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必要なのは覚悟と勇気。

 私には二十一世紀の日本で天寿を全うした女性の記憶、つまり前世の記憶を持っている。

 何言ってんだコイツ、と思うかもしれないが事実なのでそういうもんだと受け入れて欲しい。

 

 さて。

 その時代の日本生きていれば何度か見聞きしたことがあるだろう。


    『桃太郎』  またの名を『ピーチボーイ』


 桃から生まれた桃太郎が犬・猿・雉を連れて鬼ヶ島の鬼を退治する、という日本の超有名な昔話である。


 改めて、聞きたい。


 コレって『桃太郎』の冒頭部分ほぼそのまんまじゃない?


 川からえっこらえっこらと桃を運び終え、その大きな桃の前で私は正座をしている。

 そして、現実を受け入れ(ようと努力し)ている最中だ。


 今まで私は昔の日本に転生したのだと思っていた。

 しかし、そうではなく。

 私は『桃太郎』が存在する日本に転生したらしい。


 ……『桃太郎』ってフィクションだよな?

 あ、フィクションだった。

 動物はしゃべらないし。

 

 何か混乱してきた。


 …………まあいっか。


 それより私にはしなくてはいけないことがある。

 覚悟を決めなければいけない。


 大きな桃を拾った。つまり桃太郎を、命を一つ私は拾った。

 拾ったからには私は桃太郎を育てなければならない。

 桃太郎を実の子のように、育て上げる覚悟。

 

 それだけじゃない。

 

 桃太郎はいつか鬼を退治のために旅に出る。

 その時私は何もできない。

 自分が育てた可愛い子が危険な場所へ行くのを笑って見送らなければならない。

 見守ることもできない。

 ただ、ただただじっと帰りを待つ覚悟。


 私はふぅ、と溜息を吐いた。

 そして、目を閉じる。


(あ、そういえばもう一つあるわ。やんなきゃいけないこと。黍団子、極めないと。人も犬も猿も雉もほっぺたが落ちるほどおいしい黍団子)


 

 落ち着いて、考えて。

 私は覚悟を決めた。



 私は桃太郎を絶対にいい男に育てる。

 そして、桃太郎が決めたことはどんなことでも笑って応援するのだ。

 黍団子も極める。


 よし、できた。

 覚悟はできた。

 あとは、ほんの少し…………いや、かなり多くの勇気だけ。



「これ、切れないよね!?中の子ごと、切っちゃわないよね!??いや、待て。落ち着け私!周りから、表面から、少しずつ。切込みをうっすら入れるかのように!や、実を少しずつ削っていこう!間違っても上からダンッ、とか振り下ろしてはならない!!よし、いくよ?いく!いくからね!?いくからぁ!!!」


 ブルブルブルブル震えながら、手に包丁を持ち、私は桃の実を少しずつ削っていった。



 無事、無傷で男の子を取り出せたときは号泣した。めちゃ、ホッとした。




(やったーー!良かった!!セーフ!私、マジでよくやった。よし、よく聞け!君は桃から生まれた。だから君の名前は桃太郎だ!今日から君は桃太郎だっ!!!)

(おぎゃあぁーーーー!!!)



 

ありがとうございました。


補足説明

・主人公の前世は三児の母。子育てはお任せあれ。

・『桃太郎』は物語のことを指し、桃太郎(←『』なし)は桃太郎本人を指します。

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