第5話・1
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ショーの日以来、トオルとユウマは友達になっていた。友達になっても、二人は他校生同士。家も離れていて、自転車で気軽に遊びに行ける距離ではなかった。そこで、ユウマの提案によって、パソコンを使ってやり取りするようになった。
メールは、トオルが面倒くさがったので、主にメッセンジャーが使われた。
メッセンジャーは、お互いオンラインにしておけば、ネット上でいつでもチャットみたいに会話が出来るからいい。どこのサイトが時計の事を詳しく載せているとか、リアルタイムで情報交換出来るし、URLを送ってもらえばすぐに同じサイトを見ることも出来る。
一度ハマると、のめり込んでしまうタイプのトオルは、家に帰るなり暇さえあればリビングのパソコンの前を陣取っていた。
パソコンをリビングから自分の部屋に移動させたいという、トオルの希望は通らなかったものの、画面が後ろから家族に見えない場所に移動する。と、いう案で妥協した。
こう、ほとんど自分が占領している状態なのだから、リビングに置いておかなくてもいいようなものだとトオルは思っていたが。
同じ歳でも、お受験ありの有名私立小学校と、地元の市立小学校。学校や育った環境が違うせいか、ユウマは陽平達とはタイプが違っていた。
陽平達とは、サッカーやマンガ、テレビの事とか、たわいない遊びの話が中心だけど、ユウマとはほとんどが時計の話だった。数多くある時計メーカーの事。それぞれによって異なった仕組みや歴史。しかし、それは退屈に感じるどころか、不思議な事に話題が尽きる事は無かった。
トオル自身も雑誌や色んなサイトを見て知識を身につけ始めていたが、ユウマはそれ以上に時計を勉強していて、色々とトオルに教えてくれた。そうやって覚えてくると、以前読んだけれど意味のわからなかった雑誌の内容が理解出来るようになったり、新たな発見をしてワクワクしたりもした。
ある日の放課後。教室の掃除当番の為、机を移動させていたトオルに、陽平が誘いをかけてきた。
「おい、トオル。榎本ん家にゲームしに行くんだけど、オマエも来るよな?」
「昨日発売のアレか?マジで?」
「マジ。榎本が買ってもらったんだって。四人対戦出来るから、コントローラー持って来いってよ!」
「マジでー?やりてぇ!ウチはケチだから買ってくんねーんだわ」
掃除なんかそっちのけで目を輝かせたトオルだったが、次の瞬間、両手を合わせるようにして陽平に向き直った。
「本っ当、行きたいんだけど、悪いっ。今日は先約なんだ」
トオルも暇人で、てっきり一緒に行くと思っていた陽平は、断られた事と『先約』に驚いた。
「えー、誰だよ?バカ過ぎて、とうとう親に家庭教師でもつけられたのか?」
「イヤ。そういう話は出そうだけど、今のとこはまだギリでセーフ。今日はユウマと約束してるんだ」
陽平は、『ユウマ』という聞きなれない名前に一瞬、「誰だっけ?」というような顔を見せたが、すぐに思い出したようだった。
「ユウマぁ?ああ、この前オマエが言ってた、高見小のヤツね。ワザワザ来るわけ?あそこからなら、めちゃ遠くねえ?」
「まあな。だからちょうど中間のトコにある、三星堂で落ち合うんだよ。今日は新しい時計雑誌の発売日だからね」
「ふーん。別に雑誌なんていつもの本屋で買えばいいじゃんかよ」
「時計雑誌って月に何冊も出るんだぜ?一人で買うより、二人で分担して買った方が得なんだって。一緒に買えばその場で見せあえるし」
陽平は、少し不服だったが、ユウマの方が先約だっていう事と、トオルが最近ではマンガよりも時計雑誌にお小遣いを当てるほど、夢中になっているのを間近で見て知っていたので、今日のところは諦める事にした。
「まあ、いいよ。ゲームは榎本ん家行けば、いつでもやれるし」
トオルは、陽平に「悪いな」と言うと、約束の時間に間に合わせる為、掃除のピッチを上げた。