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初めての訓練

 

 二日目、新介はいよいよ十字軍隊員としての日課をこなす日々が訪れた。

 何でも初日は偶然にもオフ日という一日だった様で、訓練や街の見回りをしなくていい日だが緊急事態の時の為に平常通り集会場に滞在するというのが十字軍のきまりなのだ。

 そして今日は訓練日、ほとんどの部隊は訓練日と見廻り日が交互に一日のスケジュールとなるという。


「言っておくけど、十字軍内では私とシンは隊長と隊員の関係だからね。婚約者を演じるのはお兄ちゃんの前だけで十分だから」


「んなこと分かってるよ、別にアイツ等は俺達の関係知らないみたいだからな。これ以上演じ続けたらさすがに疲れる」

 新介達はレコンキスタに向けて出勤をしてる最中第二部隊内での自分達の関係を確認していると、前方には偶然かデウスが通り掛ったが、マークも一緒にいたことから必然ではないことを確認する。


「おはよう♪レ~イ……」

 彼は相変わらずレイビに会うと真っ先に飛び込んできたが、レイビもまた日課のように目潰しでデウスの視界を潰すのだった。


「あああああ痛い痛い……!!」


「おいやめろ、一般人が見たら十字軍の評判が下がるだろ」

 マークはこれほどまでの無様な姿を一般人に見られたりすれば十字軍の恥だと言い放ち、デウスを無理矢理足で起こそうとした。


「そういえばシンは初訓練か、騎士の訓練は相当ハードだぞ」


「なら尚更だ、俺もできるだけハードな訓練をしたいと思ってたところだしな」


「へえ、君って随分と変わってるんだね。新人なら普通そういうのは嫌うはずなんだけどな」

 新介には三ヶ月間で神をも倒す程の力を得なければならなかったので、十字軍の練習はハードと聞き俄然やる気が湧いてきたのだ。


「三人共、早く集会場に行って点呼取るわよ」


「はーい♪レイビちゃ……」

 本部に入ろうとしたレイビを背中から襲い掛かろうとしたデウスは彼女に肘打ちを受けてしまい悶え始めると、新介もその様子に今日に限って二発受けるとは彼はとことんツイてないと考えてしまう。

 そして新介達は一度第二部隊の集会場に足を運び、隊員総勢100名の点呼を取ってから訓練場所に向かうのであった。


 _______



 第二部隊の訓練場所はレコンキスタ敷地内にある屋外の場所にあった。

 そこは芝生が生い茂る地面がある場所であり、人工的に造られた太陽からの光も灯され運動をするには健康的な構想となっていたのだ。

 訓練を始める前に部隊内の騎士と術者が分かれると、騎士はまず筋トレから始め術者はゾオンエネルギーを収束させる練習を始める。

 そして新介もまた、騎士として筋トレに励むのであった____



「98……!!」


「98……!!」

 約五十人が四列横隊で腕立て伏せの体勢をしていると、一番前で同じく腕で全体重を支えているレイビの掛け声と共に全員も数えていた。


「99、100……!!」


「だあああ……」

 新介は天界に来てから自分は結構鍛えている方だと思っていたが、一セット1百回をギリギリ乗り越えたことから身体強化に頼り過ぎている面が垣間見えた。

 しかし普段はお茶らけているデウスは難なくこなし、しばらく地面でうつ伏せになっていた新介とは違いすぐに立ち上がってみせる。


「どうしたシン!こんなのウォーミングアップでもないぞ!」


「う、腕立て伏せ100回って……案外大変なんだな……」

 勿論身体強化を使えば容易くこなせてしまう、だが身体強化とは必ず体の部位にゾオンエネルギーを付加させなければならないことからバレてしまう可能性があったのだ。

 まだ何にも目的を果たせていない新介にとってはあまり隊の中でも目立ちたくないという思いもあった為に、ユピテルに言われた通りに神技の使用も禁止しなければならないのが現在の彼だった。


「それじゃあ、今度は腹筋100回ね」


「また100回!?」


「まあこれがうちの準備運動みたいなものだからな、騎士になった以上こなしてもらうぞ」

 その後新介は腹筋を100回した後、間髪入れずにスクワット100回を何とかやり遂げ体中を痛め付けた。

 疲労は既に困憊だが訓練の本番はこれからであり、新介達は木刀を持って素振りをし始める。


「なあデウス、自分の剣は使わないのか?」


「いやまあ怪我しても困るから、普段は木刀でやるのが規則って感じかな」


「ふーん、じゃあ何で剣なんか持たないと駄目なんだよ?」


「俺達は街の見回りをするのも仕事なんだぜ?それに最近は何かと物騒だから結構真剣を使ったりする時もあるしな」

 デウスの説明では自分の剣を使用するのはあくまでも有事の際らしいのだが、周に一度だけ訓練の一環として真剣を素振りする機会があるとのことだ。

 二人は素振りをしながらそんな話をしていると、レイビは新介達の元に近付き何かを言い放とうとしたのが俄かに伝わる。


「シン、私が太刀筋を教えてあげるから来なさい。ついでにデウスも」


「いや、何で俺まで今更教えてもらわないと駄目なんだ?」


「あなたにはシンと試合をしてもらう、最初の実力の度合いを見てみたいからね」

 デウスは案の定言う通りにレイビの後を連いて行くと、新介もまた二人の後を追うように素振りをしている隊員達とは別の場所に向かった。


「それじゃあ、まずは二人に試合をしてもらうわ」


「来いよシン、言っておくが俺は素人に負ける程弱くないぞ?」


「へえ、お前もこういう時だけは真剣になるんだな。なら遠慮なく行かせてもらう!」

 新介は分かっていた、今デウスの目は戦士の目をしているということを。

 嘗て自分と対峙してきた歴戦の強敵が戦士を見る目、その眼圧から新介もまたデウスの戦いの歴史が精心感応のように伝わってくる。

 目で語りあった二人は、同時に木刀を両手で持つと真正面で衝突して単純な力の押し合いとなる。


 ____!!


 一瞬鳴り響く木刀同士の衝突音、今にも火花が散りそうな程に木と木が擦れ合いレイビの目線からも激しい力の衝突が行われているのが五感で伝わった。


「へえ、中々やるじゃん……!!」


「うおおお……!!」

 しかしデウスは力任せに正面から打つかってくる新介を利用して一瞬力を緩めると、新介は案の定後ろから押されたかのように前方へバランスを崩した。

 その間を縫うかのようにデウスは新介の横腹に木刀の一撃を入れると、彼は思わず脳裏に痛みの感覚が伝わって一瞬悶えてしまう。


「だが力任せにやれば良いって訳じゃない、打ち合いに重要なのは駆け引きだ」


「くそ……!!」

 新介はその後も諦めることなく何度もデウスに木刀を振り回すが、経験からか身体強化を使用していない新介では全く歯が断たない。


「そこまで!」


「はあ……はあ……」


「ズブの素人にしては上出来だ、だがまだ無駄な動きが多いみたいだな。体力もそれほど無いみたいだし」

 悔しいが身体強化なしでの実力はこの程度だということを新介は痛感すると、ユピテルが言った攻撃がかわせないことへの課題が浮き彫りになった。

 こればかりはどれだけゾオンエネルギーで身体強化しようが強化できないものであり、自分の中で徐々に戦闘の感覚を掴まなければならないのだ。


「デウスも調子に乗らないでよ。シンも初めてにしては上手だったわ!ここに来る前は何かしてたの?」


「まあ日頃から鍛えてたりはしてたかな、剣なんかは特に持ったこともなかったけど」

 正確に言うとヴァンパイアとの戦いの時に剣を使用したのは覚えているが、あの時の新介はやたらめったら振り回していただけで剣を持った部類にも入らなかった。


「デウスは皆の所に戻ってくれて結構よ、他の皆に打ち合い始めてるように伝えといてね」


「もう俺の出番終わりな上に扱い雑過ぎない?いや、待て……これは幼馴染同士によくある照れ隠しというやつか……?」


「あーはいはい、あなたよりシンに剣を教えた方が将来有望だと思ったからよ」

 レイビに適当にあしらわれたデウスはあからさま気分を下げながら素振りをしている隊員達の下へ戻ると、レイビは早速新介に木刀で剣の太刀筋を教えようとした。


「それじゃあ、やりましょうか!」



 _______



 それから約三時間みっちりレイビに指導された新介は完全に集会場の座席で野垂れ死にそうに机に凭れ掛かっていた。


「あー……もう体が動かねえ……」


「ごめんごめん!ちょっと気合入り過ぎちゃったみたい」


「いや、大丈夫だ……このぐらい大したことない……」

 新介にとってはこのぐらいの所業など必要最低限こなさなければいけない内容だったので、この訓練は美織を助ける為の試練だと思い込みポジティブに捉えようとした。


「だから騎士なんてやめといた方が良かったのに、術者なんて正直できれば楽なもんだからね」


「そんな事ないよマーク、戦いには前衛と後衛がいるみたいに騎士と術者の両方が必要なんだよ?」


「いや、何も騎士の存在価値を否定した訳じゃないよ。確かに騎士が前衛で時間を稼いでくれなければこちらも技を放てないけど、何で騎士になりたい人が後を断たないのか少し気になっただけだ」

 新介の隣にはレイビが座り、向かいの二人席にはマークとエマが席についていると四人は昼休みという休憩時間を使って昼食を交えながら談笑していた。

 しかしマークは騎士を志願する者の神経が理解しかねると言った供述をしており、新介はやはりというべきか彼の性格が垣間見えてしまう。


「そりゃあやっぱり憧れとかだろ?男は誰しも前線で活躍してるのがかっこいいと思う生き物だ」


「何だデウス、お前もその部類なのか?」

 新介達とは別の机の席に座るデウスはドヤ顔でこちらを向いているが、正直彼のこのテンションは四人共訓練後に相手取るのはキツイと思うのが本音だ。

 普段は面白いのは認めるが、それ故に状況を選ぶのがデウスの欠点である。


「おうそうとも!騎士職につく男は全員と言っていい程憧れの為に命を掛ける馬鹿共だ!」


「そういえばシンはどうして騎士になったんだい?」


「って無視すんなメガネ!!」

 マークも馬鹿を相手して体力を浪費したくなかったのかデウスを完全に無視すると、新介が何故騎士になったのか興味深そうに聞いてきた。


「前線に立てば戦いの経験が踏めると思ってな、まあ単に強くなりたいと思ったからだよ」


「君は力に固執しているように思えるけど、どうしてそんなに強くなりたいと考えるんだ?」


「どうしてって……」

 勿論そこには意志があった、だがG7の一角であるサクラスを倒す為などという言葉を口外などすれば必然的に怪しまれると新介は感付き開口しようとした口を一度紡ぐ。

 だからこそ新介は返答を考え込んでしまう、一体どんな返しならここにいるマークやレイビ達を納得させられるかと思慮深くなっているわけだ。


「――守りたい人がいるからかな。昔さ、ある奴に弱者が人を救いたいって思うのは傲慢だって言われたんだ」

 それは紛れもないガイゼルの言葉であり、当時の新介には痛い程その言葉が心の底に突き刺さった。

 そしてサクラスとの戦いに惨敗して、目の前に守りたいものがあったというのに届かなかったことを悔やんだ。

 そして新介は思った、誰かを助ける為には力が必要だと。


「今はその傲慢でもいい、だから、守りたいが為に傲慢であり続けようと誓ったんだ」


「シン……」


「何か臭いこと言ったな、俺新人なのに」

 新介は己の意志を四人に公言すると直後に思わず笑って誤魔化そうとしたが、レイビはその言葉に感銘を受けたのか隣の席から彼の背中を強く叩いてみせた。


「何か男らしいねそういうの!私結構好きだよ!」


「痛ててて……!!筋肉痛だから叩くのはやめろ……」


「ああごめんごめん、帰ったらマッサージしてあげるから許してよ♪」

 しかし彼女は今日一の失言をしてしまったことに新介はすぐに気付いた。

 そう、あれほど朝に新介とレイビは婚約者を演じていることは隊員には伝えないと約束していたというのに、彼女は呆気なく関係を明かしてしまう発言を漏らしてしまったのだ。


「……え?ごめんレイビ、今なんて……?」


「あ、あははは……」


「っ……」

 どうやら彼女は隠し通してきたものがバレた時の対応が絶望的に下手だった様子であり、新介も思わず額に手を当てて現実から目を逸らしたい気持ちに駆り立てられる。


「ちょ、ちょっと待てえええ!!どういうことだよシン!!帰ったらって何だよ帰ったらって!?」


「いや、それは言葉の綾というか……てか、苦しいから離せ……」

 デウスはこれまで見せてこなかった形相で新介に迫ると、制服の胸ぐらを掴みそのまま縦に振り事情の説明を強制させた。

 そして仕方なく二人は事の全容を説明して、今の自分達の関係までも告白した。


「えええ!?シンとレイビは総隊長に婚約してる仲って偽ってるの!?そして疑われないように同棲中!?」


「声が大きいよエレナ……!!これバレたらシンがお兄ちゃんに殺されちゃうんだよ……!!」

 案の定衝撃の事実を知った三人は一同仰天として、いつもは冷静なマークすらも驚きの表情を隠せないでいた様子だった。


「全ては私が良心のつもりで家に入らせてしまったのが元凶、だから私達は仕方なく婚約者ってことを偽って彼の身を守っているってこと」


「まあ、キリスト家ってそういうの厳しいらしいからな。それは何というか……おめでとう」


「いやあくまでもフリだからね!!そこのとこ間違わないで!!」

 レイビがあくまでも新介を助ける為に偽っているということを再度強調すると、デウスも少しばかり感情を持ち直したように表情も和らいでくるのが伝わった。


「だから皆にはお願いがあるんだけど、私とシンの関係は秘密にしておいて欲しいの」


「……まあ、隊長の命令なら僕は口外しないけど」


「私も、だってレイビとは長い付き合いなわけだし」


「レイビに頼まれたら断れないな、絶対に漏らさないぜ!」

 レイビの人望もあってか三人共絶対に口外しないことを約束してみせると、新介も隊長としての彼女の人望の広さが窺えたことに新しい発見を覚えた。


「それより早く昼食食べないと訓練始まるよ?」


「そうだったな、じゃあ急いで食べるか!」

 五人は昼食を急いで平らげると、すぐに訓練場まで足を運び午後の訓練を始めるのであった。



 ______




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