追撃開始
時は戻り、ユピテル達は家から少し離れた所で修行に励んでいた。
ユピテルは結の神技覚醒に力を入れるが、今のところ進展はない状態であった。
「はあ……やっぱり何回やっても失敗するよ……」
「うむ、完全に行き詰っているようじゃな」
どれだけゾオンエネルギーを束ねようとも術式の発動が成功しなければ神技は発動しない、神技にとって術式とは情報プラットホームの役割を果たしていた為にその段階が成功しなければ発動にも成功しない訳だ。
「やはり何かのきっかけが必要みたいじゃ」
「きっかけって言うけど、具体的にどんな?」
「そうじゃな、何か大切なものへの執念と言ったところかの」
するとユピテルは結の顔を窺うと、何やら閃いたような表情を見せ手を叩く仕草をする。
「そうじゃ、御主の思い人である新介のことを思えば……」
「だあああ何言ってんの!?イチイチ余計な情報を乗っけないでよ!!」
どうやら先程の自分の行動はデリカシーに掛けていたことを反省したユピテルは、今後結が新介に抱く本心を口外しないことを約束し本題に戻る。
「こほん……だが御主のトリガーと成り得る部分はそれしかない、御主の兄も実の妹が死んだ時に覚醒したみたいじゃからな」
「うう……何でちょっとニヤけているのよ……」
ユピテルは進行を真面目にこなそうとするが、予想以上に結が面白い反応をするようだったので思わず楽しんでしまっている。稀に彼女は性格が悪魔だと思ってしまう一面もあったのだ。
「そう言えば、もう昼過ぎじゃったかの」
「ん?それがどうしたの?」
「いや、定期的にサリエルがわらわに連絡を入れてくるはずなんじゃが、どうにも今日は交信が遅い……」
ユピテルは生真面目な性格のサリエルが定時の報告を忘れるようなことはしないと思っていた、しかし現に今朝から彼女の交信は途絶えたままで新介の進展も分からないでいたのだ。
「気になるならこっちから連絡すれば?」
「……そうじゃな、たまにはわらわから掛けてみるか」
結の提案を鵜呑みにするがまま、ユピテルは神技でサリエルとの通信を謀ろうとした。
が、どれだけ待とうともサリエルとの通信は繋がらない、この事態についてユピテルは最悪の出来事を想定してしまう。
「……まさか」
「どうかしたの?」
「通信が繋がらない、通常神技による通信は相手の脳内に強制的に伝達することができるものじゃ。それが繋がらないということは脳そのものが機能していないということになる……」
「え、それって……」
ユピテルが発動した神技『エイドス』は一種のテレパシー的な効力を持つ技だが、相手の脳が機能していない時は何の役割を果たすことのない神技であった。
つまりサリエルは現在気を失っている可能性がある、修行中に睡眠につくなどまずありえないしそんな事は彼女はしない性質だ。
「強制的に気絶させられた可能性が高い、取りあえず新介達の元へ向かうぞ!」
「う、うん……」
場の空気に緊張感が走る、普段は空気を読むなどと器用なことはできない結だがユピテルの焦り様から事の有事さを理解した。
『サーナ』
そしてユピテルは今の体では負担が大きいはずの空間転移の神技を使い、急いで新介達が修行をしているはずの場所に向かう。
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術式内に入っていた二人には辺りの光景が一瞬で変わり、空間転移中どんな光景が見えるのだろうと好奇心を躍らせていた結は思わず拍子抜けしてしまうが、そんな事より今重要なことを意識を取り戻した。
「ここがお兄ちゃん達の修行場かぁ、お兄ちゃん〜?」
結は大声で新介を呼ぶが、返事がないどころか姿も見当たらなかったことに不審感を覚える。
ユピテルも察知系の神技を使い新介とサリエルを探すが、彼等の姿どころか生体反応すらもその領域には感じ取れずにいた。
「……駄目じゃ、二人の反応はどこにもない」
「じ、じゃあお兄ちゃん達はどうなったの!?まさか……」
結は実の兄が何者かに襲われたという最悪のシナリオを思い浮かべ、これ以上ない程に動揺した姿を露にする。
「落ち着け、まずは一旦家に戻るのじゃ。何かの間違いかもしれん」
「……うん」
今現在新介達二人が何者かに襲われたかは仮説にすぎないことであり、核心付けるには何かしらの証拠が必要になった。
結は垂れ流しそうになった涙目の眼を拭き、自分達が拠点にしている家まで歩いて向かおうとする。
「……?」
新介達の修行場から家までの帰路を歩いていると、ユピテルはキッチンに置いてあったバスケットが無造作に地面に落とされていた光景が目に入る。
「これは……」
「キッチンにあったやつだ、一体どうして……」
「新介かサリエルのどちらかがここに置いたのじゃろう、しかし随分と中身が散らかっておる。様子が正常じゃったとは思えん……」
修行場に二人の姿がない上に異常事態に遭遇したと思われる痕跡、そこでユピテルは仮説を確証にする為に一つの方法を思い付いた。
「情報が少なすぎて状況が整理できないな。百聞は一見に如かず、実際に見てみるか」
「実際に見るって、そんなの出来るの?」
「ああ、ある物や人物、地形があれば対象の過去を見れる神技がるのじゃ」
するとユピテルは無造作に地面に捨てられたバスケットに術式を張り神技を発動する。
『トレース』
ユピテルの脳内に地面に捨てられたバスケットを主観とした映像が伝達される、するとそこにはサリエルと黒ローブで姿を隠した男が立っていたことが伝わった。
_____!!
「っ……!?」
「何、どうしたの!?」
「……嘘……じゃろ……?」
約一時間前の過去の断片には確かにサリエルの姿がそこに映っていた、しかし彼女の前に立ち塞がっていた人物はもうこの世界に存在するはずのない人物だった。
そう、フードから顔を出していたのは20年前の最悪の事件『死神家22代目当主殺害事件』の被害者だったのだ。
ガイゼルが殺害される前に彼本人は別の汚職疑惑で司法所に身柄を拘束されていたが、その際に死刑執行人のサリエル・サムハートが司法所を襲いガイゼルを殺害したというのが当時の報道内容だった。
しかし現にガイゼルは生きていた、これでは過去の報道内容と辻褄が合わない。
これ程大規模な偽装工作が可能な組織は二つしかない、その中で一番怪しい存在をユピテルは既に予想がついていた。
「……そういう訳か」
全ての矛盾が解け、全ての過去が繋がったことを実感した。
ガイゼル・ジークフリードは確かに殺されたのだろう、それはある組織にとっては彼は邪魔でならない存在だったからだ。
「どうやら新介達は敵に襲われたみたいじゃな」
「敵?政府にでも襲われたの?」
「御主は知らないと思うが、わらわ達は廃墟の館で失われた称号という組織の構成員に引導を渡したことがある。奴等が何かしらの恨みを持っていてもおかしくないということじゃ」
ヴァンパイアを倒した時、同時にいた失われた称号の構成員を仕留めていたユピテルは彼等から逆恨みを受けても仕方がないと思っていた。
だが本当にその程度で行動を起こしたのならその場で殺せばいい話だ、しかし過去の映像ではサリエルはガイゼルに連れて行かれる様子だった。これにはユピテルも思わず何か裏があるだろうと予想せざるを得ない。
「それならやることは一つだね、お兄ちゃんを助ける為に奴等のアジトに殴り込みに行こう!」
「……いや、奴等は危険じゃ。まだ神技が覚醒していない御主が行くのは得策とは言えない」
サリエルの報告ではメドラーナ町で暴挙に出た二人は少なくとも神技を扱えることが確認されている、まだゾオンエネルギーの身体強化しか扱えない結を一緒に向かわせたところで身を危険に晒すだけだとユピテルは思う。
「止めないで、ユピテルちゃんに何を言われようとも私は意地でも着いて行くよ」
「……これは遊びではないんじゃぞ?」
「うん、それでもお兄ちゃんが攫われたのに黙っていられないよ」
今回の結は随分と確固とした意志を持っていた、その様子に珍しくユピテルも根負けしてしまいそうになる。
「今度は私がお兄ちゃんを助けるんだから」
「……そうか、御主は新介の手助けをしたかったんじゃったのう」
今回の事態は結にとっての神技覚醒のトリガーとなるかもしれない、少々荒治療になるが彼女を連れて行くことには十分な道理があった。
そう思うとユピテルは考えを180度変え結を二人の救出に向かわせることにした、それが多少のリスクを背負うが神技覚醒に最も有効な近道であることを信じて。
「良いじゃろう、じゃが無理はするなよ?御主に死なれては新介に笑われるからのう」
「うん!それより、相手のアジトはどうやって探すの?」
結にとっての問題は敵のアジトをどう探すかだった、ユピテルが先程使った神技『トレース』でラグーシャ全域の地形の過去を辿るという方法も彼女の中ではあったがさすがに今のユピテルには無理があると判断する。
「策ならある、ここ数日サリエルには失われた称号のアジトを捜索してもらってたからのう。まだ報告がない場所が一箇所だけある、そこに行けば奴等のアジトが見つかるかもれん」
「へえ、ここ数日サリエルちゃんが家を空けてたのはそういう訳だったんだね。じゃあそこに早速行こうよ!」
ユピテルはここ数日サリエルの捜索で一箇所だけ報告がなかった場所をピックアップすることで、広い探索範囲を一気に絞り敵のアジトを見つけようとする。
そしてユピテルは再度空間転移の神技を発動しその地点へと移動したのだった。
『サーナ』____
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ユピテル達は敵のアジトがあるかもしれない地に転移すると、ラグーシャ地区の中でも町がある場所とは違い岩だらけで道路も舗装されてない未開の地に二人は立っていた。
「ここにその失われた称号のアジトがあるの?」
「奴等は新介達が一度目撃している、可能性は高いじゃろうな」
ユピテルが結にそう告げると緊張感が走るが、そんな時だからこそ結は一つだけ聞いておきたいことを聞こうとした。
「ねえ、どうしてユピテルちゃんは私達の為にそんなに必死になってくれるの?」
「何を言っておる、そんなものわらわの賢者じゃからに決まっておるじゃろ」
「そうかな?そもそも私もお兄ちゃんもユピテルちゃんにとっては助ける義理はなかった存在でしょ?」
結から見たユピテルは随分と正義感に溢れているような気がした。
全くの他人だったはずの存在を生き返らせようとは普通思わない、どちらかというとそれは正義というより偽善であるからにどうして彼女がそこまで人間の救済に拘るのかが結にとっては不思議でならなかったのだ。
「……さあのう、そう考えればわらわも相当な馬鹿じゃ。生きる意志を見失わない者、宿命の奴隷であることを抗う者には救済の手を差し伸べてしまうのじゃからな」
「……うーん、ユピテルちゃんの生き方って何か大変そう」
ユピテルの堅苦しい人生観の話は知能的でない結とってほとんど理解できなかったのでコメントも微妙な感じになったが、神には色んな考えを持つ神もいるんだなという風に強制的に納得してみせた。
「……まあ、新介にはわらわも惹かれた部分はあるがな」
「え、何か言った?」
「そう言えば御主を助けたのは、盛大な告白をしておいて本当は生きてたというオチにどんな反応をするかと面白がったのもあったな~と思っての~」
「いやそれ本当ならそんな事の為に蘇る私の身にもなってよ!てか私がお兄ちゃんのこと好きなネタはもういいでしょ!」
「いや、まだイケる」
「まだイケるって何が!?ネタの寿命!?てかユピテルちゃんが話逸らそうとしてるの知ってるんだからね!!」
そんな脱線しきった会話を交わしていると、ユピテルは敵のアジト付近かもしれないのに噴出したように笑い始める。
しかし結にとっては笑い事では済まない様子だった、何せ彼女にとっては恋路をネタにされらのもある為にユピテルの笑いには些か不快感を覚えたように頬を膨らす。
「すまんすまん、ならわらわは御主等とこうやって冗談を交わし合う為に助けた。それで良かろう」
「良かろうって……利益は後回しなんだね」
「優先的に利益を追求する資本家はいずれ失敗する。それにわらわは御主等を足手纏いだと思ったことは一度もないしな、それだけでもわらわにとっては十分利益じゃ」
やはりユピテルはその容姿とは似合わず貫禄のある言葉を発すると結は思うと、彼女の背中が随分と大きくて逞しいものに見えた。
「閑談はここまでじゃ、これから先は敵の領域じゃぞ」
「……あれは」
前方を見据えると、そこには巨大な崖に一つだけ不自然に外が抉れている場所があるのが見て分かった。
しかもその中には明らかに人工物と考えられる頑丈なドアが設置されており、どうやらこの場所で当っていたことを二人は思い急いでその場所まで向かった。
「随分と頑丈に作ってるね~」
「入り口はここしかないか、どうやらここが失われた称号のアジトの一つに間違いないようじゃ」
ここは居住区でもなく政府の特別施設がある訳でもなかったので、ここに拠点を構えているとしたら消去法で彼等のアジトという答えが自然に導かれた。
「だが手押しでは空きそうにないな、さすがにセキュリティが張られているわ」
「……ねえユピテルちゃん、向こうの世界では相手の家に入る時はノックをする文化があるんだよ」
すると結は何かを思い付いたのか、ユピテルの身長に合わせて耳打ちをすると二人はお互いにニヤけ始めた。
「……なるほど、確かに消極手を打っていても仕方がない。ここは一つ派手に出て敵全員を倒す気で行くと……」
「駄目かな?」
「いいや、わらわも賛成じゃ」
ユピテル自身アジトの全貌が把握できてない時点での隠密行動はあまり得策とは思えなかった、それよりも結が提案したように最初から派手に噛ました方が敵を少しでも混乱させることができたのだ。
よって二人は意気投合して、まずはこの鉄骨製の扉を破壊することにした。
「下がっておれ結、わらわがその礼儀作法とかいうやつをやってみるわ!」
次の瞬間、ユピテルは神技の構えを取り術式を発動させた。
『エクリクス』
その瞬間に猛烈な爆音が響き渡り、鉄骨製の扉は丸ごと中に吹き飛び辺りの岩も砕くほどの威力を見せてきた。
同時に異常事態を察した敵は動揺しながらも出入り口を強化銃で取り囲み、扉を破壊したユピテル達を待ち構えていた。
「誰だ貴様等!?」
「おお本当じゃ、ちゃんとノックをしたら盛大な出迎えが来たのう」
ユピテル達は敵複数人に尋問させられるが、全能神らしくこの程度の修羅場など何てことないかの雰囲気を醸し出す。
「さあ、新介達を助けに行くのじゃ!」
「了解、マスター!」
その始まりの爆発は、新介とサリエルの奪還を開始した二人の猛攻の始まりを伝える号砲となるのだった。
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