花火鑑賞研究会!
2016年8月にあげたツイノベ連作です
1:大学に入学し期待に胸膨らます春。
オリエンテーション後の構内で私は一人の男子学生からテニスサークルとやらに執拗に勧誘されていた。
「君小さくて可愛いね!一緒にテニスしようよ!」
断ってるのにしつこい。ほとほと困ってたときに「この子ウチに入るから」と現れたのがワンコ先輩だった。
2:私も小さいけどその先輩も男子にしては小さい。けれどその男子学生は彼を見てすぐに言葉を濁して去っていった。
それから私はなぜかその先輩に連れられてとある教室に連れていかれる。
そこにいたのは女性一人と男性一人。そして、
「新入生連れてきた」
「でかしたワンコ!」
ええっ!何コレ!
3:「ようこそ花火鑑賞研究会へ!」と猫目の綺麗な女の先輩。いやあの…
「そっかあワンコはこういう子が好みかあ」
クマの様に大柄な男の先輩がニコニコ笑う。
「別に。ただ俺より小さかったから」
何それ!
「いえ…しつこい勧誘されていたらあの…ワンコ先輩?が助けてくれてあの…」
困った。
4:「ああ、ワンコこう見えて空手有段者で去年の学祭の総合格闘技で優勝したからね」ニャンコ先輩がおっしゃる。
ええっ!!このほんとワンコのような容貌で…(失礼)
「じゃあ入会届書いてくれる?ウチは名前の通りひたすら花火大会を観に行く研究会。活動メインは夏だから」
…会員になりました。
5:「あっウサミミ!お前も今講義終わり?皆で飲みいくぞ!」
ワンコ先輩につかまった。ちなみにウサミミとは私のこと。本名をもじられた。ここは動物園ですか?
あと花研は夏がメインの活動じゃないんですか?
何か毎週飲んでるのですが。
「猫と熊が酒豪だからな」
犬もでしょ。心の中で呟いた。
6:ニャンコ先輩が空のジョッキを置いて言った。
「夏も近づいてきたことだしそろそろウサミミに我が研究会の花火鑑賞の心得を授けるわ」
…遅くないですか?でも黙って烏龍茶を飲む私。
「いい?
1、ビールは飲まない
2、浴衣は着ない
3、主催者への感謝
以上よ!」
…よくわかりません。
7:クマ先輩の解説曰く、
ビールを飲むとトイレに行きたくなるから、そしてトイレは女性用だと特に混むからとのこと。
浴衣は素早く行動できないから。
「主催者への感謝は、観覧者は忘れがちだからね。素晴らしいものを見せてくれてるのにさ」
そういえば、そこまでは考えてなかった。感謝、大事。
8:飲み会後はいつも必ずワンコ先輩が送ってくれる。遠回りだからって言ってるんだけど「猫と熊がうるさいから」ときかないのだ。
今日も20時に解散。早い時間なのにやはり送ってくれる。
帰り道で徐に先輩が言った。
「最初、無理に入会させて悪かったな…」
そんな!今ではすっかり楽しいです!
9:7月中は試験だったこともあり初の花火鑑賞は8月に入った本日。
「やっと…やっと本来の活動が…」
呟く私にニャンコ先輩が「失礼ね。いつもの飲み会だって活動の一環だよ」と頭を叩く。結構痛いです。
「でも実は先週の土曜、某公園の大会にクマと行ってきた」
ええー!ずるい!なんかずるい!
10:ずるいずるい言う私にワンコ先輩が「なんでそんなに悔しがんの?」と不機嫌そうに聞く。そしてこっそり、クマが好き?って。
「違う違う違います!東京最大の15号玉とか上がるじゃないですか!見たかったけど大人しく勉強してたのに!」
ワンコ先輩は「花火の勉強もしてるのか」と笑った。
11:ワンコ先輩って笑うとほんとにかわいんだあ…高校生みたい。
私がにまにま笑ってると「何」と先輩。
「いや先輩ってかわいいなと思って」
叩かれた。痛いです。なにこの暴力サークル。
「ウサミミに言われたくない」
そりゃ確かに小柄な先輩より更に小柄だけど!
─と、誰かが私にぶつかった。
12:「痛えなオイ!」
見るとちょっと柄の悪い茶髪のお兄さん。ひええ!でもぶつかってきたのはそっちです!「すっすみません」でも謝ってしまう。なのに
「ぶつかってきたのはそっちだろ」ぎゃーワンコ先輩応戦しないでー!
「んだとゴラ」
向かってきた腕を先輩は軽く躱すと相手の足をひっかけた。
13:「走るぞ!」
ワンコ先輩は私の手を掴むと人ごみを縫って走り出した。
離れてから一息つく。
「小柄な二人組だからかすいすい抜けれましたねえ」と言うと「お前は呑気だなあ」とまた先輩は笑った。
それからはぐれた二人に連絡して待ち合わせ場所を決める。
その間先輩は私の手を放さなかった。
14:それからは花火大会シーズン真っ盛りとばかりに日々あちこちへ出向いた。なるほどだから4~7月はこのときのための交通費を稼げとバイト推奨されたわけだ。(飲んでもいたが)
あるときは河原から、あるときは球場から。あるときはバイトとして入った屋形船から!海の上からみる花火は極上だった。
15:「今大会をもって今年度のメイン活動を終了いたします!」
8月終盤、ニャンコ先輩が高らかに宣言した。まだ8月ですが…
9月も花火はあることはあるけどテーマパーク系の大会は対象外とのこと。
でも今後も飲み会とかはあるのかな?
今までの飲み会は確かにこの夏の話がメインではあったけど…
16:しかし私の期待は見事に打ち破られた。
「ごめんウサミミ、我々は3年生であるからして秋からは就職活動等始めなければならん」
がーーーーーーーーーーーーーーーん!!
待って待って待って。私一人になっちゃうの!?
今更ながらのことに狼狽える。
「ひどい先輩、1年生私しかいないのに!」
17:楽しかったのに!最初はわけわからずに入らされちゃったけど、楽しかったのに!こんなんなら入らなければよかった!
秋になって。先輩たちを避けてたけどある日クマ先輩に声をかけられた。
「ウサミミちゃん、俺たちが考えなしでごめんな。
本当はね、今年で花研は解散しようって決めてたんだ」
18:元々俺ら3人で作ったサークルだし、マイナーだし人も集まらないしもっと人数多くて人気のサークル一杯あるし。新入生も勧誘しないで今年活動してやめようって。
でも、なぜかワンコが君を連れてきた。君が入ってくれた。俺たち嬉しくなっちゃってさ。このまま続くかも、って期待しちゃったんだ。
19:一人とぼとぼ家路を歩く。いつだってワンコ先輩が一緒だった道だ。
クマ先輩は「花研は解散しよう。ネコも済まながってた。俺らはウサミミちゃんに感謝しかない。君が入って楽しかったから」と言って去っていった。
私だって楽しかった。すごく楽しかった。
数日後、私は先輩たちを呼び出した。
20:「先輩方、私に言うことはありませんか」
でん!と空のジョッキをテーブルに置く。中身は烏龍茶だけど。
「いえあの…ホントすみませんでした」ニャンコ先輩が小さく見える。
「ち・がーーーう!!」
声を張り上げた私に先輩たちがビビる。何コレ楽しい。
「違うでしょ!花研を続けて、でしょ!?」
21:ぽかんとしているお三方。何コレ楽しい。
「え、だって、え、ウサミミ、あんた一人で…」
「確かに一人は厳しいです。だから先輩たちにも協力はしてもらいます。来年の春には新入生を勧誘して絶対5人は入れて見せます!花研は継続します!今日はニャンコ先輩から私へ会長引継ぎの会です!!」
22:しーんとなった中、ぷっと漏らしたのはワンコ先輩だった。
「すげえウサミミ。ネコを黙らせた。すげえ。そんなちっこいのに…何つーか、すげえ」そうしてげらげらと腹を抱えた。
クマ先輩もふわっと笑って、ニャンコ先輩は「うしゃみみぃ~」と泣き出した。
「違う!会長って呼んでください!」
23:*
「ワンコ先輩、また来たんですか?色々大丈夫なんですか?」
「いいだろ別に来たって」
翌春、何と我が花研は新入生を8人もGETした。クマ先輩は「ウサミミちゃん可愛いからな。ネコはキツいからあとで逃げられるんだよ」とお世辞を言ってくれたけど、先輩方も勧誘を頑張ってくれた賜物だ。
24:それにしてもワンコ先輩の参加率が高すぎる件。顔を出す度「諸々平気なのか」「別にいいだろ」と言い合うんだけどそれを後輩たちが生温く見ているのも気になる。
私より余程大人っぽい後輩女豹ちゃんが「かーわい♪」とか言ってワンコ先輩に睨まれていた。やめなさいこの人こう見えて強いんだから。
25:それから…
それから、ワンコ先輩が私に告白してくるまで3年かかった。
私もさすがに2年目あたりでなんとなーく気付いてたんだけど社会人になってからもしょっちゅう遊びにくるし飲むし花火行くしまあいっかなって。
「実は一目惚れで勧誘した」という話にはさすがに驚いたけど。
おわり
ちなみにウサミミの本名は宇佐見未来ちゃんです