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悪の権化

 ‐失われた称号(ロストシンボル) 第七支部研究所(アルカイド)


 今日もこの研究所は魔獣の鳴き声と檻に攻撃する音で薄気味悪い仕様となっている。


 何故ならここは第七研究所であるからだ。生体兵器と化した魔獣を育成する唯一の研究所ではあるが構成員達は挙ってそこに派遣されたくないと考えている。

 何しろここは一日中魔獣共の鳴き声で夜など寝れたものじゃないからだ、ヴァンパイアのような知能が高い悪魔もいないので従わせるのにも一苦労の魔獣達ばかりがそこにいるのだ。



「ただいま戻りました、シャーロット支部長」


「ん~ふっふ、遅いよ二人とも~」

 そして何よりこの研究所を統率する支部長が一番の曲者であり、失われた称号(ロストシンボル)の構成員が派遣されたくない研究所№1に選ばれる原因は彼にこそあった。

 失われた称号(ロストシンボル)第七支部支部長シャーロット・ビスカネル、顔の半分がベネチアンマスクで覆われた彼は一目見ただけでも変人だということが良く分かった。


「休憩していいとは言ったけど、一体いつまで休憩するつもりだったんだい?」


「聞いてください、俺はただ暇潰しに町を歩いてたら服が汚されたんですよ!だから田舎の奴は嫌いなんだ」


「それはそれは災難だったね~、だがそれもまた運命って訳さ」

 シャーロットは話を聞いてるのか聞いてないのかはっきりしない時があり、現在の一連の会話は間違いなく後者だということが返答でよく分かった。


「だが良かった。今日はちょうど本部からの派遣された者がいたので紹介したかったところなんだよ~」


「……例の件ですか?」

 数日前、第七支部研究所には本部のヘルヘイムから特例任務の詳細情報を託した構成員を一人派遣するという情報が届いていた。

 特例任務という通達が来た時点でそれは異例の事態だった。何故ならそれは組織のボスが直属に任務命令の指揮を執る極めて重要度が高い任務だからである。


「特例任務の協力者が私の城に来た」

 するとシャーロットは今までのふざけた口調とは一変して、至って真面目な雰囲気の声質で内容の一部の話し始めた。


「協力者ということは、そいつと協力して任務を執り行なうということですか?」


「ああ、何でもサタン様の賢者だとか」


「賢者だと!?」

 失われた称号(ロストシンボル)のボスであるサタン、何でもその正体はグリモワールの悪魔最強種の大魔王サタンだと言われているが、詳しくは例え構成員でも関係者は誰も知らないでいる。


「お、おいおいボスの賢者って……」


「徒者じゃないだろう、最ももうそこに居るみたいだけど」


「え……?」

 二人はシャーロットの不気味な発言とともに振り返ると、そこには何の前触れもなく唐突に姿を現した男が立っていた。

 高身長で謎の威圧感があり、シャーロットと似たような仮面を顔の下半分に装着した姿のまま無言を貫く。


「っ……!!いつの間に!?」


「……遅い」

 今度は二人の背後に、シャーロットが座る位置に一番近い場所まで歩くと、当の二人は一歩も動くことができずにいた。



「「____!?」」


 一瞬、本当に一瞬の間に二人は首元を斬られ斬殺させられる姿が脳裏を過った。

 恐怖のあまり地面に手を付くと、それは幻術だったことに気付かされ一度過呼吸の状態になってしまう。


「これはこれは、随分と派手な登場ですね~」


「特例任務の言伝だ、確かに渡したぞ」

 男はシャーロットにボスが直々に印した命令文を手渡し、シャーロットはその中身を一通り見通した。


「……また随分と無茶な要求をするものだ」


「任務の実行は一週間後、悪いがここは私の指揮に任せてもらう」


「勝手にするが良い、そこの二人は自由に使え」


「そうさせてもらう」

 シャーロットは特例任務の趣旨を理解した上で作戦を指揮する権利を彼に譲渡した。それが本部の意向だということは文面から判断できたからだ。



 こうして、ラグーシャのとある土地でまた一つ大きな影が動き出すのだった___



 _________



 新介とサリエルが帰宅した時には既に日暮れ掛った頃合いであったが、今日は随分と早くユピテルと結が家に帰っていた。

 何でも昨日頑張り過ぎたらしくさすがに本人がバテてしまったのだというが、彼女がバテるというのは相当過酷な修行だったに違いないと新介は確信付くのだった。


 だがそれは同時にタイミングが良かった、新介とサリエルは早速ユピテルに今日の町での騒動を報告する。


「報告は以上です……」


失われた称号(ロストシンボル)か、まさか奴等がこんな所にまで居るとは……」

 彼らが動く時は必ずしも不穏な雰囲気を醸し出していた。ヴァンパイアの一件がそうだったように本気を出せば残虐の限りを尽くす非道な組織だ。


「やっぱり野放しにするのは危険なのか?」


「まあな、その気になれば町の一つや二つ消滅できる組織じゃ」

 もしもこの地区に根付いてるとなると、それはユピテル本人も放ってはおけない事案だった。

 もはや自体は有事かもしれない、彼らが何か仕掛けてくる前に処理するのが最善の策なことは明白だ。


「じゃあ、メトラーナの人達も危険ってことだよな?」

 町の二人組の中には危険思考の者もいた。あんな奴がいたずらに武力を振るうと考えると町の人の命が心配でならなかった。


「場合によってはな、取りあえずこの件はわらわに一任してくれ。御主らは神技を修得することだけに集中するのじゃ」


「……そうか、ユピテルがそこまで言うなら任せるよ」

 やはりユピテルがどこかで新介や結にこの案件を極力関わらせないようにしているのが見受けられた。

 しかし今の新介にはどうこうできる問題の範疇を優に超えており、何かしらの行動を起こすにも一度彼女に委任した方が理想的だということを察するのだった。


 そんな話をしていると、先程まで風呂に入っていた結がリビングに勢いよく入って来た。

 帰宅して間もない時は随分と疲れた雰囲気を醸し出していたというのに、まるで久しぶりに水を浴びた魚のように肉体も精神もすっかり回復したようだ。


「いやーこの家のお風呂は世界一気持ちいいな~本当、あとはサリエルちゃんの胸の感覚さえあれば完璧だよ~」


「あれ、サリエル?」

 何やらサリエルは普段より浮かない顔をしている。というより普段より目が死んでおり何か思い出したくない出来事でもあるかのような雰囲気で溜め息をついていた。


「放っておいて……今はただ忘れたい……」


「おい結、お前サリエルに何かしたのか?」


「え?そ、そりゃあ目の前に美少女がいたらさ、こう、抑えられない欲望みたいなものってあるじゃない?」


「……」

 一体この子は何を言ってるのか、まだ若干十五歳にしてそんな特殊性癖オヤジみたいな行動をしていると考えると妹ながら相当痛いものだと新介は思った。


「いやもうそれお前が女だから許される行為だからな」


「可愛いものって愛でたいじゃない?愛とは最も素直な気持ちなんだよお兄ちゃん」


「いやそれわらわの言葉じゃ」

 あろうことか昼間に全能神自らが助言した言葉をネタ要員として扱うその心構え本物なのか、もしくはただの馬鹿なのか判断するのは天秤にかける必要もなく後者が既成事実だという事はこの場にいる誰もが把握していた。


「まあこんな奴じゃが覚えは早い方じゃ、まだ完全とは言い難いがこれほど短期間で自己供給を五割程成功させている」


「ま、この私にかかればこんなものよ!」

 恐らく結がここまで急激な成長を遂げているのは実力ではなく素質だろう、嘗て王の器を所有していた彼女にとってゾオンエネルギーの自己供給及び神技発動に恵まれた体内構造なのだろう。


「じゃが御主、完全に自己供給を成功させたというのは本当か?」


「ああ、疑うなら見せても構わないぞ」

 すると新介は一度目を閉じ、空間に意志を添える間隔を意識することでゾオンエネルギーを供給しようとする。

 忽ち新介の周りはエネルギーの実体となる部分が収束され、彼のその体を表面から覆い被さった。


「これが俺の『全身強化(フルオーバー)』だ」


「お、お兄ちゃん何か輝いてる……」

 新介はユピテルの前で発動状態を見せることで完全に修得したことを証明するが、すぐにモードを解除して椅子に座った。ゾオンエネルギーで全身を強化するのはあまりにも消耗が激しかったからだ。


「どうだ、完全に自己供給を身に付けたろ?」


「そうじゃな、わらわのゾオンエネルギーの貯蔵は一切減っていない。これでようやく次の段階に進める」

 新介の自己供給システムが成り立っていることを確認したユピテルはこのまま新介に神技発動の修行に以降するように思えたが、彼女は予想の斜め上を行く方針を彼らに突きつけた。


「気が変わった、明日から二人にはわらわの元で神技の修行を取り行う」


「え、でも私まだ完全に自己供給マスターしてないけど?」


「完璧でないならまだわらわの供給源を使うが良い、明日からサリエルには別の行動を取ってもらうからな」

 ユピテルとサリエルはアイコンタクトを交わし、あくまでもこの場で二人の前で公言することを避けようとする。

 ユピテルの意向は新介には何となく伝わっていた。明日からサリエルが別行動になることで実質自分達を指導できる者はユピテルしか居なくなるなるからだろう。

 おおよそ結の自己供給を完璧にする前に神技の修得の為の修行に入ることは近い戦いを予期した想定だと思われる、可能性は少なからずも彼女本人も失われた称号(ロストシンボル)のことが気になるのだろう。


「いよいよ私も神技を扱うんだね……」


「どんな神技が覚醒するか楽しみか?」


「そりゃあ出来るだけ強い能力が欲しいよ!私的に属性系とか?」


 別に賢者だとか異世界の住人だからと言って神技を一つ以上習得できないというルールはないが、この世界においても初めて使えるようになった神技は意味がある。

 人は時にそれを神技の覚醒と呼び、普通はその境地に達する者自体少ないのだという。

 少なくとも神の称号を得れる者は全員神技覚醒の境地に達しており、神官以上の階級に就くには500種以上の神技を身に付ける必要もあった。


「ふむ、なら記念に一つ属性系の神技を教えてやろう」


「え、いいの!?やった~♪」

 新介も強力な神技の一つや二つ習得したいとも考えたが、まずはあの時ヴァンパイアを倒した神技を完璧に扱う必要がある。

 あれほど強力な神技はきっとないだろうし、何しろ戦っている時は記憶が飛んでいた為に情報が欲しかったのだ。


「そんじゃ、飯にするか」


「今日は何作ったの?」


「ああ、この前は自分が食べたいものを作ったからユピテル達の口に合いそうなシチューを作ってみた」


「別にわらわはこの前の肉じゃがとかいう召し物もたいそう美味かったぞ」


「私も……」

 人間界でいうところの西洋圏の食事が主流のこの世界だが、それでもこの世界の住人である二人の胃袋を掴むとはさすがはジャパニーズスローフードだと新介は思った。


「そうか、それなら腕が鳴るってものだ!結は明日の為にたくさん食えよ!」


「ちょ、お兄ちゃん注ぎ過ぎ!私に大食いスキルはないってば!」

 ユピテルは仲良く戯れる二人を見ると、やはり兄妹なんだなと思いながらもまるで遥か昔の記憶が脳裏に蘇るかのような感覚に襲われる。



 _____こうやって仲間と日常を過ごすのは、何年ぶりだったかのう





 ___________



 辺りはすっかりと暗くなり、今日も何一つ変わらない日常の夜の空を見つめる


 今と昔は違うはずなのに、それでも今の時間を昔と重ね合わせる自分がいた




 ____嘗て、酷い夢を見ていた



 崩壊する世界を、もう何の意味を成さなくなった世界を救い、自分は確かに盟友だった存在を犠牲にした


 全てを救おうとして、結局何も救うことが出来ずにいた


 あの結末を後悔していないと言えば嘘になるだろう、いや、少しでも後悔しない選択肢を選んだに過ぎなかった


 だからもう、後悔などしたくなかった


 全能神となって今でも、その感情が心を覆うと恐怖心を抱いた


 そして自分も知らない誰かがたまにこう告げる


『この人殺しが』と_____



 _________



「___ユピテル様?」


「……何じゃ、サリエルか」

 たった一人家の屋根で座り空を眺めるユピテル、その異様な光景を目撃したサリエルは天窓から彼女の元に向かう。


「どうかされましたか?」


「いや、ちょっと夜風に当ってただけじゃ」


「そうでしたか、なら私……も……」

 ふとユピテルの表情を見ると、そこには笑みを浮かべてはいるものの目はどこかよく分からない深淵を覗いている表情を浮かべていた。

 その表情はあまりにも矛盾に満ち溢れていて、今の彼女の感情が何なのか読み取ることがサリエルには難儀なことだった。


「……今日はもう寝ます」


「その方が良い、明日御主は失われた称号(ロストシンボル)の拠点を探さないといけないのじゃからな」

 サリエルは返事をすると、家の中に入れる天窓へと戻っていく。

 しかしユピテルは「サリエル、ちょっと良いか」と彼女を呼び止め一つだけ質問をした。


「御主は、新介をどのように思っておる?」


「……信頼しています」


「……そうか、なら良かった」

 直後に引き止めたことを謝罪すると、サリエルは家に入り眠りにつくのであった。



 _______




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