その言葉は届かぬままに
神の称号
神技を一定の数を覚えれば神の称号を得ることができ、就任式の際に渡される生命の樹から成熟した果実を食べることにより寿命により死亡することはない(寿命による死亡がないだけであり他殺もしくは自殺や事故などの物理的な死因は不可)
新介にとって今日は重要な日であり、大きな賭けに出るチャンスでもあった。
彼自身でも察しがついていたが、昨日雄大に美織から花火大会に誘われたことを話したら「100%意識してるぞそれ」との返答が返ってきた。
一応好きな人との祭りデートの為に服装や身だしなみにも一段と気を付けた。そして待ち合わせ場所で出会った時の会話プラン、沈黙になった場合の会話パターンをそれぞれ5パターンずつ考えて状況に応じて会話パターンを選択するように練習もしてきた。
恋愛なんて今までしたことがなかった為にこの方法でしか相手を満足できないと自負していたが、藤宮美織という人間の笑顔さえ見られれば過程なんてどうでもよかった。
「そろそろ時間か……」
新介は待ち合わせ場所である河川敷の橋で手摺に持たれながら十分近く待っていた、美織を待たせることなど言語道断だと思っていたからだ。
「おまたせ、上野君!」
「あ、藤宮さ……ん……」
そして新介の身にすぐさま計算を遥かに超えるような出来事が起こる。
それは彼女が浴衣姿だったことにある、勿論浴衣だった場合の会話プランも用意していた。
だが藤宮美織のその浴衣姿は新介にとってはあまりにも美しく、そして神々しくもあった。
「へ、変かな?」
「え、あ、いや……」
――落ち着け、ここはプランβで褒め称えろ、そうすればきっと上手く行くはずだ!
「可愛いね、良く似合ってる」
「……ありがとう」
美織の微笑みが新介自身の緊張を和らげて、これから数時間はこの笑顔を独り占めできると思うと至福の時間であった。
「それじゃあ、花火まで時間があるからそこら辺の屋台周ろうか」
「そうだね……ってわあ!」
「ど、どうかしたのか?」
美織は自分の巾着袋から何かを弄るように探していたが、やはり無いのか少し顔を青ざめていた様子を晒す。
一体何事かと新介もすぐさま美織の仰天に呼応する形で反応するが、何やら持ち合わせていた巾着袋を漁り出していたのが窺える。
「お財布、忘れた……」
「な、何だそんなことか、今日ぐらい何でも奢ってやるから気にするなって」
「で、でもそれじゃあ私が集ってるみたいにならないかな……?」
「せっかく二人で来てるんだからかっこぐらいつけさせろって」
念の為お金自体は多めに持ってきていた為に今日一日奢っても問題はなさそうだった、備えあれば憂いなしとはまさにこのことだ。
「ごめんね、私すぐ忘れ物とかしちゃって……」
「まあ藤宮さんは天然だからな」
「もう、馬鹿にしないでよね」
物を奢ることによって新介にはもう一つ考えがあった。
それは相手からの自分の信頼関係を大きくして、どうして自分を誘ってきたのかを聞く為である。
雄大の予想では十中八九藤宮美織は新介のことに関して何かしらの好意を持ってるとのことだ。
これを利用して話を切り出すことにより彼女の本当の心理が明かされる、後はいつ話を切り出すかのタイミングが重要だ。
「それじゃあ行くか」
「うん」
新介と美織の二人は屋台を周ろうとするが、やはりここら一帯は人混みが激しく美織と同じく浴衣を着ている女性や家族連れの人達、さらにはクラスメイトもちらほらと見られた。
「狭いな……」
「上野君……」
「藤宮さん、俺の手に掴まって」
新介は美織に手を貸して、人混みに流されて両者が離れ離れにならないようにしっかりと手を掴んだ。
「……お兄ちゃん?」
中学生ぐらいの女子グループ約四人の中にいた結は人混みの中から確かに新介がいるのを確認できたが、兄が知らない女子と手を繋いでる姿を見て心が混沌と化した。
「藤宮さん、大丈夫か?」
「うん、上野君が手を取ってくれるから安心するよ」
「手、繋いでよかったか?」
「も、勿論だよ、こんなに人混んでるから仕方ないよ」
するとその時、大量の人混みに押されて二人は手を離してしまう。
その結果二人は別々の方向に流されてしまい、ついには見失ってしまった。
「ふ、藤宮さん!?」
気が付けば人混みが和らいで身動きが取れる場所まで流されていて、新介は辺りを見渡すが美織の姿はなかった。
そして人混みが新介の背中を押して、目の前の人とぶつかってしまう。
「あ、すいませ……」
「私こそ……って、お、お兄ちゃん!?」
「結、お前も来てたのか?」
「まあね、友達とだよ?変な誤解とかされたら困るし」
「……?」
相変わらず自分の妹ながら何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、今はその事を言及している暇などない為にあえてスルーした。
「それで、お兄ちゃんは誰と来てるの?」
「と、友達だよ」
「ふーん、友達ねえ……」
結は腰に手を当てて目を細めると、まるで実の兄を疑うような目で顔を近付けた。
「友達ってもしかして、手を繋いでたあの人のことかな?」
「何でそのことを!?」
「そりゃあこんな人混みの中で堂々と手を繋ぐバカップルのことなんて印象に残るよ、あーあ何か気分害したかな」
「お前って奴は……」
相変わらず肉親ながら感情が全く読み取れない所が結の厄介なところであり、よく分からないところで気分を害されるのはこちらとしても心外気味だった。
「上野君~」
「藤宮さん、大丈夫だった?」
「うん……えっと、そちらの女の子は?」
「あ、えっと、俺の妹の結だ」
「結です」
軽く自己紹介をしてすぐさまこの場を離れようとするが、美織は肉親と気付いた瞬間に丁寧なあいさつを始める。
「初めまして、私上野君のクラスメイトの藤宮美織って言います」
「お兄ちゃんの彼女?」
「違う、ただ一緒に周ってるだけだ」
「……ふーん」
長年の付き合いだからこそ分かることだが、今の結は最高に機嫌が悪いことが彼女の顔を見て判断できた。
だからこそ嫌な空気を作る前に新介はこの場を立ち去りたくて、どのように状況を切り開くか模索するしかなかった。
「それじゃあお兄ちゃん、私もそろそろ逸れた友達探さないといけないから」
「あ、ああ……」
以外にもあちらから立ち去ってくれて、新介は心置きなく屋台を楽しむことにするのだった。
「凄いよ上野君、射的も金魚すくいも結果残すなんて」
「昔妹とよく祭りとか行ってたからな、あいつのわがままに答えようとしたら自然と上達したんだ」
__そう言えば、結と行ってたのもこの花火大会だっけ?
あの時の結は俺にわがままばっかり言って泣きじゃくり、毎年景品を取ってやって泣くのを止めさせるのが恒例だったな……
「上野君?」
「悪い、ちょっと昔のこと思い出してた」
「妹思いなんだね、本当に」
「今はあいつのことがよく分からねえ、まるで昔と大違いだ」
喧嘩の回数は増えて、しかもその原因すらも明確には分からない。
結局新介自身が謝り仲直りはするが、彼自身も謝ればいいという考えに陥っていた。
「そうかな、妹さんのさっきの態度、上野君が教えてくれた昔の妹さんと何ら変わりがないと思うけど」
「そうか?」
「変わったのは自分自身かもね、意外と」
「……?」
美織は何かを企んでいるのか、ニヤリと新介の顔を見て笑った。
――「「八時より花火大会を行います、花火を見る際にはマナーを守って見てください」」
町内アナウンスが流れて、祭りに来ていた人達は花火がよく見える河川敷の方角に向かおうとした。
「もうすぐ花火始まるね、そろそろ私達も行こうか」
「じゃあさ、どうせ見るなら特等席で見ようぜ」
「特等席?」
「ああ、着いて来て」
新介は美織の手を引っ張って、河川敷の方角とは全く違う山の方へと向かう。
「ここだよ、俺だけが知ってる花火がよく見える場所」
「ここって……」
山に佇んでいる神社の階段を登った先にあるのは町全体が見渡せる展望台だった。
新介がまだ子供の頃、身長が小さく大人達で隠れた為に花火が見えなかった際によくこの場所で見ていたのだ。
「もうすぐ八時だ」
二人は展望台に登り、八時の花火大会の開幕を宣言する最初の一発目を楽しみに待っていた。
そしてその時、新介の見ていたスマホの時間が確かに八時を指した。
______!!
花火は綺麗に空中で爆発して夜の街を大きく照らし、音速で伝わる爆音とともに赤、黄、青の原色が混ざり合い美しい花のように上空に広がるのだった。
「綺麗……」
「ああ、本当に……」
本当に今も昔も何も変わってなんかない、新介はふと昔の心情に浸ってしまい花火に見入ってしまった。
「新介君、今日は私なんかの為にこんな素敵な場所まで紹介してくれてありがとう」
「え、今なんて……」
新介は聞き逃すことなどしなかった、確かに美織は先程彼に向かって「新介君」と言ったことに関しては今でも脳裏に想起されたままだ。
「き、今日だけは新介君って言わせてくれないかな?私のことも美織でいいから……」
「も、勿論いいよ藤宮……じゃなくて美織?」
美織はあまりの恥ずかしさに赤面した顔を隠そうとするが、それは新介にとっても同じことであり今自分がどんな顔をしてるのかなんて考えたくもなかった。
「……」
新介と美織が展望台で花火を見ている中、一人影で身を潜めている結がいることを知る由もなかった。
「なあ美織」
「どうしたの、新介君」
新介は関係がこれ以上ないまでに縮まったことをいいことに、美織に今まで聞きたかったあの事について踏み出す。
それは彼女が新介をこの花火大会に誘い出したことへの疑念、行動原理の疑問である。
「今日の祭りすごく楽しかった。だけど、何で俺なんか誘ったんだ?」
「……」
すると美織は黙り込んでしまい、右手を胸において力を込めていた。
「私にもよく分からない、だけど、多分新介君は私にとって特別な存在だったんだと思う」
「それって、どういう……」
「高校の入学式の日、一人の新入生が代表として演台で挨拶をしていた、その人は印象深い挨拶をして自分とは違う完璧さを発揮していたの」
偶然にも新入生代表挨拶をしたのは新介だった為に、すぐに自分のことを言ってるということは理解できた。
「でも、彼の目はたまに怖かった。まるで全てを無慈悲に見据えて、その目には何も見えてないかのような虚無感すら感じられた」
だが、彼のそんな目線、表情、態度、行動を見てるととても人間味が溢れた存在であり、次第にある感情に辿り着く____
上野新介という存在に惹かれていたことを____
「だから今日は私自身の気持ちを確かめたかったの、そして私が抱いていた新介君の人間像もほとんど一致していた」
「……美織、俺は……」
自分が彼女に抱いた感情も全てが本物だった、そう悟った新介はその本物を美織に伝えようとした。
「俺は、お前のことが――」
________!!
突如降り注いだ雷が展望台に直撃してしまい、その直後新介達は光に覆われてしまう。
彼が意を決して発そうとしたその言葉は、美織の元に届かぬまま徐々に意識が薄れていくのだった___




