敵意としての再会
オークション会場の扉は武装したルナ・シャドウの団員が塞いでおり、パーティーに出席していた資本家や金持ち達は外に出れないようにされた。
「三秒以内に賢者の石を渡せ、でないと我々は一斉射撃を開始する」
「な、何を言ってる!?賢者の石など迷信のはず……」
「三秒経過、射撃開始__」
_______!!
仮面を付けた結の指示の元、撃ち方を構えていた団員が一斉に射撃を開始すると銃声の轟音と人間の悲鳴が会場中に響き渡った。
「っ……ユピテル!?」
「安心せい、このぐらいの攻撃神技で防げる」
ユピテルが神技を発動して新介に銃弾が届くのを食い止めるが、先程の一斉射撃で銃弾を受けた負傷者も現れて場はより混沌と化していた。
そして相手方が次の攻撃を放つ前にユピテルは反撃を開始しようとして、その場にいる人間の中で一番盗賊団の前で表立った。
「御主等、運営側が用意したイベントではなさそうじゃな」
「誰だ貴様は、立ちはだかるなら容赦はしないぞ」
「ほう、御主が新介の妹か、中々肝が座っておるな」
この時初めて結と相対したユピテルは彼女の体を一目見て異質さに気付いてしまう。
「そのペンダント、脳を支配する神技が掛けられておるな。御主の本来の意思はないのか?」
「……私はボスの命に従うまで、任務を遂行するまでだ!」
結はユピテルを尻目にステージ上に向かって走り出すが、ユピテルは新介の妹であることを思ってか彼女を下手に止めようとはしなかった。
「に、逃げるぞ!!あいつらには話が通じない……!!」
運営側の人間は急いでステージ外側に身を隠そうとするが、司会の男に目掛け結は装備していた刀を壁に投げ刺して翻弄させる。
そして男が腰を落としている時にもう一つの刀ですかさず殺意を込めた刃で襲いかかろうとした、その時__
「っ……この……!!」
「っ……!?お前は!?」
結の刀が振り回された瞬間、新介は司会者の前に立ち塞がりゾオンエネルギーを体に放出した状態で白刃を取ったが、彼女の鍛えられた腕力にエネルギーを纏っていても押しつぶされそうになった。
「ちょうどいい、この前の借りを返す!!」
「……お前はいい加減、その仮面取りやがれ!!」
刀を緩めようとしない結に対して痺れを切らした新介は仮面に向けて頭突きを受けさせた。
そして賢者の特権で身に付けたユピテルのゾオンエネルギーを解除して、肉親である結と真っ向から向き合うようにする。
「ちっ……」
「どうして顔を隠す、そんなに実の兄と顔を合わせたくなくなったか?それはそれで傷付くけどな……」
「だから、お前など知らんと言ってるだろうが!」
仮面は粉々に剥がれ落ち結の顔が露になるが、依然として実の兄である新介の記憶を思い出そうとしなかった。
それどころか敵対心すら無くならず持っていた刀で新介を斬りつけようとさえする。
「おい結!危ないだろ!」
「だから私は結ではない、エミルだ!」
「ならエミルさんよ、こっちは話し合おうとしてるってのに聞く耳持たずして殺す気か?盗賊集団じゃなくて殺戮集団の間違いだろ」
「これが私達のやり方だ、欲しい物は力尽くで奪う」
「後その服露出度が高い服装は何だ!その格好で男誑かしてるならお兄ちゃん許さないからな!」
「私はいつからお前の妹になったんだ!?あとそれは何の心配だ!?」
新介は結の気を引いて後ろに隠れている男を逃がそうとすると、幸いにも兄妹として息ピッタリのやり取りを見せて完全に後ろの存在を忘れていた。
司会者の男もここをチャンスと思ったのか前方の二人が兄妹漫才をしている間に四つん這いに成りながらも少しずつステージ外側に逃げようとする。
________!!
「____!?」
しかし新介が逃がそうとした男は眉間に弾丸が命中しており、床に汚れた血を垂らしながら即死の状態で倒れてしまう。
「いけないなあ、賢者の石を持ったまま逃げようなんて僕達の目の前で通用するとでも?」
「お、おいお前……!?」
新介は男の状態を確認しようとするが、ピクリとも動かない彼に脳内で『死』の一文字が確かに浮かび上がる。
そう思った瞬間ゾッとして遺体を乱暴に離してしまう、もちろん人の死体など碌に見たことすらなかったからだ。
「賢者の石は確かに我々が貰った、もうここには用はない」
「お、お前……っ……!!」
司会者が持っていた賢者の石を盗賊団の一員だと思われる男が回収して立ち去ろうとした時、新介は彼の歩みを止めようと全速力で距離を詰めようとするが道中で結に膝蹴りを腹部に入れられてしまう。
「エミル、お前はまた下手を犯そうとしたな?」
「……いいえ、何ならここでこいつを殺してもいい」
「いや、余計な死人は出さないほうがいい、そいつは捨てておけ」
新介は空手初段の膝蹴りをまともに受けてしまい悶え苦しむ中、二人は目の前の彼を殺さないという最終決議に行き着いた模様だった。
そして二人は賢者の石を回収して、ステージ外側に姿を眩ますのだった。
「ま……待ちやがれ……」
「装填完了、ぶちまかせ!!」
会場で強化銃の銃弾を装填し終えた団員が一斉に引き金を引き、新介は身の危険を真っ先に感じステージ上で伏せるようにして銃弾を避けようとした、が、彼どころか会場にいる金持ち達にもその銃弾は当ることはなかった。
「ユ、ユピテル……?」
ユピテルは神技の防壁を発動して会場全員を銃弾から守り、彼女自身は弾道を曲げさせて無傷の状態であった。
「ここはわらわに任せてさっさと追うのじゃ、あやつらなどに絶対賢者の石を渡すな!」
「分かった、そっちは任せたぞ!」
「御主こそ無理はするな」
ユピテルは会場内にいる団員を相手取り、新介は結を追うためにそれぞれ背中を向け合うように足を動かすのだった。
「さて、そろそろお主達を片付けるとするかの、お主等相手じゃ一秒持てば良いところじゃ」
「面白れえじゃねえかよ、誰だか知らねえが殺し甲斐があるってもんだ」
するとユピテルは今まで身にまとっていた認識阻害の神技を解除すると、これまで封じ込めたオーラが突風を吹くように現れて団員にも明らかなる異質感を感じさせる。
「……あれ、こいつってこんな姿だっけ?」
「おい、てか桃色の髪色って……まさか……」
「「遅いな」」
僅か一瞬、本当に一瞬のうちにユピテルは団員の背後に回りこんでいた。
そして彼ら自身も後ろに回られたことに気付かずにいて、ユピテルの一声でようやく状況が把握できたのだ。
しかし、もはやそれは手遅れという言葉の意味を象徴するものでしかなかった____
グシャ_____
「な……んだ……と……?」
接続していた頚部が神技により斬殺が可能になった腕によって斬られ、十数名の団員は血飛沫を噴出しながら会場の床に倒れていくのだった。
「一秒も持たなかったな……」
しかし会場の扉を盾にしながら廊下側にいる盗賊団の団員はユピテルを食い止めようと必死に応戦するが、彼女にとって弾丸など何でもない。
「安心するのじゃ、今隠れている奴等は殺したりしない、何人かは確保しなければならんからの」
「ちっ……舐め腐りやがって……!!」
「さて、今度は何秒持つかの?」
辺りは戦場となっているにも関わらず、彼女は一人何処か懐かしそうな趣きで戦いを楽しんでいる。
それは力が制限されているからこその感情の表れであり、ユピテルはその戦いの高揚感を忘れまいと敵の元に飛び込もうとするのだった。
________
薄暗い通路の中、新介は結の後を追うようにただひたすらに建物の真っ直ぐな道へと走行する。
「……結なのか?」
「だから違うと言っているだろ、私はエミルだ」
すると影から姿を現すように結は前方から出現し、まるで新介を待っていたかのような雰囲気で向かい合うように立っていた。
これまでとは違い敵意も感じられなければ殺気のようなものもなく、少なくとも今は油断していても問題なさそうだったので多くの事を結に聞こうとする。
「お前は本当に何なんだ、どうして私に構う?」
「そんなの決まってんだろ、お前は俺の妹だから、兄ってもんは結局妹ってのが心配な存在だ」
「っ……戯言を、私は私だ!」
しかし知らないの一点張りは揺らぐことはなく、何がそこまで彼女を縛っているのかさえ皆目見当が付かなく新介も思わず頭が痛くなる。
だが新介は結への説得を諦めずに、果敢に彼女の行くべき道をただそうと心掛けた。
「いい加減目覚ましやがれ、お前はそこにいるべきじゃない!」
「お前に何が分かる、ただの他人のはずの……お前何かに……」
「他人だったとしても俺はお前を知っている、それでもまだ寝言言ってるようだったらもう一度言ってやる、お前は上野結だ!そして俺は上野新介、お前の唯一の兄貴だ!」
「____!?」
その時、突如として光り輝いた青色のペンダントとともに結は額に手を当て体に何かの異常をきたす。
それはまるで、新介の訴えかけに記憶が戻ろうとしている彼女を必死にそのペンダントが抑制しているようにも見えた。
「あ、頭が……痛い……」
「まさか、あのペンダントが原因なのか?」
新介は結が記憶を取り戻そうとする時にペンダントが輝く現象が二度起こったことで何らかの作用が働いていることに核心を持つのだった。
そして結を拘束するそのペンダントを首元から引き剥がそうとすぐさま彼女に手を伸ばす、が____
「___!?」
新介は背後から撃たれた感覚が襲われて、ゆっくり背中を振り向くと先端が尖っており、中に液体状の何かの通り道となり体に注入されているのが容易に想像できた。
すると自然に体がぐったりとして、強烈な眠気に襲われると同時に床に自分の体が倒れている光景が眩む司会の中微かに見える。
「何、だよ、これ……」
「はい油断し過ぎ、二人いたのが一人になってた時ぐらい違和感抱こうよ」
「お、お前……」
眼前のことに気を取られ過ぎて周りを見失ってしまった。
この失態の原因は前文通りであり、新介は結の隣にいたはずの男の存在をなき者にしていたことが今倒れ込んでいることへの全ての理由だった。
「彼女が首元に付けているペンダントは洗脳を施す神技が掛けられていてね、誰かに引き剥がされるような真似をされなければ彼女は駒で居続ける」
「くそが……結、そいつを引き千切れ……!!」
だが結は既に頭を押さえる程の頭痛を終えて、何事も無かったようにまた虚ろなほどの声質で復活する。
「お前の指図は受けない」
「っ……本当にお前は……昔から俺の言うことは碌に聞かねえよな……」
新介の体は次第に感覚を無くして、最後まで二人を見ながらゆっくりと目蓋を閉じるのだった。
____お前は必ず、俺が救ってみせる
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