旅立ちの予感
「……うーん、そろそろ俺も働かないと駄目かな」
新介はダイニングの机で家計簿をつけていると、セントラルに居た時溜めていた貯金が底を突きそうになっていた現実に直面していた。
「どったのお兄ちゃん?そんなに辛気臭そうな顔して」
「いや、資金面で家計が切羽詰ってな。そろそろバイトを取ろうかって思ってたんだよ」
しかしここはセントラルと違って田舎だ、バイトの求人は都市とは違い間違いなく少ないし簡単に稼げる所というのも少ないのは明白である。
だからこそ新介は悩んでいた、何か効率よく資金面を補助できる方法はないかと考え込んでしまう。
コンコン__
「ん?」
それが自分達の家の扉がノックされているとすぐに分かるが、一体誰が何の為に家に訪ねてきたのか新介には分からないでいた。
「ユピテルちゃん達じゃない?帰ってきたとか」
「いや、それなら普通に入ってくればいいだろ?一体誰だ……?」
珍しく憶測を飛ばした結を尻目に新介は玄関まで向かうと、恐る恐る扉を開いて外の人が誰なのかを確認する。
「お届け物です!」
「え、頼んでないですけど?」
「いいえ、これは差出人からの物です」
宅配業者と思われる男からその荷物を受け取ると、随分と質量が感じられる程に重かったことが新介に伝わっていた。
しかし差出人と言われても新介には心当たりが無い、というよりこの世界に来てからユピテルやサリエル以外の知り合いがいなかったのだ。
「何だったの?」
「ああ、何でもお届け物だってよ」
リビングに戻った新介はソファに座りながら茶菓子を貪る結の質問に返答すると、彼女の隣に座り小包の中を開けてみた。
「な……!?」
「お、お兄ちゃんこれって……!」
二人が驚くのも無理はなかった、その中には入っていたのはギミックが搭載された謎の黒い物体と札束と思われる物が一つあったからだ。
「ええ!!か、金!?」
「こ、これ、100万へヴンドはあるよ!?遊んで暮らせちゃうよ!!」
結が現生を取り慣れた手つきで枚数を数えている様子を見ると、一時期盗賊団に所属していた時代があったからかこの世界の物価や為替については少しだけ知識があるようだ。
「一体誰が送りつけて来たんだよ……」
「きっと神様からの送り物なんだよ、これで社畜にならなくて済むねお兄ちゃん♪」
「そうだな、あと札束を我が子のように顔に擦り付けるのはやめろ。絶対お前には管理させないからな」
性格上彼女は大雑把な側面があるので、結に大金を管理させるというのは大海に捨てる行為に等しかった為に新介はすぐに取り上げた。
「問題はもう一つだ、何だこれ?」
そして新介は問題の謎の物体を持ち一通り目を通すが、一体それが何のギミックを搭載された代物なのかが分からずにいる。
新介が推測している垣間に結は「叩いて中を見るんじゃないかな?」という謎の仮説を口にするが、絶対違うと確信していた新介は彼女の発言を無視するという形で説を否定してみせた。
「ん?何だこのボタン?」
「えい」
「は?」
新介は謎のボタンらしきものが搭載されていたことに気付くと、隣の結が間髪入れずにそれを押したことに彼も思わず唖然としてしまう。
「お、おま……!!何かやばい物だったらどうするんだよ!?」
「え、叩けば良いじゃん」
「この世の中何でも叩けばどうにかなる訳じゃないの!頼むから何でもかんでもその武道派みたいな考えやめてくれる!?」
すると机に置かれた謎の物体は突如として向かいの壁に映像を映し出すと、そこにはサリエルの顔が画面全体に映り彼女も意識してこちらを見つめているのが新介達は理解できた。
「あ、あの……サリエルさん?」
「「おお……本当に繋がった……」」
若干放送事故かと新介は思ってしまうが、何やらサリエルがこちらの声が聞こえている事を確認するとユピテルを呼ぼうとしているのが分かった。
「「ちょっと待っててね、今ユピテル様呼んだから……」」
「お、おう。分かった」
「「……髪切った?」」
「切ってねえよ、てか無理矢理話繋げようとしなくていいから」
サリエルは失われた称号との一連の出来事以来喜怒哀楽ぐらいは次第に表情で表せるようになってはいたが、もう何年も人とのコミュニティに無関心だった為に現在ではコミュ障の一面を見せたりしていたのだ。
そして何とかサリエル流の場の繋げ方で時間を稼ぐと、ユピテルが画面の横から現れてきたのが新介達にも伝わった。
「「久しぶりじゃな新介、結。元気じゃったか?」」
「そっちこそ、それにしても何でこんなので連絡寄こしてきたんだ?神技を使えばいいだろ」
「「神技だと御主等の音声までしか拾えないからのう、こうやって専用のデバイスを使った方が御主の顔を見れるという訳じゃ。とは言ってもこれも一種の神技みたいなもので術者のゾオンエネルギーを使うがな」」
ユピテルから事情を窺った新介は納得してみせると、彼女は話を先に進めようと一度咳ばらいをしてみせる。その仕草に新介も空気を呼んで黙り込み緊張した趣きで今か今かとその第一声を待っていた。
「「二人共、三日後までにセントラルに来て欲しい」」
「セントラルに?一体何で……」
新介は一体何故再びセントラルに向かう必要があるのかよく分からなかったが、彼女は彼女なりに考えを持っているのだろうと納得してみせる。
「「次の目的の為じゃ、取りあえずこっちに着いたら全て説明する。交通費としてある程度の資金も送っているはずじゃ」」
「これ交通費だったの!?そもそも何でこんな大金持ってんだよ!!」
「「ああ、こっちでこっそりとわらわの財産を回収した。まあこれぐらい端金じゃ」」
「はああ……全能神って金持ちなんだな……」
思えば新介自身ユピテルの素性を全能神というぐらいしか知らなかったが、そんなに偉大なら自然と金も集まることだろうと憶測を飛ばす。
「てか、別にお前等が一回戻って来て空間転移使えばよくないか?」
「「別に急ぎな訳じゃないからのう。な、結?」」
「え?」
ユピテルはウインクをして何やら結にアイコンタクトをかわそうとすると、結もユピテルの指示の正体が何となく新介に関することだと感付き始める。
「「せいぜい楽しめ、追い人よ」」
「な、なななな何を言ってるのかなユピテルちゃん!?絶対変なこと企んでいるでしょ!?」
「……?」
一体彼女達は何の話をしているのか新介には到底分かり得なさそうな思惑で結の表情を窺うと、彼女は顔を紅潮させ必死に手を振りユピテルに反抗の意を示していたがその原因は分からずにいた。
「「そうじゃ、その家にはもう戻ることはないじゃろうから空けておけ」」
「え、まじかよ」
「「ああ、しばらくは戻る機会がないじゃろうからのう。名残惜しいじゃろうがその家で暮らすのはもう終わりじゃ」」
「っ……」
正直この小さな家で四人で生活するには新介にとって楽しい思い出だったので、素直にその現実を受け入れるのは少々抵抗感が生まれたのだ。
「「ま、後三日ある、必要な荷物をまとめる時間は十分あるはずじゃ。わらわからの伝言は以上じゃ」」
「「あ、新介……その、体には気を付けてね……」」
「ああ、サリエルも風邪引くなよ。前は意外にも結が引いたみたいだからな」
しかし結は新介の物言いに業を煮やしたのか横腹を身体強化で一発殴りつけると、彼もあまりも威力にしばらく悶絶し始めた。
「それじゃあの、三日後を楽しみにしてるぞ」
ユピテルはそれだけを言い残すとそこで映像通話は切れると、新介は必要な物をまとめる為にリビングの物を漁り始める。
「結も必要な物をまとめておけよ、明後日の朝にはこの家を出ることになるだろうからな」
「はーい」
そして結も二階に歩き出し、二人は家を空ける為の準備をし始めるのだった。
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それから二日後、家を空ける準備が整った新介達はまだ日が上がらない朝方に家を出ようとしていた。
「本当に最後なんだね、ここでの生活」
「ああ、短い間だったがここには世話になった。また機会があれば皆と暮らしてみたいものだな」
しかしそれは新介達の目的の本質ではなかったので、これからここを訪れることの可能性の方が低かったのだ。
「もう、そんな事言ったら名残惜しくなっちゃうじゃない!別に私達との生活が無くなる訳じゃないんだから」
「……そうだな、また新しい生活が始まると思えばいいか」
そして新介は名残惜しくも自分達が過ごした家に背中を向けると、二人は馬車が乗れる場所まで歩くのだった。
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