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兄妹としての契り

 目覚めると手元に僅かな違和感があり、背後を振り向くと鎖のようなもので壁際に拘束されているのが伝わった。

 霞む視界の中何が起こったのか脳内を掘り起こすと、自分があの男に麻酔薬のようなものを体内に注入されたことを思い出して状況を推測する。


「おはよう、目覚めはどうだ?」


「……最悪だよ、まさかお前達に身柄拘束されるとはな……」

 状況は最悪で想像したくもなかったが、恐らく盗賊団に身柄を拘束されたことを真摯に受け止める。

 辺りは高級そうな机やソファなどが配置されており、新介の周りには盗賊団の団長と思われる男と結の姿があった。


「お前は一体何度俺のビジネスを邪魔したら気が済むんだ?前回で十分恐怖というやつを体現したと思ったんだがなあ」


「引き下がるわけないだろ、人の妹勝手に洗脳されて引き下がるほど俺は臆病じゃねえ!結を救ってお前に腹パン一発かましてやるよ……」


「……エミル、木刀を貸せ」


「はい」

 団長の命令に忠実に従う結は木刀を手渡し、彼はそのまま拘束された新介の体を木刀で叩く。

 そしてすぐに打撃を受けた箇所が赤く腫れ上がり、何の装備もしていない新介に強烈な苦痛が襲った。


「っ……うぐあああ……!!」


「どうしたあ、俺に一発入れるんじゃなかったのか?これじゃあ先にお前が死んじまうぞ!」


 何度も何度も新介の体を木刀で甚振り、見るのも痛々しい程に体中に血が滲む。

 そして木刀を振り疲れた団長は一度手を休ませて、新介の攻撃を一時中断するようにした。


「はあ……お前もしぶといな、こんだけくらって意識持ってんだから大したもんだ」


「っ……」

 もはや言葉を吐くこともできないのか、新介はぐったりと頭を下に向けて顔面から伝った血を床に垂れ流すしかできない。

 痛い、全身が悲鳴を上げ、次第に思考力すらも削ぎ落とされてしまう。



「___アイス」


「は?」


「昔、お前のアイス食っちまった時あったよな、仕方なくコンビ二で同じ物買ってきたら馬鹿みたいに喜んで……」

 か細い声で話し始めた新介は何を言っているのか、黙々と二人に向けて思い出話のような雰囲気で刻々と語り続けた。

 この危機的状況で口走るにはあまりにもそぐわない内容に、団長の男も首を傾げてみせる。


「河川敷でお前が大切にしてた熊のワッペン無くしたとかで泣きじゃくってた時も、俺が必死こいて探してやったよな、結局見つからなかったけど、それと、テスト前日の日一緒に徹夜して中学の時初めて十位以内行かせてやった時、歓喜極まりすぎて俺に抱き着いて来たよな……」


「さっきから何を言ってる!また私に対する戯言か!?」

 新介の不可解な言動に結は真っ先に反応して、彼もまた下を向いていた顔を前に向けて何か強い意思のようなものを感じさせる。


「お前が俺のことを知らなくても、俺はお前のことを知っている、お前が道を外したら俺が正してやる、それが兄妹だろ……?」


「……何で、何で、私はあなたに、何も与えてないはずなのに、どうして……」


「何も与えてくれなくていい、なんて言わない、だがな、そんなことで兄妹見捨てたりはしねえよ……」

 それは紛れもなく本心であり、綺麗言の建前などない新介自身の妹への思いだった。

 しかし再び彼女の首元にあるネックレスが輝き始めて、記憶が戻るのを抑制しようとする神技が発動していた。


「無駄だ、こいつに言葉なんて届かねえよ」


「……いいえ、しっかりと届いたわ」


「っ……が……!!」

 だが結は頭を押さえるような素振りを見せることはなく、団長の背後から所持していた鞘で頭部を強打させると首元のネックレスを自分の手で引き千切り床に捨てて、エミルの時には見られなかった笑顔すら窺える程に人格が復帰するのを見て新介は安堵する。


「馬鹿兄貴、どんだけ昔のこと言ってんのよ……」


「そんなに俺の思い出話が心に染みたかよ、泣いてるぞお前」

 懐かしき自分を見据え感慨深くなったのか、結の目には確かに涙が垂れ流されていた。


「べ、別に、目にゴミが入っただけだし……」


「そうかよ、相変わらず言い訳だけは得意みたいだな」

 これで一件落着と思われたが、結にとってはどうして新介がゾオンエネルギーを体に纏い攻撃を防ぐような行いをしなかったのが疑問でいた。


「ねえ、何であのエネルギー纏うやつやらなかったの?」


「思ったさ、だがこれは最後の手段だった、どうやら引き出せるエネルギー量も限られてるみたいだからな」

 賢者の特権である主人が貯蓄しているゾオンエネルギーを引き出すことは出来るが、それはあくまでも一部だけの話だった。

 既に発動していた為に後何度使えてどれぐらい仕えるのかさえも分からなかったので奥の手として隠し持っていたのだ。


「何となく分かったけど、無理しないでよね?自分の身が危険になった時ぐらい一人で逃げるとか考えてよ」


「お前を助けるチャンスを見逃すことなんてできるかよ、それに……」

 こいつには聞きたいことがあった、何か少しでも知っていることを聞き出せたのなら自分自身が召喚された理由も分かると踏んでの行動でもあったのだ。

 新介の助けたいという思いには、兄妹としての防衛本能と現状理解へのヒントになるようなものを欲するものでもあり、少なくとも前者のほうの目的は達成できそうであった。


「いや、それより早くこの鎖を外してくれ、体中痛いからよ……」

 新介の体は既に傷だらけであり、極度の痛みによるストレスから体がぐったりとし言葉にも覇気が感じられない状態だった。

 結はそのことを察して、急いで鎖の部分を刀で切断しようと構えた、その時___



「__!?後ろだ結!!」


「え……っ!!」

 先程まで倒れていた団長が立ち上がり、結が後方を振り向いた矢先に首元を掴み体ごと持ち上げる程の力で頚部を握り締める。

 その力に必死で抵抗しようとするが、彼女の力でもビクともしない程の力を賢者の石で放出していたのだ。


「全くてめえはよ、碌に任務はこなさねえわ簡単に上司を裏切るわ、せっかく拾ってやったってのに利用価値ゼロじゃねえか!」


「やめろ!!結を放せ!!」

 先程まで覇気がなかった声は吹き返したように戻り、結を放すように必死で訴えかけるが彼はまるで新介の言葉など聞こうとはしない。

 それどころか縛り付ける力は次第に強くなり、彼女の口からは呼吸をしようと必死に唾液を垂れ流そうとしていた。


「こいつの兄貴だっけか?さっさと諦めて死に様だけでも拝みやがれ!」


「お、お兄……ちゃん……」

 賢者の石によって発動した増大系神技により腕力が上昇して結は静かに目を瞑り意識が遠のくのだった。


「やめろおおお!!」


「っ……!!」

 しかし新介はユピテルのゾオンエネルギーを体に纏い壁に固定していた鎖をぶち切ると、そのまま団長の横腹に向けてタックルを受けさせて机のほうまで吹き飛ばす。

 結は意識を失った状態で床に倒されるが、そんなことなど尻目もせずに団長のほうを見据え殺気を飛ばしていた。


「もっとだ、もっと力を……」


「お、おい待てよ、ここで暴れたら団員達が挙ってここに来るぞ!?」


「黙れ……お前は結を……結を殺したんだろ!!」

 体外放出されているゾオンエネルギーの量から危険を察した団長は命乞いをするが、もはや聞く耳持たずの新介には戯言としか思えないことであり、今の彼にとって重要なのは結を殺したのは眼前の男だということだ。


「な、何だよ、そのゾオンエネルギーは……こんな量、神レベルじゃねえか……」


「うおおお……!!」


「っ……!?」

 新介が拳を構えた瞬間、団長も必死に身構える、が___



「___な、何で……」


「え?」

 新介の周りに放出されていた大量のゾオンエネルギーは姿を消しており、数秒後に腹部の内部から何かが破裂するような痛みに襲われる。

 そして痛みとほぼ同時に新介は吐血して床に倒れ込んでしまい、立ち上がるどころか体を動かすことも出来ずに団長の目の前で無惨に倒れてしまう。


「がは……ああ……」


「は、はははは!!何してんだよてめえ!?急に吐血して倒れてるとか頭イカれてんのか!?」


「っ……そんな……」

 自滅した新介を容赦なく頭部を踏みつけて挑発する団長にも抵抗できずに、まるで生きた屍の如く拒むことすらできなかった。

 体の大事な箇所が何箇所も無くなった様な感覚は痛みという名の絶望に近いものであり、ただひたすら新介に大して自分の無力さを痛感させる媒体と為すしかなかったのだ。


「おらおらどうしたあ!?お前の妹を殺した男はここにいるぜ!?」


「くそ……お前なんか……」


「ぎゃはははは!!負け惜しみかよ、惨めだな!!」

 まるで呪いでも掛けるかのような殺気を放つが、今の新介には現状を打開するだけの策はなく次第に瞼が重たくなっていく感覚に襲われる。



 ___ああ、もう駄目かもしれない。



「だ、団長!!緊急事態です!!」


「何だ、今楽しい所なのによ」

 新介が気を失い掛けたその時、一人の団員が部屋に入ると険悪な表情で何かを伝えようとする。

 すると気分を害された団長は彼の頭部を踏みつけることを止め、団員が入って来たドアの方へと体を向けた。


「な、何者かが、我々のアジトに___」



 ______!!



 次の瞬間、廊下を炎に包むほどの爆撃と、開いたドアから流れる爆風により団員は体ごと燃えて、団長も向かい側の壁に叩きつけれられてしまう。

 そして炎に包まれた廊下から一人、何度も見たピンク色の髪と幼児体形の少女が大胆にも登場するのだった。


「ユピテル、なのか……?」


「さっきの爆音が良い目覚ましになったみたいじゃな、まだ寝るでないぞ従属よ」

 ユピテルはうつ伏せで倒れていた新介を仰向けにして、彼の腹部に手を当てることにより体の状態を診断しようとする。


「内臓が破裂しておる、わらわのゾオンエネルギーを引き出し過ぎじゃ」


「な、何だよそれ……聞いてねえぞ……」


「おや、言っておらんかったかの?ならついでに教えておく」

 ユピテルは神技の構えをとり治療をしながら、今後新介がこのようなことを起こさないように内蔵が破裂した原因を丁寧に説明することにした。


「物を集めるためには器が必要じゃ、通常天界の人間にはゾオンを貯蓄する臓器がある、じゃが御主は例外の種じゃな」

 大気中のゾオンエネルギーを術式に収束させて神技を放つには、ゾオン自体を体内に貯蔵する臓器に一度経由してから放つ必要がある。

 普通ならゾオンエネルギーは自動的に体内に貯蓄されて、貯蓄量が満タンになった時点でストッパーが掛かるシステムの為に臓器自体が破裂するなどまずありえない。


「しかし御主は例外じゃ、人間界の人間には貯蓄するスペースがない、じゃから御主がわらわの力を引き出す時は他の臓器に無理矢理貯蓄していた」


「何か……駄目なのか……?」


「御主自身には問題は今まで見られなかったみたいじゃが、それは同時にストッパーが効かないということじゃ」

 とても器に収まり切らないゾオンエネルギーを引き出した時、ストッパーとなる物が無い新介は常に爆弾を抱えているようなものだった。

 結果的に収まり切らないエネルギーを引き出した結果、体内の臓器が破裂する結果となってしまったのだ。


「ほれ、もう治った」


「……でも、結が……」


「何を言っておる、そこの娘なら気を失っているだけじゃ、脈もあるし息もしておるわ」


「え、ほ、本当か!?」

 急いで結の元に駆け寄ると、ユピテルの行った通り脈拍も確認できて呼吸もいつの間にか吹き返していたようだ。

 と言うのも、ただ能天気に寝ているようにも見えたが、「ふへぇ~……お兄ちゃんは全部が二刀流なんだね~……」という寝言がどうにも脳内で復唱を繰り返して離れようとしなかった。


「……ったく、絞殺させられかけてよくこんな呑気に寝言言えるよな、俺の妹ながらやっぱこいつ馬鹿だ」


「何を言っておる、その馬鹿な妹を命がけで助けようとした御主も相当な馬鹿じゃな」


「まあな、我ながらこんな世界に来てから感覚おかしくなってたわ」

 ユピテルにとって、敵城で呑気に寝ている結も、それを助けに来た新介も同じ様に馬鹿で仕方のない存在には違いなかった。


「___ざけんな!!」


「な、何だ……!?」

 新介が驚きを隠せないでいたのも無理はなく、何故なら爆風で壁に押し付けられていたはずの団長たる男が怒りからかコンクリートの壁に窪みを開けていたのだ。

 それも素手での所業であり、とてもじゃないが単なる人が出来ることではなかった。


「……ったくよ、どいつもこいつもクズばっかだ、仲間は使えねえし、命拾ってやった上に側近の座に座らせたってのに主に刀向ける奴はいるし、何度も何度も邪魔してくるガキも素直に死んでくれねえしよ!!」

 何度も何度も壁に握り拳を叩きつけて、その度に衝突音が大きくなるごとに怒りが込み上げてくるのが伝わる。

 が、しかし、新介は少なくとも恐れることをしなかった。それは恐怖よりも怒りが感情を支配していたからだ。


「お前こそ、俺の妹をクズ呼ばわりとは失敬だな。一度鏡見てみろよ、テメエが一番クズだってことが顔だけで分かるだろうからな!」


「……はっ!もういいや、俺の堪忍袋も限界だ、お前ら生きて返さないからな」

 すると団長は賢者の石を右手に持ち、大きく手を振るう構えを取る。

 それはまるでこれから攻撃をする気がまる分かりであり、あくまでもユピテルの前から逃げ出すようなことはしなかった。


「その手に持っている物は賢者の石じゃな、素直に渡してくれたら命までは取らんぞ」


「馬鹿かお前!誰だか知らねえが、ここは子供の遊び場じゃねえんだよ!」


「……そうか、貴様は本当に救いようがないの」

 すると団長の右腕に三つの術式が発動して、新介のようにはっきりと緑色のエネルギー体が自分の体に漂っているのが目視できた。


「新介、結と後ろに下がっておれ。こやつはわらわが殺る」


「お、おう……」

 新介はすかさず寝ている結を下がらせて、自分はユピテルの背中を見ながら彼女の取る行動を見守るようにした。


「来い若僧よ、わらわの手で葬ってやろう」


「若僧はテメエだろうがよ!」


 _______!!



 猛烈な衝撃音により新介は思わず塞ぎ込んでしまうが、団長の右腕から放たれた神技効果発動のパンチはユピテルに直撃しただけは直感的に推測できた。

 だが爆風で飛び散った塵が明けると、そこには攻撃を受けたはずのユピテルが何事も無かったのかのように二本の足で立っていた。


「耐えた……?いや……」


「じゅ、術式だと!?」

 ユピテルの前方には術式が張られており、壮絶なエネルギーで放たれたはずの団長の攻撃を見事耐え忍んでいた。


「温いな、賢者の石の力はこんなものか?」


「馬鹿な、何でお前が神技を!?」

 しかしユピテルは彼の質問を返す労力すらも惜しく感じ、発動した術式で彼を背後の壁に押し付ける形にした。


「や、やめろ!!このままじゃ……」


「死ぬじゃろうな、じゃがそんなもの今まで御主が傷付けた者と比べれば取るに足らないものじゃ」

 術式の圧力は徐々に増していき、団長も次第に壁に減り込んでしまう。

 しかしユピテルは止めることをしなかった、それが悪事を働いてきた彼への粛清のつもりだったからだ。


「ま、待ってくれ!金ならいくらでもやる!賢者の石だけじゃなく今まで手に入れてきた宝なら全部やる!だから、だから殺さないでくれ!」


「それが貴様の選んだ道のはずじゃ。本当に救いようがない程、醜いな」


「ク……クソがああああ……!!」

 ユピテルの前方の壁は大きく破壊され、団長のほうから体が破裂するような音が聞こえアジトの大半が破壊された。

 そしてユピテルは瓦礫の中から賢者の石を探し出して拾い上げると、これまで異常に大きく輝きを増してい様子であった。



 バキ____



「……ち、やはり偽物じゃったか」

 偽物の賢者の石は大きく亀裂が走り、物質として燃えるように塵と成り始めていくが、ユピテルは石が消滅する前に自らの足で踏み潰したのは少しでも怒りを消費したかったからだ。


「あっぶねえな!普通に瓦礫被ったじゃねえか!」


「元々一度目の爆発で大分痛んでいたようじゃな、まあ御主のことじゃから今更死にもしないじゃろ」


 ユピテルは心配もせずにグッドジェスチャーを取るが、彼女の無茶は正直もう懲り懲りだ。

 だがユピテルが到着しなければ危なかったのもまた事実、本当に感謝しかない。


「そうじゃ新介、結は大丈夫か?」


「へ?」

 この時新介は忘れていたことを思い出していた、降り頻る瓦礫の中結を庇うように上に被さり今に至っていることを。

 そして彼女が何処にいるのかも、それだけ分かれば十分推測できたことだった。


「い……たい……あれ、私何を……」


「よ、よう、おはようさん、目覚めはどうだ?」

 新介が結を押し倒している形で目覚めてしまい、最悪のタイミングで大きな誤解を招くような態勢のまま彼女の視界に入ってしまったのだ。


「き、きゃあああ!!」


「……!!」

 新介は結から強烈なパンチを腹部に受けて、彼女の横で悶え苦しんでしまう。

 そしてユピテルも新介の痛み悶えている様子を面白おかしく見えおり、その面目からは全能神というより大悪魔のような表情が読み取れた。


「ぐは……やべえ久しぶりにお前のゴリラくらったわ、これ絶対また内蔵破裂した」


「人のパンチをゴリラってとか言うな!後パンチぐらいで内臓破裂するわけないでしょ!?骨ぐらいは折れるだろうけど」


「いやその凶暴な発想がやっぱゴリラってはっきり分かるんだな」

 再会早々そんな兄妹コントを繰り広げていると、ユピテルは思わず滑稽に思ったのかその場で笑ってしまう。


「やはり御主達はいい兄妹じゃな、いや、今の場合夫婦(めおと)のほうが気が合うかもな」


「いやその発想は駄目だろ!?」


「そ、そうよ、私達はただの兄妹なんだから……」

 二人は急いでユピテルに向けて弁解をするが、彼女の仮面を被った狡猾さはやはり今でも計り知れないものであった。


「どうかな、ここの世界では兄妹の求婚を縛るものは何も無い、御主らがその気なら身を結ぶのもあるかもしれんぞ」


「っ……」


「冗談じゃ、向こうの世界では罪じゃったな」


 かなりグレーなジョークを飛ばすユピテル、その価値観と理念には新介でも首を傾させる何かがあると言えた。

 しかし結は一連の会話を耳にしていると、自然と気を散らしている様子だった為にすかさず新介が話し掛ける。


「結、どうした?」


「お兄ちゃん、こいつ誰だっけ?」


「誰彼構わず話してたんだな、さすが俺の見込んだ馬鹿だ」

 新介は相変わらず脳内が変わっていない結に対して溜め息をつかず負えなかったが、何一つ変わらない本当の彼女に会えたことに心から感情が溢れているのを感じた。


「話は後じゃ、派手に暴れ過ぎて警務部隊が駆けつけてしまう、結はどうするのじゃ?」


「え?」


「わらわ達に着いてくるかということじゃ、だが着いてきたら最後安住はないと思え」

 大げさな表現で恐怖を与えているわけではない、事実上政府に目を付けられている自分達に着いてくるなどまさに自己責任の行為であったからだ。


「よく分からないけど、私はお兄ちゃんに着いていく、今度は私がお兄ちゃんを守る番だから」


「結……」


「だって、お互いに支えあうのが兄妹でしょ?お兄ちゃん」

 まるで前のセリフを復唱するように、彼女もまた兄の為に役立つことを為そうととする。

 それが新介と結を縛る兄弟としての契りであり、切っても切り離せない絆のようなものである。


「たく、世話焼かせやがって、こんなのいくら守ってもらっても割りに合わねーよ」


「へへ、でもありがとう」

 一度は命を狙われたこと、内臓が破裂して死にかけたこと、そのことに関して言えば確かに割に合わない物もあった。

 だがそんなものは副次的な産物に過ぎない、例えどんなに小さいものだったとしても、また兄妹と馬鹿みたいに会話をできるだけで新介は少なくとも幸せでいれたのだから。





 __________



 同刻 セントラル中心街



 ここは世界の中心街、だが深い夜は誰一人として街に出ているものはいない。


 ただし例外もいる、だがその例外は間違いなく吸い尽くされてしまう_____




「誰か……助けて……」

 背後には何もない、だが彼女は見えない殺気からただひたすらに逃げていた。

 曲がり道を使い逃げようとすると、殺気こそは無くならなかったが少しは追う者から遠のいた気がする。


「お願い……どっか行って……」


「「小声で言っても丸聞こえだぞ、何故なら常に私は君の横にいたのだからな」」


「___!?」

 振り向いた時には既に遅く、透明化した追う者の存在は女性の首元を噛み吸血し始めた。

 次第に体の自由は失われ、ここは何処なのか、自分は誰なのかも分からなくなる。

 それは紛れもなく、血液が体から無くなっている証拠でもあったのだ。



「___違う」

 血液を飲み干した男はまだ足りないのか、吸血衝動が収まるどころか亡者のように血液を欲しがっていた。


「私の欲してる器じゃない。何処にあるのだ、私を王と為す器は……」

 まさに血を食らう化け物は、女性の遺体を地面に捨てるともう一度姿を透明化して身を隠すのだった。




 ________





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