#001「上下と浮沈」
@屋上
ダイチ「アッチィ」
チアキ「動くと暑いっすね」
タクミ「さっきまで曇ってたのに、陽が差して来たね」
ダイチ「よし。休憩だ」
*
チアキ「何とかと煙は高いところに上るって言うっすよね?」
タクミ「オダテに乗りやすいことの例えだね」
ダイチ「地に足付けさせてやろうか?」
チアキ「突き飛ばされるのは勘弁っすよ。足より先に頭を衝きそうっすから」
タクミ「下手すると、土に埋まったあと、天に昇ることになりそうだね」
ダイチ「場合によっては、奈落に落とされるかもしれない」
チアキ「降りたり登ったり忙しいっすね」
タクミ「あのヘリコプターと同じだね。離着陸の繰り返し」
ダイチ「音から察するに、あれは自衛隊のだよな?」
チアキ「昨日の昼過ぎの地震に関係するんじゃないっすか?」
タクミ「そうだとすると、いまのは震源地からの帰りだね」
ダイチ「災害が起こるたびに、あぁやってアッチヘコッチヘ急行してるんだよなぁ」
チアキ「国民の命と安全を守るのが任務っすもんねぇ」
タクミ「国家が邸宅だとすると、元首が家主で、隊員は守衛ということになるんだろうけど」
ダイチ「家主が無責任な人間だと、統制が取れずに暴走するから気をつけないといけない」
チアキ「警備員に叛乱されたら、家族は対抗できないっすね」
タクミ「忍び寄る軍靴の足音。一億総活躍から、国家総動員へ」
ダイチ「単一国家、単一民族、単一言語、単一政党による支配」
チアキ「独裁軍事国家の樹立っすね」
タクミ「そうなれば、移民や難民が居場所を無くすことは、まず間違いないよ」
ダイチ「多文化主義から、同化政策へ」
チアキ「国際結婚や混血児は、双方向から忌み嫌われそうっすね」
タクミ「現時点では、あくまで空想の話だけど」
ダイチ「何も考えずに投票したり、あるいは投票しなかったりすると」
チアキ「仮定が実体化してしまうっすね」
タクミ「年齢層や地域によって一票の重みに差があるとは言われてるし」
ダイチ「民主主義に問題点が無い訳でもないけれども」
チアキ「恐怖政治は御免っすね」
タクミ「仮に成立してしまったとしても、その支配は長続きするものではないことは、歴史が証明してる」
ダイチ「首を括るか、腹を切るか、拳銃で撃つか」
チアキ「断頭台に登るか、飛び降りるか」
タクミ「水底に沈められたって、いずれは浮かぶ」
ダイチ「あっ、またヘリコプターだ」
チアキ「さて。未来のことを憂うより、いまを楽しもうじゃないっすか」
タクミ「そうだね。再開しようか」
ダイチ「汗が引いたら寒いな。よし。休憩終わり」