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番外編② バッドエンド ワールドエンド

何かそれっぽくエイプリルフール企画立てました。嘘最終回です。

ちょいネタバレ含みます。

20時と21時に最新話を更新する予定ですのでそちらもよろしくお願いします。

 辺りはすっかり炎に包まれ、まるで世界でも焼き尽くすかの勢いで全てを破壊し続けていた。

 これが天災だと言えるなら仕方ないことなのだが、生憎今の事態には何かしらの悪意が付き纏い、世界の敵と呼べる物によって生み出された状況なのだ。


 ____たくさん死んだ



 たくさん死んで、多くを得た


 たくさん死んで、多くを失った


 結、サリエル、☓☓☓、☓☓☓……



 そして___




「相変わらず報われないような表情をしてみせるな、新介」


「____ユピテル」


 いや、眼前に立つ彼女が最早ユピテルなのかさえ分からない。

 麗しい程に彩色めいていた桃色の髪色は漆黒の黒へと染め上がり、顔にはいくつもの模様のようなものが刻み付けられていた。


 彼女はもうユピテルではない、風貌はそうであるが既に正気を失っているのだ。


「なあユピテル、いい加減目を覚ませよ!こんなのおかしいぞ!お前は誰よりもこの世界を良くしようとしてたじゃねえか!」


「……これはもう一人のわらわの姿、『ジュピター』じゃ。もうユピテルなどという存在はどこにもおらん。奇跡も希望もなければ絶望しか生まないのがわらわじゃ」


 もう世界には、新介以外の生命は残っていない。

 それは全て目の前の女が仕出かした事であり、彼女の反省の色が見受けられない態度に新介もまた一つの決心をしてみせた。


「ユピテル、俺はお前から多くを学んだ。己の強さ、仲間の大切さ、それだけでなく多くを与えてくれた」


「そうか、ならば嘗てのわらわが与えた分を返してもらうとしようかのう。御主のその命で」


 ____いい御身分だ、もう俺はお前にたくさんの大切な人を捧げた。身内も殺された、仲間も殺された、それでもまだこの俺に返礼を求めるというのか。


 そう思った矢先、新介は胸中の最奥から怒りの感情が芽生えているのが分かった。

 嘗てあれほどまでに慕った筈の彼女も、その悍ましい姿とともに自分の一番醜い感情が込み上げ、新介は吐き出しそうになる激情を必死に抑え込んでいた。


「___もう俺には何もない、何もないから此処に立ってんだ。何も失う物が無くなったからお前を止めに来た」


「そうか、それは愚かな人間に在るまじき勤勉さじゃな。だが世界最後の希望が御主とは、随分と儚い空前の灯火なことじゃ」


「勤勉?違うよ、こうするしか無かったんだ。俺にはこうする方法しかアイツ等の無念を晴らす方法が見当たらなかった。これは俺のエゴだよ」


 結が死んだ時、最後に兄である新介に「生きて」とだけ告げて息を引き取った。

 それはサリエルも然り、決して彼等は新介による弔い合戦を期待しなかったのだ。


 そんな彼女達の厚意を踏み躙り、彼は正気を失ったユピテルの元へと向かったのだ。これをエゴと言わずして何というか。



「エゴ、何じゃただのエゴか。かか、それでこそ人間じゃ、御主は御主だけの為にわらわを殺しに来た。それが道理、それが理じゃ」


「アンタに人間の何が分かるんだよ、全能神さん。いや、今は堕天使と言ったところか?」


「気安く堕天使などと揶揄するでない、わらわは原初に戻ったまでじゃ。第一この星はわらわが創造神から授かったもので、此処にある天地も生命もわらわの所有物じゃ。昨日までただの人間じゃった御主に横槍を入れられる筋合いは毛頭ないわ」


 ユピテルはまるで愚かな人間とでも思ってるような口調で新介を愚弄する。それが彼女本来の姿ならば世も末だ。

 末広がり、などという言葉は存在しなくて、いつでも物事を良い方向へと導くのは己の行動だけが影響を及ぼす。


 しかし今の新介にはどう足掻いてもハッピーエンドなど見いだせそうになかった。何故なら終末ならもう見据えているからだ。


 今向えている展開は決して物語の終末を描くような行為ではない、向えてしまったバッドエンドに悔いなく命を絶とうとする美麗主義のようなものであった。


「関係ないだと?散々俺の目の前の物掻っ攫っておきながら無関係はねえだろ、創造だか破壊だか知らないが、少なくとも結やサリエル、☓☓☓や☓☓☓まで死ぬ道理はなかった筈だ!!」


 彼女のあまりにも無神経な態度に新介は喉の奥に支えていた激情に歯止めが効かなくなり、いつの間にかユピテルの前で怒鳴り散らしていた。


「☓☓☓や☓☓☓だって、全員、全員死ぬ必要なんてなかっただろうがよ。なのに、何で……」


 何で、そんな言葉が今の彼女に通じない事など分かり切っていた。

 だからこそ、次にユピテルの原型をしたあの化け物が吐き散らす屁理屈は何となく予想が付く。



「それが、理だからじゃ」


「ああ、そうかよ。お前は誰が決めたかも知れない理とやらを崇拝し、支配されているに過ぎないただの物だったな……」


「世界の秩序を守る為じゃ。その為には生命の一つや二つ、取るに足りんわ」


 世界の秩序を守る為に彼女は全人類を虐殺した。

 世界の秩序を守る為に彼女は世界を火の海へと変えた。

 世界の秩序を守る為に彼女は正気を捨てた。


 全部が世界を守る為、それだけの為にジュピターは自分以外のものを全て葬り去ろうとしているのだ。


「これの、これのどこが世界の為なんだよ……!」


「御主のような下等な生物には分かるまい、世界を再び無に返す事の重要さが」


「―――分からねえよ」


 酷く掠れた声で新介は返答をする。一体彼女は何を言っているのか、理屈や道理などが一切理解できずにいたのだ。

 振り返ればそこには多くの苦しみがあり、多くの代償があった。

 何かを失えば何かを得れるとは言うが、彼にとって失って得た物など仲間の遺言ぐらいであった____



 ______



『お、おいサリエル、お前今何て言った……?』


『……私が囮になる。だから新介は、結と一緒に逃げて』


『囮って、そんなことできるかよ……!!』


 迫り来る敵、業火に覆いつくされるセントラルの町、そんな最中サリエルが唐突に自身が囮になると言い出した時新介は驚きを隠せないでいた。

 足止めなど通用する相手ではない、そんなことが分かっていた新介は彼女の早まった行動を制止するが、サリエルはこちらを振り向く事をせずにただ背中で語ろうとする。


『――分かってよ。私、口下手なんだから……』


『分からねえよ!!自分の口で本心言ってくれなきゃ何も分かんねえよ!!』


 頭部の出血が止まらず意識が朦朧とする結を抱え込み、新介は何もかもが分からなくなったかのようにサリエルに向け言葉を吐き散らす。彼女が一体何のつもりで自分の為に囮になってくれるのか新介には分からなかったからだ。



『――新介の事が、好きだから』


『っ……何だよ、それ……』


 思いも寄らない公言に新介は戸惑いを隠せなくしていると、脳内で状況を整理する間もなくサリエルは振り向き様に感情を高ぶらせた表情を見せた。

 泣いていた、それにも関わらず口角は上がり笑っているようにも見えた。それは先日まで感情の殆どが無かった筈の彼女とは思えない程に人間味が溢れた表情をしていたのだ。


『あなたに、生きてほしいと思ったから。それに、結にはあなたが付いてないと駄目だろうから……』


『何でだよ。俺はお前に、まだ何も……』


『新介はどうしようもない私を、ずっと過去から逃げてきた私に手を伸ばしてくれた。だから、それだけで命を張るには十分……』


 それだけを言い残しサリエルは再び業火に攫われるセントラルの街に双眸を向け、その小柄な体格で自身よりも大きい鎌を身構え始める。

 その瞬間に新介もまた、本当に彼女を置いて逃げていこうとする自分がいた事を足元から窺えた。



『行って……!!ユピテル様は私が少しでも食い止めるから……!!』


 彼女の声が大音量で聞こえてくる、ここまで精気が感じられるサリエルの佇まいは恐らく初めて見たのだろう。

 そんな彼女に触発され、新介はサリエルと背中を向かい合わせる方向へと急いで走り抜けた。


 __________



 いつの間にかそんなことを思い出していた。

 結局あの後何とかユピテルの虐殺からは逃げられたが、恐らくサリエルは死亡。

 それから数ヶ月新介と結は世界中を拠点として、今まで出会ってきた仲間達と組織を作り何度もユピテル討伐へと駆り立てた。


 しかし結局全能神である彼女には誰も敵わず、新介は仲間を全員失った。


「俺は良いんだよ俺は!!だけど、結やサリエルは最後まで俺なんかを好きでいてくれた。何にも守れなかった俺なんかを……」


「そうか、しかしそれも理じゃ」


「アイツ等の人生まで破壊する権利はお前にはないんだよ!!全員お前なんかの物じゃねえ!!一人一人の物だったんだ!!」


 溢れる激情に逆らわず、新介は災厄の源である彼女に言ってやりたかった事をベラベラと並べてみせた。

 殺したい、殺してやりたい。ユピテルの皮を被ったあの化け物を、全ての黒幕であるあの世界に暮らす住人達も。


「聞けジュピター、お前の本体である()()()()()()は必ず俺が抹消してやる!!エピローグはお預けだと黒幕さんに伝えときな!!」


「かか、中々面白い遺言を残してくれるな人間、それじゃあ御主の最後を晴れやかに飾るがいい!!」


 全能神ユピテル、この星の創造主であり天界の中で最も重宝される神。

 世界の創造と破壊を繰り返してきた彼女に戦いを挑む事を決心した新介は、その壮絶な気迫を放つユピテルを前にして一歩も引く姿勢を見せず、自身もまた光と闇に包まれたゾオンエネルギーによる気迫を放出する。



「ほう、ユリアの神話に刻まれたとされる三人目の全能神。まさかあのジジイが最後に奴を残したのはこれの為か……」


 いつしか体が全く新しい材質の服に包まれて、両手には確かに武器と思われた二つの何かを携えていたのが伝わった。

 これが正気を失ったユピテルを止める方法、破壊し尽くされた世界に灯される空前の灯火であったのだ。



「全能神×××、まさか予言通りになるとはな」


「――行くぞジュピター、お前は俺が此処で討つ!!」


 燃え盛る業火の中、光と闇がぶつかるように全能神と全能神はぶつかり合う。

 それが世界の終末、以後の出来事は誰の記憶にも残っていない。

 つまり、無に返ったのである_____




 ――こうして、一つの物語は幕を閉じるのであった。



 ________

ご朗読ありがとうございます。

前文は言わばバッドエンドで、これから新介が渡るかもしれない一つの最終回です。

良ければ第二章以降の話も読んでくれれば幸いです。

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