#004「期待する値」
@倉庫
タクミ「別に悪いことをしてる訳では無いんだから、校舎内で良いと思わない? 何だか密談でもするような勢いだよ?」
チアキ「こういうのはムードが大事なんすよ。母屋から離れた納屋や、森のツリーハウスを秘密基地にするようなもんっす。あっ、大さん」
ダイチ「二人とも先に着いてたのか。待たせたな」
タクミ「僕たちも、さっき来たところだよ」
チアキ「二人で地下牢への入り口を探してたんっす」
ダイチ「ン? この下に防空壕でもあるのか?」
タクミ「勝手にロマンを語ってるだけだから、適当に聞き流して良いよ」
チアキ「リッスン、リッスン、リッスン」
ダイチ「えぇい。俺の耳を引っ張るな」
*
タクミ「高みを目指して成長し、やがて地中に還る」
チアキ「そして、その屍は新たな生への糧となるんすね」
ダイチ「超高層のオフィスビルを建てたり、高級マンションの最上階に住んだりする成金って、必ず数年で零落れるよな」
タクミ「急に大金が舞い込んで、どう使ったら良いか分からないまま費消してしまうんだろうね」
チアキ「身の丈に合ってなかったってことっすね」
ダイチ「金で豪遊してるうちに、金に弄ばれてしまうのか」
タクミ「驕れるものも久しからず。猛き者も終には滅びぬ」
チアキ「祇園四条は、諸行無常っすね」
ダイチ「それを言うなら、祇園精舎。富籤や競馬で高額当選しても」
タクミ「土地や株を転がして大儲けしても」
チアキ「金融派生商品や外貨取引で利益を総取りしても」
ダイチ「所詮は泡沫に過ぎないのかもしれないな」
タクミ「叶えた夢に溺れてしまわないようにしないとね」
チアキ「リターンが大きければ、リスクも大きいっすからね」
ダイチ「そうは言っても、虎穴に入らずんば虎児を得ず。冒険の無い人生は味気ないし、ツマラナイ」
タクミ「ということは、今回もアレをやるんだね?」
チアキ「今度は負けないっすよ」
ダイチ「前も同じことを言って惨敗したくせに」
タクミ「ハンデを付けようか?」
チアキ「情け無用っすよ。いざ、尋常に勝負っす」
ダイチ「その心意気や、良し。それじゃあ、ルールを確認するぞ。まず、教科ごとに得点率を算出する。次に、その総和を教科数で割った平均値を算出する。その数値が最も百に近かった人間が勝ち」
タクミ「前回までは、試験結果発表日から一週間、最下位の人間が最上位の人間に飲み物を奢るってことにしてきたけど、今回も同じで良い?」
チアキ「異議なしっす」
ダイチ「俺も賛成」
タクミ「それでは、満場一致で可決ということで。解散!」
チアキ「万歳!」
ダイチ「ここは国会議事堂じゃねぇぞ、千晶」