狂乱の宴
-セントラル 某会場-
「続きまして!北の国ヴァイスからの難民家族3名を10万へヴンドから開始したいと思います!」
会場では装飾を着飾ったドレス、タキシードを着こなして、自慢げに特大の宝石で作られたネックレスや指輪などが光に反射し輝いて見える俗に言う金持ち達がシャンパンを飲みながら前側にあるステージを見つめていた。
手には番号が記された円形のフリップを持っており、彼らはそれを一つの一興としか思っていない。
「そして今回商品を売りに出た人物は、この家族の実の父でございます!」
「家族を売るなんてクズの手法だな!」
「そんなに金が欲しいならくれてやるよ!貧乏人が!」
金のために家族を売った父親、そんな彼に金持ち達は罵っているのではない、自分ではどうしようもできなかったこの現実に悲嘆する男を哀れみ侮蔑していたのだ。
「……相変わらずここは狂ってんな」
「人は誰かより優れているという優越感を得た場合、ああやって人を侮辱するのが当たり前になってくるものです、現実なんて所詮そんなもんですよ」
「気が利くな、俺も下につく奴はどうしようもないクズだと思っている、現状を打開する力がなければ平凡すらも得られない、あのステージに立ってる奴等は間違いなくクズだ」
そこに二人だけ周りの金持ちとは違う人間である彼らは、盗賊軍団であるルナ・シャドウの団長とその部下だった。
「まあ見たいものは見れた、これ以上はあんまり長居はする必要はないな」
「アジトに帰りますか?」
「ああ、ここの建物の情報は資料で見た通り大して違いはなかった、計画はこのまま実行する」
「了解しました、それでは団員に報告しておきます」
「ああ、頼むぜ」
狂乱と化す宴の中、二人は静かに会場から足を外した。
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辺りはすっかりと暗くなる中、新介は何処に行って何をするか碌に聞かされないままセントラルの道を歩かされていた。
「てか、どこに行くかぐらい聞かせろよ」
「何、ちょっと酒が飲みたい気分になってな、新しい仲間も出来たことだから宴会でも開くべきじゃろうが」
「悪いが酒は飲めないぞ、向こうの世界では未成年者飲酒禁止法っていう法律があるからな」
絵面的には現状ユピテルやサリエルが飲酒をしている姿の方が問題だが、彼女らからしたらそんなことは問題の眼中にないのだろう。
「別に飲まなくていいぞ、どうせ御主の奢りだからな」
「いや給料前借りしてまで金用意しろって言ったのそれかよ!」
時を遡ること一時間ほど前、新介はユピテルの急な要求である『多額の金を用意しろ』という要求を叶える為にわざわざバイト先のオーナーから給料を前借りしてまで多額の金額を用意していたのだ。
前借りできた金額は十万ヘヴンドであり、市場で売買されているリンゴのような果実は百へヴンドだった為に人間界と物価は大差は感じられない。
「今に分かる、どうして金を用意したかの理由がな」
「――何処だここ?」
ユピテルが足を止めた先にある目的の場所は、新介の勝手なイメージであった屈強な男達がアルコール度数が高い酒を飲みあう酒場かと思いきや、どちらかというとオシャレで気品のある大人が来そうなバーのような場所だった。
「入るぞ」
「いやその格好で入ったらさすがに補導されるだろ、真っ先に怪しまれる俺の身にもなってみろってんだ」
この状況で夜のセントラルを見回る警務部隊が幼女二人が酒場に入るところを目視された場合、真っ先に職務質問されて疑いの目を掛けられるのは間違いなく新介だった。
三人は建物の中に入ると、薄暗い照明の中数人の客がちらほらと窺えるだけの落ち着きがある空間が広がり、カウンターテーブル越しには一人のバーテンダーがグラスを拭きながらこちらを見据えていた。
「お待ちしていましたよ、ユピテル様」
「例の物が用意できたと聞いた、さっそく取りに来たぞ」
「構いませんよ、仕事は早く終わらせたいですからね」
長髪の髪を後ろで括り付けた美々しい顔立ちをしているバーテンダーの男は新介よりも年上なのは確かだが若々しくも見えた存在であったが、ユピテルと男のやり取りから徒者ではない雰囲気をこれまでになく醸し出していた。
「どうぞ席に座って下さい」
新介達は席に座ると、バーテンダーはユピテルにメニュー表を渡して酒を注文するように促した。
「新介、ここの酒からわらわに合った酒を選んでくれ」
「ええ、何で俺が……」
正直面倒な要望であったが、メニューだけでも見ようとすると案の定酒の種類など分からずに何がどの酒なのかも分からずにいた。
「えっと、じゃあこの……いや文字読めねえ……」
「ピルキーカシスですね、あなたは何を飲まれます?」
「えっと、俺酒とか飲めないので水だけで」
「そちらの女性は?」
「おまかせで……」
男は注文を承諾すると、分かりきってはいたが最初に出たのは新介が頼んだ水である。
それに続くようにユピテルのピルキーカシス、サリエルのおまかせで頼んだ物が来て、どちらも彩色豊かな色をした酒であった。
「ピンク色か、さてはわらわの髪色を意識したのじゃな」
「お、おう、意識した意識した」
適当に注文した物が偶然ピンク色の酒だったために、先程からキメ顔でオシャレぶっているユピテルの発言が意外とどうでもよかった。
「ふむ、程よい酸味がクセになるそうじゃ、でかしたぞ新介」
「俺は一体何を賞賛されてんだ、言っとくけど子供に酒を強要したら向こうの世界では立派な犯罪だからな。未成年の飲酒シーンすらアニメでも規制されるご時勢だぞ」
どの道生きた世界が違う時点でその常識は通用しないだろう、郷に入っては郷に従えというようにこのぐらいのことで犯罪だとか法が何とかだとか筋違いなことと十分承知しているつもりだった。
「お、この水美味しいな、さては北の国からの雪解け水だとか?」
「いえ違います、普通のミネラルウォーターですが」
「あ、はい、そうですよね、そうだと思いました……」
案の定横の席を見てみると、盛大に予想を外した新介に対しての笑いを必死に堪えるユピテルがそこにいた。
「ゆ、雪解け水か……ふふ……」
「リピートするな!恥ずかしいだろうが!」
そもそも北は寒いだとか、雪があるだとかそう言った常識さえも通じないことを思い出して、新介は別の世界での住みにくさを実感する。
「――ッヒグ」
「……え?」
ユピテルの右の席に座っているサリエルが注文した酒を飲んだ瞬間に、盛大なしゃっくりを発しながら赤面して泥酔としていた。
「何じゃサリエル、もう酔っ払ったのか?」
「お酒……あんまり強くない……」
「無理もありませんよ、それ結構度数強いですから。どうやらお口に合わなかったみたいですね」
ただでさえ無口なのに片言になっているサリエルは既に体のバランスが取れなくなり、何からも作用を受けてないはずの体が自然と左右に揺らぎ始めていた。
「さて、酒も十分に楽しんだところじゃから、酔いが回る前に依頼の話をしようかのう」
「さっきから思ってたんだけど、ここに何の用があって来たんだ?」
どうやらユピテルはこのバーテンダーに用があることは薄々感付いていたが、何が目的でこの店に来たのかが未だに見えなかった。
「それじゃあ種明かしじゃ、まずこのバーテンダーはブローカーも掛け持ちしている何でも屋じゃ」
「金さえ積んでくれればある程度の依頼は受け入れる、勿論信用できる者に限りますがね」
眼前の男が拠点前でユピテルが何でも屋と呼んでいた男だと知り、ここに来た目的とその前の発言が完全に繋がった。
「これが例の物です」
ユピテルは封筒に入ったその紙切れを取り出して、確かに頼んだ物と同じだったことを確認して再度封筒の中に閉まった。
そして新介に金を払うように要求して、それをバーテンダーでありブローカーである男性が受け取り精算をする。
「……確かに確認しました、またのご利用ご来店を心よりお待ちしています」
「もう帰らせるつもりか?酒ぐらいゆっくり飲ませてほしいものじゃのう」
「残念ですがあなたの身元は色々と訳ありですので、私にも許容できる範囲というのがあります故に」
どうやら訳ありの身であるユピテルを自分の店にこれ以上置いておくのはバーテンダーとしても抵抗があったようだ。
「分かった、帰るぞ二人共」
「お、おいユピテル、結局受け取りに来たのって何だよ?」
「何、ちょっとしたパーティーの招待状ですよ」
ユピテルに投げかけたはずの質問をバーテンダーが答えるが、何故そんなものが必要なのか余計に謎が深まってしまう。
パーティーと言えども、目的も無しにそんな道楽に参加する理由がない。ましてや自分の置かれた身を重々承知済みの彼女が気紛れ程度で行動する筈もなく、つまり理由はあった。
「パ、パーティーって、どこのだよ?」
「金持ち達の道楽です、とは言ってもあそこは碌なものじゃありませんが」
「……?」
「行くぞ新介」
結局言葉の趣旨を理解出来ないまま、新介は急いで店から出て行くのだった。
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拠点に帰るとユピテルは封筒の中を再度確認して紙切れを机の上に置いた。
「二枚か……」
「なあ、それ一体何なんだよ?」
得体の知れないパーティーへのチケットである紙切れにバイトで前借りした多額の資金を使われて、何も教えてくれず仕舞いで新介自身は納得できなかった。
「あの男も言っていたじゃろう、これはパーティーへのチケットじゃと」
「金持ちの道楽とも言っていた、碌なもんじゃないとも」
「碌なものじゃない、か……よく言えたものじゃな……」
どうやらそれほど良い物ではないというのは事実のようだと察して、新介もまた何かしらの覚悟をするしか術はなかった。
「大きくなり過ぎた国を統括することは難しいことじゃ、国が出来れば必ずしも資本主義の概念が生まれ格差社会が肥大化する」
「それは俺がいた世界でも同じことだ、だがそれとこれとどう関係がある?」
「その紙切れを貰えるのは一部の富裕層だけじゃ、天界で貧困層の人間が役立つことと言えばそこで道化師として場を盛り上げるくらいのものじゃ」
相変わらず全てを見通したような口調でユピテルは話すが、新介には依然として言葉の意味を理解出来なかった。
新介の表情を窺い思い悩んでいる様子を察して、ユピテルは仕方なく丁寧に簡潔に話すことにする。
「ま、言うなれば金持ち達の間で開かれる定期的なパーティーじゃ。わらわはそのパーティーに参加したくてブローカーに依頼をした、御主を力仕事で金を稼がせていたのも依頼料を支払うためじゃ」
「大体流れは掴んだ、だがどうしてパーティーなんかに参加しようとしてるんだ?」
「パーティーを開催するついでに主催者側はオークションを開いている、今度のオークションで出品されると噂されているある物がわらわの狙いじゃ」
「じゃあその物ってなんだよ」
もったいぶった言い方が次第に鬱陶しくなり、結のこともある新介は事を急がなければ何もかもが手遅れになる瀬戸際まで追い詰められていたためにあまりにも余裕が感じられなかった。
「賢者の石、わらわの呪いを解く唯一の手法であり物であるかもしれん」
「それって、不老不死とかのやつか?」
人間界に伝わっている伝説では、賢者の石は卑金属を金に変換できたり所持者は不老不死になったりとフィクション染みた話があるが、勿論新介はこれらの言い伝えは非理論的であるために一切信じていない。
「そのような噂もあるが、実際は神技術者の出力を増幅するための物にしか使われておらん、賢者の石があればどんな神技でも使用可能とも言われておる」
「そんなものがあったら、絶対誰か悪用するだろ」
「多数あればの話じゃがな、その稀少さ故にこの世界に一つとしてあるかさえも怪しかった存在じゃ」
賢者の石を使えば力が制限されているユピテルの神技の出力を上げることができるという。
その噂が本当ならばユピテルの悲願でもあった体を取り戻すことができる可能性が十分にある。が、新介はすぐに一つの疑問が浮かんだ。
「オークションってことは、落札しないと手に入らないはずだろ?」
「そうじゃな、御主が金持ち共に資金力で勝てる程バイト代を前借りできるとも思っておらん、わらわがそれを手に入れようとするなら力尽くで盗むしかないじゃろう」
「おいおい、それこそモラルに反するんじゃないのかよ?」
「安心せい、わらわが政府組織に復帰できたら持ち主に返してやる。いわゆる前借りってやつじゃな」
前借りと言っても新介がバイト先にした規模とはかけ離れているが、結を助け出すためにも早くユピテルの用事を終わらせてくれなければ困るために反論するのはやめた。
「しかし問題はもう一つある、実は招待状が二枚しか取れなかったみたいでな」
「ふーん……」
新介はどちらかというと自分自身が行く必要がないと思っていた。何故なら今回の事に関して言えば自分にできることはないからだ。
「じゃあ俺は行けれないな、サリエルと楽しんでくれ。俺は結を助ける為に筋トレでもしてるからよ……」
「何を言っておるのじゃ、御主とわらわで行く予定じゃが?」
「……は?」
あまりに唐突過ぎて聞き取れなかったのか、新介はもう一度ユピテルに聞き返して事実確認をする。
「だから、御主を連れて行くと行っておるじゃろうが。明日の夜までにタキシードを用意しておくのじゃ」
「は、はああ!?何で俺が、サリエル連れて行けばいいだろ!」
「馬鹿か御主は、女二人でうろついてたらどう見ても浮いて見えるじゃろうが、男を仕えさせていた方が自然に見えるのじゃ」
「そ、そりゃあそうかも知れないけど……俺って別に何もできないし、できたとしてもお前のゾオンエネルギーを引き出して相手殴りつけるぐらいしかできないぞ?」
昼に発したあの力は決して自分の力ではなかった、確かにそのことを自覚しているし新介自身もユピテルがいなければ何も出来ない存在だということは十分承知している。
承知していたからこそ、本当に選抜していいのかという自分自身を懐疑する精神が形成されていた。
「何もできない、それは決め付けに過ぎないぞ。少なくとも御主はわらわを一度救ってくれた」
「どうせお前なら、あれぐらい躱わせただろう」
「どうかな、御主はわらわを過信し過ぎとる。一度の油断でこの様じゃ」
だがユピテルには一度命を助けてもらった借りがあり、賢者との契約時に彼女に協力するようになっていた。
なので新介がユピテルに協力するのは必然的であり、ユピテルの命令は絶対的なものでもあることを今思い出す。
「……正直あんまし気が乗らないが、お前には借りがあるからな」
「ふ、どうやら義理には忠実なようじゃな」
「命助けてもらったと思えば、これぐらい大したことなさそうだ」
新介は決意を決めて、今回のパーティーに出席することを心の内で決め付けた。
「そんじゃ、タキシードが着付けできる店を紹介してくれよな」
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