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新天地の仲間達

 ‐レコンキスタ 総隊長室‐


 ここは十字軍本部『レコンキスタ』にある十字軍の総隊長が席を置く部屋である。

 そもそも十字軍とは天界連邦で唯一自治区化された都市であるラプンツェルを守護する為に設立された治安維持隊のようなものであり、その歴史もラプンツェルが成立した時に誕生するなど歴史がある組織だ。

 そして現在総隊長を務めるのはキリスト家の次男であるアグナム・キリスト、現十字軍の筆頭騎士にして天界の中でも有名な実力者である。

 尚且つ家の仕来たりを尊重し自分の妹のことに関しても常日頃から気を向ける面もある、だからこそ今の彼はどこか落ち着きがなかったのだ。



 コンコン___



「入れ」

 ドアがノックされる音が聞こえると、アグナムはすぐさま入るように命令をした。

 するとドアから入って来たのは新介とレイビであり、アグナムは彼の顔を見ると一度顔を歪ませていた。


「お、おはようございますお兄様!本日はお日柄もよく素晴らしい一日ですね!」


「……そうだな、まあそんな畏まるな。俺達はいずれ兄弟になる間柄だろ?」


「え、はい」

 昨夜の社交辞令の笑顔とは打って変わって何だか今日のアグナムは随分と寛容に思えたが、一体昨日と今日でどのような心境の変化があったのか新介には分からない。


「歓迎するよシン、十字軍総隊長としてお前の入隊をな!」


「あ、ありがとうございます……!」

 するとアグナムは書斎の椅子から立ち上がり手を伸ばす。それを新介は握手を要求しているのだと思い右手で彼の手を掴もうとした、が


「っ……!?」

 新介はそのまま手を引っ張られアグナムの豪腕な腕で無理矢理肩を組まされると、レイビの視界に見えないように彼は鬼の形相を新介に覗かせたのだ。


「お前、まだレイビに手出ししてねえよね……?」


「はい……?」


「惚けるんじゃねえよ、言っておくが男女の行為は結婚してからだからな……?婚約者で同棲しててもレイビの純潔を脅かすようなことすれば俺はキリスト家次男として、あいつの兄としてお前に剣を向ける……いいな?」


「は、はい……!!分かりました……!!」

 もはや脅迫とも取れるその発言に思わず新介も顔を青ざめてしまうが、アグナムは次の瞬間には笑顔を取り戻しレイビからは二人が仲睦まじく会話をしているようにしか見えないようにした。


「それじゃあシン、また一緒に飯でも食おうな!」


「そ、そそそうですね!また食事できる機会があれば行きましょう!」

 レイビは完全に新介とアグナムの関係が良好になったと勘違いしている中、新介は俯きがちのまま総隊長室を後にするのだった。


「良かったねシン♪お兄ちゃんもきっとシンのこと認め始めているんだよ」


「あの状況がそう見えたんなら相当脳内お花畑だな……」

 確かに新介にとってレイビに手を出さないことは当たり前のことだ、だがあれほど殺気を込めた忠告は初めてだったので完全に萎縮してしまったのだ。


 そして新介達は武器や制服などが保管されている部屋に入ると、そこにはたくさんの種類の剣や男女のサイズに合わせた十字軍の白と赤でデザインされた制服が並んでいた。


「す、凄い!何だよこの剣の種類!」


「十字軍は主に騎士と術者がいてね、騎士としての初期装備はほとんどここで支給されるってこと」


「おお西洋剣だ!やっぱ男としてこれは興奮せずにはいられないな!」

 先程とは打って変わり新介はまるで子どものように無邪気な振る舞いを見せると、レイビも自分の子どもでも見るかのような視線で彼の背中を見つめる。


「新介って結構子どもっぽいところあるんだね、剣なんかこの世界で珍しくないってのに」


「んな事ねえよ、男は誰しもこういうのに憧れたりするんだよ」

 新介が昔住んでいた日本では銃や刀といった類の所持は法律で禁止されていた為にじっくりと拝見することすら困難だったので、彼はこれまでない程にテンションが上がっていたのだ。

 だがそんな新介も剣の恐ろしさを知らない訳ではない、自分がこの世界に来てから間もない時にどれだけ刃で命を狙われたことか十分承知しているつもりだった。


「てか、種類が多すぎてどの剣が良いのか分かんないな……」


「うーん、剣術初心者ならまずは普通の剣の方が良いかもね。その肉体じゃお兄ちゃんみたいに大剣振り回すのは向いてなさそうだし」


「お兄さんは大剣二本持っているけど、普通両手持ちの大剣は一本で十分じゃないのか?」


「お兄ちゃんは『大剣二刀流』って言って、戦闘の時はあの剣を片手で持つのよ」

 レイビの説明ではアグナムは大剣を片手で一つずつ持つという天界の中でも彼しか真似できない戦術を持っているらしく、攻撃防御どちらも神の称号を持たない人間の中ではトップクラスの実力に達しているという。

 勿論人など簡単に殺せ、自分の行動次第ではアグナムの脅迫は本物になってしまうことを新介は考えると恐怖が再来した。


「それともいっそ術者に転職する?」


「その術者って何なんだよ、神技とかか?」


「違うよ、十字術を扱う人のこと。神技なんかはいわゆる術式を経由して効果を発揮する方法でしょ?十字術っていうのは情報媒体となる十字架にゾオンエネルギーを注いで効果を放つ方法、神が使う神技より手頃だけど威力はそこまでな感じよ」

 廃墟の屋敷にいたラプンツェル市長ガルシャワやG7のサクラスもこの十字術を使用しており、術式を発動する技術を要せずにゾオンエネルギーの収束だけで放てるコスパ良好な技と言われている。

 しかし新介には既に神技を扱える為に、わざわざそれより弱い技を身に付けるメリットはそこまでなかったのだ。


「いや、やっぱ騎士の方でいいよ。体も鍛えられるし強くなってお兄さんにも認められないといけないしな」


「え、それって……」

 新介にとってその言葉はアグナムの脅迫から少しでも逃れる為に自分が強くならなければならないという意味合いで発した発言なのだが、そんな事を露知らずな彼女にとっては誤解するには十分な言質材料だった様子だ。


「な、何本気で結婚する感じになってんのよー!!馬鹿変態へタレ鈍頭っ!!」


「ご、誤解だ!!ほら、俺がお兄さんに認めてもらうぐらい強くならないと本当に婚約してるか疑われるだろ?だからその剣をしまえ!!」

 レイビは何の間違いか腰のベルトに掛けていたサーベルを鞘から抜いて刃を向けるが、新介の言い分に納得すると再びしまうモジモジとし始める。


「まあ、あなたに強くなってもらわないとこっちも本家に戻される訳だし。ほ、本当にそれだけの理由なら私も協力するから……」


「あ、ありがとう……?」

 少々沈黙が続き嫌な空気になると、勘違いしたレイビは責任を感じて新介の剣を選び話題を変えようとした。


「そうねー……これなんてどうかな?素人が扱う剣だったらこれが最適だと思うけど」

 その剣は大した特徴はない普通の剣だったが、新介は一度持つと重さや刃渡りの長さから自分に合った武器だと感じた。


「これ良いな、俺にピッタリだ!」


「じゃ決まりだね、後は制服っと……」

 レイビは新介から服のサイズを聞くと、サイズ別で収納されていた引き出しを開けそこから一枚制服を取り出す。


「取りあえずこれを着てみて、要望のサイズはこれだから」


「ここで着替えるのか、じゃあそこに置いといてくれ……」


「って脱ぐの早い!私が反対向くまで待ってよね!」

 新介は言われるがまま彼女がそっぽ向いてから着替え始めたが、散々大人ぶっていたレイビが実は男の耐性が皆無だったことには思わず彼も何かに勝った気分になる。


「もう着替え終わった?」


「おう、もうこっち向いても大丈夫だぞ」

 新介の合図でレイビが振り向くと、そこには十字軍の制服を着こなしていた新介の姿が窺えた。

 サイズもピッタリであり本人も肩を回しながら動きやすさを確認すると、十分動けやすいことを確認して背中に自分の剣を背負った。


「おー様になってるじゃん、これで形だけは逞しくなったみたいね」


「悪かったな形だけで、一言余計なんだよ」


「それじゃあ、次は第二部隊の集会場に行きましょうか♪」

 レイビは初期装備を整えた新介の手を引っ張ると、そのまま部屋を抜け出して第二部隊の隊員が集まる集会場へと向かうのであった。



 ______



 二人は第二部隊集会場の前まで行くと一度立ち止まり、レイビは何やら大きな溜め息をついてから中に入ろうとしているが新介にも窺えた。


「どうした、入らないのか?」


「大丈夫、それじゃあ入ろうか」

 そしてレイビが集会場の扉を開くと、真っ先にレイビに向かってくる男がそのまま彼女に飛び込もうとしたのが新介にも分かった。


「レイビ~♪お~は~よ……」

 しかしその男はまもなくレイビの目潰しを盛大に受けてしまい、二人の目の前で無様にも目を押さえながら悶え苦しんでいた。


「ああああああ目がアアア……!!」


「毎日毎日懲りないわね、これ以上続けるようだったら本当に失明すると思うけど?」

 まるで某映画会社が制作した映画に出る悪役かのような醜い声を上げた彼を新介はゴミを見るような目で見てしまうが、これが自分と同じ部隊の仲間になると思うと先が思いやられてしまう。


「さ、さすが俺達の隊長だぜ……こんな俺でも失明の心配をしてくれるなんて何て優しいんだ……」


「いや多分こんな事やめたら失明しなくて済むから、後単に面倒くさいからやめてよね」

 レイビは彼に辛辣な言葉を掛けるが、肝心の本人は心に全く響いていない様子から窺えるに彼は駄目なタイプの人間だと新介は判断する。


「あの、レイビさん。一応紹介してもらってもいいですか?」


「ああ、この馬鹿の名前はデウス・キリシー。一応私の幼馴染ってところかしら」


「幼馴染って……レイビ、お前も大変なんだな……」

 新介はこんな奴が幼馴染であったならば恐らくレイビの人生は半分以上損をしていると予想してしまうが、彼女は七割以上は損をしていると悲嘆に満ちた表情で言ってきた。


「遅かったなレイビ、それより横の男は見掛けないようだが誰だ?」


「そうだ、皆聞いて!第二部隊に新しいメンバーが入ることになったわ!」

 すると二人の周りに大勢の人が取り囲み新介に注目が集まると、ざわついた空間に一人投げ出されたように新介はレイビに背中を押され自分で自己紹介しろと伝えられる。


「は、初めまして、ここに新しく配属になったシンです。どうかよろしくお願いします」


「この時期に新隊員か、珍しいね」

 先程から文化人風に野次を飛ばしているメガネを掛けた男は新介と歳が変わらない程の青少年であり、椅子に座りながら机に置いてあるチェスの駒を一人で動かしながら新介の方を向いた。


「新人かあ~、私はエマ・カトリット。タメ口で結構だからよろしくね!」


「なら遠慮なく、よろしくな、エマ」


「うんうん良いね!君みたいな人は嫌いじゃないよ!」

 新介はエマに手を掴まれ握手をすると、先程から隊員から足踏みされていたデウスが体中汚れ塗れでその間を入るように新介の肩を組んだ。


「何だお前新人だったのか!ここにいる奴等は基本的に歳とか意識しねえから俺もタメ口で構わないぜ!」


「いやごめん最初からそのつもりだった」


「何か俺に辛辣過ぎないこの子!?」

 新介は隊員全体に辛辣に対応されていることに気付かない彼をかなり痛い奴だと思ったが、恐らくこういうお茶らけた人がいるからこそ団体としての関係は均衡に保たれるのだろうとも捉えることができた。


「君は誰からも辛辣に扱われているんだよデウス、エレナもそう思うだろ?」


「う~んそうかなあ?私はデウスは普通に良い仲間だと思ってるけどな~」


「さすが我等の副隊長エレナ!!友達がいないからって一人でチェスしてる奴とは仰ることが違いますな!!」

 デウスはメガネの男と同じ机の席に座るエレナの隣の席に飛び込むと、彼女の手を両手で掴みチヤホヤして向かいに座る彼にわざと聞こえるように誹謗中傷をしてみせる。

 その行動にエレナは思わず苦笑いをしながら彼の手を離そうとするが、デウスは一切手を緩める事をせずにキツく力を込めていた。


「おい腐れストーカー、さっきの言葉は聞き捨てならないぞ」


「誰がストーカーだよ!!まだギリギリ耐えてるわ!!」


「すいませーんこいつ牢屋にぶち込んどいてもいいかな?こいつだけ特例で思想犯で懲役与えることってできないかな?」


「そうね、お兄ちゃんに少し交渉してみるわ。私も幼馴染としての関係を絶ってみたいと思ってたから」


「そんな事思ってたの!?」

 一応この組織は人間界で例えるところの警察に値する組織なのだが、新介が見た限りでは随分とフランクな職場だと感じ取れた。しかし若干一名十字軍に向いてない存在がいることは否めない。


「へえー、お前チェス好きなんだな。俺もこういう頭使うやつは結構好きなんだ」


「何だ、君もチェスの面白さが分かる人か?なら大歓迎だ、ここに座りな」

 新介は男に言われるがまま彼の隣に座り、盤上においてある駒の配置を一通り把握した。


「僕の名前はマーク、第二部隊所属ここの術者だ。趣味は読書とチェスってところかな」


「よろしくなマーク。ん?でも一人でチェスなんかできんの?」


「これは『ルート・オブ・チェックメイト』っていう遊び方だよ。場面で配列が決まっている駒を移動させてチェックメイトを導く遊び方だ」

 将棋で言うところの詰め将棋のことだと新介は納得してみせると、今の状況下を見て彼もキングを詰ませる為の策略を考え始める。


「こことか良いんじゃないか?」


「中々面白いこと考えるね、次で敵はこの駒を取るから、こっちはナイトを使って……」

 あっという間に二人は意気投合し、彼等だけの世界を形成したことから半日近く誰も新介達に声を掛けようとしたしなかった。


 そして新介の最初の一日は意気投合したマークとのチェスで幕を閉じるのであった。



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