奪還の序章
しばらく時間が経過すると、痛みは自然と体から消えていくのが分かった。
その代わりとして眠気に襲われるが、体のかったるさからしてそれは何ら拒む物ではない。
だが、ここで本当に眠っていいのか、敵を追わずに目を瞑ってしまっていいのかという罪悪感に一瞬襲われてしまうが、それすらもどうでもよくなってしまい考えることをやめてしまう。
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「……え」
気が付けば見慣れた壁が視界全体を覆い、新介はすぐに自分達のアジトだと判断できた。
だが何故ここにいるのか、自分がどうして生きているのかが不思議で仕方なく本当に生きているのかも懐疑してしまう。
「な、何で俺がここに!?」
「起きたか、新介」
目覚めと同時に起き上がるとそこには椅子に座り本を読むユピテルが見受けられ、自分はベッドの上で上半身裸の状態で寝ていたことに気付かされた。
「外傷四箇所、うち二箇所は臓器にまで損傷が及んでいるとは、酷いやられ様じゃのう」
「ユピテル、まさかお前が助けてくれたのか?」
上半身の腹部を見ても傷一つ残っていない、これだけの治療をこなせる者としては彼女しか傷口を再生してくれた存在はいなかった。
またユピテルに助けてもらった、これで何度目だろうか、考えるのも嫌になる。
「御主の生命反応が著しく下がったのでな、何かと思い強制的に拠点に転送したらこのザマじゃ、昨日の今日で疲れ気味だと言っておるのに、これだけの傷を再生するのは苦行じゃな」
「……結は?」
「既に御主の周りにはいなかったはずじゃ。御主のその傷からして、ヴァンパイアに拐われたというところか?」
「……!?何で、何でそのことを知ってんだよ!?」
意識を戻してから一度も結がヴァンパイアに拐われたことなど言っていない、そのはずなのにユピテルは何か知っているような口振りでそう話した。混乱していた新介は何に対しても疑心暗鬼になってしまう。
「御主の外傷は間違いなく刃物により突き刺されたものじゃ。しかも何本も、こんなことができるのは剣を生成することができる奴のヴァンパイアの能力と思ったまでじゃ」
「じゃあ何で!あそこにヴァンパイアが現れることを教えてくれなかったんだよ!?」
「……教えるのを忘れていたまでじゃ」
考えたくもなかったが、これまでのユピテルの言動を不審と捉え疑いざるを負えない状態にまで追い詰められ新介に余裕など見受けられなかった。
「まさか、俺達を囮にヴァンパイアを誘き出そうとしてたのかよ!?」
新介があらぬ罪をユピテルに被せようとした時、彼の首元に冷たい物が当っているのが直に伝わった。
この世界に来てから何度も体験したはずの刃物だ、そしてこの中で刃物を扱えるのはただ一人___
「サリエル……何の真似だ……?」
「あなたがあまりにもユピテル様を愚弄していたから……思わず手が出たの……」
「っ……結をどうするつもりなんだ、あいつをヴァンパイアに明け渡してどうするつもりなんだよ!?」
もはや冷静さなど保つことなどできない程に新介は心を乱しており、サリエルの鎌にも恐れる素振りを見せることなく反抗を続けていた。
するとそのことを見越したユピテルは新介が座っているベッドにゆっくりと接近する。
______!!
次の瞬間、ユピテルの幼い手から新介の頬に向かって平手打ちが放たれた。
その小さな手から放たれたとは考え難い程に強力で、そして何より先程までとは違い目が冴え渡ったような気もした。
「目を覚ましたか、新介」
「……」
あまりの衝撃で第一声も放てなかった、今まで自分は何を見てきて何を思ったのかも一瞬分からなくなり自然と心がスッキリした気分になる。
「お、俺は……」
「今回の『二人で中心街へ向かえ』という命令には大した意図はなかった。単に御主らが家族団欒を過ごすことを願い命令したまでだったんじゃ」
だが偶然か必然か、深夜に出現するはずのヴァンパイアが夜の始まり頃に現れて結を捕えた。
今回のできごとにはユピテルの作為的なことは何もなく、ただ二人の為に設けた機会だと言っても過言ではなかったのだ。
「わらわは味方を餌にするような行為はしない、それだけは断じて誓う」
「……すまなかった、疑ったりして」
実際先程の追及は自分にも過失があったことを認め、新介は素直に謝ることにした。
冷静になった新介は、ユピテル達の話に耳を傾ける。これから結を助けるにしても、彼女達の手助けは必ず必要になるからだ。
「話は後じゃ、今は一刻を争うはずじゃが?」
「そうだ!俺がここに来てからどれぐらい経った!?」
「約一時間じゃな、時間が経つごとに生存時間が下がっている、今のところは50%ってところじゃな」
時は一刻も争う緊急事態だということには変わりなく、新介達は一秒でも早く結の居場所を特定して奪還せねばならなかった。
「クソ……だがどうやってあいつの居場所を特定したら……」
「あまり、わらわを見縊らないことじゃな」
自信有り気な表情を浮かべて、まるで何か策でも講じれるかのようにユピテルはニヤリと笑った。
いや、この場合は確信という意味合いだろうか、結の場所を特定することへの絶対的な根拠のようなものを持っていたに違いない。
「個人の居場所を特定できる神技がある、それを使いさえすれば簡単なことじゃ」
「本当か!?ならさっそく……」
「しかし特定には少々時間が掛かる、だが今は一刻を争う事態じゃ、こんなところで立ち止まってるわけにはいかない……」
少しずつ特定しながら道を進むしかない、それだけが彼女の奪還を成功させる方法でもあった。
そうとなればすぐさま行動、新介はベッドから立ち上がると体に不自由はないか確認を怠らない。
「新介、御主には少し働いてもらうぞ」
「え?」
ユピテルが一体何を企んでいるのか今の新介には到底分かり得なかったが、自分にできることなら何でもする勢いでその要望に乗るのだった。
_______
‐セントラル ラグーシャ方面住宅街‐
新介、ユピテル、サリエルの三人は結の居場所を特定しながら目的の場所に向かっていた。
「今度はどっちだ?」
「右じゃ、そして二十メートル先の曲がり角を左に行け」
新介とサリエルはユピテルの指示を忠実に従いながら向かうが、新介の足取りは次第に重たいものに変わってくる。
「て、てか、何でお前を背負わないと駄目なんだ!?」
「仕方がないじゃろうが、今わらわは結の居場所を特定するので手一杯なんじゃ、空間転移すら碌に使えない状態じゃ」
幼体の状態が功を奏したのかさほど重みではなかったが、子供一人分の負荷を抱えた状態で長距離の走るのはかなりの重労働だった。
「そこを左に曲がれ」
「了解!」
「あ、すまぬ逆じゃったわ」
「何!?じゃあこっちか!」
まだ正確な位置を特定できていないのかナビゲートを間違えることもあるようだが、それでも今はユピテルしか頼りになる存在がいないことには変わりなかった。
「よし、特定できたぞ!」
「本当か!?何処にあんだよ!?」
「二時の方向一キロ先、廃墟の館じゃ」
すると新介は二時の方向を見つめると一際大きく建っている館を薄っすらと視界に入れて、ユピテルが続くように手の構えを変えて別の神技を発動した。
「あそこか……!!」
正確な場所が分かると走るスピードを上げようとする新介だが、既に体力が底を尽きかけている状態でペースを上げるのは困難な状態であった。
「新介、わらわは少し寝ておく、着いたら起こしてくれ」
「は!?ちょ、お前!!」
しかし彼の静止を聞くことなく、ユピテルは新介の背中でぐっすりと寝てしまう。
正直この場で寝てもらうのは心もとないので起こそうとした、が____
「寝させてあげて……」
「……でもよ」
サリエルは無口な唇を開き、どうしてユピテルを今休ませなければならないのかの説明をしようとする。
「ユピテル様は疲れているの……昨日の戦闘、今日のあなたへの治療、そして先程の結への防衛神技の遠距離発動で……」
「防衛神技?」
「気付いてなかったの……?先程ユピテル様は結の居場所を特定こなし……そして生存を確認した上で遠距離での発動をした……」
ユピテルのゾオンエネルギーの負担は著しく、この先の奪還作戦の為にも彼女には少しでもコンディションのいい状態で挑んで欲しかったのもあり素直に手を引いた。
「サリエル、どうして結があのヴァンパイアとかいう奴に連れて行かれたか分かるか?」
「恐らく彼女が王の器だから……」
「王の器?」
「グリモワールの悪魔という存在にヴァンパイアは点在している……だけど、彼の本来の姿は王の器と呼ばれる血液を吸血することで成れる『ヴァンパイア・ロード』の姿……その王の器の適合者が彼女だっただけの話……」
結がヴァンパイアに狙われている理由、それは彼女が王の器と呼ばれる血液を保有していることにあったのだが、新介はそれだけでは納得がいかず更なる疑問も浮かび上がる。
「ちょっと待ってくれ、何つーか、それって出来過ぎた話じゃないか?」
仮に結が王の器の保有者だとしても、何かのきっかけで異世界に召喚された人間が特異体質だったなんてアニメの中だけの話であって現実ではあり得ない。
そもそも王の器とは何か?保有者とはどういうことなのか?何故結がピンポイントでその特異体質を兼ね備えていたのか?
そう考えただけで新介の脳内は疑問に満ち溢れてしまい、受け取り難い現実に直面していることを切実に思い知らされる。
「簡単な話……今回のヴァンパイアの強行には協力者がいるということ……」
「……協力者だと?」
その時、新介の中の未知領域が糸をめぐらせて、全ての繋ぎ目を上手く結んで行くように自然と出来事が繋がっていった。
「まさか、最初からグルだったってことか?」
「恐らく……」
ヴァンパイアに協力する者、自身が王になることを望む者、利害が一致したこの両者が協力して王の器の保有者である結をこちらへ連れてきた。
新介はあくまでもおまけの存在であり、彼女の近くにいた結果巻き添えを受けただけに過ぎなかった。
「……クソ、だからって、何で俺達が巻き込まれないと駄目なんだよ」
「天界には保有者がいなかった……だから人間界を頼るしかなかったのかも……」
あの日結だけが飛ばされていたらと思うと、一人でも何もできなくいまま彼女を死なせたことになっただろう。
だが今は違う、まだ彼女は生きている、生きている限り全力で救い出す。
「待ってろ、俺が絶対……お前を救ってみせる……」
「……急ぐわよ……」
彼らの陰謀を阻止するため、新介達が向かっている廃墟の館は目前の建物にまで近付いてた____
_______
-廃墟の館 -
「ここが……」
近付いてみるとかなり大きく、そして少々不気味な館に新介は思わずたじろいでしまう。
「……ん、着いたか?」
「ああ、てかさ、一つ質問していい?」
「ん、何じゃ?」
寝起きのユピテルは新介の背中から抜け出し、ほんの数十分休めた体を伸ばしながら質疑応答に応じようとする。
「こ、これ、絶対ヴァンパイア以外の何かが出るだろ?」
「何じゃ新介、御主は魑魅魍魎の類は苦手か?」
「ば、そんなわけないだろ、入りゃいんだろ入ったら……」
ユピテルに笑い者にされそうになりすぐさま館の扉に手を掛けようとしたが、敵のアジトに何の策も講じずに入ることが無駄だということに新介は気付いてなかった。
「ば、馬鹿者!罠でも仕掛けられていたらどうするつもりじゃ!?」
「……いや、何もないみたいだぞ?」
念のためユピテルが扉をチェックするが、やはり入り口となる部分には術式の類の痕跡はなくほとんどノーガードの状態だった。
「おかしい、ノーガードのような無用心なことがあり得るのか……?」
「まあいいだろ、どっち道俺達は困ってないんだからよ」
そうやって新介は先程の幽霊苦手説を無きものとするために、恐怖をかみ殺しズカズカと中に入っていくのだった。
「……暗いな」
暗い中目を見開くと次第に中の様子が一望できたが、そこはエントランスホールのようなもので広い空間が広がり、中央には何処までも続いていそうな程長い通路のみがあり先に進むにはそれぐらいしか行けそうになかった。
___ピー……
「おわ!な、何だ?」
「何を驚いておる、ただのコウモリではないか」
ユピテルの言う通り頭上にはコウモリが飛び交い、まるで三人を威嚇するかのように泣き叫んでいた。
だがこれには新介も怯むことはない、何故なら彼らは廃墟に住み着いているだけのコウモリであちらに敵意はないだろうと思い込んでいたからだ。
「さてと、先に進むにはあそこの通路を通るしかないみただな。それじゃあ早速行くか」
「___!?新介、避けるのじゃ!!」
「え?」
すると新介の斜め上前方の一匹のコウモリが突如として術式を発動して、それにのまれるように体を蝕まれていた。
そして新介に向かって黒の鋭利物が飛んでいき、彼はギリギリのところでそれを避ける。
「な、何だこいつら!?」
「気をつけろ!こやつらはグリモワールの悪魔の魔獣じゃ!」
「ま、魔獣!?こいつらがヴァンパイアと同じ種だってのか!」
しかし魔獣は湧いてくること止めることなく、その度に自分の体と引き換えに棒状の鋭利物を飛ばされる状況に新介はかわすしかできなかった。
「新介、サリエル、耳を塞ぐのじゃ!」
「了解!」
「承知……」
二人が耳を塞いだことを確認すると、ユピテルは手の構えを取り神技を発動しようとした。
『プラディメア』
エントランスホール全体に強烈な音波のようなものが放たれ、超音波に慣れているはずのコウモリが床に倒れていき体が灰となっていった。
「……死んだのか?」
「コウモリでも許容できない程の音波を発した。耳が良すぎるのも考え物じゃな」
実際コウモリは反響定位で物を見ているらしいので、耳が潰されたのはかなりの痛手だったようだ。
「――全く、正面突破とは随分と余裕だな?」
「誰だ!?」
正面の通路の上にある二階の通路から覗き込むように三人を見下ろす男は、ヴァンパイアとは似ても似つかない容姿の者だった。
そしてその男が指を鳴らすと、暗転としていたはずの空間に光が差し込むようにエントランスに灯りが点される。
「それはこちらの台詞だ、ここはお前らガキ共が入っていい場所じゃない、まあ見られた以上既に生きて返すことはしないがな」
「……違う、ヴァンパイアじゃない……?」
「なるほど、御主は確かラプンツェル首長のガルシャワだったかの」
しかしユピテルは眼前の相手が誰なのか明白に分かっていたようで、彼女の言動にガルシャワも思わず怯んでしまう。
「どうして御主がヴァンパイアの件に加入しておる?結を異世界に召喚したのは貴様か?」
「……なるほど、ただのガキではなさそうだ、如何にも私はヴァンパイアに協力している組織の一員だ」
「組織じゃと?」
「たった三人で敵のアジトに忍び込んできた無能さに敬意を示して教えてやろう、事の真相をな……」
ガルシャワは左手に付けていた手袋を外すと、そこには新介に刻まれた賢者の紋章とは違う全く別の紋章が刻まれていた。
「……!?その紋章は!!」
「ああ、ロストシンボルだ」
驚くのは無理もなかった、何故なら彼らは世界最大の反政府組織であり最も危険な種の犯罪組織でもあったからだ。
「ユ、ユピテル、何のことだ?」
「……ロストシンボル、イカれた奴等の集まりじゃ、だがまさかあやつらがヴァンパイアに関わっていたとは……」
ロストシンボルが象徴とする紋章の源は神の紋章にバツを書き込む堕天紋章にあった。
通常神の称号を持ち得た者には体の何処かに象徴とされる紋章が刻まれている、だが何らかの理由で称号を剥奪された者にはバツと印された紋章を刻まれてしまう。
そこから彼らは組織力を拡大するにつれて、ロストシンボル加入者に堕天紋章を刻ませていたのだ。
「さてと、種明かしはここまで、これからはお前達の始末の時間だ」
「な……!?」
二階から多くのコウモリの魔獣が飛び出して、エントランスの頭上には再び彼らによって満たされてしまった。
「まだ湧いてきたのかよ、クソ……」
「新介、御主は先に行け!ここはわらわ達に任せるのじゃ!」
確かにここで立ち止まっている訳にはいかない、結を助け出すためにも圧倒的に空中戦闘が不利な新介が先に進むのが得策と見れた。
「分かった!お前達に任せる!」
「ちょっと待て、これを持ってくのじゃ」
するとユピテルは新介に向かって何かを投げつけるが、何やら十字架のペンダントのようなものだった。
「お守りじゃ、取っておけ」
「……あいよ」
新介はそのまま中央にある通路に向かってエントランスから離れようと走り出した。
「逃がすか、これでも受けてみろ」
しかしガルシャワは目の前の敵を見す見す逃すような真似はせずに、新介に向かって手持ちの十字架を投げつけた。
「な、何だ!?」
「まずは一匹、仕留めた!」
_____!!
その後投げつけられた十字架は大きく光輝いて小規模な爆発を引き起こした。
煙が徐々に引いてくると、木製の床を抉るように爆発は威力を発揮していたが新介の姿は見受けられない。
「バーカ、そんな小規模な爆発で俺を仕留められるかよ」
「躱されただと!?」
新介は直前にユピテルのゾオンエネルギーを発動し足場に収束させることで、人並みを超えた脚力を床にぶつけて一気に通路まで吹き飛んだ。
「ユピテル、後は頼んだぞ!」
「行かせてたまるか、この計画は失敗など許されないのだ!」
急いで新介を追おうとした矢先に、ユピテルの神技によるエネルギー弾により注意をエントランスに向けなければならなかった。
「何を余所見をしておる、客人には最高のおもてなしをするのがマナーじゃろ?」
「クソガキが……!!」
ガルシャワは通路に逃げた新介の追跡を諦め、眼前にいるユピテルの処置を優先することにして懐から新たなる十字架を取り出す。
「十字術、ラプンツェルのプロテスタントが使用する独自の術法じゃな」
「その通り、この私がヴァンパイアの監視役に配属された理由はただ一つ、もしヴァンパイアが暴走すれば十字術で抑えられるからだ」
十字術はプロテスタントと呼ばれる宗教軍人が使用する超自然技の一つである。
十字架を使うその術法は光と十字架を苦手とするヴァンパイアには効果的であり、監視役をガルシャワに選別したのは得策と言えただろう。
「なら問おう、御主らはヴァンパイア・ロードを生み出して何をしようとしている?」
「愚問だな、そんなの決まっているではないか、ヴァンパイア・ロードを生み出してまずはセントラルの住人の血を喰らい尽くす」
「なるほど……目的は天界への混乱か……」
あながち予想こそはしていたが、いざそのことを聞くと耳が痛くなってきた。
だがそれは同時にユピテルを心の底から侮蔑し憤りを覚えるような回答であり、彼を倒すには十分過ぎる言質を取ることに過ぎなかった。
「さあ、お前には素直に死んでもらおうか!」
ガルシャワの指示により魔獣が一斉にユピテル達の元へ近付き、術式を発動し攻撃態勢に入ろうとしていた。
「サリエル、魔獣を倒せるか?」
「承知しました……」
サリエルは自分の武器である大鎌を召喚して、魔獣が攻撃を発動する前に斬殺することにより灰と化した。
「さあ、御主の相手はわらわがするとしようかの」
「図に乗るなよ、ただのガキのクセしやがって……!!」
ガルシャワはユピテルが足を着いている床に四本の十字架を打ち込み、彼女を囲むように同一間隔での配置を投げただけで軽々と成功してみせる。
『十字封印』
ユピテルの足場には十字の光が浮かび上がり、そこから上に伸びるように影が張りユピテルの体に纏わり着いた。
「どうだ、今お前は動けないはずだ、いずれ足場の光に体が持っていかれ封印される、生も死も存在しない無の空間にな」
「……所詮はこの程度というわけか」
「何?」
次の瞬間、ユピテルの周りが放出されたゾオンエネルギーで満たされ、地面に食い込まれていた十字架を吹き飛ばすことにより自分の体を縛り付けていた影を追い払った。
「馬鹿な!!私の十字術が破られただと!?」
「口を慎めよ三下」
「……!?」
彼女の周りを漂う特異質なゾオンエネルギーと、紛れもない殺気を放った眼光に子供とて恐怖を覚えざる負えなかった。
その時ガルシャワは確信した、『こいつに殺される』と_____
「ガルシャワよ、わらわにロストシンボルの情報を提供するのなら特別に逃がしてやろう」
「ば、馬鹿言うな!!そんなことしたらどっち道俺はボスに殺されるだけなんだよ!!」
「……そうか、判断を誤ったな」
グシャ_____
ガルシャワが自分の体に起きた異変に気付いた時には、既に自分の左腕が肩から無くなっており勢いよく血が噴出していた光景が流れていた。
「あ、あああああ……!!」
「わらわに殺されるか、ボスに殺されるか、一体どちらが残虐になるかの?」
あまりの痛みで倒れ込むガルシャワは、瀕死の状態で2階の奥に続く通路でこの場を逃げようとした。
「逃がすか」
ユピテルは二階に駆け上がり、彼が必死に右腕だけで逃げようとしている床に目掛けて術式を発動した。
「な、何だこれは!!体が地面に……」
するとガルシャワの体は次第に地面に吸い込まれ、体中の感覚も無くなっていくのが伝わっている様子が窺える。
恐怖に慄く彼の姿をただ傍観するユピテル、一連の計画に加担したガルシャワを生かす義理はないと徹底的に追い込んだ。
「時空間転移……とは言えど、この体では碌に特定した世界に飛ぶことができない、だから御主も何処か知らぬ空間に強制転移されてしまう」
「い、嫌だ!やめてくれ!俺は死にたくない……!!」
ユピテルは笑顔を見せて彼の誤解を丁寧に訂正しようとする。
「死にはしないじゃろ、ただ死より恐ろしい経験をするまでじゃ」
「……そのピンク色の髪色、並外れた神技の使い手……まさかお前……!!」
しかし彼女の正体に気付いたところで状況が変わることなどなかった、逆にそれは余命わずかの数秒を使って愚論をかわすことと何ら意味合いは変わりない。
「ぜ、全能神ユピテル___!?」
「安心するのじゃ、御主等の組織は必ずわらわが潰す、お前達は生かしてはおけぬからな__」
ガルシャワの最後の言葉と共に術式は閉じられて、小規模な衝撃波のようなものが放たれた後に彼の体は完全に消失した。
「……!!」
次々と湧き出る魔獣のコウモリを大鎌で斬っていくが、一体一体丁寧に殺していくには手に余る程の数には違いなかった。
_____!!
数十匹の魔獣が一斉に術式を発動して、サリエル目掛けて放たれた黒の棒を大鎌で防ごうとする。
「っ……!!」
しかし数の利によりあちらが勝ってしまい、一つだけ防ぐことができず左肩を斬ってしまった。
「……もはや力を温存している場合ではないか……」
その時、サリエルは大鎌を右手だけで持ち左手で神技の構えを取った。
それは即ち神技発動の合図、彼女もまたそれを使いこなすことができる神の一人だった。
「死神家、奥義――」
魔獣達が次々と術式を発動して攻撃を放出しようとしたその時、サリエルの大鎌の刃には漆黒のエネルギーが収束されていく。
そして次の瞬間、目には見えない程の高速で放たれた斬撃により魔獣たちの動きが一時停止した。
『亜空連斬』
術式を発動しようとした魔獣達はその役目を全うすることなく、サリエルの大鎌での奥義により全てのコウモリ達が死滅した。
「ご苦労だったな、サリエル」
「いいえ……この程度の敵なら大したことではありません……」
ユピテルはサリエルが負けることなど万が一にも無いとは思っていたが、傷付いた左肩を見て彼女もまた呪いに掛けられていることを思い起こされた。
「その肩、大丈夫か?」
「平気です……医療系の神技なら私も使えるので……」
「そうか……それならよか……」
ユピテルはサリエルの元に身を任せてしまい、自分のエネルギー消費量の大きさに思わず驚きを隠せないでいた。
「ユ、ユピテル様……!?」
「はあ……まさかここまでゾオンの減り具合が早いとはな……やはりこの体は何かと不便じゃ……」
昨日からユピテルは立て続けに神技を発動しており、何度も新介の体に治療を施し大きな術も発動していた。
今の彼女の体ではせいぜい実力の二割程度しか出せない状態であり、先程の時空間転移によりほとんどのゾオンエネルギーを使ってしまっていた。
「わらわとしたことがしくじったな……つい感情に囚われてしまった……」
「ユピテル……様……」
「サリエルよ、わらわは置いて行き新介を追うのじゃ」
ユピテルの命令は忠実に従うサリエルだったが、今回ばかりは首を縦に振ることをしなかった。
「私の役目はユピテル様の命をお守りすることです……主人が瀕死の状態で先に行く賢者などいません……」
「何を言っておる……まだこの館にはヴァンパイアが……」
サリエルは決して新介を見殺しにしようとは微塵も思っていない、彼女の余裕はもっと別のものにあった。
「大丈夫です……新介はきっと結を助け出します……」
「……御主も相当馬鹿じゃな、彼奴を過信し過ぎじゃ」
ユピテルはサリエルの膝枕のもとゆっくりと目を閉じて、サリエルもまたゾオンエネルギーが枯渇状態にあるユピテルに少しだけ自分のゾオンを送るのだった。
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