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ラプンツェルへの巡回

 潜入三日目、その日新介は初めての見回り日でラプンツェルの街を巡回していた。

 街の見回りは部隊内で五人組を構成し持ち場を巡回する方法になっており、街に不審者や争いなどが起こっていた場合は逮捕権を持つ十字軍が確保するようになっているのだ。



「街を回るなんて初めてかもしれないなー」


「え、君ってここの出身じゃないの?」


「ああ、元々はセントラルの出身。十字軍に入隊する為にラプンツェルまで旅をしてたんだよ」

 マークの尋ねてきた質問に新介は平然と嘘を交えて回答するが、至って自然な動機に彼だけでなくレイビやデウスも疑うような雰囲気を示さなかった。


「でもセントラル出身なら警務部隊もあるのに、何でうちを選んだんだ?」


「そ、そりゃああれだよ!セントラルの警務部隊なんかより十字軍の方が身体を鍛えられると思ったからだよ!」


「そうなの? 確か規模では負てるわよね?」

 十字軍の規模は六百人程なのに対してセントラル警務部隊は千五百人の数を誇る部隊なので、どうして新介が規模で負けている十字軍を選んだのかレイビは疑問を投げかける。

 しかし新介は疑問を投げかけられても返答に困った、何せ政府と戦う為に十字軍に保管されている『レアメタル』を強奪するのが目的だったからなど口が裂けても口外できなかったからだ。


「でも総隊長同士の決闘ではレイビのお兄さんが勝ってたよね?相手は『守護神』の称号を持つアーレア・リフレウスだってのに」


「アグナム総隊長には常日頃驚かされてしまうな、きっとシンも自然と総隊長の魅力に引かれた口かな?」


「ま、まあ、そんな感じかな……」

 しかし周りの会話の流れで自然解決したようなので、新介は話の流れが変わるまで余計な発言を避けようとした。


「……?」


「っ……」

 不意にレイビが前方を見ると、路地裏へと続く道に十字架が象徴するように印されたグレーのローブを着た男が入って行った所を目撃する。

 しかもレイビの目が合った瞬間に疾しいことがあるかのように後を去ったことから、隊長であるレイビには嫌な予感が脳内を渦巻いていた。


「マーク、前方に不審者発見。服装からして新カトリック教団の構成員だわ、すぐにエレナ達にも連絡して」


「……了解。悪いが雑談はここまでだシン、早速仕事だよ」


「な、何だ……?」

 マークは十字架を使いエレナの班に連絡を取っている中、レイビ、エマ、デウスの様子は急変し臨戦態勢となり路地裏に逃げた男を追跡しようとする。


「知らないのか? 新カトリック教団のことを」


「知らない、一体何だって言うんだよ?」

 完全に新介はこの状況に置いてけぼりになりながら逃げた男を追っているが、一体眼前の男が何をしたというのか彼には知らない話であった。


「覚えていてシン、新カトリック教団というのはラプンツェルに拠点を置く数年前に誕生した新しい教団よ。言わばプロテスタント過激派組織、聖書を常軌を逸した解釈で犯罪紛いの行動を正当化するただの犯罪者よ」


「犯罪者集団ってことは、セントラルでいうところのルナ・シャドウってところか」

 レイビの説明では彼等はラプンツェルの施設の爆破、役所人の暗殺、裏社会での第一級禁止物の売買などとても宗教としては認められない行動を正当化している組織だという。

 その為ここ数年の十字軍は新カトリック教団の壊滅を目標としてはいるが、何度も敵のアジトと思われる所を制圧しても湧いてくる厄介な組織だった。


「チッ……!!」


「っ……!?」

 すると前方から入れ違う形で二人の仲間が壁を走り四人の元へと襲い掛かると、前方に立っていた新介とレイビがそれぞれ剣を交えた。


「何だこいつら……! 急に現れやがった……!」


「シン!! 大丈夫なの!?」


「ああ、このぐらい大丈夫だ!」

 新介は薄暗い裏路地で尚且つレイビとは背を向けていることを利用して、男の腹部を身体強化で強化した足で蹴りを入れ相手を悶絶させる。

 すると一瞬相手の剣に込めている力が弱まるとそのうちに男を壁まで押し付ける、新介のその身のこなしにレイビも敵を相手取りながら背後に意識を向けてしまった。


「シン、そのまま押さえてて」

 するとエマは新介によって壁に押し付けられている剣を持った男に対して十字架を向けると、十字術の効果により意識が朦朧としてそのまま倒れてしまう。


「まだ敵はいるぞ! 油断するな!」

 新介は一瞬の間油断をしていると、最初に見かけたグレーのローブを着た男が分銅鎖で彼を攻撃しようとする。


「っ……!!」


「デウス!?」

 デウスは新介に向け飛んできた錘を剣で切ろうとするが、そのまま鎖の部分で刃を捲くり付けられると勢いよく引っ張られた。

 そしてそのままデウスはバランスを崩して地面に転倒すると、今度こそ新介に当てようと再び錘を彼の元へ投げる。


 ____!!



「っ……レイビ!?」


「シン、怪我はない?」


「大丈夫だけど、お前はさっきまで別の敵を……」

 新介は急いで横を見てグレーのローブを着た男がもう一人倒れているのを確認すると、レイビが既に敵一人との交戦を終え自分に飛んできた錘を跳ね返したことを理解した。


「新カトリック教団、何故あなた達がこんな昼間に街を徘徊しているの?」


「レイビィ……キリストォ……ああ…あああ……!!」

 男は奇声を上げ常軌を逸したように鎌を乱暴に振りまく様から、新介達は彼が既に正常でないことを悟りレイビ以外男から距離を取った。



「レイビ……!!」


「下がっててシン、すぐ終わらせるから」


「だけど、今のこいつは正常じゃないんだぞ!?」

 新介は一歩も引こうとしないレイビを見て再び男に近付こうとしたが、後方にいたエマが彼の肩を掴みその足を止めさせる。

 眼光に反射する光は新介の動きを抑止して、どこまでもレイビを信頼しているようにも思えた。


「大丈夫、見てて、私達の隊長を」


「っ……」

 エマの静止を聞くことにした新介は前方に視線を向けると、先程から男は分銅鎖でレイビを狙っているのに彼女は見事に全てかわしていた光景に思わず唖然としてしまう。

 まるでどこに攻撃がくるかを先読みしているかのようにかわすその動作は、幾たびの修羅場を乗り越えてきた体だけが避け方を知っているかのように端麗な身のこなしをしていたのだ。


 そして一瞬、ほんの刹那の間にレイビは男に向け自身のサーベルを突き立ると


 ______!!


「な……」

 あまりの速さに誰も剣先を目で捕らえることができなかったが、サーベルは男の額の直前で止まり剣先から突風が吹きつけた。


「これでもまだ、抵抗する?」


「あ、ああ……何で、何で……神は私達を救済しないのだ……」

 男は終始意味不明な発言すると、レイビの圧倒的な剣技に戦意を喪失して地面に跪く。

 勝負あり、突如として訪れた新カトリック教団団員との交戦は、殆どレイビの貢献で事態が収集するのだった。


「レイビ! エレナ達を連れて来た!」


「ありがとうマーク、こっちも丁度終わったところだよ」


「わあ、本当にレイビ達がやっつけちゃったんだね。まさかこんな昼間に彼等を捕まえるなんてお手柄だよ」


「そんな事ないわよ、それよりさっさとこの三人連行しましょう」

 エレナ班の隊員は男三人を縄で拘束し無理矢理立たせ、事情を聴取する為にレコンキスタの牢屋に護送しようとする。

 そして何とか教団の構成員の確保に成功したレイビも取りあえず一安心して自分のサーベルを腰に携えた鞘にしまい、初めての交戦にして騎士としての前線の役割を果たした新介の元へと歩み寄った。


「凄いじゃないシン!初めての交戦にしては卓越した身のこなしだったわ!」


「いや、俺なんかほぼ皆に守られてたし。それに二人も倒したレイビには敵わないよ」


「レイビが強いのは当たり前だ。でもお前は敵を押さえて後衛のエマに術を発動させる時間を作ったんだ、初交戦にしては良い出来だったぜ」


「私達の多数大多数の交戦スタイルは互いに協力することだからね、自然と仲間がピンチになったら助けちゃうのよ」

 三人は彼の活躍を評価すると、新介も満更でもない雰囲気でレイビ達の言葉に喜びを覚えるように照れ臭く頭を掻いていた。


「にしてもデウスはこういう時だけは真面目なんだな、日頃の感じと違い過ぎて驚いたわ」


「そうなのよね、デウスったら普段は鬱陶しいのに仕事の時だけは真面目にやるから単純に憎めないのよ」


「え、何々レイビ?そんな俺が大好きだって?」


「言ってない」

 結局お茶らけた感じに戻るのも彼らしいと新介は思ったが、レイビと幼馴染というだけあってか実力は確かなものだったことは違いなかった。

 そして新介達はエレナ班が護送をするということなので、自分達も捕らえた教団の逃亡防止を目的として一度レコンキスタに戻ろうと彼女達について行くとにした。


「でもさ、何でこんな目立つ服装しているのに昼間街に姿を現したんだ?」


「そればかりは取り調べをしないと分からないわ。まあでもあんな様子なら期待はできないだろうけどね……」

 レイビの見解は正しかった、何せ先程交戦した教団の構成員は明らかに常軌を逸した行動と言動をしていたからだ。


「私も教団の構成員だった人間は何人か確保したことがあるけど、皆あんな感じで狂気染みていたわ。あれじゃあ自分の意志なんて関係ない、まるで誰かに操られているみたいで気味が悪いわよ……」


「誰かに操られる、か……」

 新介はそれを聞いた瞬間に洗脳の類か何かだと推測するが、そう考えると教団の誕生には誰かしらの黒幕がいることになった。

 そしてその人物は誰か、一体何故教団を創ったのか、どうやって洗脳をしているのか、全ての疑問が新介の脳内で駆け巡り推測が追いつきそうにない状態だった。

 だがしかし、同時にルナ・シャドウに結が洗脳されていた辛い思い入れも思い出してしまう。


「本当に、人の心を支配しようとする奴等の考えが解せねえよ。何かしたいなら自分で動けばいいだろうに……」


「そうね、でも力がある者ほど自分から動こうとしないものよ。自分は隠居しておいて従者に仕事を済ますのが彼等のやり方、結果的に今だ教団は撲滅してないみたいだからね」

 だからこそ教団の指導者は相当頭が冴える存在に違いなかった、そして彼らを滅ぼすにはその指導者を捕らえなければならないのだ。


「どの道彼等のやっている行動は許されないことだわ、ラプンツェルの治安を乱す輩は必ず潰す」


「レイビは正義感に溢れているね~、さすが私達の隊長だよ~」


「そんな事ないわ、これは隊長として当然の人格よ。エレナも副隊長として立派な正義感を持ってる、それは私が保証するわ」

 語尾を伸ばす喋り方が特徴的なエレナは二人の会話に入り込み隊長であるレイビを褒め称えようとしたが、レイビのエレナを肯定する発言に当の本人は何か戸惑った表情で苦笑をしてみせる。


「レイビ、見回りが終わったら特訓したいんだけど手伝ってくれないか?」


「あなた、昨日の疲れもあるはずなのにまだ特訓するの?」


「ああ、見回りも大切だけど体も鈍っちゃ駄目だからな。それに早く強くなりたいし」

 昨日の今日で疲れが取れていないはずの新介が強くあろうとするその視線を見据え、レイビは一度驚嘆とした表情を見せるも溜め息をつきながらその表情を緩ませた。


「私も馬鹿ね、新人のこういう無邪気さを見たら隊長として断れないんだもの」


「二人って案外気が合うよね~、もしかして付き合ってたりするの?」


「知らないのエレナ?この二人総隊長に婚約者装う為に同棲してるんだよ」


「ちょ、エマ……!!それは言わない約束でしょ……!?」


「ごめんごめん、でもエレナにだけ言わないのもあれじゃん」

 幸いにも教団を護送しているエレナ班の隊員とは少しばかり距離が開いていた為にバレることはなかったが、エレナはそれを聞いて驚きを隠せそうになく今すぐにも声を上げそうにしていた。


「知らなかった……で、でも、同棲してるってことはそういう関係になっててもおかしくないってことよね?」


「確かに、シンを守る為とか言って本当は二人って付き合ってたりするんじゃないの?」


「そ、そんなわけないでしょ!第一何で私がこんな年下でへタレな奴を好きにならないと駄目なのよ!ないない絶対ない!」

 レイビは少々顔が紅潮しながら事実無根を主張するが、傍聴していた新介は横から地味にディスられていることで若干複雑な感情を抱いてしまう。

 だが二人の追及は止まらない、しかしエマの場合は完全に面白がっており隊長が追い詰められているところを見て楽しんでいた様子だった。


「それでそれで♪実際のところシンのことどう思っているの♪」


「べ、別に!私は彼に特別な感情があるわけじゃないんだからね!シンを助けたのは私の善意に巻き込んだ責任の為、そこんところあなたも勘違いしないでよね!?」


「あ、はい。初めからそのつもりですので安心してください」


「……ならいいわ。同棲しているからって変な期待植え付けられても困るしね」

 勿論新介自身も彼女と恋愛関係に発展することなどありえなかったが、稀に自分はレイビを利用しているのではないかという罪悪感に見舞われる時があった。

 その罪悪感が芽生える度に新介は美織を助ける為の必要枠と心の中で訴える、でないと自分のしていることが正義か悪か分からなくなったからだ。

 そして彼等の親友のように笑い合っている光景を見据えると、新介は他人の表情ばかりを窺っていた昔の自分を思い出す。


 だからこそ彼は、いつかレイビ達に本当のことを打ち明けられる日が来ることを少しばかり期待するのだった___





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