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作戦会議

 バーカウンターの席に座ったユピテルは自信満々にそう告げると、新介も今の彼女はこの戦いに勝利の展開しか予想していないのが窺えた。


「まず一つ、わらわ達が何故ここに来たかの話になるのじゃが、それはここの店のオーナーがある情報を提供してくれたからじゃ」


「情報?」


「ああ、元々わらわは自分の体を元に戻すには術者であるG7を何とかしなければならないと思っていた。しかしそのような方法を取らずともわらわの願望を叶える方法があったんじゃ」

 ユピテルはまず自分達がセントラルに再来した目的を新介と結に説明すると、神技を発動して空間の穴から文字が記されていた紙数枚を取り出す。


「それが()()()()の生成方法、世界中の重要組織に保管されているその素材を奪い出す方法じゃ」


「賢者の石……?」

 それは新介とユピテルが以前それを追い求めオークション会場にも潜入したことのある代物だった。

 自身の神技を法則を無視して強化したり普段は使えこなせなかった神技を使用可能にさせるチートアイテムであり、現在では幻の石としてその存在が確認されていない物でもある。

 ユピテルはG7との政府の衝突は一度避けて通り、新介達の盟約である自分の体を元に戻す為に賢者の石の原材料の強奪という方法を推奨しようとしたのだ。


「じゃが今回の出来事でそういう訳にもいかなくなった。わらわ達は賢者の石の原材料となる物の強奪をして尚且つ政府と渡り合わなければならないという訳じゃ」


「そうか、賢者の石を使えばお前の体を元に戻すことができる。つまり政府と渡り合えるってことだな!」


「本気を出せばG7を倒すことはわけない。しかし奴等はわらわに一度引導を渡しておる、油断は禁物じゃ。だからこそ御主達にはさらに強くなってもらう」

 作戦の第一段階として世界の主要組織に潜入して賢者の石の原料を略奪する、そして奪った原材料で賢者の石を生成しユピテルの体を取り戻すことが目的とされた。

 しかし完全体のユピテルだからといって油断はできない、嘗ての敗戦の教訓から新介、結、サリエルも潜入先で強くなり神と渡り合える程の力を得る必要があったのだ。


「いや、ユピテルがG7全員を倒す必要はない」


「何じゃと?」


「その一人、サクラス・キリストは俺に倒させてくれ。あいつはどうしても許せないんだ」

 美織の記憶障害を利用した結婚の強要、好きな人にこれほどの非道を受けさせたことを新介はサクラスの顔を一発殴らなければスッキリしない程に怒りを覚えていた。


「なら、私も戦いたい相手が一人います……」


「ほう、そやつは誰じゃ?」


「G7の一角『死神』アズラー・イール、彼には少し因縁があるから……」

 サリエルは珍しく他の誰かを意識していたことに新介も興味を抱くが、彼女がユピテルに向ける視線には何か確固とした意志を感じられたので詳細を聞こうか一瞬躊躇ってしまう。


「二人とも大きく出たものじゃのう。じゃが新介、聖神サクラス・キリストの壁は甘くないぞ、奴は現G7の中でも№2と称される程の実力者じゃ」


「№2……現政府組織の中でも二番手ってことか……」

 サクラスの実力は本物であり、新介にとっては神技や戦術、そしてゾオンエネルギーによる鎧を素手で貫通させる程の単純な強さの全てに至って格上の存在であることは違いない。

 サクラスを倒す為には神技の実用や個としての強さを厳しい修行で磨き上げる必要が新介にはあった、だが彼は美織を救う為に躊躇う仕草など一切見せることがなかったのだ。


「上等だな、美織を誑かしたペテン師を叩いてやる……!!」


「ふん、それでこそわらわの見込んだ賢者じゃ。御主は本当に良い男じゃのう」

 するとその発言を聞いていた結は何やら唖然としている表情でユピテルを見つめる、それに気付いた本人は誤解を招くような表現をしたと察し咳払いをして何かを伝えようとした。


「そして次が重要な目的じゃ、御主達には主に三つの目的を並行しながらこなしてもらう必要がある」


「何だ?」


「それは――――」

 ユピテルの口から計画の三つ目の目的を告げられると、新介を含め三人は驚きを隠すことができない様子だった。

 そして三人はこの計画の全容を把握すると、自分達が仕出かそうとしている計画のスケールの大きさを理解せざるを得なかった。


「――以上が美織を救出する作戦じゃ」


「お、おい……それマジで言ってんの?」


「じゃから言ったじゃろう、これは百パーセントわらわ達が勝つ為の算段じゃと。だからこそこの作戦が成功する確率は現状0%じゃ」

 彼女の言う勝つ為の算段とは無謀ともとれる作戦をこなしてこそ効力を発する代物であり、誰一人としてミスを許されず最悪命の危機に直面する場合であったのだ。


「オーナー、サクラス・キリストの挙式はいつじゃ?」


「公開された情報は三ヵ月後ですね。裏の情報では場所は天界議事堂(クオッカ)深層、楽園(エデン)の丘という情報があります」


「……なるほど、なら三ヶ月以内での作戦成功が望ましいな。御主の想い人が人間をやめさせられたくなければ」


「どういうことだよそれ?」

 ユピテルは神妙な表情でサクラスがそこを挙式の場所にした理由を推測してみせる、そしてその結果一つの可能性に行き着いたのだ。


「あそこには生命の樹が保管されている、そこに実る果実を食せば老いることのない本物の神になってしまうということじゃ」


「そんな事許されるのかよ?」


「女神は公式の神ではないが神となる権利がある、永遠の命を手に入れ神の伴侶となる為にな」

 新介はサリエルが自身の過去を語っていた際に神になることへの代償を聞いていた。

 不老という能力だけ聞くと聞こえが良いが、悠久の時間とは一種の罰であり大切な人が死に逝く様をずっつ見続けなければならないものであるという。

 サリエルも生前はこの悠久の時間に苦しめられた身であり、死に逝く親友を見て自分が神になったことすら後悔した程に精神的なダメージが大きいものだった。


「簡単な話じゃ、この無謀とも思える計画を三ヶ月という短い時間で成功させる。それ以降は既に美織は人間を辞め永遠の命を手にしているということじゃ」


「永遠の命……確かに響きは良い、だけど……」

 もし三ヶ月を過ぎて美織を助けることができたとしても、永遠の命を手に入れた彼女は親族や親友、大切だった存在や愛した人が死に逝く様を見ても自然に死ぬことができない体になってしまう。

 そう考えると気が引けた、その大切な人に自分は入ってなくてもいい、彼女がサリエルと同じ様に悲嘆に満ちた人生を送らせたくないと新介は心に抱いたのだ。


「ま、私は三ヶ月もあれば成功させてみせるけどね!一応元神二人倒してるし!」


「私も問題ない、必ず任務は全うする……」


「お前等……」

 彼等には無茶を強要するまでもなく自分達から新介の願いを叶えようと了承する、その二人の対応に新介は久しぶりに感極まってしまう。


「本当にありがとう、何ていうか、俺って凄く仲間に恵まれてんだな……」


「私達は、いつでも新介の味方……」


「そうだよ!それにこの作戦が成功すれば無事に元の世界に帰れるんでしょ?なら協力しない訳ないじゃん!」

 同時に自分が情けなく思えてしまう、そして新介は自分自身が一番この三ヶ月で強くならなければならないと自覚した。

 皆が文句一つ言わずに無謀な作戦の協力を承諾した、そして世界という最大の敵が相手でも誰も諦めていなかった彼等の意志を新介は無駄にはできなかったからだ。


 そしてユピテルも「やれやれ」と言いながら我が子の背中を押すように協力を承諾した。


「結論は出た、それじゃあ早速御主達にはそれぞれ潜入する所を指定する」

 そしてユピテルはまず結に指を指すと、彼女に潜伏する世界の重要組織を発表しようとした。


「結、御主には雷神家に潜伏し『レギスの結晶』を盗み出してもらう」


「雷神家って?」


「天界の御三家に数えられる名門家じゃ。普通は入家試験を受け入るものじゃがそこは御主に任せる、ここの潜伏は御主ほど適任はいないからのう」

 雷の神技『レギオン』を使う結にとって雷神家の潜伏は適任であり、彼女ほどの実力なら雷神家に入家する方法はいくらかあったのでユピテルは一任することにした。


「そしてサリエル、御主には北地区ヴァイスの金主(オーナー)の誰かが持つと言われる『ナーガ生命水』を奪い取って欲しい。情報は現地で集めるのじゃ」


「了解……」

 サリエルは現在格差社会が問題となっている北地区ヴァイスに行き、金主(オーナー)と呼ばれる富裕層の誰かが所持しているという『ナーガ生命水』を奪うことが目的となった。

 そして残された新介にいよいよユピテルが潜伏場所を公表しようとした。


「新介、御主には東地区ラプンツェルに行き十字軍に潜伏してもらう。そこで『レアメタル』と呼ばれる稀少石を奪うのじゃ」


「十字軍?」


「ああ、ラプンツェルは天界の中で唯一自治区化された都市じゃからな。十字軍はラプンツェルの治安を守る警備部隊のようなものじゃ」

 ラプンツェルとは三万年以上前に三代目神神『イエス・キリスト』が指導するプロテスタントにより天界連邦による管轄を外れることが許された唯一の都市であり、世界の中でも神々を信仰する伝統が強く根付いている珍しい地域でもあった。


「レアメタルは十字軍本部『レコンキスタ』に保管されているという情報がある、御主自身も強くなる打って付けの場所じゃぞ。潜伏方法は主に入隊試験を受けることだがこれも御主に一任する」


「しかしユピテル様、あそこは……」

 サリエルは何かに気付いたかのように二人の会話に入るが、直後にこれはユピテルによる何かしらの企みと思い口外するのを避ようとする。


「そしてわらわは三人のサポートをしつつ、この計画に必要な素材を集める。約三ヶ月間各々が世界各地で活動して計画を遂行するのじゃ」


「勿論俺は異論はないぞ」


「私も同じく!」


「了解……」

 四人は結束し美織救出の算段として政府と戦うことを誓い合う、全ては三ヵ月後のサクラス・キリストの挙式を目処にそれぞれの目的を果たさなければならないことを確認した。


「時間がないから出発は明日とする。せいぜい各々が今日中にセントラルでやり残したことをするんじゃな」


「ええー!?折角来たのに明日で出発なの!?」


「今日だけでもオフ日があることを羨んで欲しいものじゃ、計画実行までには三ヶ月しかないんじゃぞ?」


「うう……そうだけど……」

 しかしこれは仕方のないことだった、美織救出の作戦を実行するには一日でも早くそれぞれの目的を果たさなければならなかったからだ。

 それを受け入れた結は何かが吹っ切れたのか、ここぞと言わんばかりにキャピキャピとし始める。


「だったら私ショッピングがしたい!お兄ちゃんお金頂戴!」


「馬鹿!お前これユピテルの財産なんだからな!」


「構わない、使わせてやれ」

 ユピテルはそう言うが新介は結をお金で甘やかす訳にもいかなかったので、ここで一つ自分の妹に条件を付け足そうと提案する。


「分かった、けど俺も同伴して節度を持った買い物をしてもらう。いいか?」


「え、良いの!?やったー!!」


「お前ちゃんと理解してる?本当に大丈夫かよ……」

 どうして結がそれほどまでに喜んでいるのか新介には理解できなかったが、遠くから眺めていたユピテルが随分とニヤついていたことに何となく気付いていた。

 そして作戦開始の前日、それぞれはセントラルでの最後のオフ日を過ごすのであった。



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