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隣人よ、大志を抱け!  作者: ざっく
婚約破棄
7/11

関係の破綻

フィリアは、この国を支える一翼になろうと、とてもたくさんの勉強をした。

フィリアには分からないことだらけだったのだ。

家庭教師に聞いて、父に尋ねて、まだ分からなければ使用人に聞いて、街の人に聞いた。

だから、フィリアの知識は多岐に亘る。

そして、フィリアには知ろうともしないのに、知っているように振る舞う人たちが嫌いだった。

「そんなことを知って何になる?」

高位の人間ほど、フィリアの問いにそう答えた。

何になるかなんて、その答えを知ってから考える。

腹痛の薬草を探すのに、腹痛に効く薬草を探すわけじゃない。

植物の研究をして、その草が腹痛に効くのだと知ることができるのだ。

知った事実を、どう使うかは自分が決める。

使えるのかどうか、答えを知ってからではないと判断できないではないか。


しかし、そんなことに興味のない人間に、そんなことを言っても無駄だったと悟ったのは、もう人間関係の構築が失敗してしまってからだった。


婚約が発表されてから、フィリアとマティアスはたびたび顔を合わせる機会があった。

婚約者なのだから、マティアスはフィリアのエスコート役となる。

ただし、まだ子供であることから、屋敷からではなく、会場についてからの話だ。

マティアスは、生まれる前から決められていた婚約に不満のようだった。

フィリアの容姿が美しくないというのもあったのだろう。

「フィリア、お前はもっと着飾ってはどうだ。そうすれば……」

マティアスがそこまで行ってから、語尾を濁した。

けれど、フィリアには正確にその先を予測できた。

その地味な見た目も、まだましになるだろうに、って?

陰口は聞き飽きた。

女性陣は、陰口をわざと聞かせることの名人なのだ。

マティアスがフィリアに不満を持っていることは良く知っていた。

―――フィリアが、必要のないことまで言うからだ。

「マティアス様、宝石は山を掘らなければならないのです。そんな土地があれば、牛を飼うべきです。レースは、綿花を作らなければ。そんな畑があるなら、麦を作るべきです」

フィリアの反論に、マティアスは意味が分からないという顔をした。

「そうすれば、パンが作れるでしょう?」

「パンが?」

なんと、マティアスはパンの原料を知らなかった。

知らないことを知って、フィリアは純粋に驚いた。

マティアスだって、次期国王として十分な教育を受けているはずだったからだ。

「畑から小麦を作り、牛からミルクとバターを手に入れ、塩田で塩を手に入れる。パン一つとっても、食料を作るのには、広大な土地が必要なのです」

思わず、教師のような口調になったと思った。

(そんなことも知らないの?)

言外に言ってしまった言葉を、敏感に感じ取ったマティアスの顔が赤く染まった。

フィリアは、素直に失敗したと思ったのだ。

自分が無知だと知ってしまったときの恥ずかしさは、フィリアだって体験済みだ。

けれど、その時に一緒にいた彼は、綺麗な銀髪を震わせて、フィリアを褒めてくれたのだ。

素直な心が貴重で、素敵だと。

謝ろうとしたフィリアよりも先に、マティアスは口を開いた。

「身なりを美しく保つことも重要な役割だというのに、それさえもできないお前に教わることなど一つもないね!」

綺麗な顔を、嫌悪にゆがめてマティアスはフィリアに背を向けた。


身なりをきれいに保つこと。

高位貴族としては、他への示しのために必要なのだという。

―――知らなかった。

フィリアはまた反省する。

侍女たちがたくさん着飾らせようとするのにも、しっかりと理由があるのだ。

フィリアは、しっかりと反省をしたのだが―――。

マティアスとの関係は、もう修復不可能なまでにこじれていた。

もともと、マティアスはフィリアが嫌いだ。

フィリアも、フィリアを嫌い悪口ばかり言う人間を好きになれるはずがない。

何より、婚約者のいる立場の人間が、別の令嬢といる方が長いなどと、フィリアを馬鹿にしているとしか思えない。

きっと、いつか二人の婚約は解消されるだろうと思う。

王族の結束を高めようとした婚約が、逆効果になったのだ。

フィリアとマティアスはお互い嫌い、そしてマティアスに至っては、出来の良すぎるフィリアを憎んでさえいるようだった。

こんな状態で結婚などすれば、内戦になってしまうかもしれない。

だから、フィリアは婚約を無かったことにすることについては、賛成だったのだ。


周りには、そうは思われていなかったようだが。


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