私に始まりをくれたのは。※
桃太郎 in peach
ということで、桃太郎視点です。
もう一話続く予定。
私の最初の記憶は、暗闇だ。
ゆらゆら、ゆらゆら。
ひたすらに流されていた。
何に流されているのかも、どこで流されているかもわからない。
どこからどこまでが視界なのかわからない暗闇の中。
でも、特に何も言わなかった。
悲しいとも、寂しいとも、何とも。
そういう感情を知る前だったから。
ずっと、永遠に続くと思った。
しかし、それは唐突に終わった。
突然、ゆらゆらと流される感覚がなくなった。
その代りに感じたのは、その前までの穏やかな流れとは程遠く、荒っぽい上下左右の振動。
その次には、自分の意識を持ってから初めて、止まった。
次は何が起こるのだろう。
初めての感覚に、よくわからないものが体を満たした。
後から知ったのだが、これは感情というもので感情にはいくつかの種類があり、この時のこれは『ドキドキワクワク』だったらしい。
もう少したってからは、この感情を緊張・期待・不安など様々な言葉で表現できることを知った。
その感情というものを教えてくれた人に出会ったのは、このときだった。
初めて黒以外の色を見た。
視界のすべてが白くて、強い刺激となっていた。
最初は、ただただ眩しくて、目が痛かった。
でも、それを苦痛だとは思わなかった。
耳に届くその音が、この場所は優しいものだと教えてくれていたから。
『やったーー!良かった!!セーフ!私、マジでよくやった。よし、よく聞け!君は桃から生まれた。だから君の名前は桃太郎だ!今日から君は桃太郎だっ!!』
その声を聞いて、私は何故だか泣き叫んだ。
ありがとうございました。