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機械仕掛けの光の先へ  作者: 真栄田エイラ
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第6話・1


 春になり、トオルは地元の市立中学、ユウマは私立高見学園の中等部へと進学し、中学生になった。そしてトオルは、陽平と一緒にサッカー部へ入った。

中学の部活動は、小学生の時に入っていたクラブとは比べ物にならないくらいハードだった。地元では優勝候補に数えられる強豪中学だったらしく、放課後の練習以外にも朝練・夜練はあたりまえ。土日も当然のように練習が組み込まれていた。それは夏休み中も同じ。その上、夏休みには合宿といって、二週間もの間拘束されていたのだ。

トオルには、小学生の時のような自由な時間があまりなくなっていた。それまでは雑誌の発売日に合わせて、最低でも月に二回は本屋でおちあい、雑誌の交換などをしていた。

しかし、トオルが部活に入ってからは、なかなかその時間を取れないでいた。

ユウマとの再会で時計熱も再燃していたトオルだったが、やはり時計学校の入学資格が『高卒』で、時計師はまだまだ遠い未来のものと捉えていた事もあって、何かと部活を優先させていたからだった。


初めての衣替えで着た夏用の制服も、もうじきまた、冬用の学ランに替わる季節になっていた。

二学期、中間テストの一週間前。

定期テストが近くなると、部活動は全面休止になる。テスト勉強のために設けられた制度なのだが、トオルと陽平にはあまり意味が無いようだった。久々に授業が終わると即、自由な時間になったトオルと陽平は、寄り道の相談なんかをしながら校門へと向かっていた。

その途中、陽平は見慣れない人が校門付近にいる事に気付いた。

「オイ、トオル。あの制服って、高見中じゃねえの?何やってんだ?アイツ」

 そこには、校門に身を潜めるようにしてこちらをうかがう、高見中の制服を着た少年が一人。

「ユウマ!アイツ、何やってんだ?」

 そう言うと同時に、トオルは慌てたように校門へと向かって走り出した。

「何?アイツがユウマ?」

 よくわからなかったが、陽平もトオルの後を追って走った。

 トオルは、校門に着くなりユウマに向き合って言った。

「ユウマ!何やってんだよ!」

 他校前で落ち着かなかったのか、トオルを見つける事が出来て、ユウマはホッとしたような顔を見せた。

「ああ、ゴメン。急にキミに用事が出来たから、悪いと思ったんだけど迎えに来たんだ。でも、中に入るのはちょっと気が引けてね」

 そう、ユウマが気にするように、さきほどから下校する生徒達が、有名私立の制服を着るユウマを物珍しそうに見ながらトオル達の横をすれ違って行っていた。

「とにかく、こっち来いって。他校生の制服なんか、やたらと目立つんだって!」

トオルは、無理矢理ユウマを校門の外へ連れ出そうと引っ張った。

ユウマは、引っ張られて着崩れた制服をサッと直すと、トオルの横で唖然としていた陽平に向き直った。

「初めまして。吉岡侑真です。よろしく」

 と言って笑顔を見せ、更に握手を求めるようにサッと右手を差し出した。

普通の中学生なら戸惑う、ユウマならではの仕草だったが、陽平はいくらかトオルから話を聞いていたので、特に問題はないようだった。

陽平は、ユウマ流の挨拶を早々に済ませると、トオルにユウマと早く行くように言った。

「ほら、ソイツの制服だけじゃなく、その車も目立つ事だし」

 陽平の言うとおり、ユウマは、いかにもって感じの高級車で来ていて、その車を校門のすぐ目の前で待たせていた。

 元々、ユウマは東京でかなり裕福な家庭の子供が通う学校へ行っていた。喘息持ちだった事と、母親の朱理が年間のほとんどをパリで過ごしていて、滅多に帰ってこない東京には家を置いておく必要性が無くなったとかで、ちょっと田舎で空気のキレイなこっちに移り住んできたのだ。実際、こっちの家にはユウマが一人と、住み込みでいる数人の使用人だけが越して来たのだが。とにかく、そんな事もあって、ユウマはそこらへんの感覚が少しずれている所があった。

「陽平、マジ悪い」

 トオルは、すまなそうにそう言うと、ユウマに続いて自分も車に乗り込んだ。

車は、黒光りした外観も立派だったが、内装もまた格別だった。広い空間で、色はベージュと落ち着いた印象だが、トオルにとっては初めての総革張りシート。座るのにも、つい気を遣ってしまうほどだった。そぉーっと、気を遣いながらもシートに深く腰掛けると、

トオルは「ハァーッ」と息を吐きながら言った。

「で、何?いきなり来たらビックリするだろ?しかもこんな車でさー。ここは東京じゃねえんだから。あ、オマエ、まさか自分トコの学校にもこの車で乗り付けてるんじゃねえんだろうな?いくら私立でもヒンシュク買うぞ」

「まさか。今日は急に母さんから携帯に電話が入って。それで急いでたから。悪かったよ」

「は?オマエ、携帯なんて持ってんの?」

「うん。こういう時、便利だよ」

 そう言ってユウマは、トオルに携帯を見せた。ユウマが携帯持っているくらいは、有り得る事だろうと思ったが、見せてもらった携帯は、テレビなんかで宣伝している最新機種。

トオルは、そこに妙な納得をした。

「で?ユウマのかーさんからの電話で、何でオレに用があるわけ?」

「この前、母さんが半年振りに帰って来たんだ。だから僕、その時に言ったんだ。時計師になりたいって」

「マジで?うわっ…!」

 トオルは、身を乗り出すようにしてユウマの方を向いた為、車の揺れにつられて革のシートで滑ってしまい、床にずり落ちそうになった。

 言うように勧めたのはトオルだったが、ユウマが母親に自分の夢を打ち明けるかどうかは微妙だと思っていた。現に、あれから随分と時間は経っていた。

『喜んでくれるかもよ?』

なんて言ったはいいけど、そんな保障は全く無かった。もし、ユウマの意志を尊重してくれる母親だとしたら、ユウマの性格上、余計に言えなくなるのではないか。とも思っていたからだった。

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