師弟関係
死神家
天界の御三家の一角であり、神を輩出する家系では雷神家に続く実績を持つ名門家である。
百家族
御三家とは違い純血族を貫く100の家系であり、構成人数も神を輩出した数も御三家に勝る事はないが内部推薦枠を持っている。
自分が見ている彼女は、いつも輝いて映っていた
強く、本当に強く、とても10歳とは思えない信念を持っていた
私から見た彼女はいつも見えない何かと戦って、いつも私に理想を見据えさせてくれる
だから、私に隠し事をしていたことは少し落ち込んだかな
友達が辛い困難に立ち向かってるのに、何も出来ないなんて悔しすぎるから____
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「ん?」
「あ」
稽古を終えたサリエルとミアは偶然にも邸宅の廊下で合うと、こうやって稽古後に合うのは久しぶりだったのか二人とも初手の反応に戸惑っていた。
「ああ、今終わったところ?」
「うん、サリエルも今帰りなの?」
「まあね、最近は遅くまで稽古する日が続いたけど」
上手く誤魔化しているつもりだが、長年の付き合いであるミアの前ではその効果もなくサリエルが何かを隠し通していることは分かりきっていたかのような様子を見せた。
「サリエルさ、私に隠し事しているよね」
「え……?」
唐突なミアの予想外の問い掛けにサリエルも一度動揺するしかなかったが、絶対にバレるであろう事実を三週間ひた隠しにできたことを考慮すると、そろそろ本当のことを言うべき頃合いなのかもしれなかった。
そう考えるとサリエルは彼女の前で隠し事はやめようと決意して、自分があの日負うことになった罰についてを公言しようとする。
「やっぱりバレちゃったか、実は私ね……」
「当主の稽古を受けている、そんなのもう大分前から知ってたよ」
衝撃だった、何もかもを隠し通していたはずなのに最初から一番バレて欲しくなかった相手にバレていいたことが。
そんな自分を恨むどころか、目の前で笑った表情を覗かせていたことが。
「応援ぐらいさせてよね、どうせ止めても止まらないんだから」
「……そっか、本当に私って馬鹿だな」
本当に馬鹿だ、目の前にこれほど自分を思ってくれる人が居たというのに、自分の良心が彼女を不安にさせていた自分に憤りすら感じた。
ミアはただ応援したかっただけだった、なのにサリエルは自分がどれだけ見当違いなことをしてきたかと思うと彼女に申し訳なさすら覚えた。
そして自覚した、自分は何もかもを悟ったつもりになっていただけで何も分かったいなかったことを。
「応援してくれてありがとう。私頑張るから、立派な死神になるために」
「……うん!」
「それじゃあ久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか、最近私と一緒に入ってなかったからってのぼせなかったよね?」
「そんなことないよ!第一そこはサリエルが過保護過ぎ!」
サリエルは大切な何かを忘れていた事に気付く、彼女は自身の中で一番信頼できた人物だったことを。
もうすぐ夜が更けるという中、サリエル親友であるミアとともに大浴場に向かうのだった。
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死神を志す者としての責任、最初はそんなつもりで始めた当主との稽古は自分にとっての本質を大きく変えていたことに気付かされる
己に科した罰だったはずのそれは、いつの間にか目的から手段に変貌していた
死神になるという目的を果たす為の手段に____
「っ……!」
「おっと……」
初日と比べて動きの切れに磨きがかかっていたサリエルの攻撃に、ガイゼルもその攻撃をかわすことに限界を覚え始めていた様子を見せる。
そして付け入る隙を与えさすことをさせずに二撃目を振り翳すと、ガイゼルも手に持ち合わせていた竹刀で攻撃を防ぎサリエルを後ろに吹き飛ばす。
「中々やりますね、初日までとは動きも意志にも磨きがかかっている」
「ええ、こっちは何分死神を志す者ですから!」
「……そうですか、言葉に意志が込もっていることは良い事です」
サリエルは体勢を立て直し、鎌を構えながら相手の隙を窺おうとするが相変わらずガイゼルは隙一つ見せようとしない。
「当主、一つお願いがあります」
「何ですか、そんな事をして私の注意を背けようとでも?」
いや、そんな事をしてもガイゼルには効果をなさないことは理解していた。
だからこそ、今から一大勝負を仕掛ける前に一つだけ伝えなければならないことがあったのだ。
「いいえ、もし私が当主に一撃でも入れることが出来たなら、私の願望を一つだけ叶えて欲しいのです」
「……願望ですか、構いませんよ。私に可能な範疇ならば」
「……そうですか、それが聞けたなら良かったです」
「……?」
サリエルは一度大きく深呼吸をすると、足元にゾオンエネルギーを付加させることで爆発的な瞬発力を体現した。
そして一瞬の内にガイゼルの懐に入り込むと下から大きく鎌を振る。が、そんな子供騙しには騙されないぞと言わんばかりに無慈悲にかわされる。
「こっちです!」
「……!?」
だがしかしそれは残像だった、本体は既にガイゼルの背後を取っており気付いた時にはもう間に合わないぐらいにまで接近されていたのだ。
そしてサリエルは彼の背中に飛び込むと、そのまま鎌を首元に突きつける形で初めて彼に刃を向けることができた。
「……これは参りましたね、完敗です」
サリエルの残像を使った見事な攻撃に一本入れられたことを認めざるを得なかったガイゼルは、素直に降参し彼女に手を放してもらうように要求した。
「見事です、発言通りあなたの願望を一つだけ聞きましょう」
「……なら、ご厚意に甘えて一つだけ。私を弟子にしてください!」
ここ数週間とても辛く厳しい困難に立ち向かっていたが、同時にガイゼルから学ぶべきものを学び得ることができるものを身に付けた。
だからこそ、ただの死神ではなく立派な死神になるというミアとの約束を果たすには彼の弟子になることが一番だとサリエルは考えたのだ。
「サリエル、私の弟子になるという事が何の意味を示すのか分からないわけではないでしょう?」
「はい、傍から見れば私は愚かな選択をしているかもしれません。それでも、あなたの元で学びたいのです」
一ヶ月奮起すれば与えられた自由を投げ出して、これからずっと過酷な稽古を受ける必要など彼女の科された罰ではなかった。
が、サリエルはその道を選んだ、それは立派な死神になるという手段だったからだ。
「良いでしょう、これ程熱意のある生徒は久しぶりですからね」
「……これからもよろしくお願いします!師匠!」
「師匠はちょっと恥ずかしいですね……」
こうしてサリエルの師匠となったガイゼルは少しだけ表情を変貌させたように見えたが、それはサリエルの杞憂にすら感じられる程に微小なものであった。
「こちらこそよろしくお願いします、我が弟子」
「……はい!」
二人は手を差し出し握手をすると、気恥ずかしさからか思わず噴出してしまう。
確かにこの日はサリエルにとって運命の日だった___
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それからサリエルは毎日鍛錬を惜しむことをしなかった。
毎日の稽古、そして死神になる為に必要な知識と神技を身に付け、師であるガイゼルの雑用もこなすハードスケジュールを長年続けることになる。
そして時は、サリエルとミアが一緒に死神になろうと誓った十年後を迎えた___
『死神家内部選抜試験』、通称内部試験。
それは国家試験を受ける内部推薦者を決める為の試験であり、死神になる者は必ず通らなければならない壁であった。
推薦人数は年間で10人、そこに100人程度の志願者が試験を受けるわけだから倍率も低いものではない。
そして今年で20歳になったサリエルとミアも年齢制限が解除され受験することになったのだ。
「はあ、今年は倍率7.5倍か……」
「まあ一般公募よりは低いからこれぐらい普通じゃないかな?」
国家試験の一般公募は一次試験時では倍率100倍を超える時がある、しかし死神家を含む御三家所属及び百家族には内部推薦枠というものがあり10倍以下の倍率で一般公募で例えるところの一次試験をパスできる構造だ。
「サリエルは気楽で良いな、私なんか内部試験すら通れるかすら怪しいよ……」
「いやいや、私だって無事に試験通過できるか不安だよ」
「それ、10年間ずっと当主の稽古受けてた人が言ったら嫌味にしか聞こえないよ?」
勿論サリエル自身そんなつもりはなかったが、ミアだってここ10年で大きな成長を遂げてきたことには違いなかった。
「本当十年ってあっという間だな、あの夜サリエルと約束したことが昨日のことみたい」
「そうね、これから先もこんな風に年を重ねていくのかな……」
二人はあの時一緒に稽古に励んでいた姿を思い出すと、移り往く情景に感慨深いものを感じざるを得なかった。そしてその情景の果てを辿ろうとすると、いずれサリエルはミアの顔を見つめる。
「今まで私の親友でいてくれてありがとう、サリエル」
「……もう、何か潮らしくなっちゃったじゃない」
「えへへ、何となく伝えたくてさ」
ミアは自分から言っておいて照れ臭くなった様子で頭を掻くが、サリエルもこの空気感に耐えることが出来ずに彼女の振る舞いに思わず照れてしまう。
「だって、もうサリエルは私以外の大切な人がいるしさ……」
「え?何の話?」
「当主だよ、サリエルって当主と話してる時はいっつも笑顔でさ、遠くから見ても特別な感情があることが分かったよ」
確かにサリエルは雑用中によくガイゼルと話していた、それは長年の師弟の間柄で生まれた信頼関係のようなものであり彼を尊敬する感情のようなものだった。
「サリエルってさ、当主のこと好きだったりする?」
「……ええ!?ち、違うよ!師匠は尊敬しているけどそういう男女の間柄での感情は一切無いから!」
「……ふーん、本当にそうかなあ?」
顔を近付け目を細めるミアの視線を避けるようにそっぽを向く、そうでもしないと彼女の本音を言えと言わんばかりの圧力に耐え切れないと悟ったからだ。
「……はあ、分かった。確かに私は師匠に尊敬とは違う感情を抱いてるわ、多分私は師匠のことが好きだと思う。でも男女の関係になりたいってわけじゃないの」
「それって矛盾してない?」
「そうかもね、でもさ、好きって感情にも種類があるじゃない?特定の誰かに認めてもらいたいとか、親しい仲が故の好意的な感情まで色とりどりだと思う。結局感情ってのは人それぞれの解釈で成り立ってて、主観と客観は違うってかさ……」
要するにサリエルは同じ好きでも師匠に向けた感情は人として好きという感情を言いたいだけだったが、先程ミアに盲点を突かれたことから要略して説明する事ができずにいた。
「と、とにかく!師匠に抱いてる感情は私がミアのことを好きって感じに似てるってこと!」
「え、じゃあサリエルは私のことを恋愛感情で……」
「違うってば!」
ミアの身勝手な主観のせいで自身の人間関係が余計にややこしくなりそうだったので、サリエルは丁寧に一つずつ訂正することにした。
するとようやくサリエルが伝えたかったことをミアが納得してくれたので彼女自身も一安心する。
「ふう、分かったでしょう?」
「うん、何となく理解した!」
相変わらず元気に返事をする、精神年齢は十年前と変わらずお花畑のようだ。
だがそんなミアは彼女らしいと言える一面だった、少し天然なところがあることが彼女の醍醐味でもあるのだ。
「それじゃあ私は先に部屋に戻ってるね、試験まで三日しかないから鎌を研がないと」
「うん、それじゃあ私も部屋に戻るよ」
十年前までは同じ部屋に居たというのに、共に階級が上がるとともに部屋は個室となり二人は以前ほど一緒にいる時間が少なくなっていた。
互いに年を重ねていくにつれて距離が遠退いていくように感じ、これから先もっと遠退くだろうとすら思えた。
だからこの瞬間だけは、後悔しないように必死だった____
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