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番外編① 五万年後の君へ

 その夜空はとても美しい姿をしていた


 昨日も今日も同じ夜空のはずなのに、今日の夜空は自分が生きた中で一番好きだった


 この時間を永遠に保てるものならそうしたい、今まで刹那の中を生きてきた自分には傲慢な欲だと十分理解していたつりもである


 だけど、せめてこの一時だけは____



「綺麗だな、空」


「……そうだね、二メラ」

 目と目が合う瞬間、言葉と言葉を交わす瞬間、彼と同じ時間を共有しているような感覚はまるで至福だった。

 彼を誰よりも愛し、そして誰よりも一緒に居たいという気持ちだけが私の生きがいだ。


「なあ、アザゼル……この戦争が終わったら二人で住まないか?」


「え?」


「いや、お前が嫌ならいいんだけど、戦争が終わったらいつまでも彼奴のところに世話になってく訳にもいかないだろ?」


 まるで夢のようだった、人生で一番愛した彼に、最愛の存在にそのような言葉を言ってもらうことが


「……私なんかでいいのかな?」


「お前がいいんだよ。お前となら、その後の人生も仲良くやっていけると思う」


「……うん、私も一緒に居たいよ、二メラ」


 あの時、確かに気持ちを伝えたはずだった


 だがしかし、二人の間に交わした約束はそれから果たされることはない


 それは最悪の結末でも、絶望を味わう結果でもなかった


 そこにあったのはただの虚無、不条理な現実を突きつけられた世界への憎しみ


 いつしか私は、私でなくなっていた_____



 ______



 最北の地 ‐ヘルヘイム‐



 天界において世界とは天界連邦のみとは限らない。

 天界はあくまでも実質的に世界の大半を集客しているに過ぎない国家であり、この世界においても無政府地帯と呼ばれる場所は数多くある。

 無政府地帯だからといって人が居ないわけではない、むしろ国家の元では住み着けない犯罪者共がこの地帯に逃げ込み好んで住み着いているのだ。

 そして最北の地と呼ばれる場所こそが無政府地帯にある唯一の都市であり、とある組織のアジトでもある。


「全く、お前はどれだけ俺達を失望させてくれるつもりだ?」


「そのことはもういいじゃない、私は100%ヴァンパイア・ロードの力を失ったわけではないわけだし」


「そのヴァンパイア・ロードの力が今使えなかったら話にならないだろうが」

 先程からヴァンパイアを責め立てている彼こそがロストシンボルの幹部『アスティマ』であり、多額の資金を集めている組織の財布といってもいい存在である。


「俺達はヴァンパイア・ロードの力が今にも必要だ。その為にお前には少し痛い目にあってもらうことにしよう」

 何やら嘗め回すような目つきで幼児体形のヴァンパイアをジロジロと見るアスティマに、心まで女性となったヴァンパイアは嫌悪感を隠せずにいた。


「な、何よ、さすがにこの見た目が許容範囲なのは気持ち悪いけど?」

 寒気を感じて胸周りを腕で隠すと、彼は私で何かを妄想するようにニヤつきながら口を開いた。


「バカ言え、俺はガキに興味など毛頭ない、まあ生意気なガキが泣いて嫌がる光景を見るのは絶景だがな」


「……あんた、絶対碌な死に方しないわよ?」


「結構だ、この組織に入ってからまともな死に様など望んでいない、まあその組織のトップさんはこの世界を滅ぼす気満々だがな」

 そんな話をしてると、アスティマはとある部屋に自分を誘導していたことをヴァンパイアは気付くが、その部屋はやけに嫌な気配がしていた。


「っ……」


「おっと、逃げるのはなしだ、言っただろ?俺は生意気なガキを服従させるのが好きだってよ」


「このロリコンが……」

 しかしそんな言葉も虚しく、ヴァンパイアはアスティマに引っ張られ厳重なドアの中を入っていった。


「ボス、指示通りに連れてきましたよ」


「ご苦労だ、我が忠実なる戦士よ」

 何やら薄暗い部屋の奥に一人異質な邪気を放つ存在を見つけるが、それが人間なのか化け物なのか分からないほどにおぞましい何かであることは違いなかった。


「おかしいな、あんたって初めて会った時はこんな殺気立っていたかな……?」


「ほう、悪魔も恐怖を知っているのか、知性的だな」

 ボスと呼ばれるその存在は黒のローブで顔を隠してはいるものの、その体格と殺気のような気迫の量とは釣り合わない程に人間染みた様子であった。


「……まあいいわ、それで、私に何の用件なわけ?」


「些細なことだ、今後貴様の身柄をどう利用するかについてのな」


「っ……」

 ___やはりそう来たか、まあ予想こそはついていたけど……


「あの日、全能神ユピテルとG7でのエルサレムでの決戦、唯一異空間召喚を発動できたというのに、貴様は例の人間を吸血したもののもう一人の方に殺られている」


「言っておくけど、あの量のゾオンエネルギーは尋常じゃないからね?あれは神にも匹敵する保有量だったに違いないと思うけど?」

 あの廃墟の館の決戦で、新介の神技覚醒による反撃でヴァンパイアは一度死んでいた。

 敗北の理由には二つの誤算があった。

 一つは彼をただの人間とみなし、すぐに殺さなかったこと。

 もう一つは、彼の逆鱗に触れたことだ。


「分かっている、しかしこのまま貴様を不完全体のまま戦力外にしておくのも更々ない。だから____」


「____!?」

 玉座に腰を下ろしていたはずのボスが瞬間的にヴァンパイアの背後に回り、その殺気を感じ取った彼女も脊髄反射で剣を突き立てた。


「剣は生成できるみたいだな、だがその様子では一本が限界か」


「な……!?」

 勢いよく振ったはずの剣が彼の手に触れると粉々になり、圧倒的なその強さを拝見するしかできなかった。


『サモン』


 神技によってヴァンパイアが立っていた床から生物か無機物か判別不能ものが彼女の体を拘束すると、ボスは自分の腕を斬り付け彼女の元に近付いた。


「な、何をするつもりだ!?」


「簡単なことだ、私の血を直接貴様に届ける、そうすれば貴様は晴れてヴァンパイア・ロードに復活できる」


「馬鹿な、そんなことしても___」


 ______!!


 次の瞬間、ヴァンパイアの胸部にボスの血に染まった手が突き刺さり、彼の血液が直接的に体内の中枢組織に伝わった。



「ああああああ……!!」

 その瞬間、彼の血液に体が侵食されている感覚が直に伝わった。

 体の拒絶反応が気が狂いそうになったが血液の相性が良いのか、やけに簡単に慣れあいながら侵食している感覚のようであった。


「あ、あんた、まさか……」


「恐らく今思っている通りだ、貴様と私は同属、『サタン』と言えば分かるか?」


「サ、サタンだと……!?」

 彼女が驚くのも無理もない、何故ならサタンと呼ばれる悪魔は最強種の中でもトップレベルの実力を持つ恐れ多き存在なのだから。


「がは……!!」

 サタンが胸部に植えた手を抜くと、一時的に血が溢れるが彼女の不死身の能力により次第に風穴も再生していくのだった。


「これから一日一回貴様の体に血液を投与する、一回で馴染むとは思えないしな」


「……上等だわ、どうせ死ねないんだし。好きなだけ私を甚振ってみてよ」



「ああ、それが生かされた貴様としての使命なのだからな」




 ロストシンボル、彼らの手によって繰り広げられる最悪の出来事までは、まだ先の話である_____




 番外編 完







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