第2話・1
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学校はこの日で一学期が終わり、明日からは夏休みに入る。
学校からの帰り道、トオルと並んで歩いていた陽平は、面倒くさそうに言った。
「自由研究がやっかいだよなー。あれって、別に研究じゃなくて工作でも何でもいいって言うけどさー、その何でもいいのを考えるのが面倒なんだよなー」
陽平の言う『自由研究』とは、国語や算数なんかのドリル以外に出される、夏休みの宿題の一つだ。名前の通り何かについて研究してもいいが、実際のところは絵を描いても良し。おもちゃ屋で売っているプラモデルを組み立てても良し。何でもいいのだ。
「どうせ、オマエはまたパズルだろ?」
見透かしたようにトオルが言った。
陽平はここ数年、夏休みも冬休みも自由研究は全部、パズルで通してきていたのだ。
「だって、調べモンは面倒だし。家族総出でやるとなったら、必然的にパズルになっちゃうんだよ」
「宿題は榎本に見せてもらって、その上自由研究も家族にやらせるのかよ」
トオルは、ヤレヤレと、わざとため息混じりにして言った。それに対し、陽平も負けずに言ってやる。
「なんだよ。オマエだって榎本の事、アテにしてるくせに」
「まあな、出来るヤツに教えてもうのが一番だろ?」
そこは同意したトオルだったが、あくまでも陽平とは違うという事をアピールするかのように言った。
「でも!オレは工作くらい一人でやるし」
そんなトオルに、陽平は間髪入れずに反撃した。
「へー。去年は、榎本の研究に無理矢理入り込んで共同研究にしたくせに?その前は確か、お姉さんが前に自由研究で出した事あった絵を、そのまま提出したよな?バレて怒られてなかったっけ?それから、風鈴!買ってきたヤツなのに、コップ切って作ったとか言ってたよな。あれはバレなかったんだよね。端っこのとこ、微妙に傷入れたりしてさ。トオル、自分が作ったように細工するの上手いから。そういうの、他にもあったよな」
「うっせーなぁ!」
このままだと、過去の悪行を全部しゃべり出しそうな陽平を黙らせると、トオルはプイッと陽平から顔を背けた。そんなバツの悪そうなトオルを見て、陽平はニヤニヤ笑っていた。
「で?今年は何か作る気なんだ?」
陽平は、ちょっと軽い気持ちで訊いてみたのだが、意外にもトオルは、
「まあな」
と答えた。
まさかもう決まっていたとは思わず、陽平はビックリして訊き返した。
「えっ。何?何作るの?」
今度はトオルがニヤリと笑い、「知りたい?」と訊くかのように間を取った。
息を呑んでじっと待った陽平だったが、トオルの口から出てきた言葉は、
「秘密」
の一言だけだった。
「ハ?何だよ、ソレ。勿体ぶってないで教えろよ!」
陽平がしつこく訊いても、トオルは、
「フフフ。ちょっとスゴイもんだから」
と言うだけで、決して教えようとしなかった。
その押し問答はしばらく続いたが、結局、トオルの堅い口を割らせる事は出来なかった。
別れ際までも陽平は、「絶対聞き出してやるからなっ」と息巻いていたが、トオルに教える気は全く無かった。秘密で作って、いきなり新学期に皆の前でお披露目して、ビックリさせてやろうと思っていたのだ。それだけ、トオルの頭の中で構想中の作品は、スゴイものになる予定だったのだ。