#002「甘酸っぱさ」
@廊下
ダイチ「千晶の奴、どこまで買いに行ったんだ?」
タクミ「近くのコンビニにしては、戻りが遅いね」
チアキ「先ぱぁい。お待ち遠さまっす」
ダイチ「どこまで行ってたんだ? すぐソコだろうに」
タクミ「レジが混んでたの?」
チアキ「いやぁ。何を買おうかと迷ってたんっす。どれが良いっすか?」
ダイチ「イチゴ牛乳に、蜂蜜レモンに、桃ジュース」
タクミ「個性的なラインナップだね」
チアキ「あれ? 微妙な反応っすね。野菜系のほうが良かったっすか?」
ダイチ「飲み物の種類を指定しておくべきだったな。今度からは、コーヒーかコーラを頼む。――蜂蜜レモンを貰うぞ」
タクミ「僕は、烏龍茶か紅茶が良いな。――イチゴ牛乳を貰うね」
チアキ「紙パックより、缶のほうが良かったんすね。次から気をつけるっす」
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ダイチ「チョココロネやメロンパンでは駄目だな。シックリこない」
タクミ「デニッシュやクロワッサンも違うね」
チアキ「サンドイッチやクレープも、硬派な雰囲気に合わないっすね」
ダイチ「やっぱり、肉と油が無いと駄目だ」
タクミ「それから、購買部ってところもポイントだね」
チアキ「唐揚げや中華まんでないのは、パンしか置いてないからっすもんね」
ダイチ「だから、古風な不良が使い走りに言う定番のセリフは『焼きそばパン買って来い』なんだ」
タクミ「アレンジするとしても、コロッケパン止りだね」
チアキ「たとえコントの設定でも、ある程度のリアリティーが無いと面白くないっすよね」
ダイチ「日常生活でありうる設定から、どうやってありえない展開に持っていくかが、脚本家の腕の見せ所だな」
タクミ「突飛すぎず、退屈すぎない。そのギリギリのラインを攻める必要があるね」
チアキ「案外、書けそうで書けないもんっすよね」
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ダイチ「海賊が叙勲されて紳士になったり、非行少年が更正して社長に登りつめたり」
タクミ「サクセスストーリーには、なぜか不良時代がつきものだよね」
チアキ「物語としては面白いっすけど、コツコツ頑張ってる人間には共感されないっすよね?」
ダイチ「真面目に努力するのが馬鹿らしくなる話だもんな」
タクミ「道を踏み外した人間には勇気を与えるだろうけど、ルールやマナーを守り通している人間には不評だね」
チアキ「不公平っすよね」
ダイチ「それが社会ってものなんだろう。――あぁ、まだ歯がシカシカする」
タクミ「現実は厳しいね。――僕も、喉がイガイガしたままだよ」
チアキ「酸いも甘いも噛み分けるには、まだまだ時間が掛かりそうっすね」