真鎌勝負
早朝の朝、朝を告げる小鳥の鳴き声と、天界の中心から打ち上げられる太陽によってサリエルは自然と目が覚めた。
昨日は夜遅くまで起きてたというのに体は自然と怠惰感を示さなかった。恐らくそれもこれもミアのお陰だ、彼女が不安を無くしてくれたお陰でサリエルも今日の真鎌勝負に向き合えそうな気さえする。
「はぁ……」
サリエルはベッドから立ち上がりミアが寝ているベッドの横まで歩くと一度大きな深呼吸をする。
「起きろ~!!朝だぞ~!!」
「ひゃあ!!ちょ、寝床襲うなんてずるいって!!ああ……!!」
ミアのベッドに入り込んだサリエルは直後に体中を弄り、奇襲を受けた彼女もまたすぐさま降伏宣言を下すことで許しを得ようとしてみせる。
「さあ!さっさと食堂に行くよ!」
「うう……もうお嫁にいけない……」
もうありとあらゆる所をサリエルに触られてしまったミアは朝から精神を擦り減らされ、すっかりベッドの上でだらしなく横になっていた。
しかしだらしなく寝ている彼女にもう一度強襲をかけようとすると、ミアは完全に起き食堂に行くという条件を飲むことを伝えるのだった。
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「サリエルったら、朝から襲うなんて凄く変態……」
「ごめんごめん、ちょっといつもの調子で取り組みたくて」
サリエルは笑いながら先程の行為を謝罪しているが、どうやら今日の彼女はここで許すほど軟派ではなかったようだ。
「獣……サリエルの半分は性欲で出来てる……」
「おお、話題沸騰中の二人じゃないか。今日も仲がいいねえ~」
そんなことを話していると横からミシェルが二人の会話に入り、サリエルの承諾を得て隣の席に座り食事に手を付け始める。
「あれ、何かミア疲れてる?」
「ええ……何分サリエルに朝から体中を弄られましたから……」
「へえ、二人ってそういう関係だったんだ。最近の子どもは進んでるね~」
「ち、違います!それは断じて!」
もう既に年上に喧嘩を売った一人だという噂が広まっている上に自分が同性愛者だという間違った情報が流れれば間違いなく周りから蔑視される、そう推測したミアはミシェルの誤解を解こうと必死に言い逃れをしようとする様子をサリエルにも窺わせた。
「そう言えば弟さんも入家するんだって?お姉ちゃんとして揉んでやらないとね~」
「え、ミアって弟いたの?」
「う、うん、て言っても向こうから話してくれることとか全然なくて、多分私のことなんか嫌いだと思うけど」
ミアの話によると弟は随分と冷静な性格をしており、大した実力もないのに死神家に入家した実の姉を蔑視してるという。
「まあ、弟の方が才能あるし。ただ私が要領悪いだけなんだけどね」
「いや、入家試験に合格している時点でミアの実力は本物だよ。あなたの弟がどれだけ優れていようとそれだけは事実だと思うな」
死神家の入家試験を受けられる資格者は限られていた。
一つは武道を習っている事、もう一つは十二歳以下であること、あくまで後者は最優先事項でありその二つが当てはまらないものは試験資格すらない。即ちそれは人間が神になるにはそれ程の鍛錬が必要とするということだ。
今ここに居るミアだって十分な実力者だし博識高い一面だって見せることもある。だからこそサリエルは彼女の実力は本物だと賞賛するに値すると判断した。
しばらくして朝食を食べ終わると、食堂の返却口まで食器を返すのが家のルールなので三人は食べ終わった食器を運ぶのだった。
「サリエル、昨日頼まれた物なんだけど。今のうちに渡しときたいから私の部屋まで来てくれる?」
「分かりました。ミアはどうする?」
「私も行くよ、今日の内は一人だと心細いから」
恐らく彼女の言い分は周りの視線が気になるということだろう、人の噂は七十五日とは良く言ったもので日にちが経とうともサリエル達をチラチラと目に留める人物はまだ居た。
「そっか、じゃあ行こう」
「うん」
真鎌勝負が執り行なわれるまであと二時間、不安や緊張の感情があってもおかしくない中でサリエルは依然と平常心を保つのだった。
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午前九時、彼らが指定した所には既に三人の姿が確認できた。
サリエルはその三人姿を見て間違いなく自分が昨日喧嘩を売った人物だったことを確認すると、着いてきたミアより前に立つことであくまで標的は自分だけだということを誇示する。
「ようやく来たか、鎌を振り回すのが怖くなって逃げたと思ったぜ?」
「あら、そういう自分は大丈夫なわけ?何ならそっちが逃げ出さないか不安だったわ」
「良いねえ、そうでこそ潰し甲斐があるってもんだ」
対面早々一通りの貶し合いを終えたサリエルは辺りには目の前の三人しかいないことに気付き、それが異様だということもすぐに察しがついた。
「立会人はまだ来ないの?」
「昨日の今日で受理されるわけねえじゃん、馬鹿じゃねえの」
彼は当たり前だろと言わんばかりにそう言うが、勿論正式な立会人がいなければ真鎌勝負を執り行なうことは出来ないしそれだとここに来た意味もなかったのでサリエルは心外感を覚えた。
「じゃあどうするの?このまま有耶無耶にする?」
「まあ待て、確かに真鎌勝負は正式な行事だ。だが、略式でなら俺達でも出来るってわけだろ?」
「……はあ、馬鹿はあなたでしょう。立会人不在の真鎌勝負なんてあまりに危険過ぎる、それに大人にバレたらここを去る事になるかもしれないのよ?」
勿論ここで試合を受託すればサリエル自身にも責任が問われることになる可能性がある、彼女自身リスクを賭けるメリットはそれ程無かった。
「ならこの試合に負けた方がこの家を出て行くってのはどうだ?お前が勝てば嫌いな俺を排除出来るぞ」
「何故そこまでして、あなたは私を敵視するの?」
「サリエル・サムハート、お前も死神になる性分としてここに来たんだろう。俺にだって誇りや理念はある、俺の中の正義がお前を敵だと判断したまでだ」
彼は背中に背負っていた鎌を持ち刃先をサリエルに向けるが、その太刀筋には男の熱意のようなものすら感じられた。
その出で立ちに感化されたのか、サリエルもその意志を尊重するように鎌を振り翳した。
「その熱意を稽古に向けてくれたら私は何も言うことが無いんだけど、仕方ないから引き受けるわ。ライバルは少ない方が良いしね」
「……良い鎌だ、相手にとって不足なしだな」
二人の殺気立った様子を察してミアと残りの二人も安全地帯まで後退し始める、いよいよ真鎌勝負が始まりを向かえるのだ。
「我が名はリアム・エムーサ、ここに略式ながら真鎌勝負を執り行なうことを承諾する」
「我が名はサリエル・サムハート、我が理念に基づき真鎌勝負を承諾する」
「__行くぞ!!」
「ええ!!」
その掛け声とともに一斉に二人は鎌を交え、開始早々激しい戦いとなる。
相手が振り翳す鎌を防ぎ、振り払い、攻撃する、その一連の動作が傍観しているミアや二人にも目では追えない程の速さで行われていた。
「チッ!!お前本当に未経験者かよ!?」
「そう言うあなたは大したことないわね!このままじゃ私本当に勝っちゃうよ?」
「いい気になるなよ!!」
リアムは下から突き上げるように大きく鎌を振るが、危険を察したサリエルは瞬時にその攻撃に反応して背後に下がった。どうやら彼もこれからが本番らしい。
「サリエル!!」
「あーもう、やっぱりまだ慣れない鎌は振りにくい……」
「気を付けて、その鎌は刃の部分が通常より重いから、てこの原理を利用すれば扱えるよ!」
実はサリエル自身まだ鎌すら持っていなかった為に、今もっているのはミシェルからの借り物だった。だからこそこの勝負はサリエルにはいくらか不利なように働いているというわけだ。
「何でこんなに強いんだ……クソ……」
「これが毎日素振り千本をこなした成果よ、これでもまだ稽古を馬鹿にする?」
「っ……ざけんな……!!」
先程まで片手で持っていた鎌を両手に持ち帰る、彼も本気で来ることを察したサリエルもミシェルの鎌を強く握った。
「来いよ、揉んでやる」
「なら、この一撃で決める……!!」
激しい気迫のぶつかり合い、サリエルが一気にリアムの元まで距離を詰めるとそのまま二人は鎌を交えようとする、その時____
「やめなさい」
_______!!
「っ……!?」
「な……!!」
突如として現れた人物が二人の間に入り、双方から飛んでくる刃先をそれぞれ素手で押さえて二人の勝負を止めた。
「鎌を、素手で……」
「そんなあっさり……んな馬鹿な……」
二人にとっても先程振り翳した一撃は渾身の一撃のはずだった、しかし目の前の男はそれをいとも簡単にピタッと止めた。
どれだけ力を込めようとも鎌の柄がブルブルと震えるだけであり、刃先から刃と柄との接続部分までは全く動かなかったのだ。
「鎌を下ろしなさい、私はここの長です」
「……当主!?」
目の前の人間が当主だと気付いた瞬間に二人は鎌を下ろすと、辺りには既に多くの野次馬がサリエル達を囲んでいたことに気付いた。
「今日真鎌勝負を執り行なうことは聞いていません。無許可の真鎌勝負は立派な規定違反、着いて来てもらいますよ」
「……はい」
「チッ……」
無許可で真鎌の打ち合いをしていた二人は当主に後を着いて行く、だがそんな状況に納得できなかったミアは多くの野次馬が注目する中声を挙げて訴えようとした。
「あの、サリエルは……!!」
「いいのミア、どの道私にも責任はあるから」
「でも……」
「大丈夫、私を信じて」
それだけを言い残し、サリエルはこれから何をするのか理解した上で邸宅の中へと連れられ姿を消した。
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