最大の敵
セントラルの大通りの交通規制が解除され再び喧騒に満ちている中、少し離れた路地裏に術式が構築され二人の人影が浮かび上がる。
「……ったく、無茶し過ぎよ」
「はあ……何で俺を助けた……?マーベル……」
新介はサクラスの攻撃の直前にマーベルから発動された神技により守られると、彼女が目暗ましに周りを爆発させその瞬間をついて助けられていた。
そして空間転移の神技を発動して今に至る、しかし新介は何故彼女がこんな愚行ともとれる行動をしたのかが理解できないでいた。
「借りを返したつもりよ」
「……まだ神様に助けてもらう程の徳が自分にあったとはな、お前達からすれば俺の行為は完全に悪行だろ?」
「そうね、でも私はあなたに重傷を追わせた。気紛れで瀕死のあなたを助けたっていいでしょう?」
新介は路地裏の建物に背中を持たれながら倒れていると、マーベルは丁寧に彼を助けた理由を説明してみせる。
「にしても何?一般人にはゾオンエネルギーによる身体強化すら扱える者は少ないってのに、何であなたが神技を使えることができるの?」
「っ……それは……」
しかし先程のサクラスとの戦闘を拝見していたマーベルは何故彼が神技を使えるのかを問い質すが、新介自身その事情を話せばユピテルとの繋がりが判明することから何とか誤魔化そうとする。
「それに、何であんな事したの?」
「……信じてくれないとは思うが、あのサクラスとかいう神の近くにいた奴は俺の連れだ。俺は訳あって彼女を取り戻さないといけないんだ」
「……ふーん、なら残念だけどその目的は諦めた方がいいわ。あいつは変態だけど私と同じだけの権力は持っている、抵抗するだけ無駄よ」
マーベルは無慈悲に新介の果たさなければならない目的が不可能であることを告げる、その忠告はさっきまでサクラスにタコ殴りにされていた新介には痛い程に実感した。
___「「新介、御主今どこにいる?」」
「っ……!?」
それはユピテルからの通信だった、しかし新介は今ここで自分が反応すれば確実にマーベルに会話の内容が聞かれてしまうので彼女が引き下がるまで何とか黙っていようとする。
「もし無関係なら無視していて構わないわ。これはあなたの能力を覚醒させた者への忠告、もし天界政府に関わるようだったらただでは済まないと伝えておいて」
「何だよそれ……脅しか……?」
「さあね、でもこれであなたへの借りは返した、もしあなた達が何か企んでいるようなら今度は迷わずあなたを撃つ。それだけの話よ」
マーベルはボロボロになった新介を見捨てていくように背を向けると、彼女は新介を見下すような険しい目付きで振り向き様にこう告げた
「ほら、そろそろ出ときなさい」
それだけを言い残し彼女は光が灯っている道へと姿を消すと、新介は先程から脳内で語りかけていたユピテルが非常に焦りながら呼び掛けてきていたことが伝わった。
「「新介!!どうかしたのか!?」」
「わりいユピテル、しくじったわ……」
「「何があった!?今どこにいる!?」」
「今は……」
その瞬間、空間が歪んでしまったかのように新介の視界が霞んでしまう。
体も急に無気力になり新介はユピテルに現在地を伝えようとしたところで目を瞑り、次第に受けた傷の痛みも感じられなくなる程に自分の意識が朦朧としてしまった。
_____
今まで自分が何をしていたのか、これまで己が何を成し遂げてきたのかが分からなくなってしまう。
同じ天界に召喚された美織を探し出す、しかしいざ目の前にそれが体現されたら何もできずにいた。
そして身の程を知った、この世界では自分は無力だということを。
結局彼女を取り戻せなかった自分に、嘗て対峙した者達の悲嘆に満ちた声が自然と聞こえてくる。
___「「諦めろ、そして自分の無力さを知れ」」」
___「「口ほどにもない、その程度で人を救おうとするのは傲慢です」」
___「「なら残念だけど諦めた方がいいわ、抵抗するだけ無駄よ」」
___やめろ、やめろ……
____「「貴様はどこまでも救えない」」
___俺はただ、大切な人を救いたかっただけなんだ―――
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「……!?はあ……はあ……」
思わず息が荒れる、新介にとってそれは人生最悪の悪夢だったからだ。
「お兄ちゃん!!」
「新介……!!」
酒場の客席のような場所で新介は自分が野垂れ死んでいたように寝ていたことに気が付く、そして目を覚ますと視界に結とサリエルが心配そうにこちらを見つめていたことに意識を向けた。
「結、サリエル……」
「もうお兄ちゃんの馬鹿!!何で路地裏で瀕死になってんのよ!?」
「新介、心配した……どこも痛くない?」
「あ、ああ……」
新介の体は既にユピテルにより完治させられており、彼自身も体に痛みなど微塵もないことを確認する。
そして状況を理解しようとしていた、確か自分はユピテルに現在地を伝える前に力尽きて裏路地に気絶したまま倒れてしまっていたことを。
「ようやく目を覚ましたか、裏路地で御主を見つけた時はデジャヴかと思ったぞ」
「ユピテル、助けてくれてありがとう。もうすぐ死ぬところだったよ……」
「問題はそこじゃ、何故御主があんな所で野垂れ死にそうになってたんじゃ?」
辺りが重苦しい空気感に包まれる、新介もここまで皆に迷惑を掛けておいて状況を説明しない訳にはいかなかったので洗い浚い全て説明しようとした。
「ユピテル、俺が前に話した天界に召喚された可能性がある三人目の奴を覚えているか?」
「確か、名前は美織じゃったな」
「そうだ、実はさっき美織を大通りで見つけた。だが予想外の事態に出会った……」
その予想外とは美織が天界の神と結婚をするつもりだという事実、そして実際に彼女を連れ出そうとしたら婿となるサクラスに足払いされてしまったことだ。
「美織を連れて行こうとしたら一人の男に阻まれた、あいつは自分のことを『聖神』サクラス・キリストと名乗りやがった」
「っ……!?」
すると次の瞬間新介は自分の発言でユピテルとサリエル、奥にいた店員と思われる男すらも驚きを隠せないでいたことを自覚した。
「ちょっと待て、御主G7と接触したのか!?」
「接触というか戦闘かな、まあ結果的に返り討ちにされたけど……」
「よく逃げられることが出来たのう、普通神に盾突けば牢獄行きじゃぞ?」
「それは、偶然そこに居合わせた奴が助けてくれたおかげだ」
あの時マーベルが逃してくれなければ今頃新介は政府によって取り押さえられていただろう、こればかりは彼自身も彼女に感謝をしなければならないと思う。
「新介様、良かったらこれをどうぞ」
「あ、どうも……って、あんたは以前の……」
銀色の長髪を束ねたバーテンダー姿の男性は以前新介達がオークション会場へのチケットを買い付けた店のオーナーであり、上半身を起き上がらせていた新介に水を渡してみせる。
「お久しぶりです、雪解け水ではありませんが飲めば気分が優れると思います」
「あははは……ご丁寧に余計なことまで覚えていてくれたようで何よりです……」
オーナーは以前新介が言い放った黒歴史的な発言を冗談っぽく弄るが、肝心の本人は愛想笑いをするだけで本気では笑えないでいた。
「先程から少し話を伺っていたのですが、あなたはもしかしてサクラス・キリストの女神披露に乱入したんじゃありませんか?」
「……ああ、彼奴は美織を自分の女神にすると言っていた。それで戦闘にまで発展したんだ」
「なるほど、つまりあなたはその美織という女性を連れ戻したいという訳ですか?」
「そうだ、だから必死になって戦っていた。今を逃したらもう会えないと思ったからな……」
しかし新介の話を聞いたオーナーは重苦しげな表情を見せ何かを考え込むような仕草を見せる。
だがオーナーは表情を緩めるどころか次第に苦しい面を晒すと、何かに諦めがついたのか一度溜め息をつき難儀に直面したかのように言葉を放つのを慎重になっている様子を見せる。
「残念ですが、私にはその女性を助ける手立てを模索することができません。G7以上ともなれば常に国家の最高権力である天界議事堂に滞在している、勿論それは女神となる女性も例外ではないのです」
「つまり、どういう事だ?」
「彼女を救うということは政府と有事の対立をするということじゃ、言わばわらわ達とG7及び神官総勢千人との戦争じゃな」
G7以上の女神となると天界議事堂に常備滞在する彼等と同様に政府の保護対象となってしまう、もし美織を救いたいのであれば反乱分子という立場である新介には政府から無理矢理彼女を取り戻さなければならなかったのだ。
だがそこで新介の気持ちに迷いが生じてしまう、それは美織を助けるという事は仲間にも多大な負担を背負わせてしまうことになるからだ。
「ユピテル、美織を救える確率はどれだけある?」
「今のわらわ達の戦力で計算すれば可能性はゼロに等しい。御主も体験したじゃろう、G7の実力を――」
「っ……ああ、あまりにも実力が違い過ぎた……」
あれはもはや人間の範疇ではない、サクラス自身新介との戦闘の時点で全然本気を出していないようだったし彼から逃げ出せたのもマーベルの助けがあったおかげだった。
「それでも、俺は美織を助けたい……美織も一時的に記憶を失ってサクラスに吹き込まれているだけなんだ……だから……」
彼女を救いたい、いや、単純に記憶を失った美織を洗脳させたと思われるサクラスが許せないでいた。
だからこそ新介は例えそこに圧倒的な戦力の差があったとしても藤宮美織を救いたいという意志は変わることがなかった、その確固とした意思表明をした彼に三人も大きな決意をしてみせる。
「私、美織さんを助けるの手伝うよ!」
「結……!?でも……」
「圧倒的な戦力差が何?だってお兄ちゃんはそんなのいつでも乗り越えてきたじゃん!これでお兄ちゃんへの恩義は全部払わせてもらうから!」
「お前……」
自分の意思表示に返答をしてくれたことに新介も思わず結の背中が大きく見える、妹を巻き込みたくないという気持ちはあったが彼女が手伝ってくれると聞いた瞬間に新介は感謝を覚えてしまった。
「私も、政府と戦う……」
「サリエルまで……」
「反乱分子である私達はどの道この運命を辿ることになる。それに、私もあなたには恩義がある。手伝わせて欲しいの……」
サリエルもまた失われた称号での件で新介に恩義があったということで、美織の救出作戦に協力することを承諾してみせる。
そしてその二人を見ていたユピテルはニヤつきながら溜め息をしてみせると、彼女もまた新介の確固とした意志に逆らうことができずにいた。
「やれやれ、たった四人で世界を敵に回すなど常軌の沙汰ではないな」
「駄目か?」
「いいや、最高じゃな。何なら政府を潰して御主を君主とする国でも創るか?天界の歴史に名を残す反乱分子となること間違いなしじゃろ」
「嫌だよ、俺は美織を助けて人間界に帰る。それだけの為に世界に喧嘩売ろうってだけだ」
ユピテルはついで感覚で政権奪取を新介に提案するが、彼が企んでいる内容は世界の重要機関である天界議事堂から美織を助け出すという計画だったので真っ先に拒否をした。
しかし反乱分子である彼等は政府機関に侵入しただけでも有事の事態になってしまう、戦闘が激化すればする程並み居る実力者達が次々に現れいずれは世界に喧嘩を売ることなる訳だ。
「だが問題はどうやって天界議事堂に突入するかだ……」
「あそこは警備員も多い、潜入することもまず不可能な場所じゃ」
まさに難攻不落の要塞、となればやはり正面突破しか手立てはない、単純な互いの戦力のぶつかり合いで相手を翻弄させている内に美織を助ける方法しか考えられなかった。
「任せておれ、わらわには策がある」
「策?」
「ユピテル様、それって……」
何やらサリエルはそのユピテルの策が何を指すのか分かっている口振りをしていたが、一体その策とは何なのかが気になった新介は彼女にその事を尋問する。
「ユピテル、お前には政府に勝てる算段があるってことか?」
「いいや、これは勝てる算段ではない、勝つ為の算段じゃ。0%の可能性を100%にする方法なら一つだけ知っておるぞ」
そしてユピテルはバーカウンターの椅子に座りその勝つ為の算段というものを発表しようとする。
「それじゃあ、一つ世界と戦争でもするかのう――」
一気に張り詰めた場の空気感の中、四人は美織を救う為に無謀ともとれる作戦会議を始めるのだった。
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