突入できないじゃない!」

 第二部隊によって三人の団員を捕らえられたことを見越してか、新カトリック教団は十字軍との衝突を予期しレイビという後ろ盾を使うことによって状況を有利に進めようとした。

 新介は今の状況下からして最も有力な仮説を立てるが、彼はどうにも腑に落ちないところが自分の中にあると思っていた。


「どうしたんだシン、何か気になることでもあるのか?」


「いや、今回のレイビとエレナ誘拐はこれから攻めてくる十字軍制圧部隊を人質という盾を使って事を有利に進めようとしたと思ったんだけど、どうにも話が出来すぎてるっていうか……そもそも何であの二人だったんだ……?」


「うーん、確実とは言い難いけど多分レイビが総隊長の妹だったからとかじゃないかな。エレナは昨日偶然レイビと一緒にいて口封じの為に連れて行かれた可能性がある」

 確かにマークの推測は最も客観的な意見だったが、新介は昨日のエレナの行動に不信感を覚え始めていた。

 昨日エレナはレイビを買い物に誘い街へと向かった、今思えば十字軍は新カトリック教団と緊張状態だったにも関わらずエレナがそんな行動を取ったことが相当怪しいと新介は考えたのだ。


「いや違う、エレナは新カトリック教団に加担していたんだ!奴等との緊張状態にある中遊びに誘うなんて明らかにおかしいだろ?」


「エレナが?いやでも、確かにレイビ程の手だれが教団の構成員なんかに遅れを取るとも思えない。隙があるとしたら絶対的に信頼している場所、つまり……」


「ちょ、ちょっと待ってよ!!それじゃあ何!?エレナはずっと私達のことを騙していたってこと!?」

 エマは困惑した表情を見せるが、この場においては修羅場を乗り越えてきた新介が異様な冷静さを見せている方がよっぽどおかしい話だった。


「これはあくまでも仮説だから一概に正しいとは言えない。だけど、最近の新カトリック教団の動向は変だと思わなかったか?」


「変?そんなに怪しげなことあったか?」

 デウスやエマを含めた隊員は何の事かさっぱりのような顔をするが、新介の言いたいことに対して頭の冴えるマークは何かを閃いたようにハッとした表情してみせた。


「シン!君の考えていることって……」


「ああ、これは端から全部教団の思惑通りだったって可能性だ」

 それは本当に突拍子もない仮説であったが、一概に否定できる可能性でもなかった。

 その為に一体何の事か分かりそうになかった隊員は新介の次の発言に固唾を呑んで聞き入った。


「まず第一に二週間程前に俺達が捕らえた教団の三人についてだが、恐らくあれは十字軍を自分達のアジトに陽動する算段だった。わざと昼間に行動していたのは十字軍に捕まる為だ」


「でも何で、教団の奴等は俺達と衝突したかったのか?」


「いいや、陽動ってのは本来の目的を隠す為の囮行動みたいなものだ。もしもこのタイミングでレイビを拐われたら誰もが衝突を有利に進める為のものだと思い込んでしまう、そこを突いて奴等はレイビを確保するという本来の目的を円滑に果たそうとした、それが俺の仮説だ」

 実際第二部隊が確保した教団の三人は案外すんなりとアジトを口外したようなので、あれほど教団の信仰で狂気に満ちていた彼等が捕らえられた後すぐに情報を開示したというのは計画性があるのではないかと新介は踏んでいた。


「大体言いたいことは分かったんだけど、そもそもレイビを捕らえる為だけに十字軍と抗争するのは割りに合わなくない?実際総隊長達はこれからアジトを制圧しに行くみたいだし」


「いや、多分教団にとっては十字軍といくら抗争をしようが構わないんだと思う。突拍子もない話だが、奴等は黒幕と呼べる人物に洗脳されているんだ」


「それってよ、教団のトップみたいな奴が団員を洗脳しているみたいなことか?」


「いや、恐らくは教団を束ねる存在すらも黒幕に洗脳されている。前にレイビに聞いた話では十字軍は何度も教団を制圧する為に遠征をしているんだろ?教団が潰れないのは根源となるものが潰れてないからだ」


 黒幕論、それはそもそも教団自体が何者かによって生み出された産物だという説だった。

 その根拠となるのは再三に渡る十字軍による教団の制圧作戦が行われているにも関わらず未だに根絶していないことにあり、新介はそれを洗脳をしている相手が別の個人または組織だと予想していたのだ。

 新介の説明は証拠は一切無いが、どこか説得力があったのか隊員達は終始聞き入っていた様子を見せていた。


「恐らく今回の誘拐はその黒幕にレイビを引き渡す魂胆だった。十字軍が教団の制圧作戦に集中しているうちに別働隊がレイビを引き渡す、それが狙いだったんだ」


「一つ聞いていいかなシン、何でその黒幕は僕達の隊長であるレイビを確保したかったんだ?」

 マークは黒幕がレイビを誘拐したいと思った動機を問いたが、それは新介も今だに確証を得ている段階ではなかった。


「これは頭の片隅にでも置いておくぐらいでいい、多分レイビはキリスト家の長女という立場を狙われたんだと思う」


「どういうことだ?」


失われた称号(ロストシンボル)の関与。あいつはG7の一角『聖神』サクラス・キリストを兄に持つ、レイビを人質にとっていれば反政府勢力としては最大の盾となると踏んだと考えている」


「っ……!?」

 新介のその発言に一同は仰天とするしかない様子だった、何せ本当に失われた称号(ロストシンボル)の手にレイビが渡れば奪還は難しくなる、言わば早く彼女を居場所を突き止めなければ本当に何もかも手遅れになってしまう可能性があったのだ。


「だとすれば相当事態は深刻だよ、一刻も早く総隊長と連絡を取るべきだ」


「ああ、どうにか通信できる方法はないのか?」

 するとエマは十字架を取り出すと新介に向けて手を差し伸べた。


「私なら少しの間特定の人物と通信ができるわ、私の手を掴めば他者と通信状態を経由することだってね」


「分かった、頼むぞエマ」

 新介はエマの差し伸べられた手を掴むと、二人の体の周りに大気中に漂うゾオンエネルギーが収束し周りの音を遮り始めた。



 ___「「ん?誰かが俺に通信掛けてるな……誰だお前?」」


 すると新介の元にガラの悪い口調で威圧してくる声が聞こえてきて、これは間違いなくアグナム本人だと確認できた。


「総隊長、俺です!シンです!」


「「シンだ?お前なんで俺に通信なんか掛けてきてんだ?今任務中だぞ」」


「それより大変なんです!レイビが恐らく新カトリック教団に拐われました!」

 新介は通信時間に限りがあることを見越して端的に内容を伝えると、通信越しから一瞬アグナムの唖然とした声を聞き彼も相当戸惑っていることを察した。


「「おい、それはどういうことだ?」」


「十字軍は新カトリック教団に踊らされていたんです。レイビは恐らく別働隊の教団構成員に囚われています。今向かっている敵のアジトには彼女がいない可能性があるんです」


「「じゃあ何だ、今すぐ俺達に引き返せってことか?」」


「いえ、そうじゃありません。総隊長達はそのまま制圧作戦を実行して敵から情報を掴んでください」


「「それじゃあ間に合わないだろ!奴等がレイビを手に掛けない証拠もない!」」

 確かに一度敵のアジトを制圧してからレイビの場所を聞き出している様ではとても間に合いそうではなかった。

 だからこそ新介もまたアグナム達の制圧をただじっと待っているつもりはなく、自分には自分のできることをしようとしていたのだ。


「敵アジトを制圧中は俺が彼女の捜索をします!なので総隊長は確実に情報を知っている奴等から聞き出してください!」


「「お前……」」


「レイビは俺に任せてください!絶対に総隊長の応援が来るまで持ち堪えてみせます!」

 新介の強い意志すらも垣間見させたその発言に、いつも強気だったアグナムも一度静まり言葉を再開した。


「「シン、お前は新人だ。それに今の話を聞いた限りではそれはお前の仮説に過ぎないし、もしそうだとしても俺は十字軍総隊長としてお前を前線に立たすことはまだできない」」


「分かってます、でも……」


「「だから俺は、お前にレイビの兄としてお願いする。レイビを助けてやってくれ、兄弟!!」」


「っ……はい!!」

 そこで通信は切れてしまう、恐らくエマの十字術ではこの時間が限界だったのか彼女も随分とバテた様子で息を荒げていた。


「皆聞いてくれ、俺は今からレイビを探そうと思う。目的は俺達の隊長の奪還、敵も武装していると思われる、俺に着いて来てくれるか?」


「……じゃあ聞き返すけど、私達が隊長誘拐されて黙っていられる程の人でなしに見える?」


「愚問だな、今回の件は珍しく僕も怒っているんだ。十字軍を舐めたことを後悔させてやりたいと思ったところだよ」


「お前等!!俺達の隊長を助けるぞ!!」

 デウスの掛け声と共に現在集まっている第二部隊総勢40人が腕を挙げ返事をする、全員が制圧部隊の別働隊としてレイビ奪還の為に団結する意志を見せたのだ。

 となればまずは探索を開始するのが先決だが、広いラプンツェルを無作為に探してはとてもではないが間に合いそうになかった。

 とは言ってアグナム達の制圧作戦の完了を待つのも遅すぎる、それでは敵の思惑通りとなり新介達のするべき行動は最低限時間を稼がなければならなかったからだ。


「俺達のやるべきことは意外と複雑だ、今総隊長が必死に制圧向かって情報を得ようとしている。だがそれでは遅すぎる、俺達は俺達でレイビが監禁されていると思われる場所を探さなければならない」


「そういえば思ったんだけどさ、それなら総隊長を一度引き返して十字軍総動員で探せばよくない?」


「それも作戦だ、目には目を、歯には歯を、陽動には陽動を、制圧部隊が撤退していることを悟られたら監禁場所も移動するかもしれないしな。それにただの俺の思い過ごしで敵アジトにレイビがいる可能性だってある」

 新介は相手の陽動作戦をあえて利用することでこちらの動きを悟られないようにする作戦を説明すると、早速地図を取り出して探索範囲を絞る算段を立てようとした。


「正直この人数でラプンツェル全域を探すのは無理だ、それに別部隊に協力を依頼して街を探すとさすがに警戒されてしまう。探索活動は少数精鋭かつ隠密に行うのが一番だ」


「なら必然的に探索範囲を絞る必要があるってことか」


「ああ、一晩経ったとはいえ人一人抱えて移動できる距離は限りがある。俺達がいる都市は外れるとして監禁するとすれば郊外の隣町、そしてできるだけ人目が少ない場所だ」

 新介は地図を見て以下の条件の場所に丸印しを付けると、合計で四つの場所の候補が浮上したことを全員が確認した。


「駄目元だがこの四つの建物を四グループに分かれて向かってもらう、それぞれ騎士と術者をバランス良く配置できたグループを作ってくれ」

 総勢四十人の隊員はそれぞれ十人ずつに分かれ、できるだけ騎士と術者のバランスが取れた構造にした。

 そして新介が率いる第一グループはエマ、デウス、マークを主軸として郊外の境目の山にある旧貴族邸への探索に向かうのだった。


「目的の場所に着いたら連絡をするんだ、それじゃあ行くぞ!」


「「「おう!」」」

 隊員達が大きな掛け声を上げると、第二部隊レイビ探索チームは目立たないようにブラウンのマントを羽織り集会場を後にするのだった。



 _____『レイビの引き渡しまで 残り四時間』


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