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機械仕掛けの光の先へ  作者: 真栄田エイラ
2/19

第1話・1


トオルは、友達三人と一緒にいつもの本屋に来ていた。

ここは、月曜日の放課後に寄り道するのが習慣になっている本屋。トオル達がここへ寄る理由。それは、週イチで刊行される少年マンガ誌を買う為だった。

目的の雑誌は、少年雑誌コーナーのど真ん中。いつもの定位置に、山のように平積みされていた。これだけたくさんの在庫を広げていても、通学路に面したこの本屋ではすぐに売り切れてしまう。明日にはもう無くなっている事がほとんどの人気雑誌。その為、発売日になるとトオル達は、学校が終わったら一目散にこの本屋に駆け込むのだ。

いつもなら、このコーナーに着くなり四人同時に一冊ずつ手に取って、待ちきれなかった連載モノや、特集記事なんかをパラパラっと立ち読みしてレジに並ぶのだが、今日はトオルの姿がそこには無かった。

友人達がどこにいるかと思って探せば、少し離れた男性誌のコーナーで、本棚の上からトオルの黒い頭が少し覗いて見えていた。

「トオル、来いよ。今週号出てるぜ」

そうトオルを呼ぶのは、一年生からずっと同じクラスのせいか、トオルと一番気の合う親友、庄司陽平。

陽平とは、三年生の頃から地元の小学生を集めた少年サッカークラブに入っていて、サッカーでも相性が良い。六年生になった今では、黄金のツートップを組んでチームを引っ張ってきていた。

陽平が声をかけても、トオルは「ちょっと待って」なんて言って、なかなか来ようとしなかった。そうしているうちに、他の二人が笑いながらトオルをからかいだした。

「なんだよ。三上のヤツ、エロ本でも立ち読みか?」

「欲しいんだったら、兄貴の部屋から一冊、パクって来ようか?」

 確かに、このコーナーには大人向けの、水着のお姉さんが表紙を飾る雑誌も置いてある。

しかし、それは、同じ男性誌のコーナーでも、置いてある棚が違っていた。

トオルが居るのは、男性ファッション誌の棚の前。もちろん、興味が無いわけではないが、見てもいないのに誤解されるのは癪である。

「バカっ!ちげーよ。お前らとは違う!」

トオルは、棚に隠れて姿が見えない分、余計に大きな声を出した。

 トオルをからかう二人は、クラスメイトの松田と榎本。二人とは五年生の時のクラス替えからの友達だが、なかなか気が合う。陽平と一緒に、よく四人でつるんで遊んでいた。

 トオルと陽平は、身長百五十センチ前半くらいで少しヤセぎみといった、一般の小学生並だったが、それより縦にも横にもひとまわりデカイ方が松田。フケ顔も合わせて、中学生に間違えられる事もしばしば。「高校はうちの柔道部へ来ないか」なんて勧誘を受けている。あと十キロくらい太ったら、それに相撲部も加わるかもしれない。

高校生の兄貴の影響でテニスを始めたらしいのだが、日焼けするでもなく色白。身長も相変わらずトオル達より低く、良く言えばジャニーズジュニア系。悪く言えば、ちょっとヒヨワそうなのが榎本。

松田と榎本は、今週号のマンガ雑誌を手にもう会計へと向かっていたが、それでも戻って来ないトオルのそばに、しびれを切らした陽平がやって来た。

「何見てんだよ?」

 陽平が覗き込むと、トオルの手の上には、意外な雑誌が乗っていた。

「時計…?欲しいのかよ」

場所が場所なだけに松田達同様、大人のイケナイ雑誌だと思い込んでいた陽平は、面食らったような顔をしていた。トオルは、読んでいた雑誌に夢中で気付いていない様子だったが。

「ああ、ちょっとな」

 と返すものの、その返答はそっけなく、トオルの視線は手の上の雑誌に向けられたままだった。

 大抵はマンガやゲームの攻略本相手だったが、トオルがこんな風に夢中になるのはいつもの事。それを知っている陽平は、たいして気にしなかった。何がそんなにおもしろいのだろうと思い、自分も棚から別の時計雑誌を取り出して、ページをめくってみた。

 陽平が手に取った雑誌も、トオルの持つものと同じような感じで、巻頭からロレックスの特集から始まり、他のページも見た事のない、高級そうな時計の写真が並んでいた。

 数ページ眺めてみたが、特別興味を持てないと思った陽平は、両手でパタッと雑誌を閉じると、元の棚に差し戻してしまった。

他におもしろそうな雑誌も見当たらなく、つまらなくなった陽平は、トオルに話しかけた。

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