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最終章
目覚まし時計が鳴り出す一〇分前に、少女はトーストの香りで目を覚ます。
万全の目覚めとともに、今日も少女は戦争に赴く。
顔を洗い、歯を磨き、戦闘服に着替えたら、あとは朝食を済ませて出かけるだけだ。
猫も、敵も、カラスも、蝶も、決していなくなったりはしない。
少女が戦士を辞めるまで、彼らはこの世に残り続けるだろう。
だけど、悪魔一人くらいは、変わることもあるのかもしれない。
歯を磨いた洗面台の前で、少女はちょっと思いとどまった。
笑わない顔が、開かない口が、目の前の鏡に映っていた。
「……おはよう」
なんでもない。ただのあいさつの練習だ。
少女は露骨にプイと顔を背けて、普段よりいそいそと戦場へと旅立った。
――その日から、少女のあだ名は「ハリネズミちゃん」に決定したのである。