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全能神の賢者

 もうどれだけの暗黒に浸っていたのだろう


 後どれくらい幻想の中を漂わなければならないのだろう


 まるで突如として自我が芽生えたように思考を開始すると、そこにはいつもと同じ風景が映った


 同じ様な山と夜景のその描写に思わず男は「またか」と呟いてしまう


 そしていつもと同じ様に、一人の少女はそこに立っていた。


「「またお前か……」」


「「新介君……って、今日だけは呼んでいいよね?」」


「「……」」


「「ありがとう、私も嬉しいよ」」

 一体何を見せられているのか分からなかったが、この状況を打開する方法もなかった為に延々と彼女の話を聞くことになる。


「「あのね、私も、新介君のことが____」」


 その時、突如として飛来した雷が新介のもとに降り注いだ。




 _______



「……」

 気が付けば違う建物のベッドに寝せられていて、ピントを合わせる視界は次第に見知らぬ天井を鮮明に移し始める。


「……ってうわああ!!」

 新介は急いで貫かれた胸に手を当てるが、何事も無かったかのように風穴は閉まっていたことに気付かされる。

 そして辺りを一度見渡して状況を整理しようとする。その行いは決して自分からそうしようと意識的にやったわけではなく、無意識に近い領域だったのかもしれないと彼は後々思った。


「あ、あれ、無い……」


「何が無いのじゃ?」


「だって俺は体に槍が……まさかお前が治したのか?」


「何を都合の良いことを言っておる、死者を生き返らす神技などあるわけがなかろう」

 ユピテルは然も常識のように否定するが、今の新介にとっては何が常識で何が非常なのかなんて分からなかった。

 ただ一つ、自分は一度死んだということだけは納得できた。


「でも、何で俺が生きてんだ……」


「それは結果論じゃ、正式には御主はわらわの賢者として蘇った」


「は、はあ!?」

 新介は自分の左手を見ると、そこには見たこともない何かのマークが刻まれていた。

 擦っても取れることはなく何かで塗られたようなものではなかったため、余計に多くの不安を煽らされてしまう。


「これは……」


「神技『フラグメント』、それは人間、神、悪魔、動物、そして死人すらも賢者とすることができる」


「っ……」


「御主はわらわの賢者となることを盟約に、もう一度その命を吹き返したのじゃ」

 突如として宣告されたその運命に、数秒は思考を停止せざるを負えないほど人知を超越したできごとが起ことに気付かされる。

 だが次の瞬間、もはや笑って見逃すしかできないような返答が返ってきた。


「御主の質問がまだ返せてなかったな、わらわはユピテル、全能神ユピテルじゃ」


「あ、あはは……あはははは……」



 ___今日をもって俺は、全能神の賢者となった。




「……って理解できるわけねえだろ、何だよ賢者って、何か一気に疲れた……」


「男のくせに愚痴愚痴言うでない、とにかく今後御主はわらわの下僕みたいなものじゃ」


「はあ……とにかく、順を追って説明してほしいかな」


「よかろう、全能神であるわらわが直々に事の経緯を教えてやらんでもない」

 ユピテルはベッドで寝ている新介の向かいに座り、事の経緯を全て話すことにした。


「まず御主はここに来る前に騙されてた。その自覚はあるか?」


「ああ、あのマーベルとかいう女に裏路地の究明を依頼された」


「御主が付けていたデバイス、あれ自体が御主の位置情報や音声情報などをマーベルに直接通達されていた。そしてアジトに突入されたわけじゃ」

 新介はマーベルにとってただの(おとり)の役割であり、ユピテルが裏路地にあるアジトに身を潜めていることが分かればどうでもよかった。それが真実、だが新介は未だに事の真相を受け止められずにいた。


「新介よ、御主は女を見る目がないな」


「う、うるさいな!この世界に来てから右も左も分かんなかったんだ。でも悪かったな……」


「何のことじゃ?」


「俺のせいで拠点が攻められてしまったことだ、俺が正確な情報をあのデバイスに送ったから……」

 本来自分はユピテルからは敵対視されてもおかしくないはずなのに、何故今ここにいるのかさえもよく分からない。

 返答によっては敵と見做されるだろう中、新介は固唾を飲み緊張感に心臓を鷲掴みにされようとする。が


「御主はわらわがデバイスに気付けなかったと思っているのか?」


「は?」


「気付いておったわ、そして彼女らに正確な情報を渡す直前で壊すこともできた」


「なら、どうして壊さなかったんだよ?」


「決まっておるじゃろ、わらわをこんな姿にしたほんの少しの報復じゃ」

 ユピテルはあえてデバイスを放置して、マーベル率いる警務部隊を突入させたという。

 それは全能神という立場からの意思とも思えたが、体に似合った子供のような負けず嫌いな意思とも思えた。


「まあ政府の柱を一人懲らしめただけでは気が済まぬ、いつか政府にも報復してやるわ」


「スケールでかいな……てか、政府の柱って?」


「何を言っておる、御主が誑かされたマーベル・クォークは政府の中でも中核の存在だぞ」


「え、ええええ!?だって国家の雇われ者だって……」

 しかしそれなら彼女が神技を使えたのが納得できた。

 マーベルが正真正銘の神なら、警務部隊を従えていたのも理解できる。


「……」


「ってうわああ!!な、何だサリエルか……ていうかどっから出てきたんだよ……」


「正体を消していた……」


「幽霊かっての」


「幽霊じゃなくて、死神……」


「はあ?」

 何だ、彼女も神の一種なのか?と新介は思ってしまうが、疑問に満ちていた新介の表情を見兼ねたユピテルはサリエルに自己紹介をするように斡旋した。


「サリエル、自分で自己紹介できるな?」


「……はい」


「……?」


「私の名前はサリエル・サムハート、死神にしてユピテル様の賢者です……」

 この時サリエルは新介の目の前では最長の発言をした。

 だが新介が気になったことは、彼女も自分と同じ立ち位置だったということだ。


「お、お前も賢者なのか?」


「まあそういうことじゃ、サリエルは新介の先輩ということになる、これからもよろしく頼むぞ」


「はあ……その言い草だとやっぱり俺はお前に従わなければならないのか……」


「当然じゃ、御主には多くの貸しを作ったからのう、少なくとも一度の蘇生分の働きはしてもらうぞ」

 ユピテル側につけば百パーセントこの世界での安住は保障されないだろう。

 だがしかし、彼女には生きているうちには返せれないほどの恩義を受けたために無下に断ることもできなかった。


「てか、何で俺なんかの命を救ってくれたんだよ?」


「御主はわらわを命を張って守ってくれたからな、その度胸を見込んで利用価値があると判断したまでじゃ」

 それを聞くと割りに合わない気もしたが、新介自身も行く当てなどなかったのでユピテルに着いていくことにした。


「最後にわらわから一つ質問をしていいか?」


「何だ?」


「御主は何者で、何処から来た?」

 新介という名の存在の核心を問われるが、彼自身もそれは定かではなかった。


「何処から来たかなんて分からない、だけど、自分が何者かは分かる……」


「……?」


「俺はお前の賢者だ、違うのかよ?」


「……これは一本取られたわい、お主は本当に面白いのう」


 ユピテルは新介のもとに手を差し伸べて握手を迫る。

 彼女という存在に気に入られた証拠だ、これで新介も異世界で生き残れる当てができたと言えた。


「新介、御主はこれから正真正銘のわらわの賢者となる」


「ああ、よろしく頼むぜ、マスターさんよ」


 二人は盟約に従い、新介は全能神の賢者としての物語が今始まるのだった____




 ________


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