お互いのために
この世界はいつも曇天だ、空を見上げるだけでも気分が殺がれそうになる。
だが光はある、しかしそれは解決策にしか過ぎず、根本的な問題の打開策には繋がってない。
本当の空を知らない民も居るが、それはもはや既成事実であり気にする人間自体少ないのだろう。
何故なら人工的な太陽はもう既にあり、生活する上では支障がないからだ。
今やそれが普通であり、それが普通じゃないと言えるのは別世界の住人ぐらいなのだろう。
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「ねえ、何処まで歩くの?」
「もう少しじゃ、辛抱せい」
結とユピテルはもうかれこれ1時間ずっと歩き続きで、まだ修行を始めることすら至ってなかった。
だがしかし結自身は運動神経は良い為この程度の運動では草臥れたりしない、運動は彼女の唯一の特技と言っても過言ではなかったのだ。
「けど意外、ユピテルちゃんが私の修行相手になってくれるなんて」
「御主はまだ神技を覚醒してないからのう、わらわが直々に指導せねば命に関わるかもしれん」
神技の覚醒は普通生身の人間での発動は多大な人体への影響を与えてしまう。
それに常にリスクがある、新介も覚醒した時には命の危機に直面していた。
彼ほどストイックという訳でもないが、賢者の神技の覚醒には必ずしもそのトリガーとなる要因があり、それ次第では命を落とす可能性があるのだ。
「じゃがまあ、本当に心配なのはあの二人なんじゃがな……」
「あー……あの二人ね、まあ大丈夫なんじゃないのかな?多分」
ユピテルが指している二人とは恐らく、新介とサリエルの二人だ。
もう既に神技覚醒の域に達した彼はその感覚の取り戻すための修行、それをサリエルに扱いてもらうのだとか。
「お兄ちゃんこの世界に来てから何か余裕あるし、ちょっと意思疎通が難しい相手でも寛容だと思うよ」
「ん?この世界に来てからとは?」
「うん、向こうでは何ていうか、人間関係とかを表面上でこなしてるだけだったと言うか、空っぽだったというか……」
上手く言葉には出来ないが、結が伝えたいことはユピテルは何となく分かった様子を見せる。
それはユピテルも以前に指摘した内容であり、それが上野新介という人間の本質だということは薄々感付いていたからだ。
「けど今はそんな感じじゃない、もっと人間染みた感じかな」
「なるほど、よく知っておるのじゃな。兄のこと」
「当たり前じゃん、もう15年間一緒に暮らしてるんだよ?お兄ちゃんの性格ぐらい分かってるよ」
「はは、そうかそうか。やはり御主は新介のことを好いておるんじゃな」
「な……!?」
ユピテルがそう問い質すと、結は足を止めて動揺し始めたように声に出せない絶叫を上げる。
その動揺の原因は勿論彼女が本質を突いたことだ、知られていたことに思わず羞恥の感情が込み上げて一瞬で顔が真っ赤に染まる。
「そ、それは誤解だって!!私はただ兄妹としてお兄ちゃんのことが好きなだけで……」
「ほう、廃墟の館で愛の告白同然の発言、まさか忘れた訳ではなかろう?」
その出来事を突かれると結は思わず髪を掻き毟り、どうしようもない感情を静めるかのように専念する。
その一方完全にユピテルは完全に楽しんでおり、これでは神ではなく悪魔だと結は恨みを覚えるのだった。
「何がおかしい。古代の神国では神族も神の血を濃く後世に遺すために血縁同士で結婚したという話もある」
「だから違うってば!あと変な例えを出すのもやめて!」
そんなこんなでユピテルの一方的な言葉責めに苦戦していると、数十分後に目的の場所に着いた。
「さてと、ここら辺でいいじゃろう」
「……?」
辺りを見渡しても何も無い平野、一体何故こんな場所を選んだのか結はイマイチ理解できなかった。
「それではこれから修行を始める。準備はいいか?」
「は、はい!!えっと、師匠!!」
急に改まったユピテルに影響されてたのか、結も空手時代に培った師弟関係の心得が条件反射で蘇る。
若干ユピテルの顔がニヤけていた気がしたがそこには触れてはならない、結は相手が師匠となれば敬意を示す武道の真髄が備わっているからだ。
「良し、まずはゾオンエネルギーの体内吸収からじゃ。御主を蘇生した時に器官も作っておいたから問題ない」
「押忍っ!!」
こうして二人の修行は始まりを向かえ、ユピテルは結の神技覚醒を勤しむのであった___
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一方新介とサリエルはユピテル達の反対方向にある草原で修行に取り組んでいた。
今回の修行で新介が取り組む課題は神技を完全に修得すること、しかしその前にとある課題を突きつけられている。
「なあ、サリエル……?」
「……」
「おーいサリエルさん。聞いてる?」
「……何?」
サリエルはようやく新介の言葉に反応するが、その言葉も素っ気なく彼女は相変わらずクールであった。
新介もそんな彼女と意思疎通を交わすのは難しいと実感してはいるが、この課題を克服するためには彼女の助言と手助けが必要なことは明白な事実であることには変わりない。
「いや何というか、もう少し分かりやすくご教授願いたいのですが……」
「だから、自分の周りのゾオンエネルギーを意識するの」
「さっきからやってはいるが、全然実感湧いてこないんだけど……」
その課題とは術者にとっては基礎中の基礎であるゾオンエネルギーの自己収束作業のことだった。
どうやら賢者の業界ではゾオンエネルギーの供給は自分でやるのが一般的であり、非常時にマスターから支給するのだとか。
賢者業界と言っても新介とサリエル、結ぐらいしかいないが、その中でも供給率が一番高いのは新介だという。
何分彼は以前までゾオンエネルギーをただただ放出し、無鉄砲に使用していた為にユピテルにもかなり迷惑を被っていたらしい。
「あなたは廃墟の館で散在吸い取ったせいで、ユピテル様は回復が遅れた……」
自分が何を言いたいか分かるだろ?というような眼つきで伝えると、新介もその鋭い眼光に威圧感を抱き事の重要性を理解した。
「わ、悪かったって!俺だってあの時必死だったから……」
「だから、身につけてもらうの。それが一つの課題……」
「……そうだな。もう俺にはその為の器官も備わっているみたいだし」
分からないがやってみるしかないと思う、まずは彼女の言っていた感覚を掴むところからだった。
そうすると新介は草原の地に座り込み、少しでも広範囲の領域を意識し始める。
「ゾオン……意識……」
しかし意識しても何も起こらない、ただ草原の草が風に靡かされる音だけが響き、時の流れだけが早く感じた。
「……だああ駄目だ!!」
かなり精神を持っていかれそうになり、思わず大声で叫び正気を取り戻す。
やはりヒントが無さすぎる、デタラメに捜し求めて得られるほど感覚を掴むというのは簡単ではない。
「やっぱ駄目だ。もっと何か具体的なアドバイスとか無いのか?」
「……こればかりは自分で掴まないと意味がない」
「だけどよ……」
「まあ、意識しろというのは私のやり方……あなたはあなたのやり方を模索すればいい……」
サリエルの言い方だとやはりそう簡単に修得できる内容ではないようだ。
それもそうだろう、神技とは神の技と示す程に高位な術式だ。普通一月前まで人間界で生活していた新介が容易く使いこなせるはずもない。
「あなたなら出来るはず、あなたは特殊だから……」
「……それって、信頼してるってこと?」
「……分からない。でも、あなたは実際に神技の覚醒に成功した。それもありえない成長速度で……だから、そういう意味で特殊……」
何やらよく分からないが、新介は彼女が『特殊』という言葉を強調していることに酷く違和感を覚えた。
彼女は言葉足らずで、話す内容もはっきりとはしない。彼女が言葉を協調することは恐らく想像以上に重要なのだろう。
とは言っても、新介が神技を覚醒した時の感覚、それは紛れもない怒りだった
あの時、目の前で結が殺された時、確かに抱いた殺意
気が付けば何も見えなくなり、気が付いた時にはヴァンパイアを倒していた
「ああ、そうか……」
「……?」
「続けようぜ、さっさと修得しないとな」
彼が一瞬何を考えたのか、気にはなっていた表情をサリエルは露にするが言及することをしなかった。
そしてまた新介は空間意識に集中して、時の流れなど意識するのも忘れる程に意識を集中させるのであった。
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