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神の技

 -廃墟の館 新介サイド-



「はあ……はあ……」

 先が見えない道を延々と走っていると、いずれ新介は一つの大きなドアに辿り着くのだった。


「ここに結がいるのか……?」

 いいや、間違いなくいるだろう、何故ならこの通路はガルシャワが必死で通行を阻止しようとしていた道なのだから。

 そして新介は何の迷いもなく、大きな両扉のドアを力よく押し出すことで部屋に入った。


「……!?」

 部屋は広く、奥の窓ガラス寄りにあるベッドには何食わぬ顔で寝る結の姿があった。

 新介は急いで彼女のもとに駆け寄り手を掛けるが、ユピテルが張っていたはずのバリアは何処にも存在しない。


「俺が運べるようにするために、直前で解除したのか……?」

 そんなことより早く結を連れ出してここから逃げるのが得策だった、が――



「____!?」

 突如として発生した殺気を真っ先に察して、新介は後ろに後退すると少しばかり腕を斬られていることに気付かされる。


「おっと、見破られたか」


「お前は……!?」

 透化していた体と剣が自然と浮かび上がると、銀髪に黒のローブを着た印象深い容姿が浮かび上がりはっきりとその正体が分かり得た。


「ヴァンパイア……!?」


「まさかここまで追いかけてくるとはな、吸血を待っていた甲斐があったってものだ」

 ヴァンパイアは現在結が眠っているベッドの付近に立っており、バリアがない状態の彼女は非常に危険な状態だ。

 一刻も早く結を救助しなければ。と感情ばかりが先走る新介だが、この状況で冷静になろうとする方が難しくあった。


「そんなに殺気だった表情をするな、心配しなくても寝床を襲ったりしないよ」


「んなもん信用できるかよ!!」


「だから、メインディッシュは後に取っておくものだろ?その前にお前という前菜を楽しむ必要がある……」

 ヴァンパイアは結のベッドから離れ新介のもとに近付いたことから、本当に彼は結の寝床を襲うつもりがないことを確認する。


「それじゃあ一つ質問だ、確かにお前は殺したはずだが、どうして今も立っていられる?」


「俺の主人様は神技の使い手でな、そいつに掛かればどんな傷も治してくれんだよ」

 するとヴァンパイアは何かに納得した表情を見せるが、恐れる仕草などは全くと言っていいほど見せる素振りを見せなかった。


「そうか、だが今眼前にいるのはお前だ、実力差は歴然ということは十分その身で理解したはずだ」


「ああ、俺とお前では天と地ほどの差がある、だがそんなのは問題じゃない」


「何?」

 実力差は歴然だからといって、素直に結を渡すことなど新介の考えにはなかった。

 自分の妹を救う、ただそれだけのために彼は何度だって命を張ってきた。

 だから恐れない、絶対的な脅威を目の当たりにしたとしても新介だけは逃げることをしないと誓ったのだ。


「お前が道を阻むなら、それを退かすまでだ」


「……良い目だ、お前とは勝負をしたくなった」

 すると部屋の中に透化され床に突き刺さっていた剣が大量に出現して、新介の周りを覆うように配列されていた。

 これがヴァンパイアの能力の一つ『剣製』、セントラルでの戦闘で新介が生命の危機にまで追いやられた面倒な能力だ。


「好きな剣を使え、そしてこの私を楽しませろ」


「……チッ」

 新介は素直にサイドに突き刺さっていた剣を一本抜き取り、ヴァンパイアの正面に立ち塞がり改めて対峙する。


「……!!」

 体内にゾオンエネルギーを放出してそれを自分の足元に向け収束させる。

 が、今回のエネルギー量は何時になく少なくてユピテルらしくなく弱弱しいものに違いない状態だった。


「一時間前にも同じことをやっていたが、その程度の出力で私に勝てると思うのか?」


「さあな、だがやってみないと分かんねえだろ!」

 足元にゾオンエネルギーを収束させて、新介は一気にヴァンパイアの懐まで距離を詰め剣を構える。


「……馬鹿が、そんなの同じことの繰り返しだ」

 ヴァンパイアは透化した剣を三本真正面に刃先を向け、新介が懐に入った瞬間に体が串刺し状態になるように設置した。


 _____!!


 しかし新介は瞬時にゾオンエネルギーを体外に放出してヴァンパイアの目を眩ませた。



「っ……!?」


「言っただろう、やってみないと分からないって」

 ヴァンパイアが目を開けた時には羽織っていたローブの背中部分が剣で斬られており、彼は完全に新介に遅れを取ってしまう。


「馬鹿な!!確かに透化した剣を潜めていたはずだ、なのに何故!?」


「同じ手に二度引っ掛かる馬鹿が何処に居るんだよ。それに気付いたんだよ、お前の能力のデメリットがな」


「何だと……!?」

 新介に攻撃を受けてしまったヴァンパイアは彼に初めて恐怖に似た感覚が宿り、多少ばかり注意を計らうように向かい合う。


「お前の能力は物体や人間なんかを透化することだ。だが俺は一つ仮定してみた、もしお前の能力が物体の透過率を自由に操作してるものなら、物体はそこにあるはずだろ?」


「まさか、お前……!!」


「ああ、ゾオンエネルギーを直前に放出しさえすれば、かわされている空間に剣は存在してるってことだ」

 瞬間的にゾオンエネルギーを放出することで透化された剣の位置を見極めかわしている種を露にされ、ヴァンパイアは高貴の悪魔として侮辱を思い知らされることとなった。


「人間風情が、攻撃が届いたぐらいで好い気になるなよ……!!」


「っ……!!」

 異様な殺気を感じた新介は瞬間的にゾオンエネルギーを放つと、そこには透化された剣が数十本彼の周りを満たしていた。



 ________!!


 透化された剣が一斉に新介の元に降り注ぐが、それもまたギリギリのところで回避する。

 が、逃げた先にヴァンパイアが接近して所持していた剣を振るが、新介は自分の剣でそれを受け止めた。


「このままだと潰れるぞ?」


「チッ……」

 新介は体勢を崩した状態でヴァンパイアの剣を受け止めていたため、彼の馬鹿力から既に床に体を密着させた状態であった。


「退け……!!」


「っ……!?」

 その時新介はゾオンエネルギーを纏った足で剣を蹴り上げて、ヴァンパイアの剣を粉砕することで劣勢を回避する。

 そしてそれは同時にチャンスを作り出し、現在ヴァンパイアの懐はノーガードの状態で新介はその近くにまで接近していた。


「そこだ!!」


「……!?」

 新介は大きく剣を振り下ろしヴァンパイアの体に刃先が当った感覚を覚え、確実にとらえたと思ったはずだった。が



「え……?」

 確かに新介の剣は彼の体に届いていた。だがヴァンパイアの体はその剣が貫くどころか切り傷一つも付けられずにいる。

 鉄の剣が生物の皮膚に敵わないなど、甲殻類でない限りあり得ないと思えていた新介は一気に絶望へと誘われてしまう。


「そ、そんな馬鹿な……」


「言ったはずだ、人間は悪魔には勝てないと___」





 ______!!



 現実を受け止めきれない新介にヴァンパイアは強烈な膝蹴りを受けさせて、軽く肋骨の骨を二本粉砕させた。


「がは……!!」


「貴様はどうやっても私には勝てない、なのに何故お前は運命に抗おうとする……!!」

 新介が振りかざした剣を奪ったヴァンパイアは、そのまま剣を振り下ろし彼の胴体を深く斬り付けた。


「っ……!!」


「これで終いだ」

 先程まで透化されていた剣が可視化され放たれるが、新介にそれを避けきるだけの気力はなく二本の剣が両肩に突き刺さり壁に押し付けられた。


「あ、あああ……!!」


「自分自身の浅はかな考えでここに来なければ、圧倒的力に反抗しようとしなければ痛い思いをせずに過ごせたはずだ、何故分からない?」

 ヴァンパイアは剣成の能力の応用で剣を原子レベルにまで分解すると、両肩を負傷した新介はそのまま壁際の床に倒れてしまう。

 敵の猛攻に再び負傷を負う新介、やはり付け焼刃の戦略では格の違いは拭い切れないことが照明された。


「諦めろ、そして自分の無力さを呪え」


「……はは」

 付近にまで近づいて来たヴァンパイアに向かって、腕の末端の筋肉だけでユピテルから渡された十字架を彼の目に入るように見せ付けた。


「どうだ!!ヴァンパイアは十字架に弱いのが鉄則だろ!?」


「……訂正しよう、貴様は救いようがない程の浅はかな考えの持ち主だ」



 グシャ_____!!



 新介が持っていた十字架はヴァンパイアの剣により破壊されてしまい、そして持ち合わせていた右手にも大きな傷を負い血飛沫が噴出する。


「うあああ……ああが……!!」


「確かにヴァンパイアは十字架に弱い、だがその程度の十字架で私の効力を妨害できるとでも?」

 既に新介は全ての策を使い彼と戦った、しかしそれでもヴァンパイアという大きな壁には太刀打ちできなかったことから自分の不甲斐なささえも覚えてしまう。



 ____「お兄ちゃん……?」



「……結!?」

 眠りから目覚めた結は部屋の周りを見渡すと、傷だらけで血塗れの兄の姿を一望して思わず絶句してしまう。


「嘘、何よその傷……?」


「来るな……!!」

 今結をこちら側に来させたら間違いなくヴァンパイアの餌食にされてしまう。

 少しでも興味を自分自身に向けなければ何もかも遅くなってしまう、だから少しでも____



「……気分が変わった、メインディッシュはお前に取っておくとしよう」


「……!?どういうことだよ!?お前何考えて……」

 しかしヴァンパイアは新介の言葉に耳を傾けようとはせずに、結が座っているベッドの方向を足を運んでいた。


「え、いや……来ないで……」


「まずはお前を食して、それからあの男を殺してやる」


「やめろ……!結には手を出すな……!」

 敵である彼には勿論新介の意見を利く義理もなければ義務もない、だからこそより悪魔らしく人間に対して非常に振舞えたのだろう。


「やめて……!!いやあああ……!!」


「さあ見ていろ!!自分の妹が目の前で殺されるところをな!!」


「や、やめろおおおおお……!!」

 そしてヴァンパイアは結の首元を噛み吸血を始めると、体の血液は徐々に失いかけて彼女はもう恐怖を通り過ぎ泣くこともしなかった。


「クソ……!!動きやがれ……!!」

 新介は何度も自分の体に鞭を打ち付けて体を動かそうとするが、大きな負傷を繰り返した体は自分の意思に反して動くことを本当的に拒絶し始めた。


「吸血完了だ」


「う、嘘だろ……結……?」

 結の体は倒れている新介の元に投げ出されると急いで腕だけを使い彼女の元へ近寄った。

 しかし彼女は既に朦朧の意識の最中であり、血液もほとんど持っていかれたのか体重も異様に軽質量に感じた。


「お……兄ちゃん……?」


「結!?」


「ごめん、私最後の最後まで迷惑掛けちゃったみたい……」


「何が最後だよ、まだお前は生きてるだろ……」

 だが新介も薄々感付いていた、このままでは結は確実に死ぬだろうと。


「自分の命の終わり時ぐらい分かるよ、私もそんなに馬鹿じゃないってば……」


「……何言ってんだよ、どうして死ぬんだよ……」

 新介の無念も虚しく結の生存率はほぼ皆無にまで下がっていった。

 もはや生命活動など機能しているはずがないのに話していることすら奇跡の状態であった。


「お兄ちゃん、最後までありがとう……」


「やめろ……やめてくれ……」

 次第に新介の目には涙が浮かび、それに続くように結の目にも少量の涙が浮かんだのだった。




「大好きだよ、お兄ちゃん……」

 それだけを言い残すと、彼女は静かに目を閉じて息を引き取った。






 _______!!



 ヴァンパイアのベッドには大きな黒い靄が体を覆い、彼はさらなる高みである王の存在に登り上がろうとした。



「はは、ははははは!!これがヴァンパイア・ロードの力だ!!最高だ、久しぶりに生きた気分を取り戻したぞ!!」

 ヴァンパイアはヴァンパイア・ロードとなり、手始めとして床に倒れている新介の元へと一気に距離を詰めようとした______




 ______!!



「ッ……!!クソ、何だこれは……!!」

 まるで何かの線が切れたかのように新介の周りを多量のゾオンエネルギーが覆い尽くし、それはヴァンパイア・ロードすら押し切る程の風力も発生していた。



「許さない……お前だけは絶対に……」

 ___結を殺したこいつだけは許さない、体が動かなくなろうが、バラバラにされようが必ずこいつだけは殺してやる_____


 殺す、殺してやる、絶対に____!!


「馬鹿な、何故体が動かせる……?」

 新介の体は限界に達して動かなくなっていたはずなのに、多量のゾオンエネルギーを放ち始めると再び立ち上がることも可能になった。


「いや違う、あれは纏わり着いているゾオンエネルギーで無理矢理動かしている……」

 そして新介は余ったゾオンエネルギーを一箇所に収束させ始めると、自分が立っている足場に術式が浮かび上がる。


「神技、だと……?」

 目の前であり得ないことが起こったことにより、ヴァンパイア・ロードはこれ以上ない程に驚きを隠せないでいた。


「はははは!!面白いぞ人間!!やはりメインディッシュは最高の素材でなければな、さあ来い、神技の構えってやつを取らせてやるぞ」


「……」


「どうした、来るなら来い」

 すると新介はヴァンパイア・ロードの元に手を向けると、彼の体は一瞬にして凍結してしまい身動きが一切取れなくなった。


 ――(ノーアクション……!?いや、床に発動した術式を暴発させているのか?そんな芸当がこの人間に……それに、この能力は凍結系か?しかもこの凍結度はかなり上位の代物だ……)



 しかし二つ目のヴァンパイアの読みは間違いであり、新介の覚醒した能力は凍結系ではなかった。



 ______!!



「ッ……!?」

 部屋に突き刺さっていた剣が全て溶け出して、次第に新介の頭上に集まり形を形成し始めていた。



 ――(違う、これは凍結系神技なんかじゃない、こいつは物質の温度自体を操作してるんだ……!!)



「さっきよ、その程度の十字架じゃあ効果がないって言ったよな?」


「_____!?」

 新介の頭上に浮かぶ全長三メートルはあるのではないかと思える程の十字架を一望し、思わずヴァンパイア・ロードも圧倒的な恐怖というものを感じてしまう。


「なら、これぐらいの十字架ならお前に届くか?」


「や…め……やめろおおお……!!」


「敵に同情はいらねえよな!!」

 そして新介は巨大十字架を凍結したヴァンパイア・ロードに突き刺すと、氷結の色は血色で満たされ彼の姿は溶け出してしまう。


「ば、かな……人間如きに……王となった私が負けるだと……」



 ______!!



 突き刺された衝撃により粉砕した氷結は溶け出した血色の液体とともに勢いよく噴出して、新介の文句なしの勝利で戦いは幕を閉じたのだった。


「はあ……はあ……」

 開放したゾオンエネルギーを完全に使い切り、術式が消滅すると新介の体はそのまま床に倒れようとする。

 しかし彼が床に体を打ち付けることはなく、その前に突如として現れたユピテルが新介の体を支えていたのだ。


「全く、無茶しよって……」


「ユピテル様、それはお互い様かと……?」


「う、うるさい、わらわは既にゾオンエネルギーを取り戻してるから良いのじゃ」

 ユピテルは慎重に新介を床に寝転がせて治療を試みようとする。

 既に新介の体は瀕死の状態であり、肋骨二本粉砕、胴体に一箇所の切り傷、両肩それぞれの刺し傷、そして右手には見るのが痛々しい程に肉の裂け目が露になっていた。


「これは酷い……よくもこんな状態で勝ったものじゃ……」


「生きていることも奇跡ですね……」

 急いで神技の構えを取り、彼の傷を回復しなければ命にも関わる程深刻な状態なのは間違いないと察して再生系の神技の構えを取る。



『エムーシェ』


 新介の体は見る見る再生していき、皮膚も筋肉も血液も元通りに戻っていくのだった。



「……あれ、俺何してたんだっけ……」

 結が目の前で殺されてからの記憶が何かに吹き飛ばされたようにぽっかりと無くなっており、次に起きた時には体の傷が回復していたことに驚きを隠せないでいた。


「起きたか新介」


「ユピテル、それにサリエル……お前等……」

 ようやく助けが来てくれたのかと思うが、辺りを見渡すとそこにはヴァンパイアと思われる姿が無くなっていることに気付かされた。


「ユピテル、気を付けろ!きっとまた透化してるに違いない!」


「何を言っておる、あれは御主がやったことじゃろう?」


「え、やったって___」

 新介は前を見ると、そこには巨大な十字架と大量の血液だけが床に残っていることに気付きヴァンパイアが消滅したことを察した。


「まさか、嘘だろ……俺が殺ったのか……?」

 ノーマルスタンスであったヴァンパイアの状態ですら足元にも及ばなかった相手のさらにパワーアップした存在を無意識のうちに自分が葬っていた。

 俄かには信じがたい、まるで神の力でも働いたかのような感覚に襲われてしまう。


「記憶に無いのか?容赦なくゾオンを持って行くから何事かと思ったのじゃがな」


「てか、あれ本当にユピテルのゾオンエネルギーなのか?何か随分と弱弱しかった気がするけど……」


「ユピテル様がゾオンエネルギーを回復されている間は私が間接的に供給していた……弱弱しくて悪かったな……」

 途中放出量が著しく下がった理由を聞くとようやく辻褄が合い納得するが、それよりも血液のほとんどを持っていかれた結が死亡しているという事実を素直には受け止め切れなかった。


「……畜生」

 ユピテルは新介の目線の先を確かめると結が横たわっていることに気付き、念の為脈を確認するが元々血液がないことが分かると一つの提案をすることにした。


「新介、御主はこの結果を素直に受け止め切れないか?」


「当たり前だろ、こんなの望んでなんかない……」

 ヴァンパイア・ロードには勝てた、だがそれは勝利という結果だけであり結を助けるという目的を達成することができなかった。

 望まない結末、だからこそこの状況を打開させる力を望んだ。


「そうか、ならチャンスを与えてやる」


「え?」


「結を蘇生させる方法ならある、御主も気付いておるじゃろ」

 それはかつて新介も体験した禁術である『フラグメント』を使うことが彼女を蘇生させる方法だということは察しがついたが、それは同時に彼女を賢者として完全にこちら側に取り込む好意であった。


「こいつも、賢者にしろってのか……」


「それは御主次第じゃな、さあ早くするのじゃ」


「早くするって、何を?」


「こやつを生かして賢者にするか、このまま殺させておくか早く決めるのじゃ」

 どうにもその言い回しは結の命を弄んでいるようで好きではなかったが、方法がある以上十中八九前者を選択すべきなのは分かったいた。

 だがそれは同時に結を賢者にするということだ、彼女もまた新介と同様の道を進み再び命を狙われる可能性だって十分にあり得た。


「……それで彼女が助かるなら、助けて欲しい」


「……良かろう、御主の大金星に免じてもう一度禁術を発動してみよう」

 ユピテルは仰向けに倒れている結に向けて神技の構えを取り術式を発動すると、通常の神技での術式とはスケールも複雑さも違う模様が刻まれている高等術式が姿を現した。


「はあああ___!!」


「ッ……凄い、あれだけの量のゾオンエネルギーが一気に集中している……」

 やはり禁術と言っても過言ではない程にユピテルは術式に体内のゾオンエネルギーを食われてしまい、現在の幼体の体では一度使っただけでもヘトヘトになる代物のようだ。



『フラグメント』


 術式は閉じられユピテルは膝を床に付けるが、彼女に何ら目立った変化は見受けられなかった。


「結……!?」

 新介は急いで結の元へ駆け寄ると、彼女は静かに目を開いて吹き返すのだった。

 それと同時に手から赤い光が放たれて、結の手の甲にも新介と同じ賢者の紋章が浮かび上がる。


「……お兄……ちゃん……?」


「ああ、そうだ」


「ここ、天国……?」


「違うよ、俺は正真正銘のお前の兄貴だ、お前は生き返ったんだよ……」

 もう一度、再び結と話すことができた、今思えば喧嘩してふざけ合った日々が幸せなのだと深く実感した。

 結は生きてる、それはこんな突飛な世界に紛れた込んだからこそ成し得たことだ。

 そう思うと新介は自然と目に涙を浮かべてしまい、急いで止めようとするが既に自分の意思ではどうすることもできなかった。


「もう……駄目かと思った……お前を死なせたと思ってしまった……」

 すると新介は仰向けに倒れている結の体を起こすと、その体を抱きしめてユピテルやサリエルの前で固く誓った。


「いつか元の世界に戻れる日まで、今度こそお前を死なせたりなんかしない、だから、強くなるよ俺」


「……そうだね、一緒に強くなろうよ、そしたら私もお兄ちゃんを助けれるかな?」


「……ああ」

 もう二度とあんな思いはしたくない、もう二度と家族が苦しむ瞬間を見たくない、だからこそ強くなりたい。

 大切な者を守れる力、自分を守れる力、その両方を手に入れる為に新介は強くなることを誓った。


「さてと、兄妹揃って不純異性交遊しているところ悪いのじゃが、そろそろ帰らせてもらってもよいかの?」


「いやお前どんだけ空気読まないの?あとその言い方やめろよ」

 二人共いい感じな雰囲気で熱い兄妹の絆をアピールしていたのだが、ユピテルは疲れたのかそそくさと帰りたいようだ。


「ヴァンパイア・ロードを倒して天狗になっておるのか知らんが、天界にはあやつを超える悪党などわんさかおるわ」


「そ、そんなの……分かってるよ……」


「いいや分かっておらんの、守る力が欲しいならまずは自分でゾオンエネルギーを供給することからじゃ、わらわが一から鍛えなおしてやる」

 ユピテルの助言は適切なものであり、奇跡的にヴァンパイア・ロードを倒したからといって天狗にならず努力を怠らなければ力を手にすることができると述べているのだ。


「んなもん分かってるよ!いつかはチャチャっとそこら辺の神にも勝てるように強くなってみせる!」


「ほう、口だけは達者な様じゃな」

 そんな大口を叩く中、何やら先程から静かな結に一つだけ抱いた疑問をぶつけることにした。


「そう言えば結」


「ん?」


「何か死ぬ間際、俺のことが何ちゃらって言ってなかったか?」


「い、言ってない言ってない!!何のことかな!?」


 死ぬ間際結は確実に何かを自分に伝えていた、だが新介は覚醒状態からの記憶障害でどうにも前後の記憶にも支障がきたしていた様子だ。



「そうか、まあいいや」


「何をしておる御主達、そろそろ帰るぞ」

 ユピテルが拠点まで続く空間転移の術式を開き帰りは一瞬で戻れるシステムを構築していた。


「それじゃあ行くか」


「うん」

 ユピテルとサリエルに続く形で新介と結が術式に足を踏み入れると、四人は一気に空間を飛ばされて後に術式は静かに閉ざされるのだった。


 _____

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