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新たな生活

 ここは南地区ラグーシャ、自然が豊かな土地でありセントラルと比べたら多少田舎地味た場所でもある。


 しかしそんな場所でも住めば都だ、セントラルで生活をしていた時は物置のような部屋で暮らしていたが、ここではそんなに高くない家賃で一軒家に住むことができる。


 ベッドルームもあり雑魚寝なんてせずに済む、はずだった。



「……って俺、結局ベッドで寝れてないな」

 一軒家と言っても元々ベッドは一つしかなく、現在はユピテル、サリエル、結とで鮨詰め状態で寝ているのだった。

 勿論その中に男である新介が入れるわけもなく、雑魚寝からソファに変わっただけで安眠などもってのほかだ。


 だがそんなことはどうでもよかった、新介にとって何より重要なのは身の安全だ。

 確かに向こうの世界でも都会は治安が悪い場所は所々あるが、そのどれもが軽犯罪に当たるものだ。


 しかしこの世界に来てからパーティー会場を銃の類で襲撃されたり、土手っ腹に刃渡り60cmの西洋剣を背後から刺されたり、胸部に槍が貫通した時だってあった。


 第一何でそんな目に合ってるのにまだ生きているのかと思うかもしれないが、それは自分にも分からないほどの確率で奇跡が重なり合い、そしていつの間にか全能神の賢者になっていた。


 運命論など信じないが、もしも本当に自分の物語を書いている神様的な存在が居るとしたらその神様は相当性質(タチ)が悪い。


「何を強張った表情をしておるのじゃ」


「いやちょっと、神様って本当性格悪いよなって……」

 一瞬条件反射で返答に応じるが、いつの間にかユピテルが新介の寝ていたソファに腰を下ろしていたことに気付き一度驚く。


「うわ!い、いつの間に……」


「何、少し気配を消して御主を驚かせようと思ってな。それより新介、何かわらわの性格に不満でも?」

 確かに神様とは言ったがそれは神様違いだと思った。

 新介が言ってるのはもっと抽象的な神様であり、物理的に存在する神様とはまた違う。

 ましてやユピテルは神ではなく全能神、階級自体そもそも違う。


「……はは」

 だがそんな話をしてると思わず噴出してしまう、彼女は全知全能だが何処か抜けているからだ。


「む、何がおかしいのじゃ?」


「いや、この世界に来て最初に会ったのがお前で良かったなって」

 普通、この世界に来てから自分は既に死んでいたと新介は思った。

 だが幾度の偶然が重なり、何度でも死の淵から戻ってきた。

 そしてその偶然を呼び寄せたのは必ずしもユピテルだったのだ。


「これからもよろしく、マスターさん」


「……ふん、これからも散々こき使ってやるわ」


「あー……命張るのはもう勘弁かな?」

 しかしそんなことを懇願しても仕方がない、ユピテルが半ば強制的に結んだ盟約により新介は命を貰い受ける代わりに彼女の賢者になることは運命(さだめ)であり、逃れることができない宿命なのだ。


「さてと、そろそろ朝食とするか、わらわは腹が空いたぞ」


「そうだな、ユピテルは二人を起こしてくれ。俺が何か作っておくから」

 新介は朝食を作るためにキッチンに向かうと、食材を保管している場所から材料を吟味するといくつかを手に取る。

 ユピテルも結とサリエルが寝ている寝室に向かうと、数分後に結が下りてきた。


「おはよ~おにぃちゃん……」

 起きたばかりの結はまだ眠いのか、口に手を当ててあくびをしながら第一声にそう言った。

 相変わらず淑女としての嗜みを忘れており、後ろ髪は寝癖を付けてる上に何処から収集したのか赤のジャージを着こなすという身の回りの視線に関してはかなりの無関心さだ。


「おはよう、サリエルは?」


「あ~サリエルちゃん朝弱いらしくってさ、今ユピテルちゃんが必死に起こしてる~」


 ――妹よ、死神じゃ飽き足らず全能神にまでちゃん付けとは、もはやその度胸は大魔王レベルだぞ。


 だがしかし、前の呼び捨ての時と比べて関係は良好みたいだ。


「っておい、お前は一体何をしてんだ?」

 結はリビングの机にグダッとして上半身を前屈みにしていたが、手にはスマホ端末というこの世界にはそぐわないハイテク機器を持っていた。

 新介はこの世界に来た際に紛失したが、結は運良く所持していたのだろう。

 しかし天界では向こうの世界の産物など役立たずのガラクタに過ぎないことは言わずもがなことであった。


「うーん、やっぱり向こうの世界には繋がらないか……」


「そんなのがもし繋がったとしても、何が出来るって訳じゃないだろ」


「いや、お父さんかお母さんに見たかったドラマ録画しといてって連絡するつもりだけど」


「お前は気楽で良いな!てか母さん達は海外出張だろ!」

 これでは度胸があるというより危機感がないという方がしっくりくる。

 そうなると必然的に彼女の存在は馬鹿という文字に尽きるが、それが上野結という人間の長所でもあるのだろう。


「失礼だなあ。私だって向こうの世界に帰りたいと思ってるし、ホームシックってやつにもなってるもん!」


「ならホームシックの意味を言ってみろ」


「え?ホームシック……きっと頬無死苦みたいに頬が無くなるほど辛いってことだよ!」



 ――いや、何だよその『夜露死苦』みたいな原理は

 第一美味しいものを食べても頬が落ちるというのに、辛すぎても頬がなくなるって人体の頬切除率高すぎだろ。

 と新介は内心結の解答に突っ込みを入れるが、指摘するのも面倒に思え適当に打ち切ろうとする。


「そうかそうか、お兄ちゃんも頬無死苦だぞ、お前の人生が」


「何それ、どう言う意味!?」

 朝っぱらから兄妹喧嘩が勃発しそうな最中、ユピテルに起こされたサリエルが不機嫌そうに階段を下りてきた。


「あ、起きたかサリエル。今朝食作るから待っててくれ」


「……」

 サリエルは片目を擦りながら相槌だけで反応するが、リビングのソファでまた横になろうとしていた。


「全く、仕事は出来るが朝には滅法弱いときた。まあそのぐらいのほうが可愛げがあるんじゃがな」


「何か神って意外と人間染みてるんだな」


「何、その気になれば数年飲まず食わずでいられるわ。わらわの最高不眠記録は5268年だったかのう」

 相変わらず話の内容がぶっ飛んでいる為、新介は終始返答に悩みながらキッチンで手を動かす。

 数十分後、四人分の料理が完成してダイニングの机にそれぞれ配置する。

 メニューはトースト、ベーコンエッグ、サラダなどバランスの摂れた食事を心掛けたチョイスだ。


「サリエル、朝食出来たぞ」


「……食べる」

 あれだけ寝てもまだ寝足りないのか、ヨロヨロとした足付きで何とか椅子に座った。

 そしてフォークを取り、まずはベーコンエッグを口の中に入れる。


「おいしい……」


「そうか、なら良かった」

 相変わらず無表情で無口なため、感情を上手く読み取れることはできないがそれが彼女なりの意思表示なのだろうと新介は捉えた。


「さてと、食事をしながらになるが、今後の方針について話そうと思う」


「……そうだったな」

 そもそも何故拠点を移動したかというと、セントラルで起きた一連の事件をきっかけに政府の管轄がより強化されたからだ。

 中でもヴァンパイアの一件は痛手であり、反乱分子に都市を救われるとは政府の面目は丸潰れだろう。

 結果的に新介達はセントラルを離れることとなり、政府管轄外の地方にわざわざ移動した訳だ。


「ユピテル、改めて聞くことになるが、お前の目的は何だ?」


「わらわの目的は体を元通りにすること、その為に政府の神であるG7を倒さなければならないのじゃ」

 以前聞いた話では何やらユピテルは今の政府の方針や姿勢に不満を抱いてるらしくて、目的のために一人で国と戦う程に強い意志を示していた。


「奴等は俗世間には正義を掲げてはいるが、忍び寄る敵に屈服して戦うことをしない、平和だけを追求すれば必ず国は滅びるのじゃ」


「敵……?」


「いや、何でもない。今は取りあえず目先のことを集中するのじゃ」

 敵、そう言われると新介にも心当たりがあった。

失われた称号(ロストシンボル)』、ヴァンパイアの計画の協力者であり、世界最大の犯罪テロ組織グループ。

 ユピテルはそう新介に伝えたが、彼女はあまりそのグループのことについて語ろうとしない。


「ユピテル、協力するのはいいが一つだけ約束してくれ、お前の目的が果たされたなら俺達を元の世界に戻してくれることを」


「ああ、元の体に戻りさえすればそれも可能じゃ。少なくともその時になれば御主とわらわとては契約で結ばれた関係ではなくなる」

 既に反政府側に回っていた新介には元の世界に戻る当てと言えばもうユピテルしかいないので、彼女の目的を果たす報酬として元の世界に戻すことを条件に加えた。

 これでようやく対等な契約となった、返すべき借りは多くはなったが新介にもようやくメリットが生まれたのだ。


「わらわの野望のためには御主の能力が必要じゃ、ヴァンパイア・ロードを倒した時に発動したあの神技が」


「だけど、あれは偶然発動に成功しただけで、そう簡単にホイホイ出せるものじゃ……」


「だから御主には修行をしてもらう、神技を完全に修得するためのな」


「し、修行!?」

 驚くのも無理はない、今日日修行など向こうの世界では僧侶ぐらいしかやらない時代であった。

 毎日が出来事に溢れていて、娯楽に満ちた世界で暮らしてた時期が長かった人には修行など嫌悪感しか沸かない。


「それと、結にも同じく修行を受けてもらう」


「ふぇ!?な、何ですとー!?」

 先程まで朝食にガッツいていた結は不意を突かれたキャラが不安定になっていた。


「おい、俺はともかく結はどうして……」


「結もわらわの賢者じゃからな、まだ神技が覚醒するか分からぬが、御主の妹なら可能性は高いだろう」


「ま、まあそうかもしれないが……」

 結は生まれながらにして体の性質が特殊だった為に、王の器を持っていた者として神技覚醒の見込みは十分に有り得たのだ。


「さっきも言ったが、わらわの体を元に戻すには術者であるG7の奴等をどうにかしなければならないのじゃ。今のわらわに奴等全員を相手取って勝てる保障もない、その為にも御主達の力が必要なんじゃ」


「っ……」

 新介達が元の世界に戻るには現状ユピテル本来の力が必要である、しかし現在彼女はG7により著しく能力が制限されている。

 まずはユピテル達にかけられた神技を解くためにG7を何とか説得しなければならない、だが戦闘になった時の為に少なくとも彼等と戦える程の力を身に付けることが望ましいもまた事実なのは否めなかった。


「私、修行受けるよ」


「……けど」


「お兄ちゃん、廃墟の館でのこと憶えてる?」

 結が指す出来事、それはヴァンパイア・ロードを倒した後にユピテルが結を蘇らせた時の出来事だった。

 その時確かに二人は誓い合った。


「向こうの世界に戻るまで、お互いに強くなろうって約束したよね?だからさっさと目的なんて果たして元の世界に戻ろうよ!」


「……全く、悔しいが同意だ」

 もっとも新介個人の目的は一つだけあるが、ユピテルの盟約を即座に果たしておいて損はない。


「やろうぜ、二人で強くなろう!」


「うん、お兄ちゃんより強くなって見せるんだから!」



 こうして、新介達の新しい生活が始まるのだった____




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