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大切なものはいつもそこにあった

 ユピテルは魔獣が収容された牢獄の通路で縄で拘束されたディアスとローに尋問を始めていた。


「それで、御主等のここの施設は研究所と呼ばれる場所ということか?」


「ああ、天界連邦内に全部で七つある研究所、ここでは主に生体兵器として魔獣の人工培養に携わっている」

 ディアスの話によると研究所と呼ばれる施設は天界連邦内に七つ点在しており、それぞれが一つを主題にした兵器や情報操作、神技の研究をしているという。

 その中でも第七支部研究所は『生体兵器』の研究、グリモワールの悪魔である魔獣を人工的に培養することの研究をしていたらしい。


「それより良いのかよ、さっきの小娘を一人で行かせて」


「話を逸らすな、それに結はもう自分の身ぐらい守れる。御主等を倒したぐらいじゃからのう」


「……そうかよ、もう一人の奴に殺されても知らねえぞ」

 その言葉を聞きユピテルは思い出した、この二人には何故死亡したはずのガイゼルが生きていたのかを聞かなくてはならないという重要な課題を。


「御主等、サリエルを拐ったあの男は知ってるな?」


「知ってるが正体は知らない、我々は実際に彼の顔を見た訳じゃないからな。奴の事を知ってるなら彼がボスの賢者という情報のみだ」


「賢者か……つまり御主等のボスは少なくとも禁術は扱えるということじゃな」

 ディアスに代わりローがユピテルに自分達の情報を口外すると、次第に敵の規模とボスは少なくとも『フラグメント』を扱える技術を持つことが判明してくる。


「御主等は何故新介達を捕らえようとした?貴様等の目的は何じゃ?」


「そんな事を俺達が知ってるわけねえだろ、内の組織は機密情報は幹部クラスしか報告されない。例え支部長が生きていても知らなかったと思うぜ」


「彼の言う通りだ、俺達は上野新介の生け捕りとサリエル・サムハートの所持するデスサイズの強奪しか知らされてない。今回みたいに口を割らされる可能性があるからな」

 その話からするに彼等の組織は情報統制が厳しく敷かれており、例え構成員でも全員が中枢の情報を握ってる訳ではなかった様子だ。

 だがユピテルは彼等の話を聞いてる内に妙な違和感を覚えた、その正体は以前廃墟の館にいたガルシャワは意地でも知っている情報を吐こうとしなかったのに目の前の二人は平然と情報を口外していたことにあった。


「……そうか、その様子じゃと新介達が天界に召喚された理由も知らなさそうじゃな」

 ユピテルはヴァンパイアの計画に失われた称号(ロストシンボル)が関与していた時点で新介達が天界に召喚された理由は彼等にあると踏んでいたが、ディアス達の階級ではそんな情報も知らないだろうと半ば諦めていた。


「おいユピテル、これから俺達をどうするつもりだ?」


「ああ、この施設は政府に手渡そうと思う。恐らく御主等は本物の牢獄行きじゃな」

 ユピテルも政府には反抗しているが、ここは彼等に一任するのが一番良いと思ったので彼女は報告だけしようとしていた。


「……そうか、俺達は殺さないのか」


「何じゃ、わらわの手で直接裁かれたかったか?」


「……いいや、悪いがここで相打ちって手を取らせてもらうぜ」


「っ……!?」

 ディアスとローはそれぞれ懐に隠し持っていたボタンを押すと、警告音が鳴り響き全ての牢獄の鉄格子が開かれていくのがユピテルにも伝わる。


「何をした!?」


「こっちは自爆スイッチ、今鳴っている警告音の正体はこれだ」


「こちらは檻の鉄格子を全て開放するスイッチ、どちらも第三者にここが支配された時の究極対策措置って訳だ」

 二人はご丁寧にこの喧騒の正体を説明するが、既にユピテル達の周りには獰猛な魔獣達が辺りを囲い牙を剥き出していた。


「見誤ったな全能神、俺達が既に組織に服従するのを辞めたカスだと思ったか!?」


「ああ、こんな組織に入った時点で俺達の命はサタン様に捧げることにしている。情報提供は冥土の土産だ」


「くっ……証拠を丸ごと消すつもりか!?」

 ユピテルは襲いくる魔獣達を次々に殺してみせるが、いずれディアス達の肉を食らい始める。


「駄目じゃ、早く新介達に追いつかねば……」

 いつ研究所が爆破するか分からない中、ユピテルは二人の拘束を諦めて新介達の元へと急ぐのであった。



 _______


 -数分前-



「ああ!!ようやく見つけたよお兄ちゃん達!!」


「って結!?何でここに……」

 新介とサリエルは通路に座っていると、端から勢いよく扉を蹴り付けて入って来た結がこちら側へ駆け寄って来る。


「もう!動けるなら自分達も動いてよ!探すのめっちゃ大変だったんだからね!」


「ああ悪い悪い、こっちもさっきまで怪我してた身だからな。サリエルに治してもらってたんだよ」


「イエーイ……」


「え、何そのテンション?サリエルちゃんどうかした?」

 現在のサリエルは昔と同じ様に感情を表に出すことができたが、先程泣いたり笑ったりで久しぶりに動かした顔の表情筋が疲れてしまい今は無表情のままピースをするのが限界のようだ。


「てかよくここが分かったな、俺とお前の修行場だと結構離れてたろ?」


「ああ、何かユピテルちゃんがサリエルちゃんから連絡来なくなったとかで、急いでお兄ちゃん達の修行場に向かったら誰もいなかったから今に至るかな」

 結の説明は随分端折られている感じがしたが、何となく新介は結がここまで来た経緯を察する。

 察しがついたのはいいが肝心のユピテルがいない、新介もさすがに無鉄砲さで攻めたら無敵の彼女だからって結を一人で特攻させる行為はさせないだろうとその可能性を捨てた。


「ねえねえ聞いて!私敵を二人もやっつけたんだよ!それに神技も覚醒したみたいだし!」


「……もしかして、その内の一人にディアスって呼ばれてた奴いなかったか?」


「ああ、それそれ、もう一人はローっていう棍棒振り回してる人だった」

 二人と聞いてもしやと思ったが、どうやら新介の感は嫌なところで冴え渡る特性を持つようだった。

 しかし自分がボコボコにされた相手に妹が仕返してくれるとは、これはようやく兄の威厳が喪失されかけていることを実感するしかないと彼は思った。


「はあ……まあ助けに来てくれてありがとう、何か今回はお前にも世話掛けっぱなしだな」


「え、それ本当? 世話掛かってくれた?くれちゃったの?」


「な、何だよ、また何か媚びてるのか?」

 彼女の目の輝きは大概信用してはならなかった、結が気持ちを高めている時はその反作用的な性質で新介には不幸が飛び交うことが立証済みなのだ。


「いいやあ、別に~♪」


「……?」

 しかしこれは計算外だ、新介の理論ではこの後無理難題を迫られ毎度それで苦しめられていた。

 この絶対的な法則に例外を及ぼす要素は何だ?これは新手の嫌がらせか?もしかして今日自分は死ぬのではないか?新介の脳内では想像以上に論理の例外要素があらゆる憶測を呼んでいたのだ。


「~~♪」


「おかしい、何度計算してもこれはありえない例外だ……俺の理論は正しくなかったのか……?いや、理論崩壊なんてありえないはずだ。第一……」


「……何この兄妹」

 一人はご気楽に鼻歌を歌い始め、もう一人は深く考える必要のないことに思慮深く思考を巡らせている光景に思わずサリエルも本音を口から出してしまう。



 _______!!



「「「―――!?」」」

 突如として鉄筋コンクリートの内壁に警告音が響き渡ると、三人は同時にそれが異常事態だということに察しがつく。


「新介!!」


「ユ、ユピテル!? やっぱりお前も来てたんだな!!」


「後日談は後じゃ! もうすぐここの施設は爆破する、さっさと逃げるのじゃ!」


「え、ええ!? 逃げるったって、ここは施設の最奥だぞ!?」

 新介達がいた所は第七支部研究所の出入り口から最も遠い所にあった為に、爆破するまでに脱出することができる保障がなかった。

 しかも新介達はユピテルの後を追ってきた魔獣達に道を阻まれている状態だった、この状況下で脱出を謀るには一つの方法しかない。


「ユピテル、空間転移は使えるか?」


「問題ない、じゃが魔獣が目障りじゃな。一瞬でも時間を稼げたら発動できるぞ」


「……そうか、なら俺が時間を稼ぐ」

 新介は三人の前に立ち魔獣と相対すると、神技の構えを取りユピテルの空間転移発動までの時間を何とか稼ごうと企む。


「もうお兄ちゃん!それなら私も協力するって!」


「……久しぶりだな、お前がこんなに心強く思えたのは」


「何それ、嫌味?」


「いいや、褒め言葉だ」

 新介の横に結が立つと、二人は互いに顔の表情を緩め神技の構えを取る。

 そしてユピテルは彼等の言葉を信じ神技を発動しようと術式を構築し始めた、サリエルもまた前衛は二人に任せようとユピテルの護衛に専念する。


「行くぞ!」


「うん!」


 __『ラグオス』


 __『レギオン』


 二人の神技が互いに発動すると、新介は『ラグオス』の効果で迫り来る魔獣達の足場を固定して結の『レギオン』で電撃を走らせた。


「二人とも早く来るのじゃ!」


「行くぞ、結!!」


「うん!」

 四人が無事に術式内に入ると、その術式の消滅とともに新介達も別の空間に飛ぶ。

 そして間もなく第七支部研究所は爆風と爆音で包まれ外壁の崖ごと破壊し尽くすと、すぐ近くの外に転送した四人はその様子を夕日とともに眺めるのだった。




 _______



 あれから新介達はユピテルの空間転移で無事家に帰還した。

 全員今回の出来事で身体は疲れ休みたがっていたが、事情を整理する為にそういう訳にもいかない。


 新介達は互いの情報を共有する為にリビングのソファに新介とサリエル、ユピテルと結がペアになるように座りミーティングを開いた。

 そこで新介は自分達がガイゼルを倒した事、戦いの最中に神技の発動に成功した事、サリエルが生前の過去を取り戻した事などについてをユピテルに満遍なく説明すると、ユピテルは状況をよく理解したと言わんばかりに項垂れる。


「なるほど、確かに御主は神技の発動に成功していたみたいじゃな。魔獣を食い止めた性質は間違いなくラグオスそのものじゃ」


「ああ、自分でもよく分かんなかったんだけど、誰かが耳元で構え方を教えてくれた気がしたんだよ」

 未だにあれの正体が誰なのか新介には分からない、ユピテルの言葉通り神技そのものかもしれないし自分の救いたいという意志が具現化したものだと言われても今の彼には納得できていた。


「それで、サリエルはガイゼルとの再会で生前の記憶を取り戻したというわけか」


「はい、確かに私は生前の記憶を思い出しました。最初は拒んでいましたが、新介がいてくれたから受け入れることができました……」


「……そうか」

 ユピテルと結はサリエルが過去の記憶を取り戻した話を聞いている最中、彼女に直接生涯の終末を聞いていた。

 師を自分の手で殺害してしまったこと、そしてそれは失われた称号(ロストシンボル)の陰謀によるものだったという事実、この事件を巻き起こした裁判長ダグラスは世間にデマを流した数年後謎の失踪を遂げたこと、その話を聞く限り彼女の人生は悲嘆に満ちていたことを新介は感じるのだった。


「師匠……いや、ガイゼル・ジークフリードの体は既にフラグメントで再生しきれない程に損傷していたみたいです。体もほとんどが改造され意識状態も供給者(ドナー)によって支配されていると死に際に証言していました……」


「ふむ、強制的な蘇生で生み出した副作用というところかのう。既に彼の精神媒体は崩壊しそこに悪の権化を植えつけた。恐らく死に際に表に出した意志は奴の本心じゃろう」


『フラグメント』は全ての生命体を賢者とする効果を発揮する神技であり、決して死人を蘇生することを前提とした神技ではない。

 死人を蘇生することは言わばオプションであり、だからこそ死人の遺体が消滅していたり損傷具合が酷ければ不完全な形での蘇生となる可能性があったのだ。

 ガイゼルの場合は精神媒体の蘇生まで再生することができなかった為に、賢者となった彼はほんの少しの本心しか身体という器に居座ることができなかったとユピテルは推測してみせた。


「てか、お前はさっきから何で泣いてんだよ?」


「だ、だって……サリエルちゃんの過去を聞いてたら本当に辛かったんだろうなって思って……」


「……新介、どうして結は泣いてるの?」


「ああ、あれは同情とか共感の部類の感情だな。取りあえずお前はまだ喜怒哀楽の感情を理解できたらいいぞ」

 結はサリエルの波乱万丈に満ちた過去に同情するように泣いてみせるが、まだ喜怒哀楽の内二つの感情しか取り戻せていないサリエルには結の感情の正体が分からないでいることを察した新介は彼女に無理して理解する必要はない旨を伝えた。


「ディアスとローの証言によると今回御主等を攫った目的は二つとあるようじゃ。一つがサリエルの所持するデスサイズの回収、そしてもう一つが御主の生け捕りときた」


「それ、俺もガイゼルから聞いたぞ。でも何で俺の生け捕りなんか企んだのかさっぱりだ」


「……考えられるとしたら、御主の神技かもな」

 今現在『ラグオス』を使えることのできる術者は天界の中でも新介だけだった為に、ユピテルは失われた称号(ロストシンボル)は古代の神技を使うことで何かを企んでいるのではないかと憶測を飛ばす。


「新介、御主の身柄は想像以上に危ない。古代の神技が扱えるということがどれだけ重要なことか想定しておくのじゃな」


「っ……」

 ユピテルの言葉は新介の体に重く圧し掛かった、もう既に自分の能力を狙う手下に襲われていたからだ。

 恐らくこの世界にいる以上政府だけでなく彼等からも目を付けられる、ユピテルの言葉は今後新介の生活にも影響を与えるという意味で的を射ていた。


「大丈夫だって~、またお兄ちゃんが囚われのお姫様状態になったら私が助けるから♪」


「お前なあ、神技使えるようになったからって油断してたら痛い目に合うぞ?てか何で毎回怪我するの俺なんだよ」


「だって普段からの鍛え方が違うもん。お兄ちゃんは肉体派じゃないのに無理するからすぐ怪我するんだよ?」


「やめろ、シンプルな正論は精神に堪えるから」

 新介は今回自分は助けられた割合の方が大きいと感じた、自分が助かったのはサリエルの覚悟、結とユピテルの功績があってこそのものであることは自覚しているのだった。


 ――くぎゅるるるる……


「……」


「……」


「……」


「……腹、減ったな」

 全員が全員疲れからか腹を鳴らしていた、不意に新介とユピテル、結も笑うとサリエルもその笑いに釣られるように笑みを溢す。


「食事ならわらわが持っているぞ、今日偶然にも道端で拾った誰かの弁当じゃ」


「ん、何だそれ?」


「あ、それ……」

 ユピテルは術式を構築し空間に穴を開けると、四次元ポケットから道具を取り出すかのように弁当が入ったバスケットを取り出した。

 そしてユピテルのニヤついた表情を見て察した結も彼女の後方支援として女子ならではの団結力を見せ付ける。


「あれ~? 一体誰が誰の為に作った弁当なんだろうね~?」


「さあな~でもそんな事はどうでもいいじゃろう?今は腹が減って仕方がないじゃろうからな~」


「いや、いくら何でも製造者不明の物を食べるというのは……食中毒とかの問題もあるし……」


「あ、お兄ちゃんの好きそうな具材が結構あるよ」


「マジか、それは食うしかないな」

 二人がこんなにあからさまにアピールしているというのに、新介は一向にその弁当を作ったのがサリエルだということに気付かない様子だった。

 しかし肝心のサリエルの様子は顔を紅潮させ、モジモジと体を動かし新介から目から目を逸らそうとしている。


「うう……」


「ん?どうかしたかサリエル?」


「……ユピテル様の……馬鹿……」

 新介と結がおにぎりを摘みながら雑談している中、サリエルはマスターであるユピテルに小声でそう言い返すと彼女もまたウインクをして返答する。


「うん、形はちょっと歪だけど結構美味いなこれ!」


「……あ、ありがとう」


「ん?何か言ったかサリエル?」


「な、何でもない……」

 決して目が合わないように横目で新介が幸せそうに食べている姿を見ると、サリエルは彼の頬に米粒がついていたことに気付く。


「新介、米粒付いてる……」


「え、あ、悪い……」

 サリエルは大胆にも彼の頬についた米を取りそれをそのまま食す、すると向かいに座っていた結はその光景に思わず唖然としてしまった。


「……まあ、そっちの方でも敵が増えたようで災難じゃな」


「いや誰が上手いこと言えと……てかさすがに大丈夫だもん……見た目的にお兄ちゃんが恋愛対象にするはずないもん……」


「そこは御主も大概じゃな」

 繁劇の一週間は終わりを向かえ、またいつもの喧騒へと戻っていく。


 この一連の出来事は、新介にとって、結にとっても大きな一歩を踏み入れることになる。


 そしてサリエルもまた、忘却していた過去を心に受け止め自分の意志で笑ってみせる。


 そして気付かされた、自分にとって大切なものは、いつもそこにあったということを____



 ______


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