虚飾の終焉
――気が付けば、ただひたすらに鎌を振る自分の姿がそこに映っていた
あの日からずっと、自分は師匠に追いつきたくて必死だった
死ぬ程努力をして、あの子どもの頃から鎌を振り続けていた
けど、ようやくその刃が届いたと思った瞬間
___私は、師匠を殺していた
気付いてた、真の正しさなんて自分には到底理解できなかったことなど
自分はあの時選択をした訳じゃなく、どうしようもない現実から逃げたくて鎌を振り翳したことなど
結局自分は今も昔も現実から逃げてただけだった_____
_______
「――起きましたか、サリエル」
「っ……!!」
目が覚めた時彼女は既に自身の体が拘束され牢獄に放り込まれていたことに気付くと、サリエルは眼前に今も昔も変わらずに笑顔を見せる師匠を目に入れ絶句した。
「……どうして、あなたは昔私が殺したはずです……」
「ええ、確かに私はあなたに殺されました」
「っ……ああ……」
それを聞いてサリエルはこれが何からも逃げてきた自分への報いなどだと思い、自らの行為を悲嘆することしかできない様子を漂わせた。
「しかし生き返った、全ては失われた称号のおかげです。彼等は素晴らしい組織ですよ!生前は私も彼等とは対立してましたが今ではすっかり仲間です!」
「……何で、師匠は悪に就く人じゃなかった……なのにどうして……」
「それは生前の私です。あなたも私達に就けばその素晴らしさが分かるでしょう」
するとガイゼルは牢獄の外からサリエルに手を伸ばし、彼女をこちら側に勧誘しようと企むように笑顔を見せる。
「さあ、あなたもこちらに来なさい。私はあの時の事を怒ってませんから」
「……嫌あああ!!」
ガイゼルの純粋な笑顔を見る度にサリエルは悲劇を思い出すが、そこには確かに昔と今とで背中を追い求める者の矛盾が生じている事が伝わった。
「……何故ですか、私はあなたを許すと言ってるのですよ?なのに何故私の手を掴もうとしない」
「っ……もう、やめてください……」
「……やはり、あの男ですか」
「……!?」
サリエルはガイゼルの背後にある向かいの牢獄を見据えると、そこには手錠で拘束されて気絶していた新介の姿があったことを確認する。
その光景に思わずサリエルも絶句するしかなかった様子を見せる。自分の生前の事情に彼は完全に巻き込まれたのだから。
「……痛てえ、何だよここは……?」
「新介……!?」
「うん……?サリエル!?てか、ここどこだよ!?何で俺達……」
新介は自分の体が拘束され牢獄に入れられている状況から思考を開始して記憶を探ると、確かに自分はディアスと名乗る男に気絶させられたことを思い出した。
だが彼から見た景色は眼前にサリエルと誰か知らない男がいた光景であり、無感情だったはずのサリエルが涙を垂れ流していた異様な光景も目に入っていた。
「これはこれは、あなたとは初対面でしたね。上野新介」
「……何で俺の名前を知ってんだ?お前もディアスの仲間なのか?」
「ええ、私は失われた称号の構成員ガイゼル・ジークフリード、最も今はあなた方と同じ賢者ですがね」
「賢者だと?」
新介には鉄格子越しからもガイゼルの異質さは伝わっており、それはただの人間が発する気迫とは違い無差別に振りまく殺気のようなものに近いものだと感じた。
「良いことを思い付きました、この人間にはサリエルを嫌いになってもらいもしょう」
「っ……何を……!?」
「あなたが私にした所業を告白するのです。そうすればきっとあの人間はあなたを蔑みあなたの身は軽くなる」
それはサリエルにとって一番避けたい事態であり、その紛いのない事実を公言すれば仲間と認識していた新介との信頼関係が壊れてしまうと思った。
だからこそサリエルは必死に師であるガイゼルの言葉を遮ろうとするが、それでも彼は躊躇なくその事実を公言しようとする。
「聞け上野新介……!サリエル・サムハートは私の弟子であり彼女は昔私を殺した張本人なのです!!」
「――は?」
「あ……ああ……」
何もかも終わった、自分が今まで新介と気付き上げた信頼関係も、結局こんな運命になったことをサリエルは絶望するしかない。
_____ああ、結局私の人生に光なんて無かったんだ
「――だから何だよ」
「……え?」
その言葉はサリエルにとってあまりにも深く突き刺さり、虚飾の深淵に深く閉ざしていたはずの自分に大きな光を灯そうとしていたのだ。
「そんなことで、俺がサリエルの事を嫌いになるとでも思ったか?なら見当違いだぞ……」
「何だと……?」
すると新介は腕が拘束され不自由ながらも立ち上がり牢獄の鉄格子に頭突きをし始めるが、通常の攻撃ではビクともせずに彼の額から血が流れていくのがサリエルにも伝わった。
「んなもん承知の上で、とっくに俺はあいつを受け入れてんだよ……!!」
「……新介……」
サリエルは驚くしかない表情を見せる。それはこんな状況でも絶望することなく立ち向かう彼がいたことを、自分の事など承知の上で今も懸命にこの状況を打破しようとしていることを見据えての反射的感情には違いなかった様子だ。
「俺はここから出てサリエルを助ける!そんなことを言いに俺達を拐ったんなら邪魔するな!」
「……それは無理な話ですね、あなたは生け捕りにして本部に送るのが指令です。サリエルが所持しているデスサイズも回収しなければなりませんしね」
「生け捕りだと……?」
新介は何故以前までは結を狙っていたはずの彼等が突如として標的を自分に変更したのかが理解できなかった。
しかし今は自分のことを考えている場合ではない、この状況を打破する為に新介は鉄格子から距離を取り勢いを付け始める。
「おらあああ!!」
「……何をしているのですか?」
「決まってんだろ、ここから出ようとしてんだよ!」
新介は全身にゾオンエネルギーを付加させ鉄格子に衝突する。すると僅かではあるが数本の鉄棒が歪んでくることが分かった。
そして何度も勢いを付け鉄格子に衝突していると、いつしか力んだ衝動で腕の拘束も外れた状態で牢獄を突き破ろうとする。
「うおおおお!!」
_____!!
何度か鉄格子に衝突していると、新介の突進の衝撃に耐えられなくなった鉄格子は千切れてしまい彼は通路に投げ出される。
「はあ……はあ……」
「……ふん、もう少し頑丈な牢獄に閉じ込めておくべきでしたね」
「さあ、サリエルを助けさせてもらうぞ!」
しかしガイゼルは素直に新介達を逃がすつもりは毛頭なく、むしろ彼にとって新介を再び牢獄へ放り込むことなど造作もないように思えたのだ。
「あなたが私に敵うとでも?神技を使うこともままならない賢者の出来損ないのあなたが?」
「……ああ、サリエルの師匠であるお前を倒すなんて言葉通り百年早いだろうな。だけど、またこいつを一人にさせる訳には行かないだろ!!」
そして新介は両手を突き出しゾオンエネルギーを収束し始める、どの道この現状を打破する為には己の殻を向く方法しかなかった。
「俺は仲間を救いたい!!もう二度と仲間を死なせたりしない!!だから俺の願望を叶えてくれ!!ラグオス――!!」
______『違うよ、ラグオスの構えはこうだ』
「――え?」
一瞬世界から伝達される情報が途絶えたように音が聞こえなくなり、自分の耳元でそう呟く人間が背後にいることが確かに分かった。
___『ラグオス』
新介の収束していたゾオンエネルギーが術式を構築し、猛烈な熱風がガイゼルを覆い通路を沿うように放射された。
「はあ……出来た……」
その一瞬に何が起こったのかなんて分からない、だが今は神技の発動に成功し敵に攻撃を当てることができたことを喜んだ。
「……これがラグオスですか、あの御方の言葉通り強力な神技ですね」
「っ……!?」
ガイゼルが煙の中から姿を現すと、黒ローブの一部が焼かれ右腕に大きな火傷を負傷していたことが新介からも見受けられた。
しかし驚いたのはそこではない、負傷したはずのガイゼルの腕は酷い火傷の痕が徐々に回復していき元に戻っていたのだ。
「だが残念だ、生憎今の私は不死身の身でね」
「不死身だと……!?そんな馬鹿な……!!」
だがあの驚異的な再生能力を見ればそう信じざるを得ない、ただでさえ格上の相手に不死身のオプションが加わればいよいよ形勢を逆転する手段が見当たらないことで新介も焦りを覚え始めていた。
「仕方ありませんね、死なない程度に甚振ってあげましょう」
そしてガイゼルは空間を歪めそこから鎌を取り出すと攻撃の構えを取って見せた。
「チッ……ラグ――」
「遅い」
「――え?」
新介は神技の構えを取り発動しようとするが、術式が構築する前に既にガイゼルは背後に回って彼の背中を斬り付けていた。
「が……ああああ……!!」
ヴァンパイアに体を斬られた時の痛みが蘇る、鮮明な血が跪く自分の体を辿り地面に流れ着いているのがよく分かった。
「口ほどにもない、その程度の力で人を救おうとするのは傲慢です」
「……傲慢だと、弱かったら人を守る権利すらねえのかよ……」
「ええ、弱者に許されるのは強者の生贄になることぐらいです。だからあなたは私達の生贄になる、勝手に理想を抱くことなどこの私が許しません!」
新介は自分の意識が朦朧としてきているのが分かった、だがその痛みを噛み殺し再び立ち上がろうとする。
「さっさと落ちてください。これ以上あなたを攻撃すれば殺すことになる」
「ああ……が……!!」
しかし立ち上がった矢先に新介は背後から首を手で縛られ息ができなくなる、その光景にサリエルも思わず絶句してしまう。
「……嫌だ、やめてください……師匠……」
「何を言うのですかサリエル、あなたには私がいるはずですよ!?」
「っ……」
__今自分自身にとって何が重要なことなのかを見失いそうになっていた。新介は他人のことを助けようとしているのに自分はこうやって世界に絶望することしかしていない。
それでも彼は、この現状に絶望することなく今なお目が死んでいなかった。
それを見た今、ようやくサリエルの中で何かが吹っ切れた___
_______!!
「っ……!?」
新介がサリエルの方を見ると、彼女はいつの間にか手錠を外し鎌で牢獄の鉄格子を破壊していた。
グシャ______
「……っだ!!はあ……はあ……」
次の瞬間に新介の首を絞めていた腕の力が弱まり宙吊り状態から落とされる、急いで彼が状況を確認するとそこには片腕が切断されたガイゼルの姿があった。
すぐにそれがサリエルの仕業だということを理解し彼女の方へ振り向くと、そこには死神と化したサリエルの姿が目に映り新介もその殺気を感じ取っていた。
「……一度ならず二度までも師に鎌を向けますか、サリエル……!」
「もうそれ以上……その人を傷付けるな……!!」
二人は鋭い眼光で見詰め合うと、一瞬互いに姿を捕らえることができない程に早い速度で鎌を打ち合っている、そこにはもう新介が介入できる余地などないようにも思えた。
「全力が出せない体でよく私の鎌に着いてこれますね」
「あなたはもう私の知っている師匠じゃない……!!新介は絶対にあなた達の元になど連れて行かせません……!!」
目で追えない程の鎌の打ち合いに新介も思わず唖然としてしまう、何せサリエルがあそこまで感情的になっていたことに驚きを隠せないでいたからだ。
「何……!?」
ガイゼルの鎌はサリエルのデスサイズに打ち負け、そのまま鎌の刃を背後に向けてしまい体がガラ空きになってしまう。
「これで……」
「――強くなりましたね、サリエル」
「―――!?」
もうすぐ命が狩られるかもしれない状況の中、ガイゼルは生前よくやっていた無邪気な笑いを見せた。
するとサリエルはその表情が酷く目蓋の裏に焼きついてしまい、今まで忘却していた生前の記憶が蘇ってしまう。
「――新しい仲間ができて何よりです、ですが今のあなたでは私に鎌は届きませんよ」
そしてガイゼルはサリエルの一瞬の油断を突き、鎌を大きく振り翳した。
「……ごめんなさい、師匠」
「……!?」
しかしサリエルは軽い体重を利用して華麗な身のこなしでガイゼルの攻撃をかわし、神技を発動して鎌に漆黒のエネルギーを付加させた。
____『亜空連斬』
ガイゼルの鎌は無惨に破壊され、自分の体に大きな傷を負い血液が溢れ出すと同時に吐血する。
「――死を覚悟しろ」
「……良いんですよ、だって私はもうあなたの師ではなかったようですから」
するとガイゼルは不死身の体で傷口を再生して背後の新介の方を振り向くと、大きく手を上げ空間からもう一つの鎌を呼び出した。
「私はもうあなたの師ではない、だからこんな残酷なことだって出来るのです」
「あれは……デスサイズ……!?」
ガイゼルが空間から呼び出した物は間違いなく彼が以前所持していたデスサイズの鎌であった、しかしデスサイズは現在サリエルが所持していた為にそこには大きな矛盾が生まれていた。
「これがもう一つのデスサイズです、そんなに彼が大切だというなら守ってみなさい……!」
「っ……!!」
「死を覚悟しろ」
ガイゼルが新介に向かい大きく鎌を振り下ろすと、彼の視界は漆黒のエネルギーに覆われ死を覚悟した。
______!!
「っ……サリエル……!?」
「はあ……くっ……」
ガイゼルから放たれたデスサイズの一振りで施設の一部は破壊され薄暗かった空間には外の光が見える程の威力を見せたが、新介はサリエルが身を挺して鎌で防いでくれたおかげで助かった。
しかしデスサイズの本当の力を真正面から受けきったサリエルは体が疲弊しきり、そのまま意識が朦朧として跪いてしまう。
「……あなたの勝ちですよ、ですが、私は任務を全うさせてもらいます」
「……やめろ」
動けなくなったサリエルに対してガイゼルは召喚したデスサイズをしまい彼女の鎌を持ち首元を斬り付けようとする、その様子を見て新介も倒れていた体を起こそうと己の体に言い聞かせた。
「っ……うおおお……!!」
勝算なんて無いにも等しい、だけど、彼女は自分を助ける為にここまで奮い立ってくれたことを思い新介は絶叫とともに立ち上がる。
「まだ立ちますか、人間」
「殺させねえ、殺させてたまるか!!行くぞ、ガイゼル……!!」
新介はガイゼルの方へ駆け抜けると、彼の鎌の攻撃を何とか避け懐に入り込んだ。
「分かったぞ、お前の再生能力の正体はその血液なんだろ?」
「何……!?」
すると新介は彼の心臓部分に『ラグオス』の構えを取り術式を零距離で構築し始める。
『ラグオス』の能力は対象の温度を操作できる、それを知っていた彼が狙う場所は必然的にそこになるこは明白だった。
『ラグオス』
「が……!?」
ガイゼルの心臓は急速に冷凍されると、心肺機能を強制的に停止させられ血液の循環が止まっていく感覚が本人にも伝わった。
「……どうして、私の再生機能が血液にあると気付いたのですか……?」
「サリエルがお前を斬り付けた時、確かにお前が出血した所から再生されていた。それが俺にはお前の血液自体が細胞を再生しているように見えたんだよ……」
「なるほど……それで血液を循環させている心臓そのものを停止させた訳ですか……」
血液の循環機能が停止されたガイゼルは床に倒れ落ちると、次第に体が腐敗し始め皮膚が粒子に分解し始めていることが新介に伝わった。
「師匠……!?」
「……はは、私を倒した褒美に一つ教えて上げましょう……私の体は既に再生を繰り返さなければならないものだった……血液の循環が止まった瞬間に私の体は消滅するという訳です……」
倒れたガイゼルにサリエルが駆け寄ると、彼は消滅していく体の中新介に自分の体についてを告げようとする。
「私は……ある人物に体を改造させられていた……」
「誰だよ、そいつは?」
「……失われた称号のボス、サタン……あの方に私は血を分け与えてもらい、神技フラグメントを使い何とか生き返った存在だ……だから、私の命はもうすぐ朽ちる……」
それを聞いていたサリエルは感慨深い感情に浸りそうになるが、もう過去への未練を断ち切ることを決めた彼女にはそれすらもガイゼルに対しても冒涜だと思い湧いてきた感情を殺した。
「……サリエル、どうやら私は間違っていたようです。いや、いつしか私は心も体も彼等の色に染められてしまった……そしてあなたを殺そうとさえした……」
「師匠……もういいです……もう分かってますから……」
他人の血液を分け与えられていた、もうその時点で彼はガイゼル・ジークフリードの皮を被った別の存在だった。
だからこそ彼の体は既に悪意に満ち溢れてしまい歪んだ正義を掲げることに至った、そのことをサリエルは全て察しがついていたのだと新介もまた思うのであった。
「だけど良かった、こうやって死の淵に立たなければ……私の正常な人格であなたに会うことができませんでしたから――」
_______……
ガイゼルの体が光とともに粒子となって空中に散乱する、その光景はあまりにも美しすぎてサリエルの心を照らすのだった。
「……大丈夫かよ」
「……新介こそ、体ボロボロ……」
「そっちじゃない、体じゃなくて心の問題だ」
「……大丈夫、もう覚悟は決めていたから」
新介はボロボロになった体を休めるようにサリエルが跪いてる横に座ると、彼女は正座で座り新介の体を神技で治療し始める。
「お前、回復系の神技も使えたんだな」
「元々最初に習得した神技が回復系だった……死神が傷を治療するってのもおかしいけど……」
彼女に師匠を再び討ったことへの後悔の思いはなさそうだった。だが心には何か大切な物が抜けたように以前と虚無の間を彷徨っていたのだ。
「……良くやった、大切だった人に二度も鎌を向けたのは本当に辛かっただろうよ」
「っ……そんな事ない、だって……私は死神だから……」
もう現実から逃げないと決めた、もう辛いことで泣かないと決めた。
これはサリエルにとって自分が犯した過去へのケジメのつもりであり、誰からも称えられることはしていなく自分のことで彼を巻き込んでしまったことは批判されても仕方ないとすら彼女は思えていたのだ。
なのに彼は、サリエルを批判するどころか彼女を賞賛したのだ。
「……ごめんなさい、私の勝手な過去に巻き込んで」
「そんなことねえよ!俺だって何度もお前に助けられたし、今回だってほとんどサリエルが頑張ってくれたおかげで倒せたんだ。少しでもお前の力になれたんなら本望だ!」
「……新介、こっち向いて」
「あ……」
背中の治療が済んだサリエルは次に彼の額の傷口を調べようと顔と顔を近づける、その瞬間に思わず新介は心拍数を上げてしまった。
「……はい、終わった」
「あ、ありがとう……」
サリエルの言う通り背中と額の傷口は完全に再生し傷跡一つ無い、この精度はユピテルにも匹敵する治療力の高さであり新介も素直に感激する。
「……でも、私は今回の出来事を自分のせいだと思うわ。私が生前した選択が、今こうやって皆を巻き込む形で返ってきたのだから……」
「……だから何だよ、例えそうだとしてもお前はさっきケジメをつけたじゃねえか。第一お前は能動的過ぎるんだよ、仲間は誰だって持ちつ持たれつだろ?」
「っ……新介は、間違った選択をした私を……逃げてばかりだった私を、それでも仲間として受け入れてくれるの……?」
「ああ、当たり前だろ。こんなのお前に貰った借りのほんの一部だ、まだまだお前に払わないといけない恩がある」
その言葉はサリエルの空虚な心を満たしていき、新介はそのまま彼女の髪の間を指が潜り抜けるように優しく頭を撫でた。
「だからこれからもよろしく頼む、サリエル――」
「―――!?」
嬉しいはずなのに涙を流していた、気が付けばあの日のガイゼルの笑顔と新介の今の笑顔をサリエルは重ねていたのだ。
「あれ……何で、悲しくなんてないはずなのに……嬉しいはずなのに、何で涙が……」
「それは嬉涙だろ、泣く程嬉しいってことだ」
何やら酷く小さなことを抱え込んでいた様子を見せたサリエルは、自分でも無意識のうちにその涙を止めることができずにいた。
――そしてその涙は、自分が今まで流してきた涙の中でも一番温かいものだった気がした。
「何言ってるの、嬉しい時は笑うんだよ……」
いつしか笑っていた。あれ程無感情だったサリエルは溢れ出す感情に歯止めが効かなくなったように泣きながら笑ってみせる。
「こちらこそ、よろしくお願いします___」
そしてサリエルは、自分の過去を受け入れるのだった____
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