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世界の真理

「それじゃあ聞かせてもらおうか、ここは何処なのかを」


「うむ、実に初歩的な話からになるがいいか?」


「ああ、逆にそこからしてもらわないと困るからな」


 新介と少女は噴水がある広場のベンチに腰掛けて、彼女はソフトクリームを食べながら話を始める。

 外套のフードから僅かに覗けた彼女の容姿は可愛らしい部類に入り、その桃色の髪色からは類稀なる異質な雰囲気すらも窺わせた。


「ここは天界じゃ、神もいれば人間もいる」


「神?」


「本当に何も知らないんじゃな、御主は貧困層の出身か?」


 相変わらず少女はソフトクリームを食べながらこの世界について説明をしていたが、新介にとっては理解し難いことであるのは確かだ。

 天界、神、生憎その言葉を頼りに記憶を辿ってみるが該当件数は0件と脳内で表記され、新介は自身がどこから来たのかさえも見当が付かずにいた。


「まあいい、御主の過去など無視していい話じゃ」


「そう言えばお前もマント羽織ってるよな、しかも頭まで隠して」


「訳ありの身でな、あんまり大勢の前での顔出しは厳禁なんじゃ」


 彼女が何を背負っているのか気にはなったが、そろそろ話が逸れ始めた為そこから言及はしないでおいた。


「ならあそこにあるでかい城は何だよ?」


「天界議事堂、それと歴代の世界の統治者である神神(しんしん)が住む神居でもある」


「ようするに政治機関みたいな場所なんだな。もう一つ質問なんだが、じゃあ何で空は曇ってるのに太陽は見えるんだ?」


 新介は天界全土の空は雲に覆われていたのに、太陽と思われる光が覗いていたことについて外に出た時から疑問に思い新介は興味本意でそのことを尋ねる。


「あれは神工(じんこう)太陽じゃ、神技によって造られている」


神技(しんぎ)?」


「神が使う特別な技、無学者の御主は知らんで当然の単語のはずじゃ」


 新介は溢れ出るこの世界への疑問を次々に質問するが、思った以上の知識が豊富で口が達者な彼女に徒者でないことだけが伝わり新介も彼女の異質さが次第に感じ始めていた。

 質問を繰り返すようで彼女には申し訳ないとは思ったが、話に耳を傾けているうちに新介は彼女の正体にもまた心に引っ掛かりを生んだ。


「てか、そもそも何でそんなに詳しいんだ?」


「それは教えられぬな、わらわの個人情報に値する」


「……本当にお前何者だよ」


 すると少女はソフトクリームを食べ終わり、その返答は拒むかのように座っていたベンチを立ち上がる。


「此度の恩恵、しかと心に止めておく、最後に名前を聞かせてくれぬか?」


「……新介、それだけしか分からない」


「新介か、御主の恩はいつか必ず返すぞ」


 少女はソフトクリームを奢ってくれた新介に向け一度お礼を伝え、また何事もなかったかのように喧騒に満ちた繁華街の方へと姿を消した。


「行った……」


 食べ終わったらすぐに立ち去ってしまったことに、新介はやはり物で吊るにも限度があるなと考え込んでしまう。

 名も知らぬ博識の少女。彼女の正体は分かりかねないが、印象深い出会いではあった。


「つっても、これからどうすればいいんだよ」

 先程の少女の話で分かったのは、ここは天界だということとこの世界には神や人間がいるということ。

 新介にとっては金も使い果たし、これから何をするにしても八方塞がりになってしまった。


「やっぱ元の世界に戻る方法を探すしかないよな、でもなあ……」

 そうするにも何から始めればいいのか、やはり道はすぐに閉ざされてしまう。

 そもそもこれは一人でどうこうなる問題ではなく、土地勘も無ければ金も無い新介にとって出来る事などほとんど無かったのだ。




「――盗賊だ!」


「……!?」


 広場から道に出た矢先、新介はバッグのような物を持ち顔を顰めた表情で人が通行している道路を走り抜ける二十代半ば程の見た目をした男を目視するが、それが近付いてきているのに気付いたのはもう既に彼が手の届く範囲へと距離を詰めた時にあった。


「邪魔だ!」


「え、えええ!?」


 一瞬判断が遅れた新介は急いで道を退けようとするが、反応が鈍り盗賊の男と衝突する。

 痛い。およそ六十キログラムの男が運動エネルギーを持ちながらぶつかってきたが故に、一瞬脳内が真っ白になる程の衝撃を受けたのだ。


「痛てえ……」


「何してんだ!!退けろって言ったら退けろよ!!」

 二人は地面に倒れてしまい、男は道に盗品を落としてしまう。

 すると駆けつけるように盗賊を追っていた女性が追い付き、倒れる二人の手前で立ち止まる。


「そこの盗賊、もう逃がさないわよ!」


「まずい……」

 男は急いで盗品を拾おうとするが、新介も盗品を掴んで引っ張り合いの形となってしまう。

 この時新介は相手がが凶器を持ち合わせている可能性など考慮せず、無鉄砲にも男の邪魔をする。


「これ盗品だろ、持ち主に返してやれよ」


「は!? てめえ頭おかしいんじゃねえの!?」


「俺だって一文無しだけど盗みはしないぞ、生きてく為の方法ならきっと他にもあるって」


「そう言うんじゃねえよ!!ああもう面倒くせえな!!」


 男は片手で刃物を取り出し、新介の首元に突き付けようとする。

無論彼はただ注意を促しただけで光り物が取り出されるとは思いもせず、それがどういう物なのか判明した途端に焦りを覚えた。その時、


「耳を塞いで!」


「え?」


 盗賊を追ってきたと思われる女性の指示を瞬間的に従い、新介は自分の耳を両手で塞いだ。



『エキュート』


 新介と男の間に液体物が発生して、膨張した後に破裂音が響く。

 眼前に起こった超事象的な現象に思わず目を疑うが、何やら向かいに立っていたその女性の手前には術式のようなものが浮かんでいた事に新介は気付いた。


「うお……何だよこれ……!!」


 盗賊は分が悪いと判断すると、盗品を放しその場から逃げ出した。

 そしてそれと入れ違いになる形で超常現象を発動したと思われる女性が駆け付け、先程刃物をチラつかせられていた新介に手を伸ばす。


「もう大丈夫よ、安心して」


「あ、あなたは?」


 水色の髪色をしたその女性は、新介よりも大人の雰囲気を滲み出す。 

 強く、気高く、美しい女性。まさに絵に描いたような立ち姿に圧巻され、一時的に語彙力が削がれた。


「私はマーベル、あなたは?」


「あ、俺は新介です」


 マーベルは新介に手を差し伸べて彼を立たせると、それにタイミングを合わせるように新介もまた手を握り返す。


「これ、マーベルさんのバッグですか?」


「ありがとう、油断してたら盗賊に引ったくられちゃって」


「今度からは気をつけてください」


 命の危機に直面していたところを助けてくれたマーベルに一度お礼を述べ、奪い返したバッグを彼女へと渡して新介は広場のベンチに戻ろうとする。


「ああ待って、よかったら私とお茶しない?」


「え、でも俺金なんて持ってないですし……」


「いいわよそんなの、奪い返してくれたお礼に奢ってあげる」


 新介はもう三日も食べてなかった為に空腹であることを完全に忘れていたので、ここはお言葉に甘えて彼女とお茶をすることにしたのだった。




 __________


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