神様ワーク
この話は「神様ライフ」と同じ世界のお話です。
そして同時に、この話には作者の書いた様々な物語の登場人物が出ます。
ただし、全てネタバレを含みますので、「気にしない!」という寛容な方のみお読みくださいますようお願い致します。
作者の息抜きも兼ねて、非常に短く場面転換も多く、そしてほとんど説明を放り投げておりますので、この話の中だけで完結していると思って下さい。気が向いたら加筆するかもしれません。
以上を踏まえて大丈夫な方は、短いお時間、お付き合い下さいませ。
私の名前はルシェ。とある世界を監視する女神。
生前は魔女、しかも千年くらい生きた賢者的魔女だ。
死んだ理由はさておき、気が付いたらこの世界で神様になってただけで、別になりたかったわけじゃない。
が、なってしまったものはしょうがないし、長い時間を過ごす事は慣れている。
ただ、問題は。
「……ぶっちゃけ、ド暇ね」
「ぶっちゃけ過ぎですわぁ、お姉さまぁ」
「お隣さんでもお宅訪問する?」
「……また喧嘩してますけどぉ?」
そう、暇すぎるのだ。本はないし、薬草を煎じる必要もないし、話し相手は基本、双子の妹・メディだけ。
まさかこんなに何もない世界だとは思わなかった。
だが、自分たちの世界に手を出すわけにもいかない。過干渉は破滅を招くと、ついこの間、とある子供を見て知ってしまったのだ。
「……あの子供、どうなったと思う?」
「多分、誰も助けてくれずに自滅しておしまいじゃないですかぁ? ……愚かな子供でしたわぁ。概念的世界に手を出すなんてぇ」
メディが呆れた声で言うが、あの子供がただおしまいを待つようには見えなかった。
ろくでもない事をしでかしていなければいいのだけれど。……いや、迷惑がこっちに及ぶから。
「じゃあ、せっかくだしお隣さんにお話聞いてみようか。あの子供どうなったか知ってるかー、って。エウノスなんちゃらって男神なら真面目に答えてくれそうじゃない?」
「えぇー? あの人、話長いから、お姉さまお願いぃ」
妹は長い話が苦手だ。前にその男神からちょっと話を聞こうと思ったら予想外に長くなり、途中で居眠りをしたレベルで苦手だ。
ちなみに怒りかけた彼の矛先は、顛末を眺めていた奥さんのミスなんちゃらって美人にその後向かったらしい。
「分かった分かった。じゃ、行こうか」
ちなみに、この時二人揃って世界を放置したのは、後で反省会の大きな課題となる。
「……ああ、あの子供……ウィルアラムと言っていたな」
「そうそう、ウィルなんちゃら」
「その後に関しては知らんが、一応説教しておいた。概念的世界についてと、自分の司る世界に干渉するその意味を……十時間ほど」
「……それは、病人に鞭打つ内容ですね」
訪問したら喧嘩は終わっていたが、奥さんはふて寝中らしい。仕事した方がいいんじゃないか。
その時、子供がひょこっと出て来て私達を見るなり、頭を下げる。
「ようこそ。生と死を司る双子の女神様方。本日は世界の監視をしなくてもよろしいのですか?」
「まあ、平和そのもの、って感じですからぁ」
「えーっと、メソ……メソ……」
「あの、僕が泣き虫みたいなイメージつくので、そこだけ繰り返さないでもらえますか」
名前を思い出そうとしていると、子供は微妙そうな表情でそう告げた。
「メソピアロマ。……まあ、アロマとでも覚えておけば間違いはないだろう」
「一気に香りの神様になりましたが、それでいいんですか」
父親である彼も、妙なところでアバウトになる。だからやっていけてるのかもしれない。
さておき、例の子供がどうなったかは、さすがに知らないようだ。
しかし、そこでアロマ少年が首を傾げる。
「彼、父様のお説教を受けても、まだ可能性を探しているようでしたよ。司る力がそうさせているのかもしれませんが、もしかしたら……他の世界に干渉してしまったかもしれないですね」
「本来なら、どんなに子供だろうが生前の記憶に伴い、この世界の不文律を理解出来ているはず、なんだがな」
「どうも、特殊な子供のようでしたね。だからこそ、何をするか分からない。……そういえば女神様方の世界は、確か母上がいらした世界でしたか」
「似て非なる世界ですわぁ。並行世界に等しいと思って頂けますかしらぁ」
そう、同じような世界でも、それぞれに違う未来を描く世界がいくつも存在する。そして私達が呼ばれた世界は、ほんのわずかな違いでもって存在している。
「世界そのものが生きている限り、神は何度でも呼ばれ、産まれ、力を与えたり奪ったりする。……神が消えても、世界は生き残る。そういうものですから」
「……だが、あの子供は、世界と自分が同一だと考えているようだ。恐らく、自分が死ねば世界も死ぬと思い込んでいるだろう」
「そんなわけ、ないんですけどねぇ」
まあ、知らないのであればお邪魔しました、でいいだろう。
「じゃあ、私達はこれで。仲直りしてくださいね」
「あと、夫婦喧嘩、もうちょっとお静かにお願いしますわぁ。親子喧嘩もですけどぉ」
「……分かった。努力はする」
「す、すみません……」
物分かりのいい父子のおかげで、私達は無事に元の場所に戻り――だが、鏡を覗き込んで、違和感を抱いた。
「ねえ、メディ?」
「分かっておりますわ、お姉さまぁ」
私達は、さっきアロマ少年が言った通り、生と死を司る。
そしてそれは、世界全体のバランスを保つ、大事な力なのだ。
一欠けらであろうが、消えたら分かる。
「…………何故か、失われておりますわぁ。人間一人分が、きっかりとぉ」
「同じく。生も死も同時に失われた。これは一大事よね」
ちなみに、同じ時間に複数の命が死んだり生まれたりするのとは、わけが違う。
「一人、持っていかれちゃいましたかしらぁ」
「誰の仕業かしら。バランスを崩すなら他所でやって欲しかったわ」
「それも酷いお話ですけどぉ……そうだ、別のお隣さんにお話を聞きませんことぉ?」
メディの案に、私はもちろん乗った。
逆隣で過ごしているのは、これまた神様とは言い難かったりするのだが。
「子供……? 見た」
「鏡に手を入れていただけだったようだけれど、どうかしたのかな」
ありがたくも迷惑な証言を、この二人は教えてくれた。
この二人、どうやら生前も同じ世界で同じ環境に居たらしく、しかも心中したという。
否、心中というか、二人同時に死んだそうだ。おかしな病で。
詳しい話はそれこそ、頭がおかしくなりそうだったので覚えていない。
そのせいか、彼らは生前と同じ名前を名乗り、司る世界は「研究対象」扱いである。
「どうもこうも、人間一人、持ってかれたみたいなのよぉ」
「バランスが崩されたから困ってるの。どんな子供だったか、覚えてるかしら」
「…………この前、来た。助けて、って」
「ああ、自分の世界が壊れそう、死にそうだから、力を貸して欲しいって言ってた子供か」
顔をしかめる少女と、興味無さそうに思い出す少年の言葉に、やっぱりか、と私達は顔を見合わせた。
「駄目に決まってる。研究対象におかしな不具合が出ても困るからね」
「……あの子、壊れかけてる。マナたちと、一緒」
「壊れかけてるぅ? それは……死にかけているのとは違うのぉ?」
「違う。ココロ。狂いかけてた」
片言で話す少女の言葉に、少年が頷く。
「多分ああなった以上、まともな論理が通用しない。……返せって言われても、返してくれるどころか、とっくに返せない状態かもね」
何とも、はた迷惑な神が生まれたものである。
そしてどう見てもどこかしら壊れて狂っているであろう彼らにまで言われるのだから、相当だったに違いない。
それを相手に十時間も説教したあちらのお隣さんは別の意味ですごいと、何だか感心してしまう。
「どうしましょう、お姉さまぁ?」
「んー……戻ってくるとは思えないし、これ以上留守にするのもね。……仕方ないから、何とかしましょう」
お邪魔しました、とそこを去ろうとした私達に、少年が声を掛けた。
「……バランスを崩した世界は、壊れやすい。気を付けた方がいいよ」
「ええ。分かってるけど……」
「違う。ゼン、もっとちゃんと教えて」
「…………大方、新しい命を強制的に生み出して、バランスに加えるつもりだろう? ……なるべく、消えた存在に近しくした方がいい。容姿も、性格も」
「…………そこまでしなくちゃ駄目ぇ?」
めんどくさい、と堂々と表に出す妹ほどではないが、それを配慮しろという彼の意図が、私にもよく掴めない。
しかし、少女の方が今度はにっこりと天使のように笑って言った。
「大丈夫。ゼンは天才。言う通りに、してみれば分かる」
「……あくまで、僕らの世界に影響が出ないようにしてるだけだ」
天才の考える事はよく分からない、が、どうやら配慮してくれているというのだけは理解する。
「わざわざありがとう。じゃあ、一体どんな人間が消えたのか、ちゃんと調べないと」
「あぁん、人間増えすぎてて探すの面倒ですわぁ」
……嘆く妹よ、産み出すのは生を司る私なのだが。
で、どうなったかっていうと。
「世界、滅んじゃいましたわぁ。わたし達のぉ」
「そうね。まあ生きてるってことは、この後復活するんじゃない?」
――バランスを崩されたその代償は、果てしなく大きかった。
悪戦苦闘して探し出した存在を元に新たな命を生み出させたはいいが、その命、どうやら理に反してしまったようで、輪廻を繰り返す度におかしな力を蓄え続け、ある科学者の元に生まれて、それを爆発させてしまったのである。
結果、まあ、一瞬にして世界から大半の命という命が消え、惨憺たる有様だ。
「酷いわ酷いわぁ。あの子供、許さないんですからぁ」
「……ていうか、これ、どうなるのかしら」
私たちはまだ存在している。つまり、世界にとって必要とされているということ。
それはすなわち、私達にすべき事があるということだ。
「ううーん、お姉さまが産み出した子はぁ、多分この先もまた、大変な事をしでかしますわよねぇ」
「そうね」
「でしたらぁ、わたしが産み出しますわぁ」
思いついたように言うが、妹よ。死を司る存在が命を産み出したら、それはもはや命とは呼べないのでは。
「お姉さまに反するお力を使わなければ、例の存在を相殺させられませんものぉ。こうなったらぁ……不老不死の存在を作って、半永久的に制御してもらうのですわぁ!!」
――おい、おいおいおいおい。
それ、神としてやっちゃいかんことではなかろうか。
「まって、メディ待って。死なないのはまずいわ」
さすがに止めると、妹は思いとどまってくれたようである。
「不老不死が駄目でしたらぁ、せめて引き合うように糸でつなぎましょうかぁ?」
「…………そ、それくらい、なら?」
いいのかな。でも、そもそもこの状況は、私達が目を離したせいだし。
「ではぁ、特別な子供を作りますわよぉ! うーんと綺麗にしてあげますねぇ!」
「…………人間から外れた美貌って、敵になるわよ」
「いいのですわぁ! ……お姉さまの作られたお命も、相当に人並み外れた美貌ですしぃ」
おかしいな、普通に作ったつもりだったのに、と思ったが、そういえばその子供、生まれてはいじめられて独りぼっちだった気がする。
……この際、お仲間が一人くらい増えた方が、暴走しなくて済むだろうか。
そう思った私は、後に世界が安定した頃、またしても反省会をすることになった。
「あああぁ! 不老不死になっちゃいましたわぁ!!」
「……言わんこっちゃない」
私達が産み出した子供は、二人揃って不老不死という、神の領域侵犯をやらかしてくれた。
片方に引きずられた形となったが、これで彼らには未来も希望も無くなってしまう。
「どうしましょうどうしましょうぅ!! いくら死の女神が作ったからって、死を忌避しなくてもぉ!!」
「生を司る私の作った子に至っては、生を拒否してるんだけど、これ、やっぱり間違えた感じよね」
ていうか、どんどんこの世界、やばいことになってる気がする。
過干渉はいかん、とあの子供で悟ったにも関わらず、私達はやらかしたのだ。
何しろ、この世界、崩壊した後で消えていた魔法が復活し、それによって新たな発展をしたはいいが、ろくな技術開発をしてくれない。
不老不死の方法まで開発されてしまったが、ぶっちゃけ、天罰を下してやりたいくらいだ。
――いや、下した。
「まあ、これで後は勝手に消滅の道を選ぶし、もうこれでいいでしょ」
「……そうですかしらぁ」
「神の領分を犯したら、待ち受けるのは何も残らない消滅。元はバランスを取る為に作られたんだもの。……これが正しい結果だわ」
そう、私達は、勝手ながらこの世界に一つの理を加えたのだ。
人間として、命を操る事はしてはいけないと。
もしそれをすれば、命の証を残す事すら、許さないのだと。
生も死も、人間の手で好き勝手してはいけない。
私達は神であり、監視者だ。それを止めるだけの力と権利がある。
「…………お姉さまぁ。哀しいですわぁ」
メディは泣いていた。産み出した命が消えるのだから、当然かもしれない。
だから、私は笑う。正反対の双子の姉として。
「私は、嬉しいわ。さあ、彼らを見守りましょう。そして二度とこの世界のバランスを崩す事のないよう、私達の役目を、果たしましょう」
――私は生を司る女神。妹は、死を司る女神。
私達が監視する世界で、私達がそれぞれ産み出した子供は、今。
――生と死を奪い合い続けている。
fin.
ネタバレの詳細。
主人公→連載してた「地に堕ちた魔女」の主人公でした。このお話は下げてしまったので、ネタバレとしてはノーカンで。妹だけはこの話のみのオリジナルです。
ウィルアラム→連載中の「空想科学フェアリーテイル」の少年。神様。
お隣さん家族その一→短編「神様ライフ」の家族です。奥さん出なかったけど。
お隣さんその二→連載中の「楽園症候群」の主人公二人。……これ、下げたかもしれないお話ですが、まあそのうち。
双子の監視する世界→短編「神の落とし物」の世界。あの二人に未来なんてないんです。ごめんなさい。
ということでした。
ただし、本当にこれが正しい答えだとは言いません。これもまた、あくまで「並行世界」である可能性を残しておきます。
では、お読みいただいてありがとうございました。