銀色の彼
見惚れるフィリアの瞳を見返して、その銀色の瞳は気に入らなそうに眇められた。
「人間のくせに、何故草の上に座っている」
その言い方に、フィリアはムッとして言い返した。
「人間のくせにってなに。草の上に座るのは獣人の特権だとでもいうの?」
昨日に引き続き、どうして失礼な人が多いのだろうと言い返したところで、彼が戸惑いの表情を浮かべていた。
「そんなことは言っていない馬鹿にしたつもりもない。ドレスが汚れると言いたかったのだが」
困ったように耳が垂れる様子を見て、フィリアは首を傾げながらも、不快に思った理由を言葉にした。
「くせにっていうのは、よくない言い方だわ。人間が草の上に座るなんておこがましいってことでしょう?くせにじゃなくて……」
「……なのに?」
フィリアが話している最中に、他の言い方を思い付いたらしい。
自信なさそうに言った彼に、フィリアは笑った。
「そう。それなら、私は笑って答えるわ。……だって、ふわふわしてとっても気持ちがいいのだもの」
フィリアの笑顔に、彼は少し目を瞠った後に優しく微笑んだ。
「そうか。―――隣に座っても?」
そう聞かれて、フィリアは一瞬ためらった。
そのためらった間を悪くとらえたのだろう。彼が顔をこわばらせて踵を返そうとした。
「すまない。邪魔をした―――」
「ごめんなさい。違うのよ。嫌なわけではないの」
さっきは失礼な態度に怒っておきながら、今度はこちらが失礼なことをするだなんて。
フィリアは反省しながら横に置いていたバスケットを持ち上げた。
「私、とっても大切なものを持っているのよ」
彼は、去ろうとしたまま、フィリアを見て首を傾げる。
「ドレスが汚れても構わないけれど、これを分けることに躊躇してしまったのよ」
ため息を吐くフィリアに、彼は遠慮がちに声をかける。
「大切なものを分けてもらおうなどと考えていないよ。少し話ができるかと思っただけだ」
首を振る彼を見ながら、フィリアはこくんと頷いた。
「いいわ。どうぞ?―――そして、特別よ?少しだけ分けてあげるわ」
フィリアは、隣を示してから、バスケットの蓋を取った。
中身は、フィリアがさっき作ってきたサンドイッチだ。
こそこそと、厨房に忍び込んで、自分が好きなものをてんこ盛りにした、スペシャルサンドなのだ。
怒られることは想定済みの、それを分かっていながらに味わなければならない、大変貴重なものなのである。
「私が作ったのよ。でも、味付けは料理長だから、おいしいわ」
作ったなどと言っても、フィリアがしたことは、そこら辺にある食材を切ってサンドしただけだ。
なのに、銀髪の彼はとても驚いた。
「君が?作ったの?」
興味深そうにバスケットの中を覗き込んで、フィリアの隣に座った。
「そうよ!食べていいわよ。感想を教えてね。美味しい以外言ってはダメだけど」
「ははっ!感想の意味がないじゃないか」
おもしろそうに笑って、大きな口を開けてぱくりと噛みついた。
綺麗な顔のわりに、とっても大きな口で豪快に食べるので、フィリアは目を丸くして見てしまった。
「うん、うまい」
もぐもぐとしっかりと味わってから発された言葉に、フィリアは嬉しくてにっこりと笑った。
口に入れた途端「おいしい」と言われても、それはパンの味だから。
このスペシャルサンドは、「この組み合わせ!」というフィリア自作のサンドイッチなので、しっかりと噛まなければ美味しさが分からない!
それを言わなくてもしっかりと味わってくれたことが、フィリアは嬉しかった。
「でしょう?じゃあ、最後もう一つだけあげるわ」
フィリアが胸を張ってバスケットをしめすと、困ったような顔が返ってきた。
「それは嬉しいけれど、四つのうち、二つもオレが食べたら、君の分がなくなる」
「私は、食いしん坊なのよ」
あげると言っておきながら、それと反対のことを言うフィリアに、銀髪を揺らして彼はフィリアの言葉を待つ。
「本当は、二つでお腹がいっぱいになるの。だけど、食べられるものなら食べたいと、食べられないほどのものを準備してしまうの」
本当は良くないことだ。
食べ物を残すことはしてはいけないのに、「今とってもお腹がすいているから」と、食べられるような気分になるのだ。
ほうっ…と、大人のようなため息を吐くフィリアを目をぱちぱちさせて見ていた銀髪の彼は―――
「あっ…はははははっ!」
空に向かって大きな口を開けて笑い始めた。
「なっ!なんで笑うのよ!多く準備していた理由を教えてあげたのよ!?」
しかも、女の子が「食いしん坊」だということをカミングアウトまでしたのだ。
笑う場所では断じてない。
「ああ、そうだね。とっても嬉しいよ。まるで、最初からオレの分みたいじゃないか?」
だけど、彼がそう言って、本当に嬉しそうに食べるから、フィリアも笑ってしまった。