四章
「もう、やめときなよ」
カラスは高い所が好きだった。
腹部から真っ二つに折れた鉄塔、その最上階で昼食を貪る少女の、さらに頭一つ上を羽ばたきながら、甲高い声を落とした。
「やめるって、何をよ」
「解ってるくせに。死線で縄跳びするような無茶はいい加減慎みなっての」
忠告らしきカラスの言葉に、少女は無言のまま菓子パンを頬張り、牛乳を一気に呷った。
午前の間に少女は四戦し、全勝していた。まず三匹を安定したペースで撃破し、ラスト一匹には多少手こずったものの、休戦を告げる鐘の音に相手が涎を垂らした一瞬の隙に、渾身の右ストレートを叩き込んで勝利した。
あとは午後に二戦して、帰宅するだけだ。
荒野の片隅にぽつりと佇む鉄塔の上で、少女は「ふん」と鼻を鳴らす。
「何よ。まさか私に戦争を止めろとでも言ってるの? 冗談じゃないわよ」
「そうじゃないさ。ハルの楽しみを奪うつもりはないよ。でもやっぱり、一人で戦うのは危なすぎると思うんだ」
カラスは少女の荷物から勝手に揚げパンを漁り出し、突きながら言う。
「何言ってるのよ。危なくなんかないわ。私が死ぬことなんてありえないもの」
「たとえ死ななくても、戦えなくなることはあるだろう。疲れちゃったりなんかしてさ」
「そんなの心配することじゃないわ。疲労なんて、楽しさでいくらでもカバーできるのよ」
少女はカラスに取り合おうとしない。
カラスはその理由を見透かしているかのように、冷静な口調で一匹オオカミに語りかける。
「嘘つき。確かにハルは楽しければ何だっていいんだろうさ。でも、味方がいればもっと楽しくなることくらい、ちゃんと解ってるだろ。自分が強いからって、弱い奴を切り捨てるのはよくないぜ。もっと広い心を持ってだね――」
「私の味方になってくれそうな奴なんて、想像もつかないわよ」
少女は強い語勢で、カラスの弁舌を遮った。
「第一、戦場には人間がいないじゃない。悪魔なら腐るほどいるけど」
カラスは長いくちばしから長々と溜息を吐いた。
「かぁ。誰が味方か解らないなら、味方じゃない奴を全て排除すればいいじゃないか。極論だけど、そのくらいの頭の柔らかさは、この先の戦争を切り抜ける上でも必要だと思うぜ。余計なお世話かもしれないけどね」
本当に余計なお世話だった。
少女はいかにも不機嫌、といった様子で顔をしかめて、「もういい。行く」とゴミをカラスに向かって放り投げ、鉄塔の縁に足をかけた。
お節介なカラスは、取りつく島のなくなった少女を見下ろしながら、
「悪くない悪魔だっているかもしれない。この世の全てを調べたら、白いカラスだってきっといるんだから」
ぼそりと、呟いた。