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隣人よ、大志を抱け!  作者: ざっく
婚約破棄
2/11

初対面

フィリア十歳。

第一王子の立太子とともに、彼との正式な婚約のための舞踏会が開かれた。

フィリアとマティアスが初めて顔を合わせる場でもあった。

この日のために、ドレスに宝石にお化粧、マナーもダンスも、とても大変だった。

こんなことをするくらいなら、植物学を勉強していた方が絶対に楽しかったはずだ。

だけど、自分が一生を共にする相手と、初めて会う日。


この日は、やはり綺麗にしておかなければならないだろう。

そうは思ったものの―――

朝から綺麗に結ってもらった髪は、宝石をつけすぎで重すぎるし、ドレスは動きづらいし、何て無駄なものにお金と手間をかけているのだろうと思う。

父譲りの濃い緑の髪に、母譲りの緑の瞳。

この色彩に合うようにと、エメラルドで飾られた自分は……芋虫の様だ。

このドレス、レースつけすぎではないだろうか。

ごてごてしすぎて、自分が3倍くらいに膨らんで見えてしまう。


準備が終わって、父と兄が待つ居間に向かった。

「フィリア、準備ができたのか?……まあ、そんなもんだろ」

父の言い様がひどい。

どんなものでも、娘の晴れ姿なのだから、褒めて欲しい。

「ああ、フィリア。お母様にそっくりではないか」

だが、これは言い過ぎだ。

にこにこと笑みを浮かべる兄、マシューは本当にそんなことを思っているのかどうか分からない。

フィリアは、誰が見ても、父親似だ。

はかなげで美しい母とは似ても似つかない。

どちらかと言えば、似ているのは兄だ。

五つ年上の兄は、エメラルド色の髪と瞳をして美しい顔立ちをしている。

「お母様には?」

兄が聞いてきたので、フィリアは頷いた。

「さっきお部屋に寄って、見ていただいたわ。一緒に参加できなくて残念だって」

母は、病気がちだ。

最近では、あまり長いこと起きていることもない。

「ああ、また熱があがって、立ち上がれないようだ。残念だが、今日は三人で参加しよう」

父の言葉で、三人は馬車へ乗って王城へ向かった。


王城は光で溢れ、主賓であるフィリアたちは、最後に登場する。

主催は国王であるので、マティアスはすでに会場内で接客中のはずだ。

フィリアは、急に緊張してきた。

何せ、結婚相手との初めての顔合わせだ。

(どんなひとだろう?)

「行くよ」

父が、緊張するフィリアの手を握って促した。

「はい」

父に手を引かれ、兄はフィリアの後ろをついてくる。


大きな扉の向こうは、光の渦だった。

豪奢なドレスに身を包んだ人たちの上には燦然とシャンデリアが輝き、金色の楽器を携えて楽団が音楽を奏でる。

初めての雰囲気にフィリアは息を呑む。

そんなフィリアに気がついているだろうに、父はさっさと手を引いてフィリアを国王の前へと連れて行った。

「陛下、オブラーティオでございます」

「ああ」

父が恭しく頭を下げたのとは反対に、国王は適当な挨拶を返してきた。

(あんなことしたら、私だったら二時間は説教だわ)

曰く、親しき中にも礼儀ありだと、父はいつも言っているのに。

不思議に思いながらも、父に倣い頭を下げた。

「フィリアでございます」

顔をあげてから、国王の横にいる男の子に視線を移した。

遠目でも思っていたけれど…フィリアは、感嘆のため息を吐きそうだった。

マティアスは、とてもきれいな男の子だった。

フィリアと同じ十歳のはずだが、とても大人びた顔をして、背もフィリアよりも高かった。

金髪に神秘的な紫の瞳、真っ白な肌とピンク色の薄い唇。まるでお人形の様だと思った。

マティアスは、顔をあげたフィリアを驚いたように見てから、フィリアの後ろに視線を動かし、またフィリアを見た。

フィリアは、視線の動きだけで、彼が何を言いたいのか分かってしまった。

「マティアスだ。……どうも」

ぶっきらぼうに挨拶する彼の瞳が、『残念だ』と語る。

すでに出仕している兄の顔は見たことがあったのだろう。その兄の妹であるフィリアが美少女であることを期待して……がっかりしたのだろう。

フィリアにも、マティアスの表情は簡単に読み取れてしまった。


その場は挨拶だけで離れ、終盤、立太子を終えた後にフィリアとの婚約発表がある。

フィリアは、マティアスの表情だけで、疲れていた。

あんなにあからさまな落胆を見せられるとは思わなかった。

マティアスの容姿が整っていただけに、ショックだった。

マティアスは、とても綺麗で、あの表情がなかったら一目ぼれしていてもおかしくなかったと思う。

だって、フィリアは恋をしようと思っていた。大好きになろうとしていた。


父に、緊張しすぎたので外に出たいというと、無言で頷いてくれたので、バルコニーへと出た。

父と兄は、幾人かに挨拶があるのでここで待っていなさいと言われた。

それは、ありがたい。


そよそよと夜風が吹いていて気持ちが良かった。

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