裁き
もうすぐ日が沈むという中、レイビとエレナは人気の少ない建物の間の道を辿って目的の場所まで向かっていた。
「エレナとこうやって二人で買い物するのも久しぶりね」
「そうね~、レイビが隊長になってから殆ど遊べる機会が減っちゃったもんね」
何不自由ない会話を交わす二人は、まるで長きの同僚同士のように過去を回想するような一面も見せる。
しかしレイビはエレナに連れられるがまま道を歩いてはいたが、普段は人が通っているはずの道が自分達以外誰もいなかったことには異質さすら感じ取れた。
「あれ、ここの通りってこんな人少なかったっけ?」
「そういえばそうだね、時間帯が影響してるとか?」
「何か不気味だね……もう通り慣れた場所だってのに……」
レイビは生まれながらにして高い信仰心を持っていた為に幽霊などは一切信じない性質だったが、この道はどうもそういう類とは別に嫌な雰囲気を出していたのだ。
だがその正体がレイビには何かなど分からない、ただただ何の根拠もない直感が異様に研ぎ澄まされいただけだった。
「それにしてもエレナも副隊長か~、何だかんだで早いものね」
「そうね~、レイビなんかその歳で隊長だもん。第二部隊の中でもベテランはいるのにそれを払い除けてなるんだから本当に凄いよ」
「そんな事ないよ!私なんて全然隊長らしいことやれてないわ」
「そうかな~レイビはどの隊長の中でも一番隊長らしいことをしてると思うな~」
エレナの相変わらずの口調を聞いているとレイビも気持ちが和ぐ、彼女の独特な喋り方の溜めは他者にとってリラックス効果を発揮していたのだ。
「レイビってさ、実際シンのことどう思ってるの?」
「っ……!!ま、またその話?」
「だって、前は本人もいたし本音で話せなかったみたいだったから、こういう二人だけの時なら大丈夫かなって思ってさ」
レイビはエレナがこれほどまでに話の話題を引きつるのは珍しいと思ったが、彼女は悪意など一切ない純粋な疑問を浮かべたような顔をしていたのでその質問に答えることに大して抵抗はなかった。
「最初はさ、本当に何の印象もなかったへタレだと思っていたわ。この前なんて特訓付き合って上げてたら腕立て伏せ始めちゃって、背中に乗れなんて言ってきたんだよ?」
「それは何というか、女の子にとってはデリカシーがないかな~」
「でしょ?それでいざ乗ったら弱音吐いちゃってさ、10回でバテてたんだよ?私ってそんな体重重いかな?」
いつしか彼女は新介に対しての愚痴を漏らしていたが、その嬉しさに満ちたレイビの表情はとてもそれを不満とは思っていない様子にも窺えた。
「けど、あんなへタレだけど、何か妙に頼れる時があるっていうかさ、男らしいって思える時があるんだよね」
「そうなの?」
「うん、実力はまだまだ全然だけど、どこまでも先を見てるというか、根性で言えばあいつは誰にも負けないと思うんだよね」
レイビは上野新介という存在に惹かれつつあり、それは彼の持つ誰にも負けないほどの固い意志と根性を賞賛していたのだ。
だが何故だか彼のことを思うと心が躍り顔が笑ってしまう、レイビは自分でも心の底から湧き出る感情の正体を判断することができなかったが何だが幸せな気分だったことは違いなかった。
「__そっか、レイビにとってシンはきっと大切な人なんだね」
「……エレナ?」
明らかに声質を変化させたその声を聞いたレイビは前方を振り向くと、そこには新カトリック教団のローブを着た団員が五人立っているのが見受けられた。
すると背後からも気配が漂い後ろを振り向けばそこにもローブを着ていた男達が立っており、レイビ達は完全に挟み撃ちにされてしまう。
「レイビ……キリスト……」
「な、何で、新カトリック教団の手先がここにいるの……?」
レイビは急いで鞘に収めていたサーベルを前方の敵に向け臨戦態勢を取るが、さすがのレイビもこの狭い場所で挟まれては分が悪い。
「エレナ、ここは手分けして相手した方がいいわ!私は前の五人を何とかするから!」
「……そうだね」
するとレイビの前方にいたエレナは後方を振り向き腰に携えていた剣を引き抜き、彼女のもとへと近寄った。
____!!
「……え?」
視界を下に下げ、思考し、その光景に唖然としてしまう。
何故ならレイビが見た光景は、自分の腹部に鉄の塊が突き刺さり白装飾の服が傷口から真っ赤に染まり始めていた光景だったからだ。
再び思考を再開した時には痛覚が伝わり、彼女は確かにこれは幻想ではなく現実だということを認識できた。
「何で……エレナ……?」
「ごめんレイビ、だって私、新カトリック教団の信者だからさぁ♪」
「っ……!?」
エレナが浮かべた笑顔は嘗てレイビが癒されていた表情の欠片もなく、ただ目の前の彼女を侮辱するだけの醜い表情を浮かべていたのだ。
「がは……!!」
腹部を突き刺しにされたレイビは口から吐血すると、ようやく剣を引き抜いたエレナと同時に跪いてしまう。
「ああ、本当に爽快だよ♪ずっとあんたをこうやって甚振りたかったんだからさぁ♪」
「何で……どうして……?」
「どうして?そんなのあんたが目障りだったからよ!あんたのことをずっと私は嫌ってたんだ!いつも私を越えてくるあなたが!」
エレナはそうしてレイビを愚弄するかのように罵るが、それでもまだ足りないのか息を荒げながら蹴り上げ傷口を刺激させる。
「ああ……が……っ!!」
「いいねえいいねえ♪もっとその顔を見せてよ♪」
どうしてエレナが新カトリック教団に加担したのか、何故自分に恨みを持っていたのか、この理解できない状況を朦朧とする意識の中で必死に整理しようとするが、レイビの脳内は一向に状況を理解できずにいた。
「分からないかなぁ?あんたはあの御方達に狙われたんだよ。これからあんたは散々私達にリンチにされた後出荷されるの、そして私は栄えある隊長に昇格ってわけ♪」
「意味が分からない……そんなのバレるに決まってるでしょ……?」
「本当脳みそ固いなぁ♪まあいいよ、ここで無駄話して時間稼ごうって魂胆だろうけど、後でゆっくり種明かししてあげるからね♪」
するとエレナはポケットから十字架を取り出しゾオンエネルギーを収束し始める、副隊長クラスの彼女に掛かれば剣技も十字術もどちらもこなせたのだ。
「っ……!!」
「何……!?」
エレナが十字術の効果で彼女を眠らそうとした矢先、レイビも隠し持っていた十字架を取り出してその効果を無効化した。
その間にレイビは逃げようと背後を振り向き傷口を押さえながら走ろうとするが、既に教団の手下達が彼女に向け銃口を向けていたことに気付き足を止める。
「チェックメイトだよ、レイビィ♪」
「そんな……」
銃声と共にレイビは視線を痛覚を感じた方に向けると、そこには注射器のような物が左肩に突き刺さり肉を抉っていたことが分かった。
直後に強烈な目眩が起こり視界が眩む、体中の感覚が次第に無くなっていくのが伝わりながらレイビは確かに自分は今地面に倒れようと意識していることを自覚したのだ。
バタ___
そして何も思わず、何も抱くことをせず、全ての感覚を失った彼女は静かに目を閉じた。
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それを意識というのならば、目を見開いたと意識した時には無限の漆黒が広がっていた
いや、それは自分が辿り行くべきだった未来なのかもしれない
父を見たのは一度だけ、母を見たことなど一度もない
何の為に生まれたのか、そこに愛はあったのかなんて分からない
そんな無知な自分自身を呪った、どこかで選択を間違わなければこんなことにはならなかっただろうと
だからこそ、これは報いなのだと思った___
――目を覚ますと、そこは建物の外と中との中央のような場所の中央で椅子に座らせられ体を拘束されているのが分かった。
レイビは周りを見渡すと、そこはどこか廃墟のような場所で天井までもが吹き抜けとなっていた建物だったことが分かったが、ここがどこなのか詳しくは分かりそうになかった。
「おやおや、気が付きましたか」
「……!!あなたは……!?」
「ご紹介が遅れたようですね。私の名前はスティーブ・ヴィン・フランシスコ、新カトリック教団の司教です」
新カトリック教団の司祭と名乗る中年の男はレイビの前に立つと、彼女を嘗め回すかのような視線で拘束した彼女を下から見始めた。
「良いですねえ、さすがイエス・キリストの倅と言ったところです。しかし!!あなたは異端者だったみたいだ――レイビ・J・キリスト」
「っ……どうしてその名を……!?」
その名前はキリスト家以外には知れ渡っていないはずの情報だったはずだが、新しくできたはずの教団の司教が知り得ていたことにレイビは不可解さを感じた。
「そんなのどうだっていいじゃない。ねえ、レイビ」
「エレナ!!どうしてあなたがこんなことを!?」
「だから言ったじゃない、私はあなたを隊長から落とす為に司教様に協力をした。司教様はあんたをある組織に引き渡す為に協力を仰いだ。それだけの話よ」
エレナはまるでレイビを蔑むかのように嘲笑してみせるが、レイビはまだどこかで彼女が何かの冗談を言ってるのではないかと期待を寄せていた。
が、その期待は見事に裏切られてしまう。
「今から約十五時間後、あんたを捕らえるように命令した組織が迎えに来るわ。そしたら今度は私がその椅子で拘束されて十字軍に匿名で通報する、そうすれば隊長を目の前で連れ去られてしまった悲劇のヒロインが出来上がり♪どう?中々良い算段でしょ?」
「な、何言ってんのよ。ねえエレナ、嘘なんでしょ?こんなの全部冗談なんでしょ?」
「……分からないかな、そのぐらい察せよ鬱陶しいな。本当にそういうところも嫌いなんだよ」
エレナの声が随分と擦れた低い声で聞こえてくると、事の真相を受け入れざるを得なかったレイビの脳裏には自分でも気付かぬうちに彼女との記憶を走馬灯のように辿っていることを実感していた。
一体自分の何がいけなかったのか、何がそこまで憎かったというのか、何も分からないままレイビは一つの言葉を口に出していた。
「――ごめん……なさい……」
何故その言葉を告げたのかなんて分からない、レイビは自分でも意識していない潜在的な何かが身体に影響してエレナに対して謝ったのだ。
「きゃは♪そうだよそうだよ♪これは全部レイビが悪いんだから、まずは謝らないとね♪」
エレナはレイビの頬をその手で撫で回すように擦ると、彼女の絶望し切った顔をよく眺めようとするかのように横に顔を向かせた。
「でも墜ちるのはまだ早いよ♪これからあんたは私達に甚振られて、出荷されるまで苦しみを与えてやるから♪」
「甚振るとは失礼ですぞエレナさん、これは裁きです!キリストの血を引く身でありながら異端者となった彼女に私が神に代わって代償を払わせるのです!」
「そうでしたね、腹部の刺し傷は治しておきましたので目一杯粛清してくださいしてください司教様♪」
スティーブは懐から十字架を取り出すと、レイビにその十字架向け何やら詠唱を唱え始めた。
その詠唱はレイビも聞いただけで何を行っているのかよく分かった、今彼は呪いを掛けよとしているのだと。
「レイビ・J・キリスト、あなたの罪はその隠し名にあります。その正体は聖なるキリストの血を他者の神によって穢した人間のエゴが生み出した成れの果てです」
「違う……私は、レイビ・キリスト……キリスト家の長女よ……」
「キリスト?違うでしょ、あなたの半分の血は異教徒の物です。あなたは存在そのものが罪なんですよ」
自己の存在を否定されたレイビは彼の戯言を鵜呑みにしないと心中で抗ってみせる。
しかしスティーブはレイビに対して言葉責めをしているだけではない、いつの間にか十字架の一端にはゾオンエネルギーが針状に収束されたもの突き刺さり、それと同時にレイビは猛烈な痛みの感覚に襲われた。
「あああ……っ!!」
「穢れた体には聖なる浄化を!!さあ苦しみなさい!!もっと苦しみ後悔するのです!!」
十字架が次第に串刺し状態になると、レイビの体もそれにつられるかのように痛みが身体を蝕む。
そのあまりの痛みに耐えられなかったのか、レイビは涙と唾液を垂れ流しながら白目を向きそうな勢いで目を見開いていた。
「はあ……はあ……」
「制裁は終わりました、私は一度教会へ戻ることとします。後はあなたに一任しますよ」
「了解です♪勿論、甚振っても構いませんよね?」
「好きにしなさい、それがあなたの救いなのだから」
それだけを言い残すとスティーブは数人の仲間を連れ建物出入り口から外に出て、後のことはエレナと何人かの団員に一任して新カトリック教団の教会に帰るのだった。
そしてこれからが、レイビにとっての地獄だったのだ。
「さあ、どこから傷つけて欲しい?私的にはあんたのその顔をグチャグチャにしたいんだけどなあ♪」
「い、嫌……」
「ああそうだ、じゃあこれからあんたを叩く度に私が嫌いだった事を一つずつ言うね♪]
「誰か……助けて……」
だがそんな願いなど届くはずもなく、レイビは団員の男に布で口を塞がれて声を出せないようにされてしまう。
そして一発、暴言、そして二発、暴言、そのエレナの攻撃にレイビはただ耐えるしかなかった__
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