#003「ペンと黒線」
@図書室
ダイチ「やってきたな、中間考査」
タクミ「やらかさないように、頑張らないと。ねっ、千晶くん」
チアキ「前期は、たまたま苦手なところが範囲だったんすよ。後期で挽回するから大丈夫っす」
ダイチ「ボールペンを忘れるなよ」
タクミ「フフッ。大地くんが、それを言うとはねぇ」
チアキ「ん? 何かエピソードがありそうっすね」
ダイチ「何にもねぇよ」
タクミ「何にも無かったら、僕とは友達にならなかったんじゃない? それ以前に、この学校に合格しなかった可能性もある」
チアキ「入試が関係しそうっすね。二年前に何があったんすか?」
ダイチ「俺の前の席に座ってたのが、琢己だったんだ」
タクミ「それで試験当日、大地くんがボールペンを忘れてね。貸してあげたんだ」
チアキ「五十音順だからっすね。ちゃんと琢さん返したんっすか、大さん?」
ダイチ「あぁ。当日は渡し損ねたから、合格発表の時にな」
タクミ「高価なものではないから、返してもらわなくても良いと思ってたんだ。だから、意外と義理堅いんだなぁって」
チアキ「見た目に似合わず、律儀っすよね。イッテェ」
ダイチ「悪かったな、コワモテで」
タクミ「褒めてるのに、叩くことないと思うなぁ」
チアキ「照れ隠しっすよ。反動形成っすね。アウチッ。ヘルプ、ミー」
ダイチ「ウルセェ。静かにしやがれ」
*
タクミ「合格が決まってからも、制服採寸とか教科書販売とかオリエンテーションとか、新入生合同行事で何度も顔を合わせていくうちに、徐々に馴染んでいったんだ」
チアキ「強請られたり、虐められたりしなかったっすか? オッと」
ダイチ「それ以上言ったら、今度はグーで殴るからな」
タクミ「素直に喜べないのかなぁ」
チアキ「無理っすよ。地球の回転を逆にするくらい、難しいことっす」
ダイチ「一応訊くが、それは公転か、それとも自転か?」
タクミ「どちらかなら可能なの?」
チアキ「それは凄いっすね。どうやるんすか?」
ダイチ「ボールペンで頬を突くな。誰も、出来るとは言ってないだろうが」
タクミ「フフッ。二人とも中学からの付き合いだけあって、慣れてるね」
チアキ「一年ほどブランクがあるっすけどね」
ダイチ「俺がココに進学した時点で、うまく縁が切れたと思ってたんだがなぁ」
タクミ「ところが繋がったままだった、と?」
チアキ「きっと、どこかで糸がこんがらがってるんすよ。色が赤や白でないのは確かっすけど」
ダイチ「あぁ。黒い糸で繋がってるだろうよ」
タクミ「絡まった先には、僕の糸も交じってそうだね」
チアキ「こうなったら、もう、一生掛かっても解けそうにないっすね」