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隣人よ、大志を抱け!  作者: ざっく
婚約破棄
6/11

もうすぐ十八歳

―――あと一月もすれば、フィリアは十八歳になる。


この十八年間、全てが王太子妃になるための勉強だった。

記憶にある全てにマナー教師がついて、フィリアの一挙手一投足を追いかけられた。

歩き方、座り方、カップを持つ仕草や、微笑む顔の角度までも指示をされた。

勉強は世界情勢や歴史、地理はもちろんのこと、文学や数学など幅広い知識を与えられた。

―――しかし、フィリアがそれを披露することは許されなかった。


「相手の言うことを理解しろ。だが、こちらの思うことは理解させるな」


父たる公爵の教えだった。

理解していることさえ悟らせない、それが後から自分の持つカードになる。

そうしてフィリアは、完璧とも言える笑顔の無表情を作り上げた。

宰相たる父の教えは、非常に難しく、小さな子どもには理解できないことが多々あった。

しかし、フィリアは分からないことがあるたびに考えて、考えて・・・時には父に自分の考えを伝えたりして、自分なりにその教えを理解していった。

父、オブラーティオ公爵は娘の覚えの速さと素質に喜び、教える力に熱が入った。

こうしてできあがったのが・・・・・・

「政治って裏から操れないものかしら・・・・・・」

微妙に腹黒い令嬢だった。

父親の仕事、宰相という職に強い憧れを持った、もうすぐ十八歳の女の子であった。


「それなりの能無しなら操れたかもしれんが、本気の能無しだから、無理だなあ」

呟いただけの言葉に返事があって驚いた。

振り返るとそこには、髪に白いものが混ざり始めてはいるものの、いつまでも若さを保ったこの国の宰相、マシュー・オブラートが立っていた。

今日の夜会に出席するためにタキシードをまとっているが、首元のボタンとリボンタイを外していた。

(あとから家令に怒られるだろうに)

そう思って、フィリアは、自分のドレスも脱いでしまいたいのにと思う。

ごてごてと飾り立てたドレスは重くて、座ることさえままならない。

背の高い小さな椅子に寄りかかるようにしか座れないというのに、フィリアの部屋にずかずか入ってきた父は、一人でソファに座ってしまう。

「独り言でも周りに気を配れ」

鋭い視線が飛んできて、フィリアは唇をかんだ。

独り言を言ってでもいなければ、今日を乗り越えられそうにもなかったのだ。

綺麗に白く塗られた眉間にしわを寄せるフィリアを見ながら、父はため息を吐いた。


父、マシューは未だに宰相という地位にいるものの、公爵位は二年前に兄に譲っている。

母が本格的に寝込み始めてから、父はできるだけ母の傍にいたいと、公爵位を兄に譲ったのだ。

―――残念ながら、公爵位を譲るための根回しや手続きの間に母はこの世を去った。


宰相位は、次代を担える者を育成中だという。

兄、カシューが宰相になるかと多くの者が思っていたが、公爵位を譲りながらも、父は息子に宰相位は譲らなかった。

周りの人間がそれに対し「権力は残しておきたいのか」などと悪意を持って憶測する中、おっとりと父はフィリアとカシューに語った。

「お前は、優しくてきれいだからなあ。……宰相は、お前には辛い地位だと思うよ」

「ちょっと。兄と妹への扱い、逆じゃない?」

フィリアの言葉は当然ながら無視したまま、カシューは頷いた。

「ああ。合わないと思っていたよ。実は、ちょっとほっとしている」

そう言って穏やかに微笑む兄は、三年前に逝ってしまった母にそっくりだ。

はかなげで、美しい兄は、公爵領の切り盛りをしながら、社交界にて人気を博している。

五つ年上の兄は二三歳。結婚していてもおかしくない年齢ではあるが、

「時期が来たらね」

そう言って、母にそっくりな顔で微笑むだけだった。


そんな兄を持ちながらも、フィリアは父親そっくりにふてぶてしく育った。

「夜会の準備はできたのか」

フィリアを見ながら確認のように言う父に、フィリアは小さな声で頷いた。

「だったら……少し、話をしよう」

いつもと違い、ソファに座ったまま自分の手を見つめながら話す父に、フィリアは覚悟を決める。

―――父にまで知られているのだ。

「ええ、私もお話をしなければと思っておりました」


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