老後が心配だ。
「桃太郎。私のことちゃんと看取ってね」
「……いきなり何を言い出すのですか、母上」
夕飯を二人で食べているとき、唐突に私は言った。
いや、ね?
正直もう結婚できるとは思っていない。
しかし、それは私だけで桃太郎はきっちり嫁を貰うはずだ。
その場合、私は姑になるわけだが。
こんな荒っぽく雑な性格で、世の中の娘さんたちと仲良くやっていけると思えない。
だから村でも家が立ち並んでいるところではなく、ご近所さんにあまり会わないような場所にいるのだ。
まあ、世の中の嫁は姑に悩まされるのが常だが、桃太郎がもらってくる嫁はおそらくいい娘に違いない。
桃太郎は女に騙されるような性格してないからな。
そんな娘のストレスにはなりたくない。
仕方がないから、桃太郎には婿に行ってもらおう。
そこまで考えてちょっと待て、となった。
桃太郎が婿に行くということは、この家を出ていくということだ。
と、なれば当然この家には私が一人だけで済むということになる。
まずい。
私、孤独死しそう。
というか、鬼退治してお姫様を助けたりなんかしたら「きゃー桃太郎様カッコいい!ステキ!」とかなって、姫様の婿になるということもあり得るんじゃ……?
やばいな、これは。
どう考えても、一人でこの家に取り残されて孤独に死んでいく未来しか見えなかった。
仮に桃太郎の母親枠で都の方に行かせてくれるとしても、都の人々やら環境やらに私が耐えれるはずがない。
無理だ、無理。
私はこの村から出る予定なんてこの先少しもない。
この家に一人になるのはいい。
しかし。
し・か・し!
さすがに孤独死はいやだ。
それに!
もとはと言えば!!
桃太郎が来たせいで婚期を逃したのだ!
後悔はしてないが!
それくらい!面倒見てくれても!
いいだろおおおおうううぅぅぅ!!!
そんなわけで、桃太郎に頼んでおこうと思ったのだが……。
「嫌です」
「なんだと、てめえ」
母の老後くらい見てくれたっていいだろ!
と、怒鳴ろうとしたわけだが……。
「……あんた、なんで泣きそうなの?」
桃太郎は顔を歪めて、目を潤ませていた。
「だって、母上が看取れなんていうから。……母上が、私より先に死ぬなんて言うから」
思わぬ言葉に私は驚いた。
ポカン、と大層間抜けな顔をさらした。
いや、あんた……。
「や、どう考えても私が先に死ぬからね」
「っ!な、なぜですか!?」
「現在五歳児のやつより長く生きる予定はねえよ」
忘れそうになるが、桃太郎は五歳児だから。
見た目は一五歳でもあんた五歳児だから。
見た目年齢と精神年齢がイコールで、忘れそうになるがな。
自分の年齢忘れんなよ。
「そ、そんな。先に、逝ってしまうんですかっ?」
「……たぶん、というかほぼ確実にそうなると思うけど」
「い、いやです!私も一緒に逝き」
「それ以上言ったら殺すぞ、てめえ」
低い声で、私は桃太郎の言葉を遮った。
桃太郎はビクリと肩を震わせた。(こんなところはまだまだ幼いなと思う)
「……親より先に死ぬ子ほど、親不孝な子どもはいないよ、桃太郎」
「…………はい。馬鹿なことを言いました。母上、ごめんなさい」
少し納得できないような顔をしながらも、素直に謝る桃太郎を見て私は苦笑した。
なんとも、いい子に育ったものだ。
私は桃太郎の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。まだまだ先の話。それに、子どもに看取られるのも結構うれしいものなんだから」
撫でながら、そう言って笑う私に桃太郎は無言で頷いた。
(よーしよしよし)
(…………)
ありがとうございました。