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神々たる欺瞞

「そこのソファにでも座ってくれ」


「ああ」

 ユピテルに裏路地の奥にある建物を案内してもらうと、そこには生活観がある空間が広まっていた。

 そして言われた通り新介はユピテルとは向かいにあるソファに座り、吐息を漏らしながらも事の真相を確かめようと奮起してみせる。


「なあユピテル、お前は何で幻術を掛けたり人目を避けるようなことをするんだ?」


「言ったじゃろう、わらわは訳ありの身だと、あまり人目につかれたら面倒なんじゃよ」


「その訳って、一体何なんだ?」


「本当に御主は何も知らんのじゃな、旅人なら流れる情報をいち早く拾うだろうに」


「っ……」

 ユピテルは新介の不可解な言動に、思わず何かを疑ってしまう様子を露にする。

 だがその何かはまだ分からない、何かもう一つヒントとなるようなものがあれば話は別であったが。


「本当に不思議な男じゃのう、マントの下の服装も変わっている」


「あ、これは……」


「まあいい、答えたくないなら無理にとは言わん」


「あ、あはは……」

 何とか笑っているように見えるが、先程からユピテルとは別の少女が殺気立った視線を向けていた為、新介も笑ってやり過ごすしかなかった場合に遭遇した結果の社交的な笑みであった事は確実だった。


「紹介が遅れたな、彼女はサリエルじゃ」


「サ、サリエル、よろしくな?」


「……」


「えっと、何かごめん……」

 生憎初対面の人物には心を開いてくれる人ではなく、無言のプレッシャーは新介のメンタルを抉るように蝕んだ。

 どこまでも無口で、不気味さすらも感じ取れる存在に、どう足掻いても相容れない存在とも思えた。


「……よろしく」


「え、ああ」

 サリエルはソファに向かい合って座る二人にお茶を置いて、すれ違い様に新介に返答をする。

 どうやらサリエルはユピテルに忠実なだけであり、彼女自身悪人ではなかったようだ。


「それよりユピテル、お前は何者何だよ?見た目と喋り方がつり合ってないし」


「仕方ないじゃろ、これはわらわの本来の姿ではない」


「本来の姿じゃない?じゃあ本来の姿は見せないとか?」


「勘違いするな、無理矢理させられたんじゃ。禁術の呪いによってな」

 それは三日前、ユピテルとサリエルが神々と対峙していた際の戦闘の行く末を現している。

 ユピテルはG7の術式の中に囲まれて呪いを掛けられるが、術後の二人の姿が消えて衣服だけになっていたのを見て体が消滅したと勘違いされていた。

 実際は体が小さくなり服のサイズが合わなくなった結果、衣服の中に埋もれるように姿を眩ませたに過ぎなかったのだ。


「実はこの国の政府とわらわは対立していてな、三日前に下手を打ってこんな姿にさせられたんじゃ」


「対立って、お前……」

 眼前の少女に抱いた思い、それは至って特殊な反応ではない。


 ___やっぱりこいつ、ただの少女じゃないのか……?


「静かにしておれ」


「……?」

 まだ話は終わっていないというのに、唐突に自身の背後を警戒し始めるユピテル。

 話の議論中に余所見とは感心しないと新介は思うが、ユピテルは何かに気付いたように静かにするように促し、場は緊張感がある空気を漂わせていた。






――「目標捕捉、間違いありません」


「そのまま狙いなさい、狙撃次第でプランベータに移行するわ」


「了解」


 武装した兵がユピテル達が居座る隣の建物の屋上から狙撃銃を構えて、その付近も剣や銃を武装した部隊がユピテル達を完全に包囲していた。

 そして彼らを指揮する女、それは間違いなく新介に特異点の調査を依頼したマーベルの姿であった。


「撃て!!」

 男が銃の引き金を引き、窓越しにユピテルの後頭部に銃弾が向かう。



 ______!!


「……!?」

 窓のガラスが勢いよく割れて、新介は反射的に伏せてしまう。


「殺ったの!?」


「……いいえ、銃弾が止まってます」


 銃弾はユピテルの背後で静止しており、本人はノールックで手の構えを取っていた。

 新介は一体何が起こったのかと再び視界を戻すが、その異質な光景を前にして仰天とするしかない。


「意外と早かったな、だがこんなもので私を殺れると思わないことじゃ!!」


『ブレイズ』


 銃弾は空中で粉砕してただの鉄クズとなった。



「突入!!」


 部屋のドアから一気に武装部隊が侵入すると、ユピテルに向かって武力という刃を向けた。


「サリエル」


「承知……」


 サリエルは鎌を召喚して武装兵を一網打尽にする。

 その幼い姿からは想像もできない程に鎌を体の一部のように使っており、彼女の強さと手馴れた武器の扱いに新介も圧巻するしかなかった。


「な、何だこいつ……!?」


「たった二人のガキなのに、滅茶苦茶強いじゃねえか……」


 ユピテルとサリエルの次元が違う戦闘力に、新介はその場をたじろぐしかない。

 だがそれは仕方のないことだ、彼自身特殊な体術を習得してなければ武器も扱えない、この場では完全にお荷物的存在だったのだから。


「例え力が制限されようとも、お前達に遅れを取られるわけがなかろうが」


「お、おいユピテル、そいつらって……?」


「警務部隊じゃ、おそらく対立している政府の神がわらわを確保しようとしているのじゃ」


 しかし敵の攻撃は休めることをせずに、第二ウェーブの部隊が建物に侵入する。

 サリエルは一人で武装兵を相手取るが、その幼い体にも活動できる限界があるようだった。


「御主、ここに来る前に誰かに何かをされなかったか?」


「え……?」


「位置情報がバレてる、御主が情報の発信源になってるとしか考えようがない」


「発信源……」



 ――「「それは一種の通信機器みたいなものだよ、仕組みは神技と何ら変わらないけど」」



「まさか……」


 新介は耳に付けていたデバイスを外すと、赤いランプが点滅して何処かに位置情報を送っているようだった。

 その時全てに察しがついた、自分は少なからず彼女に利用されたということに。


「あの女……!!」



「――そのまま止まってなさい、正確にユピテル様を狙ってあげるから」


 マーベルは隣の屋上からユピテルに目掛けて神技を放つ。



『ハイドロブレス』


 水の槍は勢いよくユピテルに向かったが、それに気付いた新介が瞬間的に彼女を退けた。


「危ないユピテル!!」


「っ……!?」

 しかし逆にマーベルの攻撃を受けてしまい、新介の胸部に水の槍が突き刺さる。


「し、新介!?」


「っ……やべえ……これ駄目なやつだわ……」

 新介は床に倒れてしまい、胸部から血が放出し始め血溜まりが波紋する。

 直後に遠距離の建物から狙い撃ちに失敗してしまったことを察したマーベルは、隊員達に焦燥に駆られた様子を晒してしまう。


「し、しまったわ! 民間人を撃ってしまったわよ!」


「何してるんですかマーベルさん!!」


「やっぱこの作戦は民間人の危険性が高かったんですって」


「も、もう後に引けないわ、私達も突入よ!」

 マーベル達も建物に突入して、ユピテル達はドア側と窓側の両方から攻められる。状況は明らかに劣勢だが、ユピテルは表情一つ歪ませない。


「マーベル・クォーク、やはりお前達か」


「もう逃がしませんよ、あなたは私が捕まえます」


「そう簡単に捕まえられるかのう。サリエル、新介を頼む」


「はい……」


 サリエルは武装兵の相手をやめて、倒れている新介を小さな体で担ぎ上げる。

 逃亡態勢に移行するユピテル達だが、この部隊の中逃げ切るのは困難。その筈だった。


「サリエル、わらわの近くに居ろ」


「な、何をするつもりなの?」


 ユピテルは両手で神技の構えを取り、建物の床に術式が浮かんだ。

 すると空間を轟かせるような鈍い音が響き始め、心なしか建物そのものが揺れつつある感覚がマーベル率いる制圧部隊にも伝達された。


「いつの日かの、些細なお返しじゃ」



 ――『マテリアル』


 次の瞬間、ユピテル達がいた建物に大きな爆発が起こり、爆炎と爆風が直後に住宅街に響いた。



 ________



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